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しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2014年10月29日

東京芸術劇場×明洞芸術劇場・国際共同制作『半神』10/24-31東京芸術劇場プレイハウス

 1986年に初演された舞台『半神』は萩尾望都さんの漫画「半神」を、萩尾さんと野田秀樹さんが共同で戯曲化し、野田さんが演出されました。今までに何度も再演されている、劇団夢の遊眠社の代表作だったんですね。
 今回は韓国人キャストによる新創作です。東京芸術劇場と韓国の明洞芸術劇場の共同制作で、出演者はすべてオーディションで選ばれたとのこと。上演時間は約2時間。

 次々と、わからないままに魅せられ、虚構の世界へと連れ去られていく、演劇的な幸せを満喫しました。やはり俳優も素晴らしい!

 韓国語上演・日本語イヤホンガイド付きです。電光掲示板の字幕はありません。イヤホンガイドは女性の声で、私は慣れるまでにけっこう時間がかかりました。

 漫画「半神」は芸劇の1階のお店で販売しているそうです。どうぞお求めください!傑作ですよ~。

半神 (小学館文庫)
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萩尾 望都
小学館
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 ≪あらすじ≫ 公式サイトより (役者名)を追加。
 醜いが高い知能を持つ姉シュラ(チュ・イニョン)と、美しいが頭の弱い妹マリア(チョン・ソンミン)。二人は、体がくっついたまま生まれてきた双子だった。
 シュラはいつもやむなくマリアの面倒をみて暮らしていたが、他人から愛されるのはいつでもマリアの方であった。そんな二人が十歳を前に、死に瀕する病いにかかる。
 助かる方法は、ただ一つしかなかった。それは…
 ≪ここまで≫ 

 私は夢の遊眠社時代を知らない演劇ファンで、野田さんといえばNODA MAPだったので、今回のような作風に触れたのは初体験のような心地です(1992年に『贋作 桜の森の満開の下』の再演を観ていますが、それ1本のみなので)。

 開場中の舞台では俳優さんたちが稽古着でアップをされていました。上手手前に演出家がいて、俳優が『半神』の稽古をする場面もあり、劇中劇であることを観客に幾度も提示する戯曲です。黒いワンピースのスカート部分が伸びる布でつながっている双生児の姉妹や、猛々しい異形の者たちが登場し、虚構の世界が堂々と立ち上がっていきます。数学、医学、だじゃれの言葉遊びを浴びていく内に、パズルのピースがはまっていく快感を得たり、普段なら全く想像しないことが頭に浮かんだり、色んな角度から刺激を受けて、神妙な気持ちにもなりました。

 物語の展開を理解して咀嚼する前にずんずんと次へと進んでいくので、全てを知ることはできませんでしたが、全く不満はありません。謎にひっかかって、遠くの点と点がつながって、あー面白いと思ったら、また置いてきぼりにされる。そして予想を超える不思議なこと次々に起こる。こりゃハマるよねって思いました(笑)。80年代に観たかったな~。

 私たちは三次元の空間に生きていますが、四次元、五次元、さらにその次の何かがあることを、頭で想像したり、意味を理解したりするだけでなく、体感として確かめられたような気がしました。劇場の椅子に座ったまま、異次元を旅したような。しかも「これはフィクションだ」と気づいたままで。私がそんな状態になれたのは、韓国人俳優が体と言葉、声、心がぴたりと一致する、芯が太くて力強い、安定した演技をされていたおかげだと思います。舞台空間に隙(甘さ)がなかったから、すべてをゆだねられました。

 韓国公演ではシュラ役のチュ・イニョンさんが急性盲腸炎になったため、初日(9月12日)が延期され、9月19日に開幕しました。チュ・イニョンさんは『焼肉ドラゴン』で三女役を演じられた方なんですよね? シュラ役、素晴らしかったです。

 ここからネタバレします。

 双生児の姉妹の高い知性を持つ方のシュラが「一人になりたい(マリアと離れたい)」と強く願う場面で、「私は一人じゃない!」と歓喜の声をあげるような歌が流れるのが皮肉でいいです。

 シュラとマリアが行きついた「孤独の果て」は、孤独とはいえ1人ではなく2人だったり、2人でいてもそれぞれに孤独だったり、2人だろうが何人だろうが誰もが孤独だったり、とはいえ舞台上にも客席にも大勢の人がいたり…などと自由気ままに想像しました。

 長らく演劇を観続けていますが、今でも演劇の儚さに、落ち込むことがあります。この『半神』を観ている時、演劇の虚構の確かな力を実感できて、さらには外国人と日本の戯曲を介して心身の交流ができたことに感謝します。流れた涙も、いつもとはちょっと違いました。ありがとうございました。

≪韓国ソウル、東京≫
出演:チュ・イニョン、チョン・ソンミン、オ・ヨン、イ・ヒョンフン、イ・ジュヨン、パク・ユニ、イ・スミ、ヤン・ドンタク、キム・ジョンホ、キム・ビョンチョル、ソ・ジュヒ、チョン・ホンソプ
演奏:ハン・ジョンリム(キーボード)、クォン・ナヒョン(チェロ)、チン・ユリ(ヴァイオリン)、ファン・ジョンウン(ヴィオラ)
脚本:萩尾望都、野田秀樹 演出:野田秀樹 美術:堀尾幸男 照明:服部基 衣裳:ひびのこづえ 選曲・効果:高都幸男 振付:謝珠栄 美粧:柘植伊佐夫 編曲:ハン・ジョンリム 宣伝美術:吉田ユニ レジデント・ディレクター:ソン・ギウン 技術監督:キム・ムソク(明洞芸術劇場) プロダクション・マネージャー:大平久美(K Productions)  東京公演主催:東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団) 東京都/東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化財団) 共催:明洞芸術劇場、独立行政法人国際交流基金(東アジア共同制作シリーズ vol.1)
※韓国語上演・日本語イヤホンガイド付 【全席指定・税込】 S席 5,000円 A席 4,000円 ペアチケット 8,500円(S席/2枚)  高校生割引 1,000円 65歳以上(S席)4,500円  25歳以下(A席)2,000円
『小指の思い出』&『半神』セット券:「半神」と野田秀樹・作、マームとジプシー藤田貴大・演出の「小指の思い出」のお得なセット券を販売します。料金:9,000円/1名様分(全席指定・税込・S席・枚数限定) ※未就学児はご入場いただけません。
http://www.geigeki.jp/performance/theater063/

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2014年10月29日 00:05 | TrackBack (0)