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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2011年12月11日

さいたまゴールド・シアター『ルート99』12/06-20彩の国さいたま芸術劇場小ホール

 さいたまゴールド・シアターは団員数42名、平均年齢72歳の大人気劇団です。彩の国さいたま芸術劇場の芸術監督である蜷川幸雄さんが演出を手がけ、毎回有名劇作家が新作を書き下ろします。第5回公演となる今回は、第1回公演に続いて岩松了さんが新作を提供。過去レビュー⇒

 戯曲が掲載された悲劇喜劇2012年1月号をロビーで購入しました。読み直して何度も落涙・・・演劇には、見えないものの中にある時間があって、それが目に見えるもの(世界)を変えていくのだと、信じられました。たぶん私にとって2011年のNo.1新作戯曲になると思います。

 初日の上演時間は約3時間30分強(途中休憩15分を含む)。

 ⇒CoRich舞台芸術!『ルート99

 ≪あらすじ≫
 舞台は日本本土から離れたある島の中の、異国の基地内にある民家。島の巫女ミラとその弟子姉妹が暮らしており、島民の集会場にもなっている。今は本土から招聘された劇団ゴールド・シアターの稽古場としても解放中だ。
 島の銘菓「島まんじゅう」が、基地に隣接する国道99号線にばら巻かれる事件が起こった。まんじゅうを運ぶトラックの運転手が逮捕されたが、真相は分からない。
 ≪ここまで≫

 ここから少々ネタバレします。読んでから観に行っても問題ないかと思います。

 10日間だけ許された基地内の写真撮影に訪れたカメラマンたち、基地に反対する島民、基地で働く人々、本土から来た劇団員、演劇公演に関わる公務員、そして土地を奪われた地主など、さまざまな視点から沖縄の米軍基地問題を描きます。具体的な地名などは出てきませんが、舞台が沖縄であることは明らかです。

 先日の『官能教育「犬」』で、人と人は「わかりあう」ことはできない、だからこそ豊かなのだと骨身に沁みるように体験したばかりなのもあって、この『ルート99』というお芝居の構成の複雑さ、存在の曖昧な登場人物などが、とんでもなく魅力的でした。登場人物の年齢が役者さんの実年齢と合っているわけはないので、老人が若い人物を演じているギャップがあり、演劇的に常に多層であり続けます。放りっぱなしにされる謎、空いたままの穴が、その意味通りの欠落でもあり、実はすべての答えでもあるように感じました。
 対して、さいたまゴールドシアターの役者さんにはそういった余白(余裕)がなく、全身全霊で演技をされています。時におぼつかなくなるセリフ、必死さが透けて見える動作は、その人自身として存在している証拠でもあり、“かけがえのない、他の誰でもない人間たち”が舞台に居ました。

 すべてを包括できる深淵な虚構が、嘘のない生々しい身体でいびつに立体化され、さらには全体がメタ演劇としてパッケージングされます(劇中でゴールドシアターが上演するお芝居のタイトルが『ルート99』になるのです)。演劇だからできる表象によって、理不尽で不可解で、悲しくていとおしくてたまらない現実世界が立ちあげられ、私はその世界(実生活)を全身で浴びて、“ずぶぬれる”ことができたように思います。

 初日ということもあり、前半はうまくいかず手間取っていることがわかるシーンもありましたが、後半はずっと集中して観られました。大いに衝撃を受けつつ。出演者の皆様にはどうか怪我や病気などなく、千秋楽までこの大作を演じきっていただきたいです。

 ミラ役の重本惠津子さんは今作でもさすがのカリスマ性。島民・益田役の益田ひろ子さんは、たとえば巫女姉妹の姉(深谷美歩)と2人で話す場面などで、セリフを聞かせる魅力も説得力もあり、素晴らしかったです。
 ヨシユキ役の川口覚さんと深谷美歩さんはさいたまネクスト・シアターのメンバーです。お2人は来年2月の新作『2012年・蒼白の少年少女たちによる「ハムレット」』で、ハムレットとオフィーリアに抜擢されています。

 ここからネタバレします。セリフは戯曲よりランダムに引用。

 Coccoさんの楽曲「裸体」が流れるのは戯曲のト書きに書かれています。※Coccoさんは普天間基地の辺野古への移設に反対しているアーティストです。

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 無理矢理土地を奪われた軍用地主の霊たちが、留め袖と袴姿で登場します。沖縄の人なのになぜ日本の礼服を着ているのかを想像するだけでも、胸が苦しくなります。白髪に袴形の男性が、杖をついてセリフを言いながら客席の階段を降りてくるのを見て、ぞっと鳥肌が立ちました。また、ゴールド・シアターのお芝居で死者が生き生きと現れたから。彼らはすべての人間であり、近い未来の私だと思いました。

 男M(軍用地主):私たちの生活に。
 軍用地主全員:ずぶぬれたくて!

 巫女姉妹の姉の鼻血が白いシーツについて、その血が丸く広がって日章旗になり、さらに血のしずくがどんどん垂れていって、赤い丸が溶け出してしまいます。日本の歴史は多くの人々の血の上に成り立っていて、その血は今も流され続けています。岩松さんのお芝居ではいつも血が流れる、と何かで読みました(たぶんパンフレットとか)。傷つけられること、侵されること・・・犠牲の象徴のよう。また、鼻血なので子供や若者への放射能汚染の影響も想像せずにはいられませんでした。

 終盤には劇中に登場する劇団によるお芝居(ゲネプロ)が披露されます。まさか『忠臣蔵』で「島まんじゅうバラまき事件」をあらわすとは!しかも歌舞伎!!留め袖同様、ゴールドシアターの皆さんは本当に着物姿がさまになります。劇中劇で浅野内匠頭が吉良上野介を斬れなかったのは「むやみに真面目」だったから。以下、カメラマンの島民中野(中野富吉)のセリフより一部抜粋。

 男C(島民中野):(ヨシユキは)そう、真面目に仕事していた!そこに何があるんです!?われわれ島民は真面目に生きてきた。その果てがこのざまなんですよ!真面目って言葉が、いかにわれわれの前進をさまたげてきたかを考えてもごらんなさい!真面目では何も解決しない!

 男C(島民中野):……宗教ですよ、一種の……呪文のようなものです。「真面目」「真面目」それ以上のものでもなにもない……ただ、それをくり返してれば、入りこもうとする他人を排除することが出来る……どうせ言ってもわからないだろうって気持ちでね。

 巫女姉妹の姉の恋人で、ヨシユキの逮捕と同時に姿を消した映写技師のタチバナは、とうとう最後まで登場しませんでした。ヨシユキが犯人でないのなら、タチバナがまんじゅうをバラまいたのかもしれない。つまり不在の(目に見えない)人物が、人々に変化をもたらしたんですね。演出家のセリフにあるように、「タチバナ」とは「演劇」なのだと思います。

 ヨシユキ:タチバナとはよく話しましたよ。(略) 人間には、ふたつの時間があるって考え方なんですよ。見えるものからくる時間、見えないものの中にある時間。このふたつ……見えないものが見えるものを変えてゆくって、そんな言い方してたな……つまり、この島がこうあることを変えるために、われわれは見えない時間に生きる必要があるって……(略)

 男K(演出家遠山):見えないものの中にある時間……そこに私は生きようとしているんですよ…(略)タチバナって呼んでみてくれませんか、私のことを。

 女E(益田):私はね、今、ルート99に島まんじゅうをバラまいたのはこの私じゃないのか、そう思ってるくらいよ!

 巫女姉妹の姉は恋人だったタチバナの代わりに、「ヨシユキを好きになる努力をする」ことにします。常に世界には犠牲があり、身代わりがいることを想像。姉のセリフは胸にグサっと刺さるものが多かったです。
 :体を触れ合うことと触れ合わないことは、同じことだと、そうは思えない人たちに教える必要があったのですから。

 :言葉を求めながら、その言葉を聞いた時すぐにでもその言葉は自分を裏切るにちがいないと感じてしまう……ならばそんな言葉など聞かなければよかったと……あなたは、私は、私たちは思ってしまう。(略) でも私はタチバナさんと言葉を交わした……。

 :私は、これから努力するのよ。あなたのことを好きになるように。
 ヨシユキ:……好きになるように?
 :そう、私たちは、これまでにもそんな努力をしてきたから、仮の住まいで満足せよと言われて……好きになるように……好きになるように……!

 ボランティアで劇団の制作をしている姉と偶然再会した公務員の妹のエピソードは、いつまでも人間は芸術をつかむ(わかる)ことができないことを表しているのだと思いました。でも追いかけ続けます。

 以下、劇団の女性スタッフ2人が歌う歌の歌詞(抜粋)。

 抱きしめましょう
 ゆがんでしまったものたちを
 抱きしめましょう
 ゆがんでるねと微笑みながら

第5回公演
出演:【カメラマン】小川喬也 森下竜一 中野富吉 西尾嘉十 葛西弘 北澤雅章 倉澤誠一 【ミラの家】重本惠津子 深谷美歩(さいたまネクスト・シアター) 周本えりか(さいたまネクスト・シアター) 【島民】林田惠子 神尾冨美子 大串三和子 小渕光世 益田ひろ子 竹居正武 【基地内労働者】田内一子 都村敏子 ちの弘子 徳納敬子 たくしまけい 【市役所職員】寺村耀子 田村律子 【劇団ゴールド・シアター】上村正子 加藤素子 滝澤多江 林允子 中村絹江 百元夏繒 遠山陽一 美坂公子 石井菖子 吉久智恵子 【軍用地主】髙橋清 小林博 関根敏博 髙田誠治郎 石川佳代 渡邉杏奴 谷川美枝 佐藤禮子) ヨシユキ:川口覚(さいたまネクスト・シアター)
脚本:岩松了 演出:蜷川幸雄 演出補:井上尊晶 美術:中越司 照明:岩品武顕 衣裳:紅林美帆 音響:金子伸也 振付:佐野あい 劇中劇指導:藤間貴雅 音楽:かみむら周平 演出助手:大河内直子 藤田俊太郎 塩原由香理 舞台監督:山田潤一 特殊小道具:土屋工房(土屋武史) 制作統括:渡辺弘 関根章雄 技術統括:山海隆弘 営業宣伝:近藤一幸 鶴貝典久 小林辰郎 滝澤晶子 票券:松井哲 古出敬子 制作:高木達也 原口さわこ 辻本長 主催・企画・製作:公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団
【休演日】12月8日、12日、16日 【発売日】2011/10/01 3,000円
http://www.saf.or.jp/arthall/event/event_detail/2011/p1206.html


※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年12月11日 14:48 | TrackBack (0)