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REVIEW

2014年02月25日

さいたまネクスト・シアター『2014年・蒼白の少年少女たちによる「カリギュラ」』02/15-27彩の国さいたま芸術劇場インサイド・シアター(大ホール内)

 蜷川幸雄さんが演出されるさいたまネクスト・シアターの第5回目の本公演です。『カリギュラ』は2007年に小栗旬さん主演版もありました。上演時間は約3時間15分(途中15分の休憩を含む)。

 パンフレットに蜷川さんが「この『カリギュラ』は(マームとジプシー『cocoon』を作った)藤田貴大さんへの、年上の世代からの心からの返答歌」と書かれていました。

 敢えて極端な行動を取る暴君と彼に翻弄される貴族たち。ロビーで翻訳本が販売されていました。

 ⇒CoRich舞台芸術!『2014年・蒼白の少年少女たちによる「カリギュラ」

アルベール・カミュ (1) カリギュラ (ハヤカワ演劇文庫 18)
アルベール・カミュ Albert Camus 内田 樹(解説)
早川書房
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 ≪あらすじ≫ 公式サイトより (役者名)を追加。
 溺愛する妹ドリュジラの突然の死をきっかけに失踪した若きローマ皇帝カリギュラ(内田健司)。3日ぶりに姿を現わした彼は、ローマ市民の財産の没収と無差別に市民を処刑することを宣言し、以後、ローマ帝国を恐怖のどん底に落とし入れる。
 3年が過ぎ、屈辱に耐えかねた貴族たちはクーデターを画策するが、貴族ケレア(川口覚)は時期尚早だといさめる。ケレアはカリギュラの狂気に何か大きな理念を感じており、カリギュラの論理が錯乱するのを待つつもりだった。一方、若き詩人シピオン(白川大)は父親をカリギュラに惨殺され、彼もまたカリギュラを憎んでいたが、カリギュラと言葉を重ねるうちにカリギュラの想いを理解し始める。
 カリギュラの情婦セゾニア(浅野望)、カリギュラによって奴隷から貴族に重用されたエリコン(小久保寿人)は、カリギュラを理解し、彼を支え続ける。しかし、貴族たちのクーデターはすぐそこまで迫っていた――。
 ≪ここまで≫

 カリギュラとその他大勢という強固な構図でした。カリギュラ役の内田健司さんは『ヴォルフガング・ボルヒェルトの作品からの九章』でも主役でしたね。今回も舞台でご自身をさらし尽くす、清潔で鮮やかな存在感でした。『2012年・蒼白の少年少女たちによる「ハムレット」』でも印象に残っていた手打隆盛さんが今回も良かったです(女性よばわりされる老貴族セネクトュス役)。

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 カリギュラによる恐怖政治の3年間はまるで天災みたい。カリギュラという存在そのものが災害であったというか、彼は自分の心身を使って人々に警告をしていたのだと思います。「戦争は3回断った」そうなので、以前より戦死者は減ったかもしれません。

 共感してくれる人はほとんどいないだろうし、根拠は何かと言われても論理的な説明はできないんですが、私は、(人間の)子供は時代も親も自分で選んで生まれてくると思っています。だからエリコンのセリフ(「子が親を選べるなら俺はあんな父親のところに生まれていない」等)を聴いて、またか…と思いました。お芝居でも日常でもよく耳にするんです。こういう考え方ってダーウィンの「種の起源」とかから来てるのかしら。
 そして、これまた私個人の勝手な信仰のようなものなんですが、自分の命は与えられたものであり、自分の好き勝手に扱えるものではないとも思っています。だからカリギュラの行動が崇高な自己犠牲の精神に基づいたものであったとしても、彼が彼自身の命を大切にしていない時点で、私にはあまり説得力がないんですよね。自分なんて死んでもいいと思っている人は、他人の命も粗末にします。
 フィクションの効果として敢えて極端な設定を使うのはよくわかります。今の私にはその極端さがあまり響くものではなかったようです。

 カリギュラだけが白い衣装で、他は赤い衣装です。最後にカリギュラは大勢の貴族たちに剣で刺されて死亡。顔や白い衣装に赤い血のりがたっぷり塗られていました。白地に赤になるので日の丸を表していたのでしょうか。蜷川さんは体制に立ち向かう英雄または市井の人々が、結果的には戦いに敗れて死んでしまうという演出をよくされていると思います。

 ≪当日配布されたパンフレットに挟まれていた別紙の蜷川さんの言葉より、一部抜粋≫
 去年、徳永京子さんの朝日新聞の劇評をみて、「マームとジプシー」の藤田貴大さんの『cocoon』を見にいった。そしてその舞台のみずみずしさと、演出の内面的な強さに心うたれて少し嫉妬した。あの美しさとみずみずしさをぼくがつくることは出来ないが、藤田さんのような心うつ演劇をつくりたいと心から思った。
 そしてこの『カリギュラ』は藤田さんへの、年上の世代からの心からの返答歌だと思ってもらえれば、うれしいです。
 今度は、ぼくが藤田さんの稽古場へ遊びにゆく番です。蜷川幸雄


彩の国さいたま芸術劇場開館20周年記念・第5回公演
出演:さいたまネクスト・シアター⇒ カリギュラ…内田健司 セゾニア…浅野望(私が観た回はこの人)/周本絵梨香 *1 エリコン…小久保寿人 シピオン…白川大(私が観た回はこの人)/砂原健佑 *1 ケレア…川口覚 老貴族セネクトュス…手打隆盛 第一の貴族…堀源起 貴族メテリュス…松崎浩太郎 貴族レピデュス…浦野真介 貴族オクタヴュス…鈴木彰紀 財務長官パトリシュス…松田慎也 メレイア…鈴木真之介 ミュシュス…髙橋英希 貴族リュシュス…竪山隼太 貴族カシュス…續木淳平 貴族…茂手木桜子、坂辺一海、市野将理 貴族・ミュシュスの妻…浅場万矢/長内映里香/堀杏子(私が観た回はこの人)/呉美和/佐藤蛍/田中りな/安川まり*2 貴族・第一の詩人…阿部輝 貴族・第二の詩人…竹田和哲 貴族・第三の詩人…平山遼 貴族・第四の詩人…吉村照道 貴族・第五の詩人…髙橋英希 貴族・第六の詩人…井上夕貴 貴族・第七の詩人…銀ゲンタ 衛兵…市野将理、郷園高宏、平山遼、松田慎也、坂辺一海、鈴木真之介 奴隷…市野将理、郷園高宏
*1…【セゾニア/シピオン】はダブルキャスト。*2…【ミュシュスの妻】は日替わりキャス
[作]アルベール・カミュ[翻訳]岩切正一郎[演出]蛤川幸雄[演出補]井上尊晶[美術]中越司[照明]岩品武顕[音響]高橋克司[衣裳]紅林美帆[ヘアメイク]鎌田直樹[擬闘]栗原直樹[振付]青木美保[演出助手]塩原由香理[舞台監督]平井徹[舞台監督助手]明石伸一、足立充章、山下翼、野村久美子、大畑豪次郎、八木香、岸美里、濱野貴彦[照明操作]阿部清二、斎藤温子、菅沼翔太、林大輔、黒谷由香、倉林那実、鈴村浩美[音響助手]けんのき敦[ヘアメイク助手]幸地祐季[特殊メイク指導]松本麻友子[擬闘助手]五味良介、大田周作[衣裳進行]加賀正信[衣裳製作]田淵英奈、山岸祐子、中西亜希子、安川美咲、星野菜香子[小道具製作]宇野奈津子、秦真祐子、長谷川ちえ[大道具]金井大道具(阿部宗徳、小林等、谷脇友斗)[小道具]東宝舞台(布田栄―)[特殊小道具]アトリエカオス(冨岡高志)[特殊効果]ギミック(南義明、酒井智大)[楽器]三響社(岸拓央)[著作権代理](株)フランス著作権事務所[宣伝写真]細野晋司[宣伝美術]柳沼博雅[制作統括]渡辺弘、木村浩利[技術統括]山海隆弘[劇場舞台技術]金子伸也、小池由里子、野寺誠中村兆成、岡本健太、鬼澤玲子、石部奈保子[営業宣伝]横清隆夫、鶴貝典久、小林辰郎、瀧澤晶子[票券]本郷充子、松井哲[制作助手]飯塚なな子[制作]松野創、石井おり絵、高木達也、原口さわこ 主催・企画・製作:公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団
【休演日】2月17日(月)、2月24日(月)【発売日】2013/12/23 【全席自由】 一般:4,000円 メンバーズ:3,600円
http://www.saf.or.jp/arthall/stages/detail/682

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2014年02月25日 21:05 | TrackBack (0)