REVIEW INTRODUCTION SCHEDULE  
Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
mail
REVIEW

2004年10月11日

STスポット・ポかリン記憶舎+Ort-d.d『夢乃プレイ~音楽劇《少女地獄》~』10/09-11横浜・山手ゲーテ座

 ポかリン記憶舎Ort-d.d(オルト・ディー・ディー)の合同公演という、まさに“夢”の企画です。
 東急みなとみらい線 終点の元町・中華街駅から徒歩7分。デートスポットで有名な「港の見える丘公園」の目の前にある岩崎ミュージアムの中の、小さなコンサートホール(山手ゲーテ座)が会場でした。

 30分~40分間の短編お芝居の2本立てです。

【夢編】ポかリン記憶舎

 ダークな色合いの袴姿の少女たちが、しずしずと滑るように登場します。ポかリン記憶舎のいつもの空気でした。音楽もいつもの感じ。ピアノの生演奏(木並和彦)があったのですが、スピーカーを通していたので途中まで生演奏だとわかりませんでした。生音で聞きたかったですね。

 「うふふふふ・・・」と全員で笑い声を出すのはちょっと作為的すぎるんじゃないかと思いました。これもまたいつものポかリンらしさなのですが、私は何度も拝見しているので飽きちゃったのかもしれません。

 少女の心の中にある善(ミカエル等)と悪(ルシフェル)との戦い。最後に少女は善も悪も脱ぎ捨て、少女そのものになって昇華する・・・という風に受け取りました。最後に裸の人形が一体、舞台中央に捨てられるように置かれていたことで、全ては死んでしまった少女の夢の中の出来事だった、というように示したんじゃないでしょうか。

 舞台装置は5~7mぐらいの高さの銀色の網のついたてだけでした。グルグルと丸まった針金が何枚か重なっているようでしたが、おそらくベッドのスプリングですよね。うまいこと使ってるなぁって思いました。石と木で出来ているホールの壁とすごくマッチしていました。
 衣裳については、袴の着物の中にレースのブラウスを着ていたのが素敵でしたね。黒っぽい口紅も最近は見ないので新鮮でした。


 夢編終了後、ちょっと長い目の休憩(15分だったかな?)があり、観客は会場ロビーに出て待っていました。舞台装置の転換があるためです。


【プレイ編】Ort-d.d

 舞台はちょっとした厨房になっていました。大きなお鍋やフライパンなどの調理器具の他に、にんにくや黒こげになった四足動物がぶらさがっていたり、ちょっといかがわしい雰囲気もあります。スチールの台の上には、太鼓やさまざまな打楽器が置かれてました。

 観客が劇場に脚を踏み入れた時からお芝居は始まっていて、先ほどとは全くジャンルの違う衣裳をまとった女優さんが一人ずつ出てきます。ダーク&しっとりな和風麗人から打って変わって、キッチュ&ポップなド派手ねーちゃん達のオンパレード!ラメやスパンコールがギラギラしていて少し中華風。色彩はゴージャスでどぎつくて、ターコイズブルーのタイツにショッキングピンクのハイヒールを履いちゃったり。黒いレースのビスチェ(下着)とキャミソールの重ね着など、ちょっとジャンクな感じもプラスされていて、イっちゃってる感、大。この時点で私の頭の中はお祭り騒ぎでした。
 パーカッションの棚川さんだと思うのですが、厨房の奥に座りながら、手書きで「プレイ編」と書かれた布巾をチラっと見せるんです。なんて小気味良い、味のあるオープニングなのでしょう!

 「何でも黒焼きにしてお出しします」というレストランで、シェフや小姓たちが話しかけます。「中でも“火星人の黒焼き”が当店自慢のメニューです」というところで原作『火星の女』につながります。『火星の女』のストーリだけを超~簡単に書いてしまうと「背が高くて見栄えも悪く、頭の方も良いとは言えない女学生が、学校でじわっといじめられながら、校長先生に手篭めにされ、最後には焼身自殺してしまう」というものです。火星人と呼ばれているその少女、甘川歌枝(田丸こよみ)の独白形式で原作は語られるのですが、それが『火星人の黒焼き』のレシピと同時進行するのです。このアイデア、ぶっ飛んでますよっ!サイコー!!

 夢野久作の作品は小説なので色は見えないのですが、私には青白い石膏の白と、どす黒い内臓の血の赤のイメージがあります。極めて禁欲的で純粋な心から生まれ出る行動が、悲しいほどに罪深いのです。書かれている具体的表現がいくら残酷でグロテスクであっても、私達はその皮肉な人工的美しさに魅了されます。この『火星の女』Ort-d.dバージョンでは、人間の原始的な欲求である食欲や、性欲(パーカッションのリズムへの恍惚)のド真ん中にその人工美を落とし込み、いわば全く反対の側面から光を当てて、原作の本質を照らし出すことに成功しました。演出ってこういうことだなって思います。

 音楽・演奏を担当されている棚川寛子さんも、きれいなドレスをお召しになってずっと舞台上にいらっしゃいました。女優とコミュニケーション(アイコンタクト)を取りながら、打楽器を自由自在に鳴らしまくります。かっこいい!!女優さんも一緒にパーカッショニスト顔負けの演奏を見せてくれました。言葉では言い表せないあのグルーブ感を、ぜひとも多くの方に体感していただきたいです。

 Ort-d.dおなじみの田丸こよみさん、寺内亜矢子さん(ク・ナウカ)、市川梢さんは、いつもながらに妖艶かつ力強い演技で私を悩殺してくださいました。ポかリン記憶舎の女優さん(田上智那さんと中島美紀さん)の新しい面が見られました。特に田上さん、嘘つきシェフの役でしたっけ?大爆笑ですよっ!中島さんは激しいダンスがお上手だったのが意外で、魅力倍増でした。
 とにかく女優三昧。日本の女優、スゴイぜっ!!

出演=田上智那(ポかリン記憶舎)/中島美紀(ポかリン記憶舎)/田丸こよみ/寺内亜矢子(ク・ナウカ)/市川梢
原作=夢野久作
〈夢編〉演出=明神慈(ポかリン記憶舎)音楽・演奏:木並和彦 演出助手:冨士原直也(crew) 音響:日下部そう(ポかリン記憶舎)
〈プレイ編〉演出=倉迫康史(Ort-d.d) 楽器協力:AZTEC 録音編集:末延仁 音楽・演奏:棚川寛子
〈夢編・プレイ編 共通スタッフ〉照明:木藤歩(balance, inc) 衣装・美術:ROCCA WORKS(岡崎イクコ ほか?) 舞台監督:弘光哲也 舞台助手:岡田宗介 宣伝美術制作:山本ゆうか 衣装協力:野村佳世 藤島K子 森田圭 ヘアメイク:NAOKO
スパーキング21 vol.15特別企画
STスポット:http://www.jade.dti.ne.jp/~stspot/index.html

Posted by shinobu at 20:38 | TrackBack

風琴工房『風琴文庫』10/11-17自由が丘 大塚文庫

 風琴工房は詩森ろばさんが作・演出を手がけてらっしゃる劇団です。少人数のお客様限定の企画で、自由が丘にある大塚文庫という私設美術館の中で行われています。ダブル・キャストの2バージョンの内、私は[桐]チーム(風琴工房の役者陣)を拝見しました。
 全てネタバレになりますので、これから観に行かれる方はお読みにならない方が良いと思います。

 会場の大塚文庫は「大塚正夫が生前の1989年に、美術工芸品のささやかなコレクションを収蔵展示するために、自宅敷地内に建設したもの」だそうです(大塚文庫HPより)。自由が丘の閑静な住宅街にひっそりと、こんなに素敵な建物があるなんて、知ることができただけでも嬉しかったです。今年4月にOrt-d.dの『乱歩プレイ』が上演された高椿美術館を思い出しました。

 昭和異端文学の4つの短編をもとにした3幕じたての作品でした。地下室で「昆虫図」、1階の和室で「アップルパイの午後」、2階のサロンで「双生児奇譚」(?)が上演されます。「瓶詰地獄」が全てのバックグランドになっており、登場人物である兄(山ノ井史)が妹(椎葉貴子)を探しているという設定でした。

 夢野久作の「瓶詰地獄」は知っていました。たぶん漫画で読んだと思います。南の無人島で禁断の愛欲の日々をむさぼっていた近親相姦の兄妹。ビール瓶の中に入れた手紙によって自ら招いた悲しい破滅。ドロドロしていて官能的で、汚いことと綺麗なこととのバランスが紙一重なのが刺激的です。読んでいる方も罪悪感を感じながら、どんどんと読み進んでしまう作品でした。

 [桐]バージョンは最初に和室、次が地下室でした。両方ともほぼ2人芝居でセリフも多いため、言葉に重点をおいて観ることになりました。そういう状況で役者さんの演技がおぼつかないため、見ていて苦しかったです。また、セリフが説明のためにばかり使われている気がして集中できず、物語を味わうところまで入って行けませんでした。
 特に男優さんが弱かったですね。「そちらの方は手練(てだれ)ですよ」と自分のセックス・テクを自負しているような男には見えませんでした。“ご案内人(座敷童子)”役の宮嶋美子さんは芯から堂々とされていて良かったです。

 「手練」についてですが、そもそも一人の女(妹)としか経験してないのにテクがあると思っていること自体おかしいですよね。他にも脚本に合点がいかないことが多かったです。「昆虫図」で男(兄)がナイフを持っている理由を夫人(松岡洋子)に説明しましたが、ナイフは突然出てくるもので良かったと思います。「アップルパイの午後」が始まる前に、妹が兄に向かって「この(戯曲の)とおりにやってくれないとダメ」と言ったのは、構成のつじつま合わせのためのセリフだと受け取ってしまいました。

 最後は2階のサロンで両バージョンの役者さんが全員集合します。登場人物が各2人ずつ同時に出て来て、互いに「あなたは誰?」などとしゃべりだしたのに仰天。地下と1階で作り上げた世界の大ネタバレ大会が始まりました。夫人が「この屋敷の地下室ではいつも私は殺されるの」と言っちゃって以降、「全部はこの屋敷のせい」になり、さらに、案内人である座敷童子が、どこまでが原作でどこからが創作なのか、[桐]と[萩]の場内進行の違いについてなど、しっかりとセリフで説明してくれちゃて、もー何が何だか、何をどうしたいやら。私は何も知りたくなかったですね。昭和異端文学の世界をほんのりと味わうだけで良かったんです。同じ登場人物が2人いる状態から「双生児奇譚」につなげてしまった時にはもう、私の心はサロンから逃げ出していました。一体何をしたい公演だったのかなぁ・・・。

 会場がものすごくスペシャルですし、観客と作り手との距離がめちゃくちゃ近いですので、ほんの少しでもボロが出ると目立つんですよね(着物の着付けとか)。こういう企画はヴィジョンが一番大切だと思います。根本というか、最初の大前提さえしっかりしていれば細かいところは気にならなくなるんです。そこが伝わってこなかったから、こういう感想になったんじゃないかなと思います。

 さて、これはぜひ書き記しておきたいのですが、チラシがものすごく可愛らしかったですよね。そもそも私はあのチラシに惹かれてチケットを予約したんです。私のお気に入りチラシ・コレクションに加えました。公演公式HPも凝ってるし美しいです。郵送で届いたチケットは繊細な絵柄が印刷がされていて、しおりとしても使えるデザインになっていました。こちらのブログLIVESTOCK DAYSで詩森ろばさんの赤裸々な(笑)稽古場日誌が読めます。作る側の死に物狂いの苦労が伝わってきます。これもまた、私がこの作品を観に行きたくなった原因のひとつです。

原作:久生十蘭「昆虫図」/夢野久作「瓶詰地獄」/尾崎翠「アップルパイの午後」/桐島華宵「双生児奇譚」
構成・脚本・演出:詩森ろば TOTAL DESIGN:LIVESTOCK STYLE
出演:[桐] 松岡洋子・椎葉貴子・山ノ井史 [萩] 吉川愛・平山寛人(机上風景)・ほりゆり(第三エロチカ)[ご案内人] 宮嶋美子
風琴文庫:http://windyharp.org/bunko/
風琴工房:http://www.windyharp.org/

Posted by shinobu at 17:34 | TrackBack