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しのぶの演劇レビュー
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2012年03月27日

演劇ユニット僕たち私たち『胎内』03/08-10プロト・シアター

 新国立劇場演劇研修所第四期修了生による三好十郎作『胎内』(1949年)です。上演時間は約2時間半(休憩なし)。過去レビュー⇒ 青空文庫で全文読めます。

 イギリスのシェフィールドで今年6月に開催される演劇祭「International Student Drama Festival」にエントリーしていた公演です。選考の結果、応募数約150団体の中から、通過20団体に選ばれたそうです。

 2005年の公演のDVD↓が買えるみたいです。

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 ⇒CoRich舞台芸術!『胎内

 ※同年6月22日~30日にイギリスのシェフィールドで行われた‘International Student Drama Festival’に参加。音響賞、cast賞、最優秀演出賞を受賞。
 ⇒「演劇研修所修了生が‘International Student Drama Festival’に参加しました」 ※2012/8/5加筆。

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 戦後の混乱期。
 山奥の洞窟に、男女がやってくる。
 汚職事件に関わった闇のブローカーとおぼしき男・花岡、とその愛人村子。
 逃亡生活を続けるうちにこの洞窟を発見したのだ。
 ところが、洞窟には先客がいた。復員兵・佐山である。
 実はこの洞窟は戦中に日本軍によって掘られた防空壕だったのだ。
 しかし、地震がやってきて洞窟の入り口がふさがれてしまう。
 明かりも水も食料も尽きていく恐怖の中、徐々に見え始める『にんげんのさが』。
 仄暗い闇の中で彼らがみるものとは、そして彼らは無事にこの洞窟から脱出することができるのか?
 ≪ここまで≫

 三方からステージを囲む客席。天井の低い、狭い劇場で、観客も登場人物と同じく穴に閉じ込められたような感覚になりました。タバコを吸う場面が多く物理的に苦しかったのですが、誠実な熱演だったので、観客の私も最後まで気を抜かず拝見。

 松森望宏さんは、しばしば宮田慶子さんの演出助手もされている若い演出家です。丁寧にセリフを解釈して、とても真面目に演出されていると思いました。ただ『胎内』は、危機的状況にある男女3人の膨大なセリフ劇なので、息を抜ける間(ま)や笑いなどがあってもいいのではないかと思いました。照明も、もっと色んな色を使ってもいいんじゃないかしら。

 『胎内』は、やはり、すごい作品です。自分にも世界にも絶望した人間が、自分が人間であること、命が今あることを発見し、それをつかむ瞬間が描かれているのだと思います。

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 地震が起きて出口がふさがれ、3人は穴から出られなくなります。花岡(雄大)と村子(田嶋真弓)が「警察が来た。穴を掘る音が聴こえる。ここから出してくれる」と言いだす場面で、本当に2人がそう信じているように見えなかったのが残念。ひどく疲弊しつつ有頂天に喜んでいる演技をしなければならないわけで、きっととても難しいですよね。

 最初は穴の中で死ぬつもりだった佐山(今井聡)ですが、閉じ込められてもはや死を待つしかない状況になった時に、「助かりたい」「生きたい」という気持ちが湧いてきて、前向きに生きることをし始めます。佐山のそんな、覚醒とも言える急激な変化を信じられて、彼の言葉に説得力を感じられたのは、それまでに積み重ねてきた3人の会話劇に嘘がなかったからだと思います。

 以下、青空文庫より引用。

 佐山「そうだよ、戦争は、ロクなことあない。イヤだった。ふるふる、イヤだった。……それを、世間で、侵略戦争だの、ドロボウ戦争だ、戦争犯罪だ……サンザンいわれて……いや、そりゃいいさ、実際そうだったんだから。そりゃ、それでいい。ただ、それを聞いていて、俺あ骨抜きになった。腐っちゃった。……てめえが、あんだけイヤがっていた戦争を――しかも、ただ引っぱり出されただけの戦争を、まるで俺が自分でおっぱじめたような気になった。責任は全部自分にあるような気になった。そいで、チャンとして生きて行く資格は自分にゃないように思った。……妄想だ。強迫観念だ。クソインテリの観念過剰だ。まったく、なってねえ! なんてえこった! ハハ、ハハハ!……そうなんだ。戦争を否定するために、てめえのイノチまで否定していたんだ俺あ。」

 佐山「どっか、あんな戦争、まちがっているような気がしながら、ハッキリどこが、まちがっているか、よくわからなかった。だから、ヘンだと思いながらも、戦争に反対はできなかった。ズルズルと、かえって引っぱりこまれた。……バカだったんだ。(中略)……まちがっていたのは、てめえの考えを、ハッキリ、そうだといえなかったことだ。全体のやりかたに、自分の考えを持って行って、そいつを生かして行けるようなやりかたを、作りあげきれないで、ただボヤーッとして、オカミのいうことにゾロゾロくっついて歩いて行ったことだ。弱さだ。俺もみんなも、それほど弱かったてえことだ。悪いのは、それだ。……弱さは、悪だ。そういった弱さは、悪!……」

 佐山「(略)俺あ、自分が、クソでもなんでもいいから、インテリだったことをよかったと思う。人間は、どんな人間でもだんだんバカになるわけにゃ行かん。だんだん、インテリになるよりほかに、行く道はないよ。いつまでも――第三の世界戦争が起きようと、第四の戦争が起きようと、原子バクダンの千倍の兵器が発明されようと、そのために地球が破壊されようと、それをこらえて、しのいで、どこまでも生き抜いて行けるのはインテリだけだ。生きて行きたいと思ったら、インテリになるほかに道はないんだ。かしこくなる以外に道はない。悪いのは、中途半端だからだ。中途半端だった――つまり、クソだったからだ。しかし、クソでもいい、とにかくインテリだった。途中までしきゃ行けなかったけど、とにかく前を向いて歩いたんだ。そうなんだ。……三十五年、――おれの三十五年は、ミジメな、コッケイな、ヨタヨタなもんだった。しかし、今、そう思うんだ。良い生活だった。……まるもうけだった。生きた、それを、俺あ、ハッキリいえるんだ、今。うん。生きた、俺あ。」

International Student Drama Festivalエントリー公演
出演:今井聡(佐山) 雄大(花岡) 田嶋真弓(村子)
脚本:三好十郎 演出:松森望宏 美術:西村有加 照明:山口明子 音響:樋口亜弓 舞台監督:長沼仁 宣伝美術:野田友香里 写真撮影:bozzo 制作:砂川史織 主催・企画・製作:僕たち私たち
【発売日】2012/01/19 前売り2950円、当日3500円 ※未就学児童の入場不可。
http://boku-wata.jimdo.com/

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2012年03月27日 22:34 | TrackBack (0)