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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2011年02月08日

新国立劇場演劇『焼肉ドラゴン』02/07-20新国立劇場小劇場

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「焼肉ドラゴン」チラシ

 2008年に初演され、日本と韓国の両方で多数の賞を受賞した『焼肉ドラゴン』。待望の再演です。メルマガにお薦め前売り情報を掲載しておりました。
 初演同様、ワハハと笑いながら涙々でございました。拍手が鳴りやまずカーテンコールが3回。スタンディング・オベーションをされている方もいました。新国立劇場の演劇公演では珍しいことだと思います。上演時間は約3時間(途中休憩15分を含む)。

 前売りチケットは全日程について完売で、Z席(1,500円)が朝10時から新国立劇場BOXオフィスで販売されます。Z席は1ステージにつき必ず10枚あるそうです。初日は当日券もZ席も完売ではなかった模様。早い目がチャンスです!
 【訂正】Z席は朝10時の時点では残席あったものの、結果的には完売。当日券は完売じゃなかったそうです。

 東京の後には兵庫、北九州で公演がありますが、その前に韓国のソウルでも公演があります(3月9日~20日)。観劇目的で3月に韓国旅行しちゃうのもいいかも!ご興味のわいた方はチェックしてみてください。※日本語字幕は出ないと思われます。
 ⇒ソウル芸術の殿堂の『焼肉ドラゴン』(日本語) ⇒予約案内(日本語)

 開演数分前から舞台上でお芝居が始まります。早めに客席に座ってムードを味わい、気持ちをなじませるといいかもしれません。休憩時間にはロビーで生演奏あり。ロビー売店では韓国のり付きのマッコリが400円で買えます♪オリジナル・サウンドトラックも1500円で販売されていました。

 ⇒iza!「ホントにいい舞台でした「焼肉ドラゴン」」(2008年)
 ⇒CoRich舞台芸術!『焼肉ドラゴン

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 万国博覧会が催された1970(昭和45)年、関西地方都市。
 高度経済成長に浮かれる時代の片隅で、焼肉屋「焼肉ドラゴン」の赤提灯が今夜も灯る。
 店主・金龍吉は、太平洋戦争で左腕を失ったが、それを苦にするふうでもなく、流れていく水のように、いつも自分の人生を淡々と受けとめてきた。
 家族は、先妻との間にもうけた二人の娘と、後妻・英順とその連れ子、そして、英順との間にやっと授かった一人息子・・・・・・ちょっとちぐはぐな家族と、滑稽な客たちで、今夜も「焼肉ドラゴン」は 賑々しい。ささいなことで泣いたり、いがみあったり、笑いあったり・・・・・・。
 そんななか、「焼肉ドラゴン」にも、しだいに時代の波が押し寄せてきて・・・・・・。
 これは時代に翻弄されながらも、必死で生きる普遍的な家族の物語です。
 ≪ここまで≫

 日本人と韓国人の役者さんが日本人、韓国人、在日韓国人を演じ、脚本は日本語と韓国語がまざっています(韓国語のセリフには日本語字幕あり)。
 トタン屋根の平屋が並ぶ美術の中央にあるのが、ホルモン焼きの看板をかかげた焼肉店「焼肉ドラゴン」。その下手に舞台奥へとつづく細い坂道があり、ゆるやかな階段になっているので、リアカーや自転車が通る度にガタゴトと音が鳴ります。この道がすごくいいんですよね~。

 高度成長期の真っただ中、大阪万博に盛り上がる世間とは裏腹に、飛行場近くの集落では在日韓国人らが明日の見えない生活をささやかに営んでいます。とは言っても描かれるのは、恋にケンカに、笑いの絶えない賑やかな日常。わかっちゃいるけど笑ってしまう(泣いてしまう)シーンの連続で、笑顔や怒号の奥にある怒りや悲しみが、突然グサっと胸にささります。
 音楽が少々説明的に響いたり、ドタバタの騒動のわざとらしさが気になったり、そういう瞬間はちょっと冷めちゃったりも。好みの問題だと思います。

 初演よりも家族がより家族らしく見えましたし、店につどう常連さんたちの仲間同士の雰囲気も、いっそう親しさが増していたように思います。焼肉店の夫婦を演じた申哲振(シン・チョルジン)さん、高秀喜(コ・スヒ)さんは今回もやはり素晴らしくて、ただ立っていること、座っていることの雄弁さをしみじみ感じました。

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 飛行機の轟音で幕開け。「おじちゃん、おばちゃんの怒鳴り声、子供の笑い声、泣き声、わめき声が絶えない町」という表現がぴったりの賑やかさ。その裏側にある悲しい歴史が語られるごとに、胸がしめつけられます。
 戦争で日本のために戦って左腕を失った父親。父親だけでなく母親も済州島出身で、2人は四・三事件で両親や友人をすべて亡くしていました。故郷にも帰れず家族も失い、もう日本に居るしかないと腹をくくりますが、どんなに働いても暮らしは楽になるどころか、さらに奪われるばかり。
 次女(占部房子)の夫(千葉哲也)は炭鉱で働いていたけれど廃坑になって職を失い、次は飛行場の滑走路づくりに呼ばれたという日雇い労働者です。でも昼から飲んでばかりで働きません。

 日本人、韓国人、そしてそのどちらからも差別される在日韓国人が集まる焼肉ドラゴン。母親は「日本人との結婚は許さない」と次女に言いますが、店の中にまつってある神棚に向かってお祈りしますし、娘たちはクリスマス・ツリーを飾ってクリスマス・ソングを歌います。彼らの春夏秋冬を見つめながら、いろいろ混ざっているのが私たちなんだと、わかってきます。

 次女の夫は本当は右足が不自由な長女(粟田麗)を愛しており、長女に韓国人の婚約者(朴帥泳)ができたというのに、次女と別れて長女とくっついてしまいます。次女は韓国人(金文植)と再婚し、歌手志望の三女(朱仁英)は日本人男性(笑福亭銀瓶)と不倫の末に略奪愛を成就。この激しい恋愛騒動が可笑しいんですよね~。朱仁英さんはコミカルな演技が絶品でした。

 末っ子の時生(若松力)が屋根の上から飛び降りる場面は胸が詰まります。私立中学校でのひどいいじめが原因で言葉を話せなくなった時生は、血みどろになって帰宅することもありました。それでも「これからも日本で生きていくんだから、逃げてはいけない(朝鮮人学校はだめ)」と、父親は教育方針を曲げず、息子は助けを求める声を出すことなく、家族にも絶望して自殺。・・・やりきれない思いがします。

 最後はむりやり立ち退きを迫られ、焼肉ドラゴンは閉店し、一家は離散してしまいます。それでも「桜が舞い散り、とたん屋根が花びらでいっぱいになる。こんな日は、明日がいい日だと信じられる」と言って歩み出す夫婦。悲しみに暮れる中、父親が引くリアカーの荷台に母親が飛び乗るのに爆笑!(初演を観たからわかってるのに!・笑)。このように泣き笑いすることを、人間は生きるエネルギーにしていくんだろうと思います。そうするしかないですものね。

≪東京、ソウル、兵庫、北九州≫
出演:千葉哲也、粟田麗、占部房子、若松力、笑福亭銀瓶、佐藤誓、水野あや、山田貴之、朴勝哲、申哲振、朴帥泳、金文植、高秀喜、朱仁英
※出演を予定しておりました朱 源実が健康上の理由により出演できなくなりました。 代わって佐藤誓が出演いたします。何卒、ご了承ください。
作・演出:鄭義信 翻訳:川原賢柱 美術:島次郎 照明:勝柴次朗 音楽:久米大作 音響:福澤裕之 衣裳デザイン:出川淳子 ヘアメイク:川端富生 方言指導:大原穰子 擬闘:栗原直樹 振付:吉野記代子 演出助手:趙徳安 舞台監督:北条孝 芸術監督:宮田慶子 主催:新国立劇場
A席5,250円 B席3,150円
http://www.nntt.jac.go.jp/play/20000325_play.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年02月08日 00:29 | TrackBack (0)