REVIEW INTRODUCTION SCHEDULE  
Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
mail
REVIEW

2012年05月05日

チェルフィッチュ『現在地』04/20-30神奈川芸術劇場・大スタジオ

 岡田利規さんが作・演出されるチェルフィッチュの新作です。早々に前売り完売し、神奈川では2回の追加公演が実施されました。上演時間は約2時間弱。

 「今回はフィクション」とのことで、いわゆる物語のあるお芝居なのかなと想像して伺いましたが、物語はあるものの、“いわゆるお芝居”ではありませんでした。

 ⇒日経新聞劇評「心の不安をドラマ化した実験劇」(内田洋一)※舞台写真あり!
 ⇒CoRich舞台芸術!『現在地

 ≪あらすじ≫
 ある村。光る雲を目撃した住民たちが、あれは悪の兆しだと噂する。対して、そんなたわごとは信じないという立場の住民もいる。
 ≪ここまで≫

 架空の村を舞台にしたフィクションで、現実ではありえないほど率直な会話がつぎつぎと交わされていきます。簡潔な言葉に「~~だわ」という、いかにも作りものらしい語尾がつくので、現代口語劇ではありません。この特徴的な口調によって、「フィクション(架空)」であることははっきりします。カジュアルな普段着姿の若い女優さんが舞台上にいますが、日常っぽさは全くなく、観客は物語にのめりこまずに冷静に受け取ることになったと思います。

 劇中劇の構造で、多層になっていくのが面白かったです。ある村の話ではあるものの、誰から、いつ見聞きした話なのかは場面ごとに変化します。
 シャープで、センスが良くて、全体のグレードが高くて、芯のとおった作品を見せていただけた満足感がありました。ただ演技にもストーリーにも起伏が少ないためか、途中で少々眠くなったりも…無念。

 不穏な雲に神経質になっている女性を演じた伊東沙保さんの、じりじり、イライラした女性らしいしぐさ、感情の高まりを努力して抑えたような声の出し方が印象に残りました。
 ぶっきらぼうな妹を演じた青柳いづみさんが恐ろしかった~。すごく良かったです。

 ここからネタバレします。うろおぼえです。引用文などは正確ではありません。

 美術は二村周作さん。テーブルとイスが並ぶ空間。教室のようで、会議室のようで。途中から色が塗られていない(?)柱。奥にそそり立つ大きなパネル上部には四角い穴があいていて、スクリーンにもなって宇宙や空などの映像が映し出されます。

 原発および昨年の事故由来の放射能汚染が題材になっているのは明らかです。汚染やそれゆえの健康被害等についての情報(ニュース)を、信じる人、信じない人、その他の人などに分断された今の私たちの気持ちを、登場人物が代弁していきます。でもあくまでも、架空の村のお話なんですよね。
 朝日新聞の劇評で徳永京子さんが指摘されていた「自然(神)の視点」「天皇制の隠喩」などに、すごく納得。気づかなかったな~。なぜあのシーンだけ女性3人がテーブルの上に登ったのか、それは神の視点だったのだろうと思います。

 殺人シーンの青柳さんにシビれました!殺人後の姉(山崎ルキノ)との会話も怖くて良かったです。殺人シーンなんて、チェルフィッチュの作品では初めてじゃないかしら。『わたしたちは無傷な別人であるのか?』で山縣太一さんが倒れているシーンはありましたが。

 最後に客席に照明が当たる演出は、観客の“現在地”を示したのかなと思いました。宇宙だろうが村(地球、日本、神奈川、劇場)だろうが、人は自分が存在する“現在地”を消す(そこから逃げる)ことはできない、そこに居ることを選んだのは自分である…といった意味を受け取りました。

≪公開リハーサル4月13日@グリーンホール相模大野、神奈川、福岡≫
出演:山崎ルキノ 佐々木幸子 伊東沙保 南波圭 安藤真理 青柳いづみ 上村梓
脚本・演出:岡田利規 美術:二村周作 音楽:サンガツ ドラマトゥルグ・演出助手:セバスチャン・ブロイ(快快) 舞台監督:鈴木康郎 照明:大平智己 音響:牛川紀政 映像:山田晋平 舞台監督助手:尾崎聡 映像助手:須藤崇規 宣伝美術:松本弦人 大道具制作:C-COM 録音・ミックス:大城真 美術助手:谷口綾 企画・製作:KAAT神奈川芸術劇場、precog アフタートークゲスト:松井周
【休演日】4/25【発売日】2012/02/18 前売一般 3,500円 当日一般 4,000円 ※ほか各種割引有り(チケットかながわのみの取扱※一般発売日以降・電話予約のみ)
http://www.facebook.com/chelfitschgenzaichi
http://chelfitsch.net/news/post_91.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
 便利な無料メルマガも発行しております。

メルマガ登録・解除 ID: 0000134861
今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台
   
バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ
Posted by shinobu at 20:03 | TrackBack

演劇集団円『胸の谷間に蟻』04/20-05/02ステージ円

 京都の劇団MONOの土田英生さんが演劇集団円に新作を書き下ろされました。演出は前回の『初夜と蓮根』(⇒映画化もされています)に続いて内藤裕子さん。『初夜~』を見逃したので、千秋楽に伺いました。

 設定は面白いしオチもさすがだな~と思いましたが、全体的に易しくまとめ過ぎに感じました。上演時間は失念。たぶん1時間45分前後だったかと…曖昧です。

 ⇒CoRich舞台芸術!『胸の谷間に蟻

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより (役者名)を追加。
 小さな服飾工房から急成長を始めたランジェリー専門メーカー『ゴールドシャレード』。
 トップにいるのは実直で社員思いの女社長(谷川清美)。
 近年は、女子高生を中心に「ゴルシャレ」と呼ばれる大人気ブランドを作りあげ、雑誌にも取り上げられるほどの話題の社長である。
 ある日、社長を訪ねて、ひとりの女性が現れる。彼女は、30年前に生き別れになった社長の末の妹(朴璐美)だった。
 雑誌を見て、訪ねてきたというのだ。さらに、同じくして生き別れた次女(岸昌代)と当時赤ん坊だった弟(佐藤銀平)まで現れる。
 思わぬ再会に、有頂天になる社長。なにを思ったか、全員を会社で働かせると言い出す。反対する社員たち。
 いつの間にか三女が会社を仕切り出す始末・・・うまく回っていたはずの会社が徐々に変化して行く。すべてのバランスが崩れ、それに翻弄される社長。業績も下降し、どんどん姉妹の関係も醜さもあらわになって行く。
 突然現れ好き勝手を始めた妹、実は密かな復讐を計画していたのだった。果たしてこの会社は、姉妹の関係は、どうなって行くのだろうか?
 姉妹って?血のつながりって?ひとつの思い出さえおぼろであいまいな関係・・・
 土田英生のきょうだいという血と人間関係の谷間を見つめる、そんなお話。
 ≪ここまで≫

 上演中は大いに笑いが起こっていましたし、カーテンコールも数回あり、その中で千秋楽の役者紹介もあって、とても盛り上がった回だったと思います。

 舞台はある人気下着メーカーの会議室兼談話室。“大企業の社長を採り上げる有名雑誌のインタビュー欄に載る”ほど注目を集めている女社長が経営する会社にしては、ちょっと殺風景に感じました。社長の気質を反映して敢えて地味なデザインにしたのかもしれませんが、劇場空間に対して正直に真四角な舞台美術は、状況を説明する親切な書き割りのように見えたり。
 もしかするとこのお芝居全体が“上手な説明”の範囲に収まっているように感じたせいかもしれません。「ここ、笑うシーンですよ~」と観客に教えちゃうぐらい親切な演出で、私には過剰だったんですよね。

 土田英生さんの戯曲は、突然、ドロっとした悪意が皮をひんむかれたように顔を出すのが好きです。まるで当然のごとく、えらそうにふんぞり返った悪意なら、なお好み(笑)。それが感じたかったです。

 長女役の谷川さんが胸元をさわる(かきむしる)動作をする度に、タイトルがふと浮かびます。三女役の朴さんはスタイルの良さがひきたつ衣裳でかっこ良かった~。おっぱいの大きい女優さんがそろっているから思いついた題材なのかな~などと邪推(笑)。

 あらすじにある「姉妹って?血のつながりって?」という問いについて、ひとつの回答が示されていたのが良かったです。私個人としては、親子兄弟姉妹、親戚、他人であれ何であれ、自分と他者との関係については、どんな時間をともに過ごしたかが大切だな~と感じます。「血のつながり」はあまり重要視しない方かも。子供も大人も(幼児も含めて)人間は一人ひとりが自立した個人だと思って接したいと考えています。

 ここからネタバレします。

 下着メーカー創業者である父は計4度結婚し、妻1人につき子供を1人ずつつくりました。最初の妻とよりを戻す際に長女以外の3人の子供を「捨てた」ため、30年の時を経て、三女が次女に声をかけ、長女に復讐することに。末っ子を名乗る男は偽者で、施設に入られられた長男は10歳の時に死亡していました。まずこの設定がかなり残酷ですよね。
 
 三女の策略で、売れそうにない新作下着“梅子”は大量返品され、社内は在庫のダンボール箱で埋まってしまいます。でもズロースとセットにしたらお年寄りに大ヒット。在庫はすべてなくなり、売れ筋の新商品になっていました。“ひょうたんから駒”な結末はいわゆるハッピーエンドとも受け取れるし、非情な世間および経済の姿にも見えます。

 三姉妹の対決場面は、真っ白な下着“梅子”ではたき合う肉体バトルでした。かなりの長時間、3人の女優さんがくんずほぐれつ戦ってました。それが落ちついた後に「お茶でも飲もうか」と、父が好きだった紅茶を淹れて飲む…という流れに。このお茶の時間が3人にとって、姉妹として過ごす大切な時間になったのだと思います。

出演:谷川清美、朴璐美【朴ろ美(パク・ロミ。ろは王へんに路)】、岸昌代、馬渡亜樹、吉田久美、池亀未紘、山崎健二、渡辺穣、佐藤銀平 ※平栗あつみが体調不良の為、降板。代役は岸昌代。
脚本:土田英生 演出:内藤裕子 美術:小池れい 照明:佐々木真喜子 音響:穴沢淳 衣裳:Koco 演出助手:小川浩平 舞台監督:田中伸幸 図案:ナミヘイ 制作助手:宮本良太 制作:桐戸英二
【発売日】2012/03/15 全席指定 4500円
http://www.en21.co.jp/munenotanimaniari.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
 便利な無料メルマガも発行しております。

メルマガ登録・解除 ID: 0000134861
今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台
   
バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ
Posted by shinobu at 17:08 | TrackBack

Q『地下鉄』05/03-06 atelier SENTIO

 市原佐都子さんが作・演出されるQ(キュー)の第3三回公演です。ご縁があって旗揚げ前の公演から拝見しています(過去レビュー⇒)。上演時間は約1時間15分。

 今年12月にアトリエ春風舎プロデュース公演第3弾として、第11回AAF戯曲賞受賞作『虫』が再演されます。出演者(女優のみ)募集中です。応募〆切:2012年6月20日24時(メールのみ)。演じるには度胸も技術も必要だと思いますが、とても面白い作品なのでご興味ある方はぜひ。

 ⇒BricolaQ「Q『地下鉄』市原佐都子×吉田聡子インタビュー
 ⇒CoRich舞台芸術!『地下鉄

 劇場の舞台側の白い壁沿いに、横一列に裸電球がずらりと並んでいます。上下と奥の3面全部に、腰ぐらいの高さ(たぶん)の位置に、ほぼびっしり、一球々々が糸で天井から吊り下がっている状態です。役者さんはすでに舞台上に待機中。この空間がまず可愛らしかった。アトリエ・センティオの魅力を上手に生かしていると思います。

 内容は地下鉄で出会う見知らぬ若者たちの日常、独り言、妄想、具体的接触など。下ネタの過激さは前回ほどではないけれど健在。ちょっと内向き過ぎて、私には興味が持続しなかったかな~。吉田聡子さん(赤ベレー帽着用)の演技がパワフルでとても面白った。「~~やん!」という語尾は癖になりますね(笑)。

 市原さんおよびQ公演参加メンバーは、スタッフも含め20代前半ごろの若い方々ばかりです。ピンからキリまで、地の底からテッペンまで、何にでも挑戦している最中なんでしょうね。作風にこだわらずに実験を続けていかれるといいなと思います。

 ここからネタバレします。

 今までと同様、独白で構成される部分が多いです。壁に映像や写真が映写されるのも継続してますね。役者さんは一人で空間をしょって立つしかない状況に。大変だなぁ。

 リカちゃん人形を持って話す赤いベレー帽の女の子(吉田聡子)と、駅で詩人と間違えられる大柄の女の子(木村愛子)が、2人で同時にセリフを話しつつ、踊る(?)場面が面白かったです。木村さんがものすごい下ネタを言いながら、転びつつ踊り続けます。吉田さんの大きすぎる(笑)声とのバランスがいびつで良いですね。
 役柄としてではなく共演者として「愛子ちゃんが~」などと語るセリフも出てきました。役者さんの名前も知って観ている観客ならわかったかもしれませんが、何も知らない人からすると意味がわからなかったんじゃないかな。まあわからなくても予想はできるかもしれませんが、私には楽しめず。

 役者さんがぐるぐるとステージを走る度に、電球が揺れてぶつかって、「カチ、コチン」と小さな音が鳴ります。これがとても可愛くて、無知と臆病ゆえの若者の頑固さ、それゆえのひ弱さも象徴しているように感じました。

Q第三回公演 SEVTIVAL!2012参加作品
出演:相原洋平(アパートとおばあちゃん家の行き来の人生) 飯塚ゆかり(自分が可愛いと思ってる) 木村愛子(詩人と間違えられる) 吉田聡子(リカちゃん人形所持)
【脚本・演出】市原佐都子 【舞台監督】小川陽子【舞台美術】中村友美【照明】塚原佑梨【音響】柴田未来【宣伝美術】吉田聡子【制作】御代川光香 小倉優貴子
【発売日】2012/03/20【前売り一般】2000円【前売り学生】1800円【初日割り】1500円(予約のみ・対象3日)【当日】+200円
http://ameblo.jp/blo9-q/

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
 便利な無料メルマガも発行しております。

メルマガ登録・解除 ID: 0000134861
今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台
   
バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ
Posted by shinobu at 14:37 | TrackBack

渡辺源四郎商店『翔べ!原子力ロボむつ』05/03-06ザ・スズナリ

 畑澤聖悟さんが作・演出される青森の劇団、渡辺源四郎商店の新作です。毎年ゴールデンウィークは東京まで公演をしに来てくださいます。“渾身のアトミック人情喜劇”の上演時間は約1時間30分。

 双子ロボットのユニゾンが素晴らしかったです。あれは萌えるっ(笑)。ロビーでこのロボットの人形(フィギュアと言ってもいいのかも?)が1体3,000円で販売されており、昨晩は2体セットで購入されたお客様がいらっしゃいました。 

 ⇒朝日新聞「核めぐる人情喜劇 10万年を視程に」※小さな舞台写真あり。
 ⇒CoRich舞台芸術!『翔べ!原子力ロボむつ』※こりっちでカンタン予約!

 タイトルとキャッチコピーの通り、原発問題を取り上げた作品です。青森の地元色全開で、親しみやすい可愛らしいギャグも多数。真っすぐなローカル性がグローバルたりえるのだな~と思いつつ鑑賞しました。
 衣裳と舞台美術が手軽そうなのが気にかかりました(木材の質感など)。ロボットもの(アニメや実写)を意識されたのか、音響効果に取ってつけた感があるんですよね。それもこれも演出意図だろうと思います。前回のアゴラ劇場では“敢えて”をそのまま受け入れられたのですが、ザ・スズナリだと私の感覚が違うのかもしれません。

 こうやって感想を書くために振り返ってみて、すごい脚本だとあらためて思いました。ロボットものSFで、人情ドラマで、気楽なエンタメ要素満載で、子供にも大人にもわかりやすくて。そして放射性廃棄物の処理という半永久的に続く重い責務について、私たちが次世代に押しつけた負の遺産について、しっかりと描かれています。

 町長の“お世話”をする双子ロボットを演じるのは三上晴佳さん(1号)と音喜多咲子さん(2号)。小柄な女性2人が声をぴったりそろえてセリフを言います。このシンクロ率の高さが気持ちいい!息の合ったロボットの演技を観たくて、2人の登場が待ち遠しかったです。

 ここからネタバレします。うろおぼえです。

 主人公は高レベル放射性廃棄物の処分場招致を決断した「南むつ町」の町長。無害化するまで10万年かかるという核のゴミの最期を見届けるため、自ら冷凍睡眠し、1000年後の青森で目覚めます。たび重なる地震と津波で日本は数十個の島に分裂し、青森は激しい内戦の末に日本から独立して“りんご王国”となっていました。研究者から「巨大ロボットMUTSU(むつ)により、廃棄物の処理は終わった(無害化した)」と聞き、町長は歓喜します。リンゴ王国は世界中の核廃棄物の受け入れを宣言し、処理の対価として大金を得て繁栄を極めていました。でも本当は、廃棄物をMUTSUの中に保存しただけでした。りんご王国は廃棄物からさらに猛毒のアズマシウムという物質を抽出し、武器利用していました。つまりMUTSUは兵器でもあったのです。

 町長の身の回りの“お世話”をする双子ロボットの本来の仕事は、核廃棄物の“お世話”。つまりMUTSUの体内に貯蔵されたゴミの、サビを取ったり温度管理をしたりというルーティンワークです。でもそれは10万年続ける必要があります(ただしアズマシウムは無害化に5億年かかるという設定)。町長は双子ロボットの助けをかりて、1000年ごとに未来を見に行くことにしました。“りんご王国”がほろび“いか王国”となっていたり(間に“にんにく王国”が数年)、氷河期が始まっていたり、ついには人類が滅亡して違う生物が生まれていたり…。たどりついたのは5万年後。その時には双子ロボットのエネルギーも尽きていました。
 そこで「まだ5万年だよ…」と、聞こえてきたのはMUTSUの声。「いつか空を飛びたい」という夢を胸に、MUTSUはただひたすら時が経つのを待ち続けていました。ほそぼそと自然エネルギーを蓄えつつ…。

 「人は夢(幻想)がないと生きていけない」って、使い古されたフレーズだと思っていましたが、今は心底そのとおりだと感じています。先日(2012年5月1日)の朝日新聞朝刊・耕論「いま、ここにある憲法」で東浩紀さん(⇒twitter)が「幻想なしに人は生きていけない」と明言されていて、うんうん、とうなづいたところでした。MUTSUの「飛びたい」にもそれを見出しました。

 ※双子ロボット以外は衣裳がほぼ普段着で、未来の場面ではブローチやヘアバンドをつけて変化をつけただけでした。おそらく「すべては町長が(夜寝てる時に)見た夢だった」という枠組みも残す演出なのだろうと思います。


 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
 出演:多田淳之介 畑澤聖悟 聞き手:工藤千夏

 畑澤「昨年の震災以降、よく“がんばれ東北”と言われるが、青森県で被災した地域は一部。たとえば青森市内は全く被災地ではない。でも30キロ県内には六ヶ所村の再処理施設がある。そのことを考えたい。」
 多田「(お芝居の中で)未来へと進んで人類が滅んだ時、『人類が滅んだならもう廃棄物の管理はしなくていいんじゃないか。放射能に強い生物がその後に繁栄すればいいし』と考えた自分がいたのが面白かった。自分は人類のことばかり考えているってことに気づいて。」

 多田「僕はロボットの役を演じたことがあって、その時に気づいたのは、ロボットの行動は俳優の行動と同じだということ。演じた2人の感想を聞いてみたい。」

≪青森、東京≫ 第15回公演
出演:工藤由佳子 高坂明生 三上晴佳 山上由美子 工藤良平 柿崎彩香 宮越昭司 牧野慶一 音喜多咲子 斎藤千恵子(PAC) 北魚昭次郎 山田百次(劇団野の上)
脚本・演出:畑澤聖悟 音響:藤平美保子 照明:浅沼昌弘 舞台美術・宣伝美術イラスト:山下昇平 宣伝美術:工藤規雄(Grif inc.) 衣裳:五十嵐千恵子 プロデュース:佐藤誠 ドラマターグ・演出助手:工藤千夏 舞台監督:工藤良平、三上晴佳 制作:西後知春、秋庭里美
前売一般3,000円、学生2,000円、高校生以下500円
当日一般3,300円、学生2,300円、高校生以下800円
http://www.nabegen.com

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
 便利な無料メルマガも発行しております。

メルマガ登録・解除 ID: 0000134861
今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台
   
バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ
Posted by shinobu at 13:37 | TrackBack