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2012年03月30日

【稽古場レポート】華のん企画『チェーホフ短編集「賭け」』03/26都内某所

 1995年から“子供のためのシェイクスピア”シリーズ(参考レビュー⇒)を継続上演しているカンパニーの稽古場にお邪魔しました。演目は『チェーホフ短編集「賭け」(再演)』。脚本・演出を手掛けるのは山崎清介さんです。

 2008年からチェーホフ作品にも取り組まれており、『チェーホフ短編集(再演)』と『チェーホフ短編集「賭け」(初演)』を交互上演した2010年には、第45回紀伊國屋演劇賞団体賞を受賞されました。

 『チェーホフ短編集「賭け」』はチェーホフの短編小説6つが組み込まれた独特の構成です。初演メンバー3人、新参加3人の計6人の役者さんが、演出の山崎さんとともに丁寧に、地道に、作品の空気を積み上げていらっしゃいました。

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 ●華のん企画『チェーホフ短編集「賭け」』
  04/18-22あうるすぽっと
  作:チェーホフ 翻訳:松下裕 脚本・演出:山崎清介
  全席指定 一般(前売・当日とも)5,000円 当日学生割引(当日のみ)4,500円
  ⇒CoRich舞台芸術!『チェーホフ短編集「賭け」』※こりっちでカンタン予約!

 ≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより
 「死刑と終身禁錮刑、どちらが人道的か」という問いをめぐって始まった賭け。銀行家が出した条件は、15年間の幽閉生活に耐えられれば一生遊んで暮らせるだけの大金をやろう、というものだった。それに乗った法律家は一体どうなるのか―。
 『賭け』の物語の中に『物騒な客』『忘れた!!』『彼と彼女』『カメレオン』『魔女』の5つの短編小説が編みこまれています。2010年度紀伊國屋演劇賞団体賞を受賞した作品の待望の再演!
 ≪ここまで≫

 【写真↓左から:佐藤誓、戸谷昌弘】
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 この作品の軸となる『賭け』は銀行家(佐藤誓)と法律家(戸谷昌弘)のお話です。自由とお金を引き換えにするという極端な“賭け”を題材に、今も昔も変わらないお金に翻弄される人間を描きます。


 【写真↓左から:伊沢磨紀、三咲順子、佐藤誓、山田ひとみ、山口雅義 ※左奥:戸谷昌弘】
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 果たして賭けに勝つのは銀行家と法律家のどちらなのか。結末を知りたい気持ちで物語を追う中、他の短編5つが挟まれていきます。各短編が『賭け』のテーマに紐づけられるため、重層的に味わえる構成になっているんですね。チェーホフの小説を山崎さんが咀嚼し、独自の解釈もふんだんに盛り込まれています。


 【写真↓左から:佐藤誓、山崎清介】
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 山崎さんは役者さん一人ひとりに近づいて、小さな静かな声でダメ出しをされます。時々ご自身で身ぶりもしながら説明するマンツーマンの演出です。佐藤誓さんが演じる銀行家は、金さえあれば人を動かせると信じ切ってる嫌な奴。本当に嫌~な奴過ぎて笑ってしまいました(笑)。でも物事が彼の思う通りに進まなくなると、その慌てようが哀れにも見えてきます。


 【写真↓左から:伊沢磨紀、戸谷昌弘】
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 伊沢磨紀さんの演技には何度も魅せられました。どこを切り取ってもピタっと決まる姿は、緻密に作り上げて動きを細やかにコントロールされているからじゃないかしら。戸谷昌弘さんはアドリブとはわからないほど、自然なアドリブをされていました。起こったことを無視しないで、演技の最中にその場、その時を生きている証拠だと思います。


 【写真↓中央:佐藤誓】
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 お稽古ですから、何度も同じシーンを繰り返します。その度に動かし、散らかした小道具をもとの位置に戻してやり直し。この地味で丁寧な作業が本番の舞台へと昇華するのだと想像すると、稽古場という空間が神聖なものに感じます。


 【写真↓左から:三咲順子、山崎清介】
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 『賭け』の最中、佐藤誓さんと三咲順子さんが不意に夫婦役を演じ始め、『彼と彼女』という短編が始まりました。安易な予想どおりには進まない手ごわい会話劇で、山崎さんは三咲さんにつきっきりで説明。やがてディスカッションも始まりました。

 山崎:セリフは正確じゃなくてもいいから、相手にブス!ブス!!ブスッ!!と刺すように言ってください。
 山崎:(こんな小説は)お医者さんにしか書けないのかもね。手塚治虫とかチェーホフとかにしか。狙った決め玉が相手にとっては絶好球だったっていう。観客を裏切る決めどころだね。


 毎度片付けて、何度もやり直す。コレだと信じられるところまで試し続ける。そんな行為が着実に積み重なって、かけた時間と作業の分だけ空気が密になっていくようでした。同時に作品の不確かさ、曖昧さも増しているように感じたのが意外で、とても面白かったです。緻密なのにどこか不安定という矛盾を体感しに、劇場に伺おうと思います。
 

 ■佐藤誓さんインタビュー

 『賭け』で銀行家を演じる佐藤誓さん(⇒プロフィール)に少しインタビューさせていただきました。

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佐藤誓さん

 ―2010年の初演から変わったところはありますか?

 佐藤:まず台本が多少変わってます。読み合わせの段階で、初演の解釈とは違うと気づいたところも沢山ありました。短編集だし、前回の『三人姉妹』ほど内容的に深くはないだろうと思っていたら、実はそんなこともなくて。短編それぞれに哲学的な要素があるんです。
 『チェーホフ短編集1』はおととし再演して流れも良くなって、深くなったなぁと思いました。今の段階で、この作品も良くなりそうな気がしています。

 ―『賭け』で法律家役だった戸谷さんが、違う短編の狩人役で登場したのにハっとしました。短編自体の上演だけでなく『賭け』とからませる工夫から、山崎さんの独自の批評眼が透けて見えるようでした。

 佐藤:もともとは1編ずつの独立した短編小説ですから、それを1つのお話にするにあたって、山崎さんが大幅に構成してますね。『賭け』の中に色んなものを入れ込んで、別の、新しい物語になった。
 『賭け』に出る銀行家と法律家は、構造からすると、俳優が役を兼ねない方がわかりやすいと思うんです。でも、あからさまにわかりやすいのはつまらない気がする。僕が演じる銀行家が、ぬるっと他の短編の登場人物になっていくのは、お客さんは戸惑うかもしれないけど、面白いと思います。

 ―それはこの短編集シリーズの魅力の1つですね。他のチェーホフ作品と比べた時の、この作品の見どころと言えば何でしょうか?

 佐藤:チェーホフの舞台は、本場ロシアをお手本にした本当にオーソドックスなものか、でなければ京都の劇団地点のような、すごい前衛とか(笑)、両極端の場合が多いと思うんですよ(地点のチェーホフ作品のレビュー⇒)。このシリーズはちょうど真ん中あたりかな。たとえば『三人姉妹』は、俳優全員が出ずっぱりという少し変わった演出だったんです。そんなにオーソドックスでもなければ、ものすごい実験的でもないから、とっつきやすいんじゃないかと。
 短編集はチェーホフ好きの人しか知らないと思うので、初めて出会ってその面白さを味わって欲しい。コアなチェーホフ・ファンの人には「あの短編をこんな風につなげたのか!」と楽しんでもらえると思います。


 ■しのぶよりひとこと

 大きな舞台でも小劇場でもよく拝見していた佐藤誓さんに、直接お会いしてお話を伺えて光栄でした。私は電車でよく流れている“ロゼッタストーン”のCMで、佐藤さんが演じている“魚屋さん”が好きなんです。ロゼッタストーン公式ツイッターが「面白い感じで作ったんですが、CM撮影現場の全員がカッコいいって言ってましたwww」とおっしゃってます(笑)。よかったらCMをご覧いただいて、劇場でもそのカッコよさを確かめてください♪

華のん企画あうるすぽっとタイアップシリーズ『チェーホフ短編集「賭け」(再演)』
出演:伊沢磨紀、佐藤誓、山口雅義、戸谷昌弘、三咲順子、山田ひとみ
作:アントン・チェーホフ 翻訳:松下裕 脚本・演出:山崎清介 照明:山口暁 音響:角張正雄 美術:松岡泉 衣裳:三大寺志保美 演出補:小笠原響 舞台監督:井上卓 企画協力:内藤陽子 プロデューサー:峰岸直子 企画・製作・主催:華のん企画 共催:あうるすぽっと(公益財団法人としま未来文化財団)
★4月19日終演後、アフターパフォーマンストークあり。本公演のチケット(半券可)提示で入場可。
全席指定 一般(前売・当日とも)5,000円 当日学生割引(当日のみ)4,500円 ※未就学児童の入場はお断りさせていただきます。
http://www.canonkikaku.com/information/chekhov.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2012年03月30日 14:50 | TrackBack (0)