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2014年02月25日

【写真レポート】王子小劇場「高校生向け無料ワークショップ/山崎彬WS・いしいみちこWS」02/24王子小劇場

 王子小劇場で行われた高校生向け無料ワークショップを見学させていただきました。講師は俳優、劇作家、演出家の山崎彬さん(悪い芝居)と、いしいみちこさん(いわき総合高校演劇部顧問)。※午後から始まった声優体験WSは拝見していません。

 王子小劇場では高校生向けの企画を継続されています。「昨年のサマースクールが楽しかったから今回も参加した」という女の子もいました。王子小劇場で出会った演劇好きの高校生たちのコミュニティーができてきているようですね。⇒昨年の告知エントリー

 今回はいわき総合高校演劇部『あひる月13』の上演に合わせて実施され、いわきの高校生と首都圏の高校生の演劇交流の場にもなりました。

 【速報】王子小劇場は4月5日(土)に高校生を対象としたワークショップ、7月下旬に例年の王子小劇場サマースクールと発表会の開催を予定しています。

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●山崎彬WS(09:00~11:00)

 参加人数は約30人。20人強がいわき総合高校演劇部員で、それ以外が東京、埼玉など首都圏の高校生でした。山崎さんの回は大人気で定員以上の応募があり、参加できなかった人もいたそうです。

 まず3対3の計6人のチームを複数つくりました。はじめに片方の3人が普通に会話をしてみて、その後、もう片方の3人がその会話を再現します。誰かの真似をすることで、演じることを考えるゲームなんですね。山崎さんは俳優ですから、台本に書かれている役柄を演じる際、具体的に何を手掛かりにして、何を行うのかを実体験させようとしたんだと思います。

 山崎:真似することから入っていって、その人自身になるためには、どうしたらいいのか。何かが起こっているのか、しっかり見てね。表情もよく見て。

 バツゲームありのジャンケンや“あっちむいてホイ”で盛り上がり、それを再現しようとしたら、ジャンケンの段取りを間違えて失敗して…なかなかうまくいきません。でも次々に起こる想定外の失敗がものすごく可笑しいんです。

 山崎:その場で起こったことの方が、再現よりも絶対に面白いんだよね。昨日成功したことを今日も成功させるには、どうしたらいいんだろう。
 山崎:ある人物が何かを決断して行動した。その人物はいくつもの未来(選択肢)の中から1つを選んだんだよね。(選んだ行動だけでなく、その前に)いくつもの未来があったことを想像することが大事。

 2時間という短時間では山崎さんが想定していた目標にはたどり着けなかったようでしたが、笑いの絶えない楽しい時間でした。いわきと首都圏の高校生たちが演劇で交流できたことにも価値があると思います。

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●いしいみちこWS(11:30~13:30)

 始まる前のほんわかした時間。いしい先生からの「このワークショップを選んだ理由は?」という質問に一人ずつ答えていきます。「去年のサマースクールが楽しかったから」「いわき総合高校演劇部の技を盗みたかったから」「演劇部にチラシが来たから」「家で勉強したくなかったから」「無料だったから」など。参加人数は約20人。演劇部の子が多いようです。

 いしい:俳優は体が楽器です。体は表現するための道具だからメンテナンスが必要。
 いしい:演劇をやる時は頭でっかちになっちゃうことが多い。心と体はつながっている。体から心にアプローチする方が、言葉がすんなり出てきたりする。私は(いわき総合高校で)常に体のことをやっています。

 まずは2人1組になって他己紹介。2分間で相手の情報を聞き出してから、よく呼ばれる名前とその理由などを20秒間でみんなに発表します。この時点で自分以外の誰か1人が自分の存在を認めてくれることになります。それだけで嬉しいし、安心できますよね。紹介内容とその方法(言葉づかい、しぐさ、声など)に個性があふれ出ていました(笑)。
 次は全員で車座になって座り、順番に自分についての情報を1つずつ話していきます。例えば名前、足の怪我、兄弟の数、はまってるゲーム等、1つずつ話していき、何周もするのです(数えていないんですが7周以上はしてたかと)。1~3週目ぐらいはまだ情報提供レベルの内容ですが、だんだん言うことがなくなってくると考えてから話すようになるので、心身の固さが取れて素の姿が見えてきました。参加者全員が平等に語る時間を与えられ、語られた内容を全員で共有することになります。自分が話す時は20人全員が自分に注目してくれるのも嬉しいことだと思います。

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 11時半から12時10分までの約40分間が自己紹介に割かれました。5分間の休憩後、ストレッチが始まりました。

 いしい:表現をする時には体をニュートラルにするのが大事。体の力を抜いていくストレッチをします。

 たとえば床に座ってやる前屈では、手を足につけることを目指すのではなく、力を抜いて体を足の方へと倒していき、しばらくそのままの状態でリラックスさせていました。面白かったのは立位体前屈の実験です。体の固い男子が自分一人で立位体前屈をすると、手が足につきませんでした。でも片方の手を横に立っているいしい先生の肩に置いて前屈すると、手が足につきかけたのです。いしい先生ではなく、自分がよく知っている友達の肩に手を置くと、もっと手が足の方へと伸びました。

 いしい:これは自分の体と会話して、脳の錯覚を使うストレッチです。なぜ1人だと手が足につかなかったかというと、脳が「これ以上前に倒れたら危ない」と命令を出していたから。友達の肩を借りることで自分を安心させて、脳のストッパーをはずしたんです。脳は思い込みが強い。その思い込みをいかにして外すか、なんです。だから何についても「自分にはできない」と思わない方がいい。たとえばストレッチする時は「私の体は、もしかしたらグニャグニャに柔らかいかも!」ぐらいに思ったらいい。

 これには目から鱗が落ちた心地がしました。ストレッチの極意だけでなく、考え方、生き方にもそのまま応用できますよね。ストレッチは12時45分までの約30分間でした。次は歩く、そして気持ちを乗せるワークに進みました。

 いしい:演技をするために、何もしゃべらない体、何もしない体を作って欲しい。まずは正しい立ち方から始めます。癖はなくした方がいい。何も言わない体になりましょう。足は肩幅に開いて、ひざは緩い目に(柔軟に)。宇宙から釣り針がおりてきて頭のてっぺんを引っ張っているイメージ。ピっと引っ張られるように体を引き上げてください。お腹に少し力を入れて、軸がうまく真ん中にとおるように。手はニュートラルに脇におろす。視線はまっすぐ前を見てください。モンゴルの平原を想像して、その草原の地平線の向こうを見るように。視線は強く。毎日、体を引っ張りあげて生きてください。

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 立ち方と姿勢の調整(矯正)をした後、壁にタッチしてから20人全員が空間に均等に並びなおすワークを経て、音楽(Perfume)を流しながら空間全体を使って歩くワークが始まりました。最初は全員で、後から10人ずつの2チームに分けて交互に行われました。

 いしい:空間を均等に埋めて歩いてください。お互いのことを考えて、周りを見て、どこに行けばいいのかを判断する。あわてないでススっと行って、自分の場所を取ってください。
 いしい:(目で)盗むのが大事。あわてたり、どこに行こうか迷ってるのがバレないように、目の端で(全体の動きを)盗む。

 姿勢の良い若者が、周囲に気を配りながら颯爽と歩いているのを見ているだけで、私が健やかな明るい気持ちになりました。いしい先生は歩いている高校生たちに次々と注文をつけていきます。歩きながら目が合った人に「おはよう」と挨拶、次はハイタッチしながら「おはよう」と挨拶、今度はアイコンタクトのみで言葉を使わずに「おはよう」を伝える、そして「大好き!」を伝える…と発展し、さらに「大嫌い!」「楽しいね!」「ムカつく!」「幸せですか?」と伝える感情を変えていきます。

 いしい:「大好き」を伝えて!もっと(自分から相手の)視線を取りに行って!

 高校生たちの表情は瞬時に変化し、姿勢や歩き方にも感情が鮮やかにあらわれるようになりました。Perfume“GLITTER”の「キラキラの夢の中で~」という歌詞が流れ、まさにキラキラの夢を見ているよう!
 いしい先生の注文は、やがて1つの感情からストーリーになっていきました。 

 いしい:好きな人からメールが来た!デートすることになった!デートで告白された!………
 いしい:親が宝くじに当たって100万円のお小遣いをもらった!そのお金でラスベガスに行きカジノで全部使い果たした!すると異性の外国人に優しくされた!外国人の恋人ができちゃった!外国人は積極的だからキスを迫られた!キスをしているところを好きな人に見られた!好きな人に「誤解なんだ」と説明したらわかってくれた!………

 恋のトキメキ、モテる悩み、失恋の衝撃と悲しみなど、クルクルと気持ちを変化させる高校生たち。私は面白くってたまらなくて大笑いしながら(笑)、「なんて可愛いんだろう!美しいんだろう!」と感動していました。10人ずつ交互にやるので、高校生たちはやるだけでなく、見ることもできます。他者を観察して学ぶことも、とても多いだろうと思いました。

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 あっという間に2時間が終了。車座になって座り、いしい先生がまとめに入りました。

 いしい:体をニュートラルにして、気持ちが体に自然に乗っかるというワークをやりました。演技をする時、俳優は5~6、いや10個ぐらいのことを同時にやっているんです。舞台では同時並行にたくさんのことが起こる。だからこういうワークがすごく大事。
 いしい:周りも見て、歩き方もちゃんとして、気分も乗せる。気持ちの変化が見えましたよね?体に負荷をかけることで、割と自然に気分が体に乗るんです。俳優は演技をする時、「表現しよう」という素の部分が大きくなってしまう。負荷をかけることで意識を分散できるんです。表現しようと思わなくても(気持ちが)変わるって、見ててわかったでしょう?

 まさにおっしゃるとおりでした。歩いている高校生たちは「大好きという気持ちを表現しよう」とか「振られたショックを伝えよう」などと思っているようには見えませんでした(そういう方向の努力をしてしまっている子には目が行きませんでした)。ただ「大好き!」という気持ちを全身で表していたし、「振られたショック」でしょげ込んでいました。これが私が観たいと思う演技なんですよね。

 最後にフィードバック(参加者全員が感想を言う)が行われました。
 「普段いかに周囲に注意を払っていないかがわかった」
 「体がしゃべってることを実感した」
 「大嫌い!という目で見られたときは傷ついた」
 「人と関わることっていいなと思った」
 「いつもはいわき総合高校演劇部の皆でやっていたけど、初めて会った高校生と関われて楽しかった」
 「引っ込み思案だけど、自分も(色んなことに)飛び込みたいと思った」

 いしい:色んな演劇があるけれど、全部自分から出発するものだと私は思っています。自分の中にあることからしか、引っ張り出せない。想像できないことは、やれない。自分のことを観察しないと、この経験が自分にとって何なのかを理解しておかないと、引き出しが生まれていかない。

 いしい:人間は頭だけでは理解できない。体を使った体験からしか理解できない。体がある程度できてくると、心も解放されてくる。演劇をやることで普段の気づきが得られる。最初に“だらだらストレッチ”をやりました。体がリフレッシュしたら今日一日がんばれるってこと、ありますよね。何をやるにも体が利く方が(自分の)武器も増える。体のメンテナンスをして、ストレッチをしながら考えて、自分の体と対話することで、演技に広がりが出てくるんじゃないかと思います。

 【しのぶの感想】
 子供たちはおそるおそる自己紹介をしていた頃と、最後のフィードバックの時とでは別人のようでした。たった2時間でここまで変わるなんて、まるで魔法!…いえ、決して魔法ではないですね、いしい先生が人間のポテンシャルを引き出す演劇的手法をお持ちなんだと思います。いしい先生は子供たちを信頼し、彼らが自分から変化するよう促し、温かい言葉をかけながら見守ります。『あひる月13』の出演者が皆しっかりと自立した俳優だった理由が少しわかった気がしました。

 今までにもこのブログに、音楽、図工、体育のように演劇がひとつの教科として学校のカリキュラムに取り入れられて欲しいと書いてきましたが、今日もまた、その思いを強くしました。いしい先生は演劇作品を創作するアーティストであり、優れた教育者でいらっしゃいました。お会いできて光栄に思うと同時に、こんな先生がいる、いわき総合高校演劇部は恵まれているなぁと思いました。できるだけ多くの高校生に、いしい先生の授業やワークショップを受けて欲しいです。(王子小劇場さん、ぜひ継続してください!)

写真提供:王子小劇場
日程:2月24日(月曜日/都立高校入試日)。
講師:山崎彬(悪い芝居)、いしいみちこ(いわき総合高校演劇部顧問)、劇団まごころ18番勝負による声優WS。
http://en-geki.blogspot.jp/2014/01/224.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2014年02月25日 00:17 | TrackBack (0)