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2014年04月09日

新国立劇場演劇『マニラ瑞穂記』04/03-20新国立劇場小劇場

 新国立劇場演劇研修所の修了生が多数出演するシリーズの第2弾です(⇒第1弾)。2011年に4期生の試演会で上演された作品(⇒稽古場レポート)が、新国立劇場の本公演に登場。
 お薦め前売り情報としてメルマガに掲載し、今月の1番のお薦め演劇としても紹介しておりました。上演時間は約2時間40分(途中休憩15分を含む)。

 期待どおり「いいお芝居観たー!」と大満足♪ 国立の劇場で上演されることに大いに納得の、出演者多数の歴史群像劇です。まず『マニラ瑞穂記』という戯曲がすごく面白い!こんな戯曲を書く劇作家が今いるのかどうか…すぐには思いつきません。そして細部まで丁寧に立体化して戯曲の核心を突く演出と、戯曲ためにストイックに演じる俳優たち。日本人が書いた素晴らしい戯曲を、日本人の俳優、スタッフが真摯に届けてくださいました。

 四方囲みの客席なので上から眺めるのもいいらしいです。たとえば当日券のZ席(1,620円)でも遜色ないかもしれません。定価のA席5,400円、B席3,240円でもお買い得の、今ぜひ観ておきたいお芝居だと思います。

 ⇒ぴあ「栗山民也インタビュー 『マニラ瑞穂記』
 ⇒ぴあ「現代を映した“危険な”歴史劇で千葉哲也ら躍動!
 ⇒おけぴネット「新国立劇場『マニラ瑞穂記』稽古場レポート
 ⇒CoRich舞台芸術!『マニラ瑞穂記

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 あてらはもう、とうに破滅しとるんやで。
 これより先きへは落ちられんとこへ落ちとるのや。
 1898年(明治31年)
 マニラの日本領事館には、フィリピンの独立運動を支持する日本人の志士たちや
 "からゆきさん"たちが、内乱で混乱する市井から避難していた。
 そんな中、日本領事・高崎のもとに、日本に帰国したはずの秋岡伝次郎があらわれる。
 賤しい生業をしていても日本人の誇りを忘れず、愛国精神にのっとって行動する奇妙な男、秋岡。かつてシンガポールで女衒として名を馳せていた秋岡は、高崎の忠告に改心を誓うが、堅気の仕事も時の政治に邪魔をされ、再び南方へと流れ着いたのだった。
 フィリピンをめぐり各国の思惑が見え隠れする中、秋岡は志士たちの求めに応じパトロンとなる。折しも、独立を支援してきたアメリカ軍の勝利が伝えられるが......。
 ≪ここまで≫

 四方囲みの客席で私はいつもの客席とは反対側でした。周囲に2段分の段差がある正方形の舞台は非常に開放感があり、天井中央から日本国旗が垂れ下がっています。場所がフィリピンのマニラだからか、床には部分的に細い竹を組み合わせたような装飾がほどこされています。役者さんの出はけ口は四方にあり、どこが玄関なのか廊下なのか等は、はっきりとは記憶できませんでした。衣裳や小道具は具象ですが、全体的に抽象性が増して良かったと思います。

 スペインからの独立運動が起こり、マニラは内戦状態にあります。日本からフィリピン独立軍を支援しにやってきた若き日本人運動家たちと、食べていくために日本を飛び出して売春をする“からゆきさん”たち、そして彼女たちの売買を取り扱う女衒・秋岡(千葉哲也)らが、日本領事館に避難してきました。領事館には人間味のある領事(山西惇)の他に、日本の国益のため、天皇のためには死もいとわない軍人(古河耕史)もおり、身分も職業も生き方もまるで違う多数の日本人が、異国の地でしばらく同居することになります。

 日本人運動家たちはフィリピン独立軍の勝利のために、日本から軍隊を派遣して欲しいと言います。日本の軍人も、アメリカ軍が進出してきたこともあり、東南アジアにおける日本の地位を堅持するためにも、日本軍の派遣は効果的だと考えています。そこで、日本領事館で日本人の死者が出れば、日本から軍隊が派遣されるのではないか…というアイデアが出てくるのです。男たちの間では「誰を犠牲にするか(殺すか・自殺するか)」が当然のことのように話題にのぼりますが、女たちはそんなことには興味がありません。彼女たちは商売がしたいので「早く戦争が終わって欲しい、終わらないなら違う国に行きたい」ぐらいに思っています。

 肝の据わった娼婦たちと、理想に燃えて空回りしていく軍人や運動家たちとの対比が見事でした。特に娼婦役の女優さんたちの図太さときたら!皆さん、か細い体なのに、お芝居に砂塵を含んだ熱風を起こすかのような迫力がありました。彼女らは蔑まれる存在であることを自覚していますが、自分の体で稼いだ金で生きている、もしくは家族を養っている自負があり、生命力の発露が真っ直ぐで、清々しいです。

 2011年版同様、異国で長年暮らし、口のきけなくなった日本人の老女シズ(稲川実代子)に焦点が当たっていました。彼女は日の丸の旗にだけは強い興味を示し、言葉を発することができないのに「君が代」を歌うことはできるのです。
 自民党による「日本国憲法改正草案」(平成24年4月27日決定)には「(国旗及び国家) 第三条 国旗は日章旗とし、国家は君が代とする。日本国民は、国旗及び国家を尊重しなければならない。」という条項が現行憲法に新たに加えられています。インターネットでニュースを読んでいる方は既におわかりのことと思いますが、安倍政権は国民に愛国心を強いる方向へと進んでいます。『マニラ瑞穂記』はあらためて「国って一体何なんだろう」と考える、絶好の機会だと思います。⇒参考エントリー

 ここからネタバレします。途中です。加筆できるかどうかはわかりません。

 秋岡と領事とシズ以外はすべて、新国立劇場演劇研修所の修了生が演じています。2011年の試演会と同じ役を演じている方も多く、再演と言ってもいいぐらいのクオリティーが初日から出ていたように思います。
 千葉哲也さん、山西惇さん、稲川実代子さんの演技方法と、修了生のそれとはやはり違うものだと思いました。手法の優劣や上手、下手ではなく、単に種類が違うんですよね。私が観たいのは、俳優が本人でありながら、役人物でもある状態で、舞台上にただ存在する演技です。そういう演技には心が前のめりになって吸い込まれていくから。先日観たナショナル・シアター・ライヴフランケンシュタイン』の主役だったベネディクト・カンバーバッチさんは、まさにそういう演技だったと思います。

【出演】秋岡伝次郎:千葉哲也、高崎碌郎:山西惇、シズ:稲川実代子、古賀中尉:古河耕史、タキ:髙島レイ、ウィルソン大尉:前田一世、淡路書記官:宇井晴雄、岸本繁:今泉薫、いち:藤井咲有里、梶川弥一:長本批呂士、平戸健三:今井聡、さく:木原梨里子、はま:斉藤まりえ、くに:仙崎貴子、長七:原一登、もん:日沼さくら、ボーイ伊藤:大里秀一郎、斉藤多賀次郎:梶原航、清平(運動をやめると言ってきた若者):形桐レイメイ、米兵ジミー:林田航平
声の出演(独立軍の兵士):前田一世、大里秀一郎
脚本:秋元松代 演出:栗山民也 美術:伊藤雅子 照明:田中弘子 音響:吉澤真 衣裳:中村洋一 ヘアメイク:鎌田直樹 方言指導:大原穣子 藤木久美子 歌唱指導:伊藤和美 擬闘:渥美博 プロンプ:横山友香 協力:鈴木なお 薄平広樹 坂川慶成 永澤洋 演出助手:坪井彰宏 舞台監督:三上司 制作担当:伊澤雅子
【休演日】4/8,15【発売日】2014/02/15 改定前(消費税5%)A席5,250円 B席3,150円 改定後(消費税8%)A席5,400円 B席3,240円 Z席1,620円(公演当日、ボックスオフィスのみでの販売。1人1枚、電話予約不可。)
※消費税率の引き上げに伴い、2014年4月1日よりチケット料金を改定いたします。ただし、3月31日までのご購入については改定前の料金でお買い求めいただけます。
なお、3月31日までにお申し込みいただいても、チケット代金のお支払いが4月1日以降となった場合は改定後の料金を申し受けます。予めご了承ください。
※Z席は2014年4月1日より税込1,620円(本体1,500円)に改定いたします。
http://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/140401_001632.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2014年04月09日 16:29 | TrackBack (0)