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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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2006年11月02日

佐藤佐吉演劇祭2006・リュカ.『vocalise(ヴォカリーズ)』11/02-06王子小劇場(11/1はプレビュー)

 佐藤佐吉演劇祭2006の5公演目は、渡邊一功さん主宰のLucas(リュカ.)。今回は渡邊さんの新作脚本を時間堂の黒澤世莉さんが演出されます(リュカ.の過去レビュー⇒)。演劇関係者を招待するプレビューに伺いました。⇒公演公式ブログ

 役者さんが舞台の上で、その役柄として、生きていました。驚いた時に驚いて、嬉しいときに喜んで、悲しい時に泣いていました。この規模の静かな現代口語劇の公演で、こんなに役者さんと同じ時間を味わい、楽しめたのは初めてかもしれません。

 「vocalise(ヴォカリーズ)」とは「言葉をつけずにおこなう発声練習」を意味するフランス語で、ここではラフマニノフのもの(音が鳴ります)を差すそうです。
 上演時間は約1時間50分。

 ※佐藤佐吉演劇祭2006レビューブログ公式レビュアー3人(私を含む)、公募モニター4人のレビューが上がっています。こまめにチェックして観劇の参考になさってください!

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 ≪あらすじ≫
 シュウ(根津茂尚)&かえで(こいけけいこ)夫婦のホームパーティーに、いつものメンバーが集まる。マコト(鈴木浩司)は子供ができたばかりの妻シノワ(雨森スウ)を連れて来た。証券ウーマンとしてバリバリに働くユリエ(境宏子)も、新しい彼氏アキオ(池田ヒロユキ)と一緒だ。和気あいあいと仲間同士の飾らない時間が始まるはずだったが、シュウの様子がなんだかおかしい。
 シュウたちと同じマンションの隣りの部屋に暮らす姉妹(姉チズ:河合咲/妹コヨミ:稲村裕子)の生活も、同時に描かれる。チズは翻訳家で、安達(中田顕史郎)からある小説の翻訳依頼を受けていた。
 ≪ここまで≫

 対面式の客席。劇場中央には階段1段分ぐらいの高さの長方形のステージ。ベージュの布などに包まれた柔らかな抽象美術です。天井からは可愛らしい電球や傘を被ったランプが吊り下がっています。
 役者さんはステージの上に登る瞬間からその役柄になりきった演技をし、退場してからは劇場の壁側に並べられた丸いイスで待機します。時には黒い幕の向こうにはけたりもします。

 内容を一口で言えば、現代の若いカップルたちを描く恋愛ものでした。日常に近い息遣いと語り方で、会話が紡がれていきます。
 ストーリーについては腑に落ちないことも少なからずありましたが、観客の私が出演者と、あの空間でともに呼吸して、コミュニケーションを味わい、一緒に生きることができました。本物の喜び、悲しみに触れる瞬間がこれほど長く続くのを王子小劇場で体験できたことは、私にとってエポック・メイキング(epoch-making)な出来事であり、今回の『vocalise』はとても大切な作品になるだろうと思います。

 私は今、役者さんの舞台上での存在の仕方にとても興味を持っています。だから俳優養成のワークショップや実際の稽古場などにも伺って、舞台俳優にはどういう種類の存在の仕方があるのか、それらが実現されるまでにはどういう過程があるのか等を、学ばせていただいています。
 演出の黒澤さんはスタニスラフスキー・システムサンフォード・マイズナー・システムなどを勉強して、それを稽古場で実践されています。今回出演されていた役者さんの中には、リュカ.の前回公演で拝見した方もいらっしゃいました。同じ人とは思えないぐらい、柔らかな、のびやかな、瑞々しい、生きた人間として映りました。いったいお稽古でどんな魔法をかけられたのでしょうか。
 黒澤さんの次回演出作品は王子小劇場プロデュース/畑澤聖悟・作『俺の屍を超えていけ』です。12月の楽しみが増えました。

 ここからネタバレします。

 シュウ(根津茂尚)は実はガンに犯され、あと半年の命だと医者に宣告されていました。頑固なシュウは妻のかえでの説得を聞かず、一人で北欧へと旅に出て、もう帰っては来ないと決心していました。パーティーに集まった仲間達は、2人の重大な決断を聞いたとか聞いていないとかでもめて、言い争いになります。私はむしろシュウが気の毒になりました。だってどんなにわがままで、独りよがりで頑固だとしても、死ぬのは彼なんですから。もうすぐ死ぬと決まっている人に向かって「お前はなんでそんなに勝手なんだ?残される者のことも考えろ」なんて、よく言えるよな、いや、言えるわけがない、と思い、腑に落ちませんでした。
 「大切な人の死」というテーマはテレビドラマ、映画、お芝居でも頻繁に描かれます。死には絶対的な質量があるので、その扱いは慎重にしないといけないと思います。

 ホーム・パーティーの次のシーンは2年後になっています。シュウはかえでの無償の愛のおかげで、心を開いて自分をゆだねることができるようになったので、旅行には行きませんでした。そしてかえでの献身的な看病を受けた末に亡くなっていました。キャリアウーマンのユリエ(境宏子)の恋人だったアキオ(池田ヒロユキ)が、隣りに住むチズ(河合咲)と婚約していたり、無職でだらだらしていたコヨミ(稲村裕子)がユリエの部下として同じ会社で働いていたり、人間関係は様変わりです。時間は残酷で、そしてとてつもなく優しいものだなと思いました。

 ラストシーンはそれまでとは全く違った夢の世界ような演出が始まります。恋や愛というものが世界を幸せにする可能性があるんだよと謳いあげる、祝祭ムード満点のシーンになるはずだったのだと思います。残念ながら私は物語に納得できていなかったので、なるほどなぁと眺めるままに終わってしまいました。この演出のために、出演者全員が2年後のシーンから白いシャツを着たナチュラルな装いになっていたのかと思うと、残念でした。パーティーのシーンまでは、役柄の個性がはっきりと出ている、すごくおしゃれな衣裳およびヘアメイクだったからです。

 役者さんの演技はお互いをしっかり意識して、受け止めており、自分が主張する時も相手を感じながら調和しているように感じられました。ただ、中田顕史郎さん演じる安達については、ちょっと浮いているように感じました。安達はチズが翻訳し終わった小説を読んだり暗唱したり、かなり長い間一人で語り続けるのですが、文節ごとに休憩が入っているように聴こえて集中しづらかったです。それも最後のシーンが楽しめなかった理由のひとつだと思います。長セリフって難しいですよね。

 パーティーのシーンでは、美味しそうな手料理とおしゃれなワインがいっぱい食卓に並びます。お皿もグラスもちゃんと本物で、おもてなしの気持ちが伝わってきました。ただ、最後に出てくるロマネ・コンティについては、ボトルが袋に入ったままで銘柄がわかるとは思えません。せめてラベルがぎりぎり見えるかどうかぐらいは、袋から出す必要があるのではないでしょうか。しかしロマネ・コンティて・・・どんな金持ちなんだよ、ユリエは(笑)。

 プレビュー終了後のレセプションで、観客と作り手とが話し合う機会が設けられました。改良して再演すればいいのではないかという意見が多く聞かれました。もし再演されるならまたぜひ伺いたいと思います。

Lucas [lyka] 10th note (in alliance with Jikando)
出演=池田ヒロユキ/境宏子/鈴木浩司/こいけけいこ/雨森スウ/河合咲/稲村裕子/根津茂尚(あひるなんちゃら)/中田顕史郎
脚本=渡邊一功(リュカ.) 演出=黒澤世莉(時間堂) 舞台=松下清水/甲賀亮 舞台美術=近藤麗子 照明=工藤雅弘(Fantasista?ish.) 演出助手=宮田和美(時間堂)/襟野辺深雪/佐伯風土 衣裳=華咲薫/景山育美 宣伝美術=太田創(01Ga Graphics) 写真=堺千慧子 メイク=沼田裕美子 ヘアメイク=齋藤由佳 小道具=大和美由紀 写真協力=Rainy Day Bookstore & Cafe スチール=松本幸夫 ビデオ撮影=藤崎友子 制作=近藤のり子 制作協力=増戸香織 主催=リュカ. 共催=時間堂 協力=王子小劇場/Gallery LE DECO 製作=vocalise製作委員会
前売2500円/当日2800円 ~各種割引(要証明・当日のみ)・学生・北区在住者・60才以上の方 1500円・中高生グループ割引3900円/3名 11/6(月)15時開演の回に昼ギャザあり 
公式=http://www.lyka.net/
佐藤佐吉演劇祭2006まとめ=http://www.shinobu-review.jp/mt/archives/2006/0830030836.html

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Posted by shinobu at 2006年11月02日 11:53 | TrackBack (0)