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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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2012年03月06日

新国立劇場演劇『パーマ屋スミレ』03/05-25新国立劇場小劇場

 新国立劇場での鄭義信さんの作品というと、1950年代を描いた『たとえば野に咲く花のように』、1970年前後が舞台の『焼肉ドラゴン』。新作『パーマ屋スミレ』はその間に当たる1965年ごろの九州の炭鉱町での物語なんですね。

 ラストシーンは客席で鼻をすする音が次々と・・・私ももれなく、そのお仲間でした。

 上演時間は約2時間45分(途中休憩15分を含む)だったような・・・うろ覚えです。ごめんなさい。全部込みで3時間より短いです。

 戯曲が掲載された悲劇喜劇 2012年 04月号↓をロビーで購入。鄭さんのサイン入りです。

 ⇒CoRich舞台芸術!『パーマ屋スミレ
 レビューを最後までアップしました(2012/03/12)。

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 1965年、九州。「アリラン峠」と呼ばれた小さな町があった。そこからは有明海を一望することができた。アリラン峠のはずれにある「高山厚生理容所」には、元美容師の須美(南果歩)とその家族たちが住んでいる。須美の夫(松重豊)の成勲は炭鉱の爆発事故に巻きこまれ、CO患者(一酸化炭素中毒患者)になってしまう。
 須美の妹・春美(星野園美)の夫(森下能幸)もまたCO患者となり、須美たちは自分たちの生活を守るために、生きるために必死の戦いを始めた。
 しかし、石炭産業は衰退の一途をたどり・・・。
 ≪ここまで≫

 『焼肉ドラゴン』と相似させる意図が見て取れる脚本、演出でした。でも『焼肉~』を観てなくても全く問題ありません。『パーマ屋~』を観ながら『焼肉~』とシンクロする度に、愚かな、残酷な棄民の歴史が繰り返されきたこと、そして今、まさに同じことが日本で起こっているのだと、思い知ることになりました。

 細部へのこだわりが伝わる具象美術ですが、あるはずの壁が「ない」という演劇ならではの嘘を、大胆に、存分に遊んでいる演出にプロの余裕を感じます。
 音楽がちょっと、私には説明っぽすぎて合わなかったところがありました。同じ曲があまり間を空けずに流れると覚めてしまったり。生演奏のお2人(朴勝哲&長本批呂士)はとっても良かったです。すぐ手拍子したくなっちゃいました。

 鄭さんは映画「信さん・炭坑町のセレナーデ」↓の脚本も書かれています。『パーマ屋~』と同じ炭鉱町のお話で、切ない、いい映画でした。

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 ここからネタバレします。続きを書きました(2012/03/12)。

 語り部として酒向芳さんが登場して、観客に向かって昔話を始めたとたんに、じわじわと込み上げるものがありました。散髪屋の理容椅子に腰掛けると目の前(=舞台から見ると客席側)に見える景色が、私にも見えるようでした。酒向さん素敵だな~。

 “CO患者”のことは情報としては知っていましたが、舞台で時間を追って見ていくことで、やっと具体的に想像できたように思います。痛ましいことに、症状がみるみる悪化していくのです。須美の夫(松重豊)は、ふらっとしていたのがヨロヨロになり、杖をつくようになって、最後は車いす生活。顔にも麻痺が出てきていました。

 左手がどうやら麻痺しはじめたらしい兄(松重豊)と、片足が不自由な弟(石橋徹郎)の取っ組み合いは、ハードな暴力シーンだけどいびつな体勢になるのが、ちょっとコミカルで、とても悲しいです。映画『LIVE FLESH』を思い出しました。大人向けの名画だと思いますので気になった方はぜひ。

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 廃坑になって仕事を失った誰もが、他の土地、国へと去っていき、最後は『焼肉~』と同様に、全員がバラバラになってしまいます。須美の姉の一家(根岸季衣、久保酎吉、森田甘路)が大阪へと旅立つので『焼肉~』につながり、「ああ、大阪に移っても、また彼らは強制的に立ち退きさせられるのか・・・!」と、胸がぎゅるぎゅると締めつけられました。

 大吉(酒向芳)「ひとつの事故が、さまざまな人たちの人生を大きく狂わせてしまいました……人生を無茶苦茶にしてしまいました……たったひとつの救いは、今も須美おばさんが生きていることです……」

 人生を無茶苦茶にしたひとつの事故とは、福島第一原発事故のことでもあります。私たちは同じことを繰り返してしまっているのです。自分の愚かさ、弱さにいかんともしがたい無力感をおぼえるのですが、それでも私に何ができるのかを考え、少しでも行動を起こしたいと思います。

 須美の妹・春美は「痛うてたまらん、殺してくれ」という夫の訴えに応え、彼を殺害し、自首しました。爆発事故後、須美の家族と春美との間には言い争いが絶えず、春美の方から絶縁した状態でしたが、須美はいつでも春美に優しく接し、時にはお金を貸してあげて、服役中には面会にも行っていました。また須美は、夫が「別れよう」と何度提案しても拒否し、彼が重度の障がい者となってからも「炭鉱を離れたくない」という彼の願いどおりに、炭鉱がなくなったアリラン峠で暮らし続けました。彼女のその生き方が、町を去った大吉の心の支えになっています。

 「なにがあっても(なくても)絶対に私はあなたの味方でいつづける」と決意し、一生涯にわたってそれを実行することは、おそらく困難です。何が起こるか分からない世の中ですから、物理的に不可能になるかもしれません。論理思考をする賢い人なら「どうなるかわからないから約束はできない」と言うでしょう。
 でも、何の保障も形もなくて極めて不確かだとしても、「あなたのそばにいて、ずっと愛し続ける」という、まるでプロポーズのような決意を、私たちは進んでしていいのだと思います。それが意志であり希望であり、人間だからこそできる祈りであり、かつ、人間に必要なのものだと思いました。大切な人を一生大切にすると決意して、頑固に実行し続けることなら、私にもできる気がします。

 須美が果たして幸せだったかどうかは彼女以外の誰にもわからないことで、幸せになるかどうかも彼女が決めることです。そしてその個人の決意を、誰も不当に邪魔してはいけないのだと思います。

出演:南果歩 根岸季衣 久保酎吉 森下能幸 青山達三 松重豊 酒向芳 星野園美 森田甘路 長本批呂士 朴勝哲 石橋徹郎
脚本・演出:鄭義信 美術:伊藤雅子 照明:小笠原純 音楽:久米大作 音響:福澤裕之 衣裳:前田文子 ヘアメイウ:川端富生 方言指導:藤木久美子 韓国語・所作指導:李知映 擬闘:栗原直樹 振付:吉野記代子 演出助手:城田美樹 舞台監督:北条孝 主催:新国立劇場 制作:伊澤雅子
【発売日】2011/12/17 A席5,250円 B席3,150円 Z席1,500円
http://www.nntt.jac.go.jp/play/20000439_play.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2012年03月06日 01:13 | TrackBack (0)