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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2006年09月14日

スロウライダー『Maggie』09/13-18下北沢駅前劇場

 山中隆次郎さんが作・演出されるスロウライダーは、雑誌にもよく取り上げられている注目の劇団です。公演ごとに劇団員以外にも役者さんを集めるスタイルですね。今回は小劇場ファンが唸る豪華なキャスティングです。
 山中さんが手がける作品を拝見するのはこれで4度目になります(過去レビュー⇒)。今回も少々難解でしたが、大胆な装置と独特のムードを存分に味わえました。

 リチャード・ブローティガン作『西瓜糖(すいかとう)の日々』(Amazon)に触発されて作られた作品です。会場で配布されるパンフレットに原作のあらすじが書かれていますので、開演前に読んでおかれると良いと思います。

 ※9/15(金)は昼ギャザあり。

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 レビューを完成させました(2006/09/15)。

 ≪あらすじ≫
 垂池(日下部そう)はバイトを無断欠勤中。親に家を追い出され、先輩の向井(児玉貴志)の家に転がり込んだ。垂池は小説『西瓜糖の日々』の世界にどっぷり浸かったまま、家の中から動かない。家には向井の妹・那美(松浦和香子)も住んでおり、垂池は可愛い那美に心を寄せていくが…。
 ≪ここまで≫

西瓜糖の日々
西瓜糖の日々
posted with 簡単リンクくん at 2006. 9.14
R.ブローティガン著 / 藤本 和子訳
河出書房新社 (2003.7)
通常2-3日以内に発送します。

 ※『西瓜糖の日々』の内容(Amazonより引用)

 コミューン的な場所、アイデス“iDeath”と“忘れられた世界”、そして私たちとおんなじ言葉を話すことができる虎たち。西瓜糖の甘くて残酷な世界が夢見る幸福とは何だろうか…。澄明で静かな西瓜糖世界の人々の平和・愛・暴力・流血を描き、現代社会をあざやかに映して若者たちを熱狂させた詩的幻想小説。ブローティガンの代表作。

 開幕した瞬間、まず舞台美術に魅せられました。小劇場で久しぶりの大ヒットに出会えた気がします。古い一軒家の台所兼ダイニングがリアルに実現されているのですが、でこぼこした赤い壁がその大半を覆い隠しているのです。
 垂池らが暮らす向井の家の現実世界と、『西瓜糖の日々』の舞台であるアイデス、およびアイデスの住人たちの世界が、垂池の想像の中で交錯します。じめじめして蒸し暑い台所が、赤い壁をどす黒い血の色に染める照明によってアイデスに場面転換し、現実世界の住人とアイデスの住人の両方が同時に舞台上に存在しながら、お互いに影響を与えていきます。
 フリーターからニートになってしまった垂池の、行き場のない苛立ちや絶望に満ちた現実が、徐々に『西瓜糖の日々』に侵食されていく様にぞくぞくしました。

 おどろおどろしくて不気味な感触や息の詰まるような閉塞感が常に舞台を離れませんが、結果的にはとっても良い話、だったんですよね。ただ、お客様全員にそれが伝わったかというと・・・難しかったでしょうね。私はオープニングからすっかり感情移入して、「なぜ?どうして?何のために??」と異常なほどがっついていたから(笑)、ストーリーの流れについて行くことができたのだと思います(それでもわかってないところは沢山ありますが)。

 山中さんの世界というと、スプラッター・ホラーのグロテスクさや満遍なく広がる厭世的な気分など、ダークな印象が表に出ていると思います。でも今回はそれらに加えて、都会的に洗練された、クールで鋭いセンスも感じられました。音楽の選曲も衣裳もおしゃれでしたし、美術は言うまでもなく、照明も良かったです。

 ここからネタバレします。

 バイト先のデブでブスな女の子・マギー(声:笹野鈴々音)に好きだと告白されて、店で二人っきりになるのがイヤだからバイトを休み続けていると、垂池は言います。でも本当は、同じくバイト先の同僚・新井田(山中隆次郎)とケンカをして、彼の左耳を刃物で切りつけてしまったからでした。真相を知った向井は、手のひらを返したように垂池に家を出て行くよう促し始めます。

 『西瓜糖の日々』の舞台である、ぬるま湯の桃源郷“アイデス(iDEATH)”は、現実世界で垂池が入り浸っている向井宅であり、アイデスから離れた“忘れられた世界”は、垂池のバイト先のレンタルビデオ店“リバティ(Liberty)”と対応します。2つの世界で同時に生ぬるい夢(アイデス、向井宅)と厳しい現実(忘れられた世界、リバティ)が対比されるのです。

 小説に登場する“わたし”(芦原健介)は、昔はマーガレット(笹野鈴々音)と付き合っていましたが、今はポーリーン(松浦和香子)と恋仲になっています。垂池は、マーガレットをマギー(声:笹野鈴々音)と、ポーリーンを那美(松浦和香子)と重ね合わせ、垂池自身も“わたし”と入れ替わって小説の中を生きるようになります。小説の中でポーリーン(=那美)と仲良くなったつもりでいる垂池は、現実世界の那美に馴れ馴れしく接しすぎて、那美に冷たくあしらわれるようになり、ますます向井宅に居づらくなります。

 ある日、マギーが垂池を訪ねて向井宅までやってきて、彼宛ての手紙を残していきました。その手紙には「垂池くん、死なないで」という一途なメッセージが込められており、垂池は自分を純粋な気持ちで必要としてくれている人がいたことに気づきます。
 “忘れられた世界”に頻繁に出入りするようになったマーガレットは、アイデスの人々からつまはじきにされて自殺してしまいました。マギー(=マーガレット)に手紙の返事を書きたいと思い始めた垂池は、小説の中の“わたし”になって、まだ死んでいない頃のマーガレット(=マギー)からスカーフを取り上げました。なぜならマーガレットはそのスカーフで首を吊って自殺するからです。

 マギーからの愛を受け取り、マーガレット(=マギー)を救うことで、垂池は自分の力で立つことが出来るようになったんですね。垂池が自らの意志で向井宅を出て行くラストシーンで、それがわかります。小説(芸術)と想像力と、そして身近にいてくれた人の小さな愛のおかげで、ひとりの人間の命が救われたのだと解釈しました。引きこもりが自分から外に出られるようになるという点では『電車男』と似てますよね。

 垂池がマーガレットからスカーフを取り上げるシーンがクライマックスだと思います。私は垂池が自分から出て行くラストシーンではじめて「あぁ、あのスカーフはそういう意味だったのか」と気づいたのです。他の意味や伏線についても観終わってから気づいたことが多く、できれば見ている時に、オンタイムに感動したいですね。何(脚本、演出、役者)が問題なのか、具体的にどうすればいいのかは私にはわかりませんが、観客にもっとわかりやすく伝わってくれればいいなと心から思います。

Inspired by『西瓜糖の日々』リチャード・ブローティガン作 藤本和子訳 河出文庫
出演=児玉貴志(THE SHAMPOO HAT)/日下部そう(ポかリン記憶舎)/笹野鈴々音(風琴工房)/松浦和香子(ベターポーヅ)/佐々木光弘(猫☆魂)/夏目慎也(東京デスロック)/芦原健介/數間優一/山中隆次郎
作・演出=山中隆次郎 舞台美術=福田暢秀(F.A.T STUDIO) 照明=伊藤孝(ART CORE design) 音響=中村嘉宏(At Sound) 音響操作=井川佳代 衣裳・小道具管理=渡辺有希子 舞台監督=西廣奏 宣伝美術=土谷朋子(citron works) 記録写真=西田航 記録映像=トリックスターフィルム web運営=栗栖義臣 制作助手=坂本明 制作=三好佐智子 企画・製作=有限会社quinada(キナダ) 協力=ダックスープ
8/1(火)前売開始 指定席/前売¥2,800/当日¥3,500 自由席¥2,500(自由席は限定20席。劇団前売のみ取扱 15日昼の回は昼ギャザ(動員が増えるほど料金が安くなるシステム)
公式=http://www.slowrider.net/

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Posted by shinobu at 2006年09月14日 12:37 | TrackBack (0)