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2014年04月10日

【写真レポート】アクターズワークス「小川絵梨子シーンスタディ」【2】小川語録1

 アクターズワークスが主催する「小川絵梨子シーンスタディ」に俳優として参加してきました。小川さんの発言をまとめたエントリー【小川語録1】です。

 ※計4回のレポートです⇒〔3日間のあらまし〕〔小川語録1・当ページ〕〔小川語録2〕〔しのぶの感想

 【小川語録1】
 ・東京の稽古場の現状/現場での心構え
 ・ストーリーを伝えることが俳優の仕事/自分を褒めることも仕事です
 ・俳優は求道者じゃない/プライベートなことは晒(さら)さず守る
 ・リアリティーは自分の中にはない。外側にある。
 ・フル(full)の感情なんて幻想/100%を目指さない
 ・ドライにコントロールする/自分の頭の中にある色んな自意識を許す

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 ■東京の稽古場の現状/現場での心構え

 小川:私の場合、1か月の稽古期間があるとすると、1週間は読み稽古をする。本当は2週間はやりたいけどプロデューサーに文句を言われるので(笑)1週間だけ。2週間経つと役者のクセや、俳優として何をやる人なのかが見えてくる。共通言語がないから、それぐらいは時間がかかる。米国には(俳優や演出の)教育機関があるからベーシック・テクニックが通じるんだけど、日本では通じないことの方が多い。対処方法としては、早いうちに(稽古が始まる前に)ワークショップをやっておくこと。だから一緒に仕事をするのが2回目、3回目の俳優だとすごく楽になる。

 小川:どんな現場でも俳優はみんな不安なもの。でもノート(ダメ出し)を出すとパーソナルに(個人的なこととして)受け取っちゃうのは問題です。ノートはただのコミュニケーションであって人格否定じゃない。へこまなくていいんですよ。キャスティングされた時点で、すべてOKなのだと信じて欲しい。公演が終わるまで座組みは家族。稽古場では家族のように受け入れて、許して欲しい。そして公演が終わったら「解散」するんです。三人芝居をやっていた時、ツアー先の千秋楽が終わって「解散!」と言って別れたらすっきりした(笑)。

 小川:自分と合わない演出家も(俳優も)います。「いろんな舞台があり、現場があるんだな~」と軽く受け取る方がいい。現場が自分に合わなくて怒ってしまうと、(自分の心身が)シャットダウンしてしまう。共演者を認めることは絶対大事。というか、それが一番重要かもしれない。嫌うと心が開かなくなる。現場では「みんな、居てくれてありがとう」と思うこと。ステージ上で相手と一緒にいるのが一番大事。

 小川:お客さんは頭がいいし貪欲だから「ああ、この芝居はこういう風に観ればいいのね」と配慮して観てくれるけど、自分に相手のセリフが聴こえなかったら、お客さんにも聴こえないんです。聴こえない(耳に入らない/心に届かない)言葉は、本当に聴こえない。相手役に「お前、それじゃ聴こえないよ」と伝えないのは残念なこと。そこ(相手のセリフが自分の心に届かないこと)を無視しないで。概念として大切にして欲しい。

 小川:日本の演劇界では精神力が強かったり、負けん気が強い俳優が生き残る傾向がある。勇気が必要。委縮しないように。フラットに立ってることが大切。「これは変だ」と思ったら、変だと思っていればいい。おかしな風に流されないようにする。その場に合わせるんじゃなくて、人間として考える。


 ■ストーリーを伝えることが俳優の仕事/自分を褒めることも仕事です

 小川:私はアクティング・コーチじゃないですから、観客に作品を見せることを優先します。私たちの理想、高みは、毎回同じなのに毎回フレッシュでいること。俳優がふわふわと、いいエネルギーで舞台上にいる方が、絶対にいい作品になる。でも俳優の感情よりもストーリーの方が大事。俳優は自分の気持ちよりも仕事を大事にすべきです。感じることが目的ではない。ストーリーを伝えることが仕事。

 小川:自分の内面に引っこんでいく言葉は、時にはリアリティーがあるかもしれない。でも役者としての仕事(ストーリーを伝えること)の方がよっぽど重要。

 小川:「自分はちゃんとできてる」と思うことは、もはや仕事です。「誰か褒めて~!」と待ってても、誰も褒めてくれません!

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 ■俳優は求道者じゃない/プライベートなことは晒(さら)さず守る

 小川:演技の稽古はセラピーではありません。俳優は求道者じゃない。自己鍛錬のバカボンド(放浪者)じゃない。私たちは修行者じゃなく、表現者です。「一人ずつ滝に打たれて修行する」のは違う。気持ちができたから芝居ができるわけじゃない。後期スタニスラフスキーを読めばわかることですが、演技は感情から始まるだけじゃないんです。体を動かすことで心が動くことがある。メソード演技で陥りやすい間違いです。スタニスラフスキーはもっとドライで実践的なんです。

 小川:お母さんの死など、自分のパーソナルな部分にごく近い事柄は守っておくべき。自分のプライベートは守ってあげて欲しい。心だけはオープンにして、でも秘密は晒(さら)さなくていい。守るから、(心身を)開くことができるんです。たとえばバイオリンで使いこなせる音階を広げていくように、使える範囲で使いましょう。


 ■リアリティーは自分の中にはない。外側にある。

 小川:(手を胸の前に差し出して)ここにリアリティーがある。そうすればインナー(内面・感情)もついてくる。インナーの探求が目的ではない。リアルは外にある。そう思えば非常に楽になれる。そしてインナーとアウター(外で起こること・行動)を別にしないこと。

 小川:大事なのは自分の中のリアリティーじゃない。「We don't fucking care what you feel!(あなたが何を感じてるかなんて、私たちは全く興味ない!)」。自分の中を気にしないで。感情は後からついてくる。しゃべりながら気持ちを感じることはやめて。We just need "YOU"!(私たちが欲しいのは“この場に居るあなた”だけ)。しゃべっちゃってから、感じるの。感じながらしゃべるのは見ていてウザいし、ストーリーが回らない。

 小川:自分で自分の内面をチェックしてる限り、本当の感情なんて生まれない。チェック機能は演出家にまかせて。Believe yourself!(自分を信じて!) 目の前に起こっていることに集中してください。やってみてから、リアリティーがついてくる。

 小川:一番怖いのは、意識が自分の中に入って行っちゃうこと。たとえば泣きながら歌う自意識過剰なアイドルと同じ。自分が自分の方を見てしまうとダメ。そんな演技は説得力ゼロです。

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 ■フル(full)の感情なんて幻想/100%を目指さない

 小川:100%(=フル)の感情を目指したい気持ちはわかる。でもそれは不可能。日常でもありえないことです。人間の心はもっと複雑でカラフル。一色にしようとすると、わけがわかんなくなる。人間は記号化できません。フルになろうとすると自分の内側の方に自分の目が向いてしまって、他者をはじいてしまう。フルを目指した途端に、演技が嘘になる。フルへの幻想は持たない方がいい。

 小川:時にはフル(full:目いっぱい)の感情が必要な場合もあるけど、コントロール下にあることが大切。漫画「ガラスの仮面」の“北島マヤ化”はやめましょう!彼女が共演者に居たら、すっごく迷惑だと思う。

 小川:怒るシーンがある場合、爆発させたい気持ちはわかるけど制御することが大切。例えば「攻撃したい」という気持ちなのか、「誰かの関心を引きたい」という気持ちなのかで全然違う。同じシーンにいる周りの俳優の目を意識するなどして、フルの怒りをおさめることもできる。私は「わめかないでください」とよく言います。

 小川:「うまくやんなきゃ」じゃなくて、「のびのび、ある程度、できるかな~」という気持ちでいればいい。がんばればがんばるほど逆に行っちゃうものだから。人間がやってることなんだから完璧なんて無理。最初から100点を目指さない。打率を上げるために訓練をするんです。例えばピアノのレッスンだと最初はバイエルから始めます。なのにいきなり100%(フル)を目指すと、佐村河内化しちゃう。

 小川:演技は脳みそだけでやることじゃない。最初は脳みそから入ったとしても、後は体でやることです。たとえば自転車に乗る場合、構造を知ってても、使いこなせるまでに時間がかかりますよね。道具に使われているうちは、家をつくれない。道具を使いこなせるようになれば、街だってつくれる。


 ■ドライにコントロールする/自分の頭の中にある色んな自意識を許す

 小川:ドライな側面からのアプローチをしないと、芝居は成立しない。どこかドライでいるのが大事。たとえば演じる役と自分の素の状態の割合は、6対4ぐらいでいい(役:素=6:4)。

 小川:例えば新国立劇場の舞台に立つ場合、「ここは初台だ」という自分の中の現実は残しておくこと。「ここは劇場だ」と思って舞台に立つこと。がんばって役人物の背景や感情を背負おうとすると、間違います。たとえば「ここは戦場で俺は絶体絶命だ!」という気持ちでいっぱいになることは不可能。

 小川:演技をしている最中に、自分の頭の中の小さな自分(=自意識)が、「お腹空いた!」「ここは法廷じゃない、稽古場だよ!」などと、お芝居とは関係のない現実について囁いてきても、許してあげること。退治して消去しようとするんじゃなく、認めて許すことが大事です。その方が自分らしくなる。集中が切れてもいい。集中できない自分も許す。

 小川:自分から「感じよう」と意識して感じるのは、その時点で残念。感じようとして感じると、自意識が表に出てきちゃう。自意識はなくてはならないもの。そしてコントロールするものなんです。感じようとするのではなく、感じる体でいること。肯定的に心身を開いていること。感情をチョイスする以前にこの場に居られることが大切。今ここの瞬間を楽しんでください。


 ※計4回のレポートです⇒〔3日間のあらまし〕〔小川語録1・当ページ〕〔小川語録2〕〔しのぶの感想


写真提供:アクターズワークス、高野しのぶ
アクターズワークス「現場で活躍する映画監督や演出家のワークショップ第二弾 小川絵梨子シーンスタディ」
期間:2014年03/17(月)~19(水)
告知エントリー:http://www.shinobu-review.jp/mt/archives/2014/0201172728.html

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Posted by shinobu at 2014年04月10日 14:06 | TrackBack (0)