2012年04月22日
サンプル『自慢の息子』04/20-05/06こまばアゴラ劇場
松井周さんが作・演出されるサンプルの全国ツアーです。『自慢の息子』は第55回岸田國士戯曲賞受賞作。上演時間は約1時間40分。
初演よりも冷静に観ていられました。物語に入り込まなかったおかげで色んなテーマについて考えられましたね。特に“依存”と日常的に私たちがしている“演技(コスプレ)”について。面白かったです。
ロビーにて書籍『自慢の息子』や雑誌サンプルなど販売中。雑誌サンプルには戯曲『地下室』が掲載されています。『地下室』は来年1月に再演されるそうです!う~興奮♪
その前に、松井さんが劇団、本谷有希子『遭難、』に出演されるのも見逃せないですね。
⇒CoRich舞台芸術!『自慢の息子』
≪あらすじ≫ 公式サイトより
ある男がアパートの一室に独立国を作る。
アパートの隣の部屋には、騒音に近い音楽を聴きながら洗濯物を干す女。
ガイドに連れ添った母親が男の作った国を訪ねる。
日本からの亡命を試みる兄妹を連れながら…
そこから、彼らの奇妙な同居生活が始まる。
誰かの物語に組み込まれたり、忘れ去られたりと、
自分の物語すらかすめ取られていく登場人物たちの点滅劇。
≪ここまで≫
シーツで覆われた物体が舞台上のところどころに置かれていて、散らかった部屋のような空間。照明は蛍光灯らしきものや、台所に使いそうな吊るタイプのランプなど。消える・点くタイミングが読めないのが刺激的です。
国境、自室と隣室とを隔てる壁、親子や兄妹の人間関係の境目など、あるはずのものが溶けて、曖昧であり続けます。ギュっと集まって個体になり、やがてパっと離散してばらばらになる。それを繰り返す、生命の運動のよう。
松井周さんらしいエロティックな、というより卑猥、変態的と言ってもいいシーンがあります。人間らしい複雑な心情や、それとは反対の動物的な側面などを、肌をひっぱがして丸見えにするかのごとく、生々しく表しているように思います。
ここからネタバレします。
近親相姦の関係にある兄妹(奥田洋平と野津あおい)は笑わずにいられません。「決して触らない」と誓って、ギリギリの距離で体に手を近づける場面では、奥田さんのもだえる姿が、もう…(笑)。卑猥な影絵のシーンはもちろん爆笑です。あれはオノマトペなのかな。
正(古舘寛治)の“国”(と称する彼の部屋)に、正の母(羽場睦子)と、逃亡中の兄妹が集まり、配達屋(古屋隆太)が荷物を運んでくるという生活がしばらく続きます。やがて母は配達屋と恋仲になり、兄は隣りの部屋の住人(兵藤公美)の養子になって、“国”を出て行きます。残された妹は兄に捨てられた傷心に沈み、正と嫌々ながら結婚。
現実から逃げるために“国”に頼り、今度は他の誰かに頼って“国”を出て行くのは、常に何かに依存し続ける姿を描いているように思いました。また、依存を正当化するために演技(妻の演技、子供が居る振りなど)をしているとも受け取れました。私の現実世界もそうかもしれません。家族らしい演技をして、今の生活を正当化し、誰かに頼って、安心しようとしている。でもそれは悪いことじゃない。むしろ人間はそうやってしか生きられないのではないか…などと考えました。
最後には登場人物が人形のような動きをして、博物館の展示物のようになります。古舘さんが持っていた布(服?)がパラっと落ちた、その直後に暗転して終演。このタイミングが渋い!常に未完成、未成熟な人間、および世界を連想しました。
≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
出演(下手から):古舘寛治 松井周 古屋隆太
サンプル所属の役者さんと松井さんとのトークによって、稽古場での役者さんと演出家との関係がうっすら見えたのが楽しかったです。やはりこのような脚本・演出は、最初からすんなりとは受け入れづらいんですね(笑)。
最後に展示物になるのは『ハコブネ』、『聖地』と同じ流れとのこと。松井さんは「神話」ともおっしゃってました。
第55回岸田國士戯曲賞受賞作 サンプル「自慢の息子」全国ツアー
≪愛知、三重、京都、福岡、東京、北海道≫
出演:古舘寛治(サンプル・青年団) 古屋隆太(サンプル・青年団) 奥田洋平(サンプル・青年団) 野津あおい(サンプル) 兵藤公美(青年団) 羽場睦子
脚本・演出:松井周 舞台監督:熊谷祐子 舞台美術:杉山至+鴉屋 照明:木藤歩 音響:中村嘉宏 衣裳:小松陽佳留(une chrysantheme) ドラマターグ:野村政之 映像・WEB:マッキー 英語字幕:小畑克典・門田美和 宣伝写真:momoko matsumoto(BEAM×10inc.) フライヤーデザイン:京(kyo.designworks) 票券:中山静子(quinada) 制作:三好佐智子(quinada)・坂田厚子(quinada)・冨永直子 主催:サンプル quinada
【休演日】4/23、4/30【発売日】2012/03/02 前売り3,000円 ※全席自由(整理番号付) 当日3,300円 学生2,500円(WEB予約・各劇場のみ取扱い/要学生証提示) 半券割引き 特別企画 『歓待』『東京人間喜劇』の半券提示で200円引き (東京公演のみ)
http://www.samplenet.org/yotei.htm
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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岡崎藝術座『アンティゴネ/寝盗られ宗介』04/19-24 STスポット
岡崎藝術座は神里雄大さんが作・演出されるプロデュース形式のユニットです。今回とりあげる戯曲はソポクレース作『アンティゴネー』とつかこうへい作『寝盗られ宗介』。
舞台奥の壁一面に大きな絵画。その他には何もない空間で、4人の俳優が言葉、体を使って見せてくれました。上演時間は約1時間10分。
⇒CoRich舞台芸術!『アンティゴネ/寝盗られ宗介』
『アンティゴネー』は戯曲を読んだことがあります。音読されるセリフを聞いて、あらためて主役のアンティゴネーが何を望み、何をしたのかをじっくり味わうことができました。『寝盗られ宗介』は会話の展開が面白いですね~。さすがはつか戯曲。役者さんの演技が上手いおかげで楽しめました。
独特の緻密な身体表現によって空気や意味を立ち上げていたと思いますが、私は少々うとうとしてしまいました。
ツイート↓をそのまま転載。
台詞多いし声も大きいお芝居だけど、インスタレーション(展示物など)のように鑑賞。壁一面の絵画の影響かも。法律や掟より大切なもの、非常識でもやり抜きたいことを、命がけで実行する人々。それを演じる俳優は、自らの心身を使って独特の表現を突き詰める人々だった。
ここからネタバレします。
舞台奥の壁以外は床も白色の空間です。床中央に四角くて赤い布が敷かれていました。白地に赤なので日の丸をイメージしました。
王に禁じられても兄を手厚く葬った妹アンティゴネー。妻を寝盗った男ジローに金をやる宗介。国家の方針や世間のムードがどうであれ、自分がやりたいことを、必要だと信じることをやると決意し、実際に行動することは、尊いと思います。2011年3月の震災以降、身にしみます。
岡崎藝術座演劇公演
出演:武谷公雄 鷲尾英彰 稲継美保 山縣太一(チェルフィッチュ)
原作:ソフォクレスの『アンティゴネ』と、1978年に『雪之丞変化』として初演され1980年に改題された、つかこうへいの『寝盗られ宗介』。
作:「アンティゴネー」ソポクレース 「寝盗られ宗介」つかこうへい 演出・美術:神里雄大 照明:黒尾芳昭 音響:高橋真衣 映像撮影:ワタナベカズキ 写真撮影:富貴塚悠太 演出助手:小野正彦 制作:急な坂スタジオ 主催:岡崎藝術座・STスポット
【発売日】2012/03/19 一般/予約3,000円 当日3,300円 | ペア/予約のみ 5,400円 学生/2,000円(要学生証)| 高校生以下無料(枚数限定)
http://okazaki.nobody.jp/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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