2012年04月23日
華のん企画『チェーホフ短編集「賭け」』04/18-22あうるすぽっと
稽古場レポートを書かせていただいた『チェーホフ短編集「賭け」』を拝見。上演時間は約1時間45分。
オムニバス形式の独特の構成ではっきりとした主張もあり、チェーホフの短編小説を演劇で楽しむだけではない、創造的な体験になりました。
⇒華のん企画公式ツイッター
⇒チェーホフの「賭け」の結末に関して(幻の第三章について)
⇒CoRich舞台芸術!『チェーホフ短編集「賭け」』
≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
「死刑と終身禁錮刑、どちらが人道的か」という問いをめぐって始まった賭け。銀行家(佐藤誓)が出した条件は、15年間の幽閉生活に耐えられれば一生遊んで暮らせるだけの大金をやろう、というものだった。それに乗った法律家(戸谷昌弘)は一体どうなるのか―。
『賭け』の物語の中に『物騒な客』『忘れた!!』『彼と彼女』『カメレオン』『魔女』の5つの短編小説が編みこまれています。2010年度紀伊國屋演劇賞団体賞を受賞した作品の待望の再演!
≪ここまで≫
『賭け』の中に他の5つの短編を編み込み、山崎清介さんのオリジナルと言っていい1つの作品になっていたと思います。小説を上演台本にするだけでなく、全体をリンクさせる構成・演出が素晴らしいですね。役者さんが色んな役を演じ分ける際、特に目立った区切りになるような場面転換がなく、あるセリフとセリフの間でいきなり違う人物(または動物など)に変身します。照明の色が変わったり、効果音があったりはしますが、役者さんの演技だけで切り替えるのが気持ち良かったです。
パンフレットによると初演は満足のいく出来ではなかったようで、今回の再演でかなりブラッシュアップされたのだろうと思います。でも舞台が常に遠くに感じたのはなぜだったのかな~。スタンダードな額縁形式の劇場で、舞台上にさらに額縁がある美術になっています。そのせいで遠近法の絵画のように対象が遠く、小さく見えたのかしら。照明が全体的に暗かったようにも感じました。あの舞台装置はチェーホフ・シリーズの定番なんですよね。『チェーホフ短編集』2008年初演が私に合わなかったのは、そのせいもあるのかしらと考えたり…。
挟まれる短編の中では『彼と彼女』が面白かった!稽古場取材時はまだまだ模索中でしたが、本番ではメインの2人以外の出演者も活躍し(セリフはありませんが)、大々的に進化していました。互いをひどく罵倒しあう夫婦の倒錯した恋愛関係を、知的興味を刺激しつつエロティックにも表してくださいました。イスから乗り出しそうに前のめりになって鑑賞。
ここからネタバレします。
●『賭け』 銀行家:佐藤誓 法律家:戸谷昌弘
「15年間の幽閉生活に耐えられたら200万ルーブル(約20億円)をやる」という賭けを実践した銀行家と法律家。結末は最初に語られます。法律家は期間満了の数時間前に自分から部屋を出て行き、賭けを放棄しました。外界との関係を断たれた15年におよぶ囚人生活が、法律家をどう変えたのか。
●『物騒な客』 森番:伊沢磨紀 狩人:戸谷昌弘
貯めた大金を守るために“森番”としての本分を忘れた男(伊沢磨紀)。『賭け』のテーマと重なりました。奥のテーブルに座っている役者さん3人が、犬と猫の演技をするのがいいですね。後の短編でも動物が登場し、リンクしました。
●『忘れた!!』 男:山口雅義 女:山田ひとみ
法律家が残した15年分の書き付けを記録したスクラップブックを、皆で開く場面で『忘れた!!』が始まります。山口さんのとぼけた演技が愛らしくて何度も笑わせていただきました。パンフレットによると初演から一番セリフが変わったのがこの短編のようですね。
●『彼と彼女』 彼:佐藤誓 彼女:三咲順子
ある夫婦の職業は女優とそのマネージャー。妻の私生活の乱れを徹底的に罵倒する夫。負けずに言い返す妻。犬も食わない激しい夫婦喧嘩ですが、徐々に様相が変わっていきます。
夫は妻の「舞台上で誰よりも輝く女優」である部分を愛しており、妻は自分に怒号を浴びせかける夫の「臆病じゃない」部分を愛しています。夫が怒鳴れば怒鳴るほど妻の目がギラギラと輝き、官能的なムードが立ち現われてきます。お互いのツボを知り尽くした共犯的SM関係というか、したたかさにしびれますね。「このインチキ野郎!」と怒鳴る夫の目が好きだという妻の言葉を聞いて、夫がにやりと笑みを浮かべたところで、会場から大きな笑いが起こりました。
●『カメレオン』 フリューキン:山口雅義 署長:伊沢磨紀 エルドゥイリン:戸谷昌弘
あるボリゾイ犬(佐藤誓)が男に噛みついた。その犬は権威ある人物の飼い犬なのか、そうでないのか。犬の身分によって、署長はカメレオンのように態度をころころと変えます。嫌な奴のはずなのに、どうしても署長を憎めないのは、伊沢さんの演技と魅力のおかげでしょうね。犬役の佐藤さんが頭にカーラーを3つ付けて“サザエさん”…(笑)。すごく可笑しかったんですが、役者さんって何でもやる(できる)んだなと思って、ちょっと怖くなりました。銀行家からの落差が激しいんですよね。カーラーを自分ではずす動作も切なくて可笑しかった。
●『魔女』 夫:戸谷昌弘 妻:山田ひとみ 郵便配達:山口雅義
妻は魔女だと決めつける夫。「この悪天候も妻のせいだ」と騒ぐが…。妻は本当に魔女なのかもしれない、と匂わせる演技が面白いです。もっと魔女っぽいしぐさやネタがあっても良かったかな。
5つの短編が終わると『賭け』のクライマックスへ。法律家が銀行家に宛てた最後の手紙を読み上げます。多言語を習得し、世界中の書籍を読み漁り、イスに座ったまま過去の偉人たちと出会える書物の喜びを知った法律家は、知識という宝石を手に入れて、大金にしばられなくなります。
最後は役者さんがそれまでに演じた役を再び演じ、各短編が交ざり合っていきました。
華のん企画あうるすぽっとタイアップシリーズ『チェーホフ短編集「賭け」(再演)』
出演:伊沢磨紀、佐藤誓、山口雅義、戸谷昌弘、三咲順子、山田ひとみ
作:アントン・チェーホフ 翻訳:松下裕 脚本・演出:山崎清介 照明:山口暁 音響:角張正雄 美術:松岡泉 衣裳:三大寺志保美 演出補:小笠原響 舞台監督:井上卓 企画協力:内藤陽子 プロデューサー:峰岸直子 企画・製作・主催:華のん企画 共催:あうるすぽっと(公益財団法人としま未来文化財団)
★4月19日終演後、アフターパフォーマンストークあり。本公演のチケット(半券可)提示で入場可。
全席指定 一般(前売・当日とも)5,000円 当日学生割引(当日のみ)4,500円 ※未就学児童の入場はお断りさせていただきます。
http://www.canonkikaku.com/information/chekhov.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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空想組曲『深海のカンパネルラ』04/15-22赤坂RED/THEATER
空想組曲はほさかようさんが作・演出を手掛ける個人ユニットです。作品ごとに役者さんを集めるプロデュース形式の公演を継続されています。上演時間は約2時間15分(休憩なし)。
「CoRich舞台芸術まつり!2012春」審査員として拝見しました(⇒110本中の10本に選出 ⇒応募内容)。※レビューはCoRich舞台芸術!に書きます。下記にも転載しました。
⇒CoRich舞台芸術!『深海のカンパネルラ』
≪あらすじ≫ 公式サイトより
僕たちは誰も、あの頃には戻れない
「絶対に引き返さない」
決意と闇を胸に少年はカンパネルラとともに銀河鉄道に乗り込んだ。
だけど誰も教えてくれなかった。
幸せの難しさも、永遠のおそろしさもーー。
≪ここまで≫
■統一感のある純なファンタジー
東京の小劇場界で知名度のある、個性的な役者さんがそろっています。知る人ぞ知る、かなり豪華なキャスティングですね。残念ながら私が観た回は、息が合っていないせいなのか心地よいリズムが生まれず、“いつも通りにいっていない”印象でした。魔女的ポジションの2人(小玉久仁子&牛水里美)が登場したところで面白くなったのですが、会心の一撃が出なかったですね。
シンプルだけど細部へのこだわりが見て取れる抽象美術に、統一感のあるロマンティックな衣裳。照明で切り替えて場面転換するのは、絵として美しく、メリハリもはっきりしています。音楽および音響効果については、オペレーションのタイミングが合っていない気がしました。開場時間に流れていた曲は憂いを含んだメロディアスな曲が多く、「メランコリックなファンタジー」であることをアピールし過ぎているように感じました。美術、照明、衣裳、選曲などのスタッフワークがきれいにまとまった作品で、見た目は確かに美しいのですが、予想の範囲内に収まってしまったのは残念。
宮沢賢治作「銀河鉄道の夜」を下地にした創作ファンタジーであることは、タイトルからもチラシのビジュアルからも明らかです。私としては、そのイメージをもうちょっと裏切って欲しかったですね。繰り返しになりますが、たまたま調子の悪いステージに当たったのだと思います。
ここからネタバレします。
プラネタリウムが好きなけんじ(篤海)と水族館が好きなりく(多田直人)。サンシャインシティで偶然会った2人の男子高校生が、心通わせて友達になりますが、間もなくけんじは沖縄の海で溺死。たった一人の大切な友人を失ったりくは、受かった大学にも行かず引きこもり、「銀河鉄道の夜」の物語の中に没入してしまいます。銀河鉄道の中では必ずけんじ(=カンパネルラ)に会えるから。そんなりくを救出するために、実の姉(川田希)や高校時代の友人らが、りくの部屋を訪れて説得しようとしますが…。
親友を失ったティーンネイジャーの傷心というテーマだけで、2時間以上は持たせられないんじゃないでしょうか。無論、他にもテーマはあったのでしょうが、私にはそれほど重要なものとしては伝わってこず。
宮沢賢治(中田顕史郎)が登場したのには驚きました。そういえば『ドロシーの帰還』でも作家が登場しましたね。入れ子構造をさらに強固にする演劇的効果はあったと思います。でも賢治に実の妹のことを語らせたのは、やりすぎだったんじゃないかな~。
最初はお葬式の場面でした。当たった対象物が白黒になる黄色いライトが、あの時間だけのために(たぶん)使われているのは贅沢ですね。回想シーンが冒頭に来ていて、終演後に「あぁ、最初はあの場面だったんだ」と思い出し、味わい深くて良かったです。
「CoRich舞台芸術まつり!2012春」最終選考作品
出演:多田直人(演劇集団キャラメルボックス) 篤海 古川悦史 川田希 二瓶拓也(花組芝居) 石黒圭一郎(ゲキバカ) 小玉久仁子(ホチキス) 渡邉とかげ(クロムモリブデン) 牛水里美(黒色綺譚カナリア派) 鶴町憲 内山正則 上田理絵(A-LIGHT) 中田顕史郎
【作・演出】 ほさかよう 【舞台監督】 藤本志穂(うなぎ計画) 【舞台美術】 松本わかこ 【音響効果】 天野高志 【照明】 榊美香(有限会社アイズ) 【衣装】 広川文 【イラスト】 東京幻想 【宣伝写真】 守谷美峰 【宣伝美術】 岩根ナイル 【演出補佐】 渡辺望(天幕旅団)/海野広雄(オフィス櫻華) 【制作】 塩田友克 【制作協力】 岩間麻衣子 【企画・製作】空想組曲 【提携】赤坂RED/THEATER
【発売日】2012/03/12 前売 3500円 当日 3800円 平日昼割 3300円
http://www.k-kumikyoku.com
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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