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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2006年10月08日

演劇集団円『ロンサム・ウェスト』10/05-18ステージ円

 マーティン・マクドナーのリーナン三部作の一編です。私はマクドナー作品はこれまでに4回(過去レビュー⇒)、『ロンサム・ウェスト』はひょうご舞台芸術で上演された時に拝見しました。

 ぼろぼろ涙が流れるのに、なぜか笑いがこみ上げてきて止まらなくなる・・・!マクドナーの世界を申し分なく表現しきった上質の舞台だったと思います。小劇場で味わえる極上のストレート・プレイをどうぞお見逃しなく!上演時間は約2時間15分(途中休憩10分を含む)。

 カーテンコールで「ブラボー!」の声がかかってました。あぁ、何年ぶりだろう・・・演劇公演で「ブラボー」を聞いたのは・・・♪

 後半はまだ残席あるとのことです⇒演劇集団円 TEL 03-5828-0654
 ※ホームページ割引あり!ご覧になってからお電話してください。

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 レビューをアップしました(2006/10/12)。

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 リーナンに住む兄弟(石住昭彦&吉見一豊)が、父親の葬儀を終えて神父と共に戻った場面から、この作品は始まる。普段から決して仲の良い二人ではないが、こんな日にもお互いを罵倒し、なじり合う。この地に派遣された神父(上杉陽一)は、父親の死にも平然としている兄弟をはじめこの地の人々の生活になじめず何かというと酒を手にするようになり、今ではすっかりアル中気味。
 しかし、なんとか、せめてこの兄弟だけでも救えないものかと思い巡らせる。
 兄弟と神父の会話に登場するリーナン住民のとんでもない所業、密造酒を売り歩く娘(冠野智美)の淡い恋もあるが、まっとうな神経では生きていけない気違いじみたこの地に絶望した神父の下した結論は・・・。
 ≪ここまで≫

 "The Lonesome West"は日本語だと『孤独の西部』。アイルランド西部の湖に近い街、リーナンが舞台です。演劇集団円は2004年に『ビューティークィーン・オブ・リーナン』を上演しています。リーナン三部作はこれで2作目になるんですね。もう1作も是非上演していただきたいです。

 マクドナー作品では、道徳心のかけらもない発言や行動が連発します。目と耳を覆いたくなるほど残酷なことも起き続けます。それを不愉快に、残念に感じながら、登場人物を心の底から愛らしいと思うことができました。どうしようもなく惨めで情けなくて、涙がぼろぼろと止めどなく流れて、でも同時にプっと吹き出し笑いをしてしまうのです。
 演出の森新太郎さんは弱冠30歳。20代後半から30代前半の演出家の作品に、また魅せられました。
 美術も音響も素晴らしかったです。

 ここからネタバレします。

 舞台中央は基本的にコーナー兄弟の家なのですが、上手奥がずーっとがらんどうのように暗く広がっていて、兄弟の家とその外側の世界(街、湖など)の存在を常に感じることができました。また、家と上手奥との境目には小さな台所ぐらいの幅しかない窓が建っているだけなので、奥を誰かが歩いて来るのがそのまま見えます。これがとても効果的でした。たとえば家を出て上手にはける時は、遠い真っ暗闇へと堕ちていくように感じるのです。

 湖のシーンでは窓を取り除いてぐんと広い空間にし、窓の裏側にあった小さな水溜まりが見えるようになります。ポトン、ポトンと本当の水が滴り落ちる水溜りを、照明で反射させて(たぶん)下手の壁に映し出し、湿った空気を舞台全体で表現していました。とても洗練されたセンスだと思います。
 神父が入水自殺するシーンで、下手の壁に貼り付けてあった十字架に、じんわりとその形どおりに照明が当たっていたのが渋かったですね~。

 音響については、選曲も音が鳴るタイミングも良かったです。例えば"Unchain My Heart"がかかりました。ちょーかっこいーっ!!!(選曲は藤田赤目さん)

 舞台は次々と近親関係で殺人事件が起こっているリーナン。コーナー兄弟の家でも、父親が亡くなったばかりです。兄弟は異常に仲が悪く、同居しながらお互いをけなし合い、何とかして相手を陥れようと日々たくらんでいます。

 ある時、弟が集めているマリア様の小さな立像を兄がオーブンで焼いてしまい、数十体のマリア様はどろどろの熱いプラスティックの塊になってしまいました。
 弟「オレのレンジでオレのフィギュアを料理しやがった!」※フィギュアっていう訳は面白いですね。
 ますます激しくケンカする兄弟にブチ切れた神父は、そのどろどろの中に自分の両手を突っ込みます。驚いた兄弟はケンカを止めて彼に声をかけるのですが、また名前を間違えるんですよね(苦笑)。“ウェルシュ”なのに、いつまでも“ウォルシュ”と区別がつかない。そこでウェルシュは
 「わたしの名前は、ウェルシュだっ!」
 と叫び、手に白いどろどろを手にべっとり付け、床にもぽとぽとと落としながら退場します。この姿が情けなくって、可愛らしくって、プッと笑えてしまいました。

 残された兄弟は「狂ってる。」「正真正銘の気狂いだ。」と神父のことを半分あきれてののしり、今度は床に落ちた液体を掃除しなければいけないと、恨み言を吐き捨てます。ここで今度は泣けてきたのです。神父の行動は素っ頓狂で突飛だけれど、兄弟への愛情から生まれた行為でした。でも彼らはそれに全く気づかないどころか、神父をきちがい扱いして、何事もなかったように通り過ぎてしまうんですよね。兄弟に悪意はありませんが、敢えて鈍感であることを選んだゆえのディスコミュニケーションだと思います。人間はそういう浅いレベルの対話に甘んじることで、自分のことも他人のこともおとしめています。

 神父とガーリーン(密造酒を売り歩く娘:冠野智美)とが二人っきりで会う湖のシーンでは、恥ずかしそうに、でも少しずつ素顔を見せ合っていく二人を微笑ましく見つめることができました。しかしながら自殺を決意した神父と、彼にひそかな恋心を寄せる少女とは、完全にすれ違う運命にあります。うっそうと茂る木々と湖の豊かな水とが、ひんやりと全てを支配する青黒い闇の中に、二人の人間の不器用な、一方通行の愛が灯りました。どうしようもなく不恰好で、愛らしくて、そして悲しくて・・・。私は涙が止まらなくなってしまいました。

 ガーリーン「だって……少なくとも、まだ幸せになれるチャンスはあるわけだから、ほんとにちっぽけなチャンスかもしれないけど、死んだやつらよりはいい。(中略)少なくとも、こっちにいる限り、幸せになれる可能性はあるわけで、それは死んだやつらだって知ってるわけで、あたしらに可能性があることを、死んだやつらは喜んでくれている。『がんばれよー』とか言ってくれてる、たぶん。というのが、あたしの考え。」  ウェルシュ「その茶色い目の奥で、おまえはたくさんのことを考えているんだねえ。」

 神父のファースト・ネームはロミオで、ガーリーン(俗語で“売春婦”の意味)のはマリアだと話すのが、これまた可笑しかったな~・・・。そういえばポツドール『女のみち』でも、暴走族出身のAV女優さんの本名が“安倍マリア”でしたねぇ(苦笑)。

 神父が自殺した後、彼がコーナー兄弟に宛てた長い手紙を読むシーンがあります。神父がシャツの前をはだけて胸を見せていた理由がよくわからなかったな~・・・最初、兄(石住昭彦)が登場したのかと勘違いしちゃったんですよね。入水自殺した直後なので、まさか神父が再登場するとは思わなかったんです。
 この手紙を読むシーンついては演出上のさらなる工夫ができるんじゃないかと思いますが、神父のセリフには、再び涙、涙でございました。

 ウェルシュ「さて、わたしはこの手紙で何が言いたいのか。それは、あんたたちにもまだ何かできることがあるんじゃないかということだ。一度でいいから、二人ともぐっと身を引いて考え、お互いのアタマに来る点をじっくり聞いてみたらどうだろうか、長い年月相手に対してやった意地悪の数々で、いまだに根に持っていることをリストアップして読み上げ、腹を割って話し合う。それから深呼吸を一つして、互いの意地悪を許し合ったらどうだろう?(中略)やってみてだめならだめなんだけど、少なくとも試したとは言えるわけで、それは二人にとって、もっと事態が悪くなるということではないだろう?(中略)ヴァレンとコールマン。わたしはすべてをあんたたちに賭ける。必ずどこかに愛はあるからね。(後略)」

 コーナー兄弟は神父の手紙のとおり、お互いの胸にしまっていた恨みを吐き出して、許し合うことを学びます。でもそんなに簡単にはいかないのが世の常(笑)。兄弟が再びひどいケンカへと戻ってしまうのを、じわじわと笑い一杯に見せてくださいました。

 どん底に惨めな人間を愛らしく見せて、さらに笑えてしまうように演出することが、マクドナー作品には不可欠だと思います。そして罵詈雑言の裏に存在する、善も悪も、美も醜も抱え込んだ人間の混沌が表に出てきた時、深い感動が味わえる作品へと昇華されるのだと思います。

"The Lonesome West" by Martin McDonagh ※セリフは上演台本より引用させていただきました。
出演=石住昭彦/上杉陽一/吉見一豊/冠野智美
作=マーティン・マクドナー 翻訳=芦沢みどり 演出=森新太郎 美術=伊藤雅子 照明=佐々木真喜子 音響=藤田赤目 衣裳=Koco 舞台監督=田中伸幸 演出助手=林紗由香 宣伝美術=坂本志保 イラストレーション=キムスネイク 制作=桃井よし子/川部景子
約2時間15分「休憩あり」 8/21前売開始 全席指定4200円 学生3500円 ペアチケット7200円
公式=http://www.en21.co.jp/

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Posted by shinobu at 2006年10月08日 18:38 | TrackBack (0)