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2014年04月10日

【写真レポート】アクターズワークス「小川絵梨子シーンスタディ」【4】しのぶの感想

 アクターズワークスが主催する「小川絵梨子シーンスタディ」に俳優として参加してきました。最終回は私の感想のまとめです。

 ※計4回のレポートです⇒〔3日間のあらまし〕〔小川語録1〕〔小川語録2〕〔しのぶの感想・当ページ〕

 【しのぶの感想】
 ・俳優をやってみてわかったこと
 ・取材者の視点から
 ・今後、一観客として希望すること

 ■俳優をやってみてわかったこと

 ・俳優は複数のことを同時に行っている。セリフをしゃべったり段取りの行動をしたりする以外に、その場に居て外部を意識する等。何が起こるかわからない状況に身を置き、臨機応変にポジティブに反応している。それが出来ている俳優は魅力的。

 ・ゲームには心身をほぐしコミュニケーションを円滑にする効果がある。疲労すると無駄な自意識がなくなり、素の自分をさらすことになる。客観性や目的意識が必要な心理戦や頭脳戦になると、同時に複数のことを戦略的に行うことになり、俳優としての能力が鍛えられる。

 ・映画、戯曲などの名作は観て、読んで知っておくべき。それが共通言語になる。例:映画「スターウォーズ」シリーズ

 ・稽古場はずっと同じ場所がいい。物を置いておける利点はもちろん、毎日の成果が蓄積される実感があった。部屋や場所が変わるとリセットされてしまう気がする。

 ・小川さんの稽古場は自由かつ奔放でいられて、優しく守られている、隔離された安全地帯だった。現場に居る時間は私にとっては完全な非日常で、このワークショップの使命を果たすことに没頭できた。

 ・小川さんは俳優の訓練も受けているから、実体験に基づいた言葉に説得力がある。そして俳優にとても優しい。小川さんはノートの時に「いい方向に進んでいます。ちょっと試させてください。」とよく言っていた。対等なコミュニケーションの場になるよう演出家の方から働きかけ、俳優もそれに応える、成熟した稽古場だったと思う。

 【写真↓『12人』シーンスタディー中。左端は1号役を演じる柚木さん。私とダブルキャストだった。】
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 ・『12人』で私が演じたのは陪審員長の1号。足の不自由な9号役の女性が能動的に歩き回ってくれたおかげで、本番中に血の通ったアイ・コンタクトをとることができた。戯曲に書かれていない有機的な交流が生まれて、これが俳優のクリエイションなのだと実感できた。

 ・小川さんのノートと宿題を受けて、帰宅してからやることが山積みになった。いつもの仕事と並行してやるのが辛かった。タスクはこのワークショップのことだけに絞りたいと思ったが、それは現実的ではない。稽古が終わってからバイトに行く俳優もいるし、公演中の空き時間に他の撮影の仕事もする俳優もいるのだから。※韓国のミュージカル俳優は3公演掛け持ちすることもある(それ以上もあるかも)。

 ・私はワークショップが終わってから現実に戻ってくるまで、(レポート準備もあったとはいえ)丸2日間はかかった。でも他の参加者の中には打ち上げの後にバイトに行く人もいたし、翌日朝早くから撮影の仕事がある人もいた。もう次のワークショップに参加している人もいる。俳優とは心身と頭脳を酷使する仕事だ。あらためて、俳優は絶対やりたくないと思った(笑)。また、ごくごく私的なことだが3日で1.5kg痩せた(笑)。

 ・そもそも下手だったせいもあるが、私は十数年前よりも演技がうまくなっていた。自分を客観視できていたし、演技の選択肢も複数知っていて、冷静に判断し、選択しながら自由にその場に居られた。質の高い舞台を大量に観ることも、演技の上達方法の1つだと確認できた。

 【写真↓『12人』のために私が用意した資料など。人物分析/事件把握/視覚化/小道具、等】
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 ■取材者の視点から

 ・今回の参加者はレベルが高く、ワークショップの内容が充実していた。小川さんの言っている意味をすぐに理解できるから、あ・うんの呼吸で進み、シーンスタディーも1度演じるごとに格段にレベルアップしていった。私の経験からすると、一般公募の俳優向けワークショップは参加者の出自も実績も目的もバラバラな場合が多く、期待したほどの成果が上がらないことがほとんどだ。参加者の選抜基準が厳しい今回は、実り多い、貴重な場だっただろうと思う。

 ・小川さんはものすごく言葉数の多い講師だった。具体例を出しながら、時に教師になり、時に道化になり、懸命に、全身で、語り掛け続ける。何より圧倒的だったのは、嘘をついていないことがはっきり伝わってくることだった。裏がないから駆け引きをする必要もない。虚勢を張っても(取り繕っても)、彼女にすべて見透かされることも皆わかっていた。誰もがありのままに、正直に居られたと思う。信頼のコミュニケーションはスピードが早い。結果的に短時間で人間関係に厚みが増し、豊かになる。

 ・プライベートを守るから、心を開くことができる。拘束(ルール)があるから自由になれる。しゃべりながら、聞いている。会話はキャッチボールではなくラリー。自分を褒めることも仕事。……実人生に応用できることが大量にあった。

 ・稽古場が安全であることを参加者全員が共有することで、自然と結界が張られ、聖域になる。各自が創造性豊かになれる。学校などの教育現場もこのように安全で守られているべきだと思った。やはり演劇を義務教育に取り入れて欲しい(たやすいことではないとは知りつつも)。

 【動画↓自分が思っているより自分は魅力的。自分でそう確かめられるようにする訓練だった。】

 『[カンヌでグランプリを受賞したCMがすごい!] たったの180秒で考え方が変わるCMがここに存在


 ■今後、一観客として希望すること
 
 小川さんの発言にもあったように、観客は舞台に自然に引き込まれなかった時、どういう見方をすればいいのかを考え出して、サっと頭を切り替える。私はできればそんな風に見方を変えずに舞台に引き込まれたい。ただ、残念ながら私の知る限りにおいて、東京にそういうストレート・プレイはあまりない。なぜなら、私が観たいストレート・プレイを作れる日本人の俳優が少ないから。そして、そんな舞台を作りたいと思っている演出家も多くはないからだ。先述のとおり、やはり小川さんは私の夢を叶えてくれる数少ない演出家の1人だと思う。

 今回のワークショップには、小川さんが作りたいと思う演劇を、ともに目指そうとする俳優が揃っていた。主催者で参加者でもあった柚木佑美さんがアクターズワークスのブログに書かれたように、「演技のルーツが同じで、共通用語、共通認識があった」のだと思う。それは小川さんが初日に言っていた「ベーシック・テクニック(基礎的な技術)」の存在を、全員が共有できていたことに他ならない。だからたったの3日間で「稽古初日にこれぐらいできるといい」というところまでたどり着けたのだ。

 小川さんのワークショップ講師経験は、今回を含め、今までに5回だけだそうだ。彼女が演出家で、アクティング・コーチではないからでもあるが、日本だと小川さんの意図をすぐに理解できる俳優がいつも揃うわけではなく、ワークショップをしても相応の効果が見込めないことも理由らしい。今回のようなワークショップ(もしくは稽古場)を増やすためには、小川さんの言う「ベーシック・テクニック」を持つ俳優が増えることが必須だ。

 私は、自分が観たいと思う種類の舞台を観たいと強く願っている。そんな貪欲でわがままな観客の立場から、この場を借りて提案をさせてもらおうと思う。演劇の作り手の皆さんにはまず、現代演劇の演技方法には「ベーシック・テクニック」があるということ、そしてそれを学ぶ場があるということを知ってもらいたい。そして、俳優だけでなく演出家の方々にも、実際にやってみてもらいたい。だって俳優を知らなければ演出はできないはずだから。今後もアクターズワークスの企画をはじめ、役に立つと思われるワークショップ情報を当サイトで発信していくので、ぜひ参考にして欲しい。
 
 ※現代演劇の演技方法は非常に多彩で、優劣があるわけではありません。私の考えはこちら⇒
 ※東京には俳優養成の場が多数、多様に存在します。好みや相性もありますから、俳優さんはいろいろ試して自分に合う方法論や教室を見つけて欲しいと思います。

 【写真↓打ち上げ会場にて。先に帰られた1人だけ写ってない…ごめんなさい!】
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 ※計4回のレポートです⇒〔3日間のあらまし〕〔小川語録1〕〔小川語録2〕〔しのぶの感想・当ページ〕


写真提供:アクターズワークス、高野しのぶ
アクターズワークス「現場で活躍する映画監督や演出家のワークショップ第二弾 小川絵梨子シーンスタディ」
期間:2014年03/17(月)~19(水)
告知エントリー:http://www.shinobu-review.jp/mt/archives/2014/0201172728.html


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Posted by shinobu at 2014年04月10日 14:12 | TrackBack (0)