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しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2011年12月16日

M&O plays プロデュース『アイドル、かくの如し』12/08-29本多劇場

 『ルート66』に続いて岩松了さんの新作を拝見(⇒感想ツイート)。新作が2本同時上演中って凄いですよね。宮藤官九郎さんが出演されています。大人計画『SAD SONG FOR UGLY DAUGHTER』では岩松さんと立場が逆だったんですよね。

 物語としては芸能界内の大人の恋愛群像劇ですが、岩松作品ならでは官能的な謎がそこかしこに。カーテンコールから客出しにかけての数分間、舞台美術がまるで生きているかのように見えました。上演時間は約2時間40分(途中休憩1回を含む)。  

 ⇒CoRich舞台芸術!『アイドル、かくの如し

 ≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより
 弱小プロダクションに救世主のようにあらわれたアイドル!
 そのアイドルを育てたのは、芸能プロの社長夫婦
 宮藤官九郎主演で贈る岩松了新作は、ある芸能プロを舞台にした「平成夫婦善哉」
 そして岩松的アイドル論
 乞うご期待!!
 ≪ここまで≫
 
 イケてる芸能事務所のシャープな具象美術。でも「それは現実だとおかしいよね?」と気になるところが、さりげなく点在。たとえば上手のベランダとオフィスの間に仕切り(ガラス戸など)がないとか(もともとそういう内装かもしれませんが)。室内に、ブラインドで外からの視線を遮断できる会議室があるのは、『シェイクスピア・ソナタ』の着替え用の部屋みたい。足元だけがガラス張りで透けている壁も岩松作品らしいです。

 唐突な言葉。脈絡なく変わる話題。かみあわない会話。岩松さんのお芝居の登場人物は、自分で自分をコントロールできない(あえて直情的になる)人が大勢登場します。そして彼らは苛立っている。現状に、怒りをぶつけたがっている。観客はもちろん、もしかしたら登場人物自身も演じている役者さんも、なぜその言葉が出たのか、なぜその感情表現になるのかを、わかっていないかもしれません。謎を謎として舞台に乗せ、すばやく置き去りにしていくので、私は翻弄されます。それがとても心地いいのです。

 人の心の中には、ブラインドで遮断された中身のわからない秘密の小部屋があって、そこには誰か・何かがいるかもしれない。得体の知れない衝動が、いつどのように飛び出すかわからない。登場人物はみな不器用で失敗ばかりしますが、自分の中にあるものに正直である姿はすがすがしいですし、本気の衝動から生まれた事件が、日常に変化を起こしていくのだと思います。

 舞台装置が人間に見えた作品というと『ジェイプス~記憶の棲む家』を思い出しました。他にもあったかもしれませんがすぐには思いつかず。

 ここからネタバレします。

 想像上の人物がさらりと、さも当然のごとく現実に参加してるのがかっこいいです。むさくるしい格好の若い男性(金子岳憲)が大きなラジカセを持って登場します。最初は芸能事務所に所属しているミュージシャンかなと思ったのですが、違いました。彼は社長(夏川結衣)のお気に入りだった元所属俳優で、社長の想像上の人物でした。彼が自分でラジカセのスイッチを押して音楽(BGM)を鳴らすのが可笑しいです。他の人物とは違うこともよくわかりました。

 社長の夫(宮藤官九郎)が「味方を作れば同時に敵ができる。俺たちはそうやって生きている。」といった意味のことを力説していて、心底同感でした。私たちの日常に、ごく身近な場所に、自分で作り出した敵と味方がいるんですよね。事務所の中に敵がいるし、自分の心の中に鬼がいる。若いマネージャー(足立理)が「あの女(元事務の女性)を犯そう」と言い出す場面はそれが顕著だったと思います。彼の「ここに留まってはいられない」といった若者らしい苛立ちやむやみな反骨精神は、今後コントロールできるかどうかわかりませんし、余計で深刻な問題を起こす火だねは、事務所の中にあるんですよね。

 社長の夫(宮藤官九郎)の愛人(伊勢志摩)が、一度去ったのに舞い戻ってきます。彼女の真っ赤な帽子が、玄関の扉のガラスから透けて見えて、終幕。あれは愛人じゃなくて外部からやってくる敵、これから起こる事件の前触れを象徴しているのではないかと思いました。赤は血であり、恋の(煉獄の)炎であり。

≪東京、大阪、福岡、名古屋≫
出演:宮藤官九郎 夏川結衣 津田寛治 伊勢志摩 上間美緒 足立理 金子岳憲 宮下今日子、橋本一郎 岩松了
脚本・演出:岩松了 照明:沢田祐二 美術:伊藤雅子 音響:高塩顕 舞台監督:久保勲生 衣裳:戸田京子 ヘアメイク:大和田一美(APREA) 制作助手:土井さや佳 制作デスク:大島さつき 宣伝:竹内麻衣 吉田絵里(る・ひまわり) 制作協力:Little Giants プロデューサー:大屋亜由美 企画・製作:(株)森崎事務所(M&O PLAYS)
【休演日】12/12,19,26【発売日】2011/10/08 前売り・当日共6,800円(全席指定・税込)
http://www.morisk.com/plays/idol_index.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年12月16日 11:00 | TrackBack (0)