2011年05月07日
渡辺源四郎商店『あしたはどっちだ』05/04-08ザ・スズナリ
畑澤聖悟さんが作・演出(出演も)される青森の劇団、渡辺源四郎商店が、今年もゴールデンウィークに東京にやってきてくれました。新作『あしたはどっちだ』は『どんとゆけ』の続編で、両作品とも上演されます。まず客席にびっくり!『あしたは…』の上演時間は約1時間25分。
漫画家の郷田マモラさんが『どんとゆけ』と『あしたはどっちだ』を漫画化されました。漫画アクション9号(2011.4.19発売)に掲載されています(『あしたはどっちだ』は前編を掲載)。劇場ロビーで購入しました。表紙で一目瞭然ですが、大人向けのエッチな漫画もありますので要注意(笑)。漫画版もとても面白かったです。
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≪あらすじ≫ CoRich舞台芸術!より
『どんとゆけ』から2年後の同じ家。家主の女性は別の死刑囚と獄中結婚していた。執行の日。新しい「夫」はかつて幼稚園に金属バットを持って侵入し、多くの園児の命を奪っていた。「死刑になりたいからやった」「俺を早く死刑にしろ」こう主張する彼の死刑は果たして執行されるのか?それとも?
≪ここまで≫
『どんとゆけ』は「被害者家族が直接死刑を執行する」と法で定められた日本が舞台。『あしたはどっちだ』はその続編で、多くの幼児を殺した死刑囚の死刑執行の日を描きます。幼い子供を殺された親たちが、本当に犯人を殺すのかどうか。死刑について否応なく、身近に考えさせられます。シリアスな場面のヒリヒリする緊張感の合間に笑いが挟まれ、重いテーマを楽しみつつ味わえるのがいいですね。温かい方言もいい感じ。私には意味がわかないセリフもありましたが問題なし。
客席と舞台との間に木の柵が設置されていました。裁判の傍聴者や裁判員になったような感覚になれます。
シングルマザーを演じた柿崎彩香さんが、とても説得力のある演技を見せてくださいました。バットの素振りもさまになっていましたね。
犯人役の佐藤誠さん。じっとだまっている時の目つきに凄味があり、彼が人間に絶望していることが納得できました。
工藤由佳子さん演じる獄中結婚フリーク(?)の過去を描いたスピンオフ作品が観たくなります(笑)。
ここからネタバレします。
池田小学校・乱入殺傷事件(宅間守事件)が題材になっています。最終的には、死刑執行員の多数決により死刑は執行されず、犯人は無期懲役となります。『どんとゆけ』では執行され、『あしたはどっちだ』では執行されませんでした。
テレビ出演などの芸能活動をしていた娘を殺された夫婦が、死刑不執行が決まった後に語らった場面が、とても残酷で、強く印象に残りました。妻は引き続き死刑執行に賛成でしたが、夫は「反対」に挙手。妻はなぜなのかと夫を問い詰めます。夫は、娘が芸能活動をやりたくないと言っていたことを明かします。しかも娘が「お母さんには言わないで」と言っていたことも。妻はいわゆるステージママだったんですね。
夫は娘との約束を破り、妻に人前で恥をかかせ、傷つけました。自ら引き出してしまったとはいえ、妻が受けた衝撃は計りしれません。これから後悔の念にさいなまれ続けるでしょう。夫婦が今後も夫婦であり続けられるかも疑問です。殺人が生む不幸は加害者と被害者だけに収まらず、広く深く人を傷つけ、長く苦しめていくのだろうと思いました。
子供を殺されたシングルマザー(柿崎彩香)が戻って来て、犯人(佐藤誠)と彼に寄り添う妻(工藤由佳子)に向かって、バットを振り上げるところで暗転して終幕。暴力が連鎖していくのをあらわします。
家に侵入した瞬間は暗くて誰なのか判別できず、スっと光(=照明)の中に顔が入ってきて初めて、シングルマザーだとわかるのが素晴らしいですね。彼女が殺してしまうのにも納得です。
≪青森、東京≫
出演:工藤由佳子、高坂明生、柿崎彩香、宮越昭司、吉田唯、山上由美子(Wキャスト)、田守裕子(Wキャスト)、佐藤誠、畑澤聖悟、要田禎子(劇団昴)
脚本・演出:畑澤聖悟 原案協力・宣伝美術イラスト:郷田マモラ 舞台美術:山下昇平、音響:藤平美保子、照明:浅沼昌弘、プロデュース:佐藤誠、ドラマターグ・演出助手:工藤千夏、舞台監督:三上晴佳、田守裕子、工藤良平、制作:渡辺源四郎商店、制作補:西後知春、おりゅう、秋庭里美 宣伝美術:木村正幸 主催・企画制作:渡辺源四郎商店
東京公演5月5日19:00の回終了後アフタートークあり。ゲスト:郷田マモラ
【発売日】2011/03/14 前売一般3,000円、学生2,000円、高校生以下1,000円 当日一般3,300円、学生2,300円、高校生以下1,300円
http://www.nabegen.com
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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tpt『恋人』05/07-10紀伊國屋ホール
中嶋朋子さんと岡本健一さんが夫婦を演じる2人芝居。ハロルド・ピンター戯曲です。主演の岡本さんが演出もされます。上演時間は約1時間10分。
昨年9月に横浜でも上演されていました(私は見逃しています)。アイデアやこだわりの1つひとつが新鮮で力があって、1つの戯曲に長期間取り組んで来られたのがよくわかる公演でした。⇒ツイートしました。
⇒CoRich舞台芸術!『恋人』
≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより。
なにはともあれあけすけに! 健全な夫婦生活の基本だよ!
女は聖女か、それとも淫売か。
結婚十年目、だれもがうらやむ夫婦関係の秘訣とは。
男と女の存在をかけ、世にもセクシーでファニーな格闘技が幕を開ける。
物質世界の繁栄とは裏腹に精神世界が不毛の荒地と化した20世紀
人間の言葉の問題に正面から向き合ったハロルド・ピンターのスタイリッシュ・コメディに
いまもっとも輝いている二人の俳優が現代の視点からアプローチします。
≪ここまで≫
黒い幕と黒いイスのみでほぼ何もないシンプルな空間。結婚10年目の夫婦の浮気についてのお話です。スリリング、コミカル、セクシー。最後は人と人が溶ろけるような、ミステリアスな展開に。
岡本健一さん、ちょっと太られたのかしらと思ったら・・・!かっこ良かったです。
中嶋朋子さんはいつもながらお美しいです。そのスレンダーな体が笑いにつながるとは(笑)。
ここからネタバレします。
「男と女が出会って結婚する」という脚本には(おそらく)ない場面を、無言劇で冒頭に表現。これがとても良かったです。
夫が会社で働いている昼間に、妻は自宅に恋人を呼んで情事を楽しんでいます。しかも夫公認で。とはいえ夫も娼婦を買っていることが判明。お互いに浮気しているんですね。
夫役の岡本さんが恋人役も演じるのですが、その豹変っぷりが面白いです。夫は紳士的で温和なインテリ・タイプ。恋人はマッチョで乱暴でオツムが弱そうですが、憎めないのが素敵。
妻と恋人の凝りに凝った情事が笑えます。仮面やムチじゃなくて太鼓を使うのが凄い(笑)。しかも太鼓ってかなりセクシー。
妻の恋人は夫役の岡本さんが演じますので、「妻の恋人=夫」という構図が成り立ちます。夫の浮気相手(=娼婦)は登場しないのですが、恋人から“プロの愛人”と呼ばれる妻が、実は娼婦なのではないかと匂わせます。つまり「夫の浮気相手=妻」にもなるんですね。
最後は夫がマッチョな恋人のように乱暴なしゃべり方になり、「妻と恋人」「夫と娼婦」の2つのペアが合体して「夫と妻」になるような、奇妙でドラマティックなエンディングでした。男と女の2人芝居ですが、最後はすべての男性と女性を描いたように受け取れました。
TPT78「恋人」
出演:中嶋朋子 岡本健一 豊永伸一郎
脚本:ハロルド・ピンター 訳:広田敦郎 演出:岡本健一 美術:朝倉摂 照明:笠原俊幸 音響:高橋巌 衣裳:たかひらみく ヘア&メイクアップ:鎌田直樹 舞台監督:赤羽宏郎 アンダースタディー:若菜大輔 タチアオイ製作:櫻井忍 プログラム写真:西村俊範 主催・制作:TPT シアタープロジェクト・東京
【発売日】2011/03/26 25歳以下、65歳以上の方は3000円(TPTのみ取り扱い) 4,000円
http://www.tpt.co.jp/whatson/078.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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