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Shinobu's theatre review
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REVIEW

2005年05月04日

オールツーステップスクール『メイキング・オブ・チェーンソー大虐殺』05/04-08こまばアゴラ劇場

 オールツーステップスクール笠木泉さんを中心に立ち上げたグループで、作・演出は浅野晋康さんです。
 『トーキョー/不在/ハムレット』に出演していた笠木泉さんといせゆみこさんが気になっていたので初めて伺いました。

 当日パンフレットに浅野晋康さんのあいさつ文が載っているのですが、チェルフィッチュの脚本みたいに現代の若者の口語調で書かれてるんですね。少し引用すると「なんだろう、あんまり物語は別にどうでもいいって感じがあって、それ嘘だからってことなんですけど、とりあえず何か嘘じゃないものって何だろうってことですけど、嘘が本当に?っていうのも含めて・・・・」という感じ。そしたら舞台が始まってからも役者さんが口語調で話し始めました。なので、「チェルフィッチュにすごく似てるなぁ」というのが第一印象でした。

 舞台は東京ではないどこかさびれた田舎の町・・・なのかどうかは曖昧。登場するのはその場所に住む普通の人たち(主婦、教師、工場で働く頭の弱い男2人。女の子、など)。ドキュメンタリー映画(?)を撮影している怪しげな男女2人組。など。

 最初はチェルフィッチュに似てると感じながらもけっこう刺激的な空間だったので、ただただ受身でその世界を浴びるように観ていたのですが、なめらかに流れない若者言葉が聞き入れづらく、役者さんそれぞれの演技の質に差がありすぎてどうしても集中できず、うつらうつらと眠ってしまいました。睡眠不足のせいでもあるのですが残念でした。

 ここからネタバレします。

 渋谷で売春する女の子が、自分がラブホテルで殺されたことを横になりながら解説したり、ビニール製のアニメキャラ系ダッチワイフが出てきたり、男の子が太い魚肉ソーセージをくわえたり、ハードな性描写がひょうひょうと出てくる辺りは今っぽいなーと思いました。でもあまり観ていて気持ちのよいものではないですね。

 タイトルの『メイキング・オブ・チェーンソー大虐殺』はつまり、「チェーンソーによる大量殺人が生まれるまでの過程」の意味です。ダラダラと垂れ流される不謹慎な日常を、ぽつりぽつりと、ちょっとナンセンスに描いていき、学校の先生が元生徒にこっぴどくフラれたことをきっかけにチェーンソー殺戮をするクライマックスに至ります。それまでにドキュメンタリーを撮っている2人組とも意味が重なりますね。
 舞台中央で先生がチェーンソーを振り回す傍らで、身長30cmぐらいの肌色の人形の手足をどんどん引っこ抜き、切れ目から洩れなく血がピュッと飛び出す様は、いい感じにクールに倒錯していて面白かったです。

 登場人物の多くがウィッグを被っており、カーテンコールで役者さんがウィッグを脱いだり、めがねを取ったりしながらおじぎをします。つまり芝居という嘘の下にさらに嘘(ウィッグ・めがねなどの変装)が重ねられていたことがあらわになります。何が本当で嘘なのか、そもそも本当と嘘の区別が存在するのかという問いと、当日パンフレットに書かれている「とりあえず嘘と情熱は同じ色っていう話がありまして、ってまあそれはどうでもいいんですけど、」という浅野さんの言葉にもつながりました。私も(も、と言っていいのかどうかはわかりませんが)嘘と本当に境目なんてないよなって思ってまして、というか、嘘も本当も自分で決めることだよなって思っています。

 前売・当日共に2,000円というのはお値打ち価格だとは思います。
 今年の10月に三鷹市芸術文化センターのMitaka Next Selectionに出場するんですね。

作・演出:浅野晋康
出演:笠木泉 高山玲子 井苅イガリ 足立智充 本多麻紀 柳沢茂樹 いせゆみこ 関寛之 南波典子 佐伯新
音楽:桜井圭介
舞台監督:佐藤太治 照明:多賀啓ニ 音響:都築茂一 美術協力:遠藤智林 小道具:矢野愛 Web:笠木泉 
 宣伝デザイン:mee・takayama reiko 宣伝イラスト:高山玲子 制作:笠木泉 南波典子 高山玲子 制作助手:吉岡小夜 制作協力:永井有子 企画&製作:オールツーステップスクール (有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場 主催:(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場 
前売・当日共 2,000円
劇団内:http://homepage3.nifty.com/alltwostep/index.html
劇場内:http://www.letre.co.jp/agora/line_up/2005_5/all_2_step_school.html

Posted by shinobu at 23:49 | TrackBack

reset-N『Valencia』05/03-08ザ・スズナリ

 reset-N(リセット・エヌ)は夏井孝裕さんが作・演出される劇団です。私は賛助会員(Support-N)に登録しています。
 今回は小さな美容室が舞台。いつものスタイリッシュでクールな舞台空間で、最高に官能的な瞬間を味わわせていただきました。

 舞台はトダ(平原哲)とツゲ(原田紀行)が共同経営している小さなヘアサロン。2人の他にはアシスタントの女の子アズサ(丸子聡美)が働いている。今どきの若者らしい、ひょうひょうとしたリラックスムードの店内。
 閉店後の夜中にトダを訪ねてくる女がいる。その女はルミ(町田カナ)。ある仕事でトダに助けられて以来の縁。2人は急速に接近して・・・。

 セクシー、エロティック、官能的などという言葉で表される、罪悪感を感じながらうっとり恍惚となる瞬間が山盛りでした。これだから病み付きなんです、reset-N(笑)。ヒリヒリするほど熱くて暴力的なシチュエーションを、極力ストイックにミニマムに凝縮するから、とんでもなくヤラしいんです。「秘すれば花」の世界ですね。だけど出すところはバシっと出す。そのさじ加減が絶妙です。
 また、今回は笑いがたくさんありましたねー。すごくウケてたし、私もいっぱい笑ったなー。演技の間がいいし、脚本も最後の最後まで笑えるように詰められていて確実なのです。

 ただ、ラストはどうも腑に落ちませんでした。「え?コレで(が)終わり??」と思ってしばらく拍手するのを躊躇しました。ラスト前までに「ここで終わるかな?」と思う瞬間はあったので、そこで終わっていたら私的にはすんなりスムーズな終幕だったと思うのですが。

 音響、照明、衣装、舞台美術はグランドデザインというくくりで、演出の夏井さん以下、それぞれのスタッフが全体を担当するというスタイルになっています(massigla lab.)。作品全体をいつものスタッフが総合的な視点から作っているので、毎回完成度が高いです。特に今回のお気に入りは暗転のタイミングでした。ここで!と思う一瞬手前できっちり暗転してくれるんです。のどに刺さった魚の小骨が取れたような気持ちって言うか(笑)、めちゃ快感でした。
 照明に蛍光灯を使うのがreset-Nの定番になっていますが、席にもよるのでしょうけれど、ものすごくまぶしかったです(私はおそらく前から6~7列目)。役者さんの顔も見えづらかったな。今まではそういうことを思ったことはなかったので、劇場の作りの問題なんですかね。

 賛助会員は上演台本をいただけるのですが、その脚本は読んでみると本当にサラリとしたもので、実際に舞台で観ると文章を読んでいたときに想像していたものとは全然違うんです。お稽古で読み込んで、作りこんで、reset-N独特の笑いやエロスを生み出しているんですね。

 ここからネタバレします。

 まずオープニングで完全にヤラれました。トダとルミの濃厚なキスシーンから始まるんです。めっちゃくちゃセクシーで美しかった~。ルミは客席から登場したので町田カナさん(チラシ写真の女性)だとわかったのですが、相手の男優は舞台奥から出てきたし、キスシーンの時の照明がすごく暗いので誰なのかわからなかったんですね。それがまた良かった。「誰?誰?」ってあせって、釘付けでしたから(笑)。

 次のシーンでトダを演じているのが平原哲さんだと分かってからは、平原さんがおそらく今回の主役というか、トラブルメーカーもしくはキーパーソンであることは間違いないので、ずっと平原さんを追っていたんですが、超~素敵なんです・・・ダメダメあんなの、私のタイプど真ん中(笑)。マジでやばかったですよ、ホレちゃいそうでした(笑)。でも、トダ自身がおかしな人だということが徐々に明らかになってきてからは、おかしいはずなのに演技にあまり変化が見られないことにちょっと違和感を覚えて、勝手な迷走がストップしました。・・・ので、私自身はホっとしました(ものすごく独りよがり)。

 トダの魅力に影が落ちたことと、ラストに疑問がわいたのは、たぶんトダの彼女のメグミ(篠原麻美)の狂気が伝わってこなかったからだと思います。トダはルミが起こした大事件に巻き込まれ、廃人のようになってしまいます。メグミは無断外泊および無断欠勤をしたトダを問い詰めるのですが、トダはさっぱりメグミのことなど気にしておらず、はっきりと別れ話までしてしまう始末。トダと2人きりになった店内で、トダはソファにじっと座ったままですが、メグミはじーっと髪切りバサミを見つめています。音楽が静かに流れる中、メグミは徐々にうっとりした面持ちになり、鋭利なハサミをいじりはじめます。このセリフが無い長いシーンで、メグミが狂っていった(既に狂っていた)ことを表現しようと意図していたと思うのですが、私が観た回ではそれは伝わってきませんでした。ここで何かが伝わってくれば、最後に「マレーシア!」「バレンシア!」と叫ぶやりとりも、狂気と滑稽さが入り混じってグッと興奮しちゃうシーンになったと思います。

 reset-Nの役者さんは全体的にとても安定しているというか、個性もあって技術もあって、魅力もある人が増えていると思います。
 久保田芳之さん(実はゴルゴ13じゃなかった男役)が助演男優的な位置で強烈な印象を残していることや、町田カナさんが最重要ポイントを担っているけれど決して主役ではないことからもわかるように、看板役者さん以外の劇団員が成長してきているということですね。

 客演の方々も面白かったなー。reset-Nには何度か出演されている奥瀬繁さん(美容室の下の事務所の職員役)はもちろんのこと、トダ目当てで美容室に通うちょっとオバサンっぽい女性客ホリカワ役の岩本幸子さんも上手かったですね。演技で確実に笑いを生んでいました。

 今回は、主役の美容師トダ役の平原哲さんに悩殺されました。在り方が高圧的というか、言ってしまえば暴力的なんです。佇まいに静けさがあるのに。これがセクシーなんだな~。この上に、刺すような怒りとか、こちらが恐怖を感じるほどの熱さが瞬間的にでも見られれば、トダが私の中の悪のアイドルになっていたかもしれません(笑)。

作・演出:夏井孝裕
出演:町田カナ 久保田芳之 篠原麻美 原田紀行 平原哲 綾田將一 長谷川有希子 岩本幸子(イキウメ) 丸子聡美 奥瀬繁(幻の劇団見て見て)
グランドデザイン:massigla lab.(夏井孝裕/荒木まや/浅香実津夫/福井希) 舞台監督:小野八着(Jet Stream) 宣伝美術:quiet design production 宣伝写真:山本尚明 制作:秋本独人、森下富美子、河合千佳 照明協力:木藤歩(balance,inc) Web製作:松下好
日時指定・全席自由 前売・当日券:3000円 特別割引券:2000円(学生及び東京都以外からお越しのお客様)
reset-N内:http://www.reset-n.org/jp/valencia/index.html

Posted by shinobu at 02:50 | TrackBack