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2007年04月26日

【インタビュー】『CLEANSKINS/きれいな肌』脚本家シャン・カーンさん(前編)04/19新国立劇場応接室

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Shan Khanさん

 ただいま新国立劇場で上演中の『CLEANSKINS/きれいな肌』の脚本を書かれたパキスタン系イギリス人、シャン・カーンさんにインタビューをさせていただきました。シャンさんは気さくで穏やかで、そしてユーモアたっぷりのとっても素敵な方でした♪

 新国立劇場のホームページにもシャンさんのインタビューが掲載されています。なんと動画も観られます!!

 稽古場レポート⇒〔〕〔〕〔〕〔〕〔〕〔
 ⇒初日のレビュー
 ⇒シャン・カーンさんのインタビュー(前編・このページです)(後編
 ⇒演劇「CLEANSKINS/きれいな肌」お客様の声(新国立劇場)
 ⇒CoRich舞台芸術!

 公演も終盤にさしかかり、良い評判ばかりを耳にします。4/28(土)までですよ、どうぞお見逃しなく♪

≪前半≫
しのぶ:初日を拝見して思ったのですが、深刻な家族のテーマなのに笑いがたくさんあって、非常に楽しめました。
シャン:そうなんです。人生にはしばしば深刻なことが起こって、そこからおのずとダーク・ユーモアが生まれてくるんだと思います。だから、ご覧になった方々に笑ってもらえて嬉しいです。もし深刻な事柄をただ深刻に作ったとしたら、観客は簡単には耳を傾けないでしょう。ユーモアと一緒に届ければ、メッセージをもっと身近に受け取れると思います。

しのぶ:エジンバラフェスティバル2005でのインタビューをインターネットで読ませていただいて、お父様のことやご家族でお引越しされたことを知りました。お父様は電気技師だったんですね?なぜシャンさんは演劇や俳優、テレビの世界に進まれたのでしょうか?
シャン:父は1960年代に飛行機のコンコルドのエンジニアとして英国に来ました。長い話になるので手短に話しますと、父は友人からスコットランドに来るように誘われたんです。「スコットランドには山や川、湖があって、まるで祖国パキスタンみたいに素敵な場所だよ。僕は店も持っているし」と。そして父はコンコルドの仕事を辞めてスコットランドに移り、友人の店を引き継ぐことになりました。でも実際に行ってみたら友人が言っていたのと状況が全然違っていたんです。騙されたんですね。その友人は悪い友人だったってことなんですが。父がスコットランドに行ってわかったのは、いつも窓がどんどん割られるってこと。店も家も両方です。それはスコットランド特有の出来事だったのではありません。英国人が移民の入国に慣れつつある時代だったんです。

シャン:なぜこの話をするかというと、それこそが私がスコットランドで育った時代の雰囲気だったから。私は6人兄弟だったんだけれど、外に出て遊ばないで、家の中で自分達だけで遊んでいました。遊ぶといっても文字通り“遊ぶ”というのではなく、家の中でダークなユーモアのセンスを培うことになりました。それが、自分達がさらされた様々な事柄に対処する唯一の方法だったと思います。
 そういう環境で父はビデオショップも経営していましたので、私たちはいつも映画を観ていました。それで私は自然とドラマ(演劇)というものに興味を持つようになったのです。どんな子供もクリエイティブな才能を持っていると思いますが、兄弟の中で私だけにそれを追求する熱心さがありました。アジア系の移民の家族というと親が非常に教育熱心で、家業を継ぐよりも弁護士、医師、エンジニア等にさせたいと思うものなんですね。たとえば私の兄はアメリカに行って薬学の道に進みましたし、大きい方の姉は電気技師です。弟も電気技師で、まあ、一番年下の弟は何もしてないですけどね(笑)。
しのぶ:シャンさんは何番目の兄弟なんですか?
シャン:私はちょうど真ん中です。兄、2人の姉、私、そして弟が2人います。よく言われることなのですが、真ん中の子供っていうのは他の子と違ったことをやろうとするらしいです。私がそうなのかもしれませんね。特に誰とも違うことをしようと思っていたわけじゃないんですけど。自然とこうなったんじゃないかな。

しのぶ:俳優学校にいらしたそうですが?
シャン:ええ。グラスゴーの演劇学校にいました。3年間。
しのぶ:何歳のときですか?
シャン:18歳からです。高校卒業して、そのまますぐに。
しのぶ:卒業してから俳優になったんですか?
シャン:はい、俳優でしたね、脚本を書くようになるまでは俳優でした(笑)。演劇学校の最終学年の時にDavid Mametの"Sexual Perversity in Chicago" (1974)をやったんですが、あれが俳優として経験した脚本の中で一番素晴らしかった。展開が速くて、自然な対話がありました。それを演じた後すぐに脚本家になったわけではないですが、あれこそ脚本のあるべき姿だと、初めて思いました。それから5,6年して、自分で書き始めたと思います。

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通訳さんと広報さんとご一緒に

しのぶ:そして"Office"(2001)が処女戯曲だったんですね。テレビ(ドラマ)のお仕事はその後から始められたんですか?
シャン:そうです。"Office"を書いて、それが賞を受賞してから、私にエージェントがつきました。アジア人であってもそうやって賞を取って、別の扉が開かれたんです。それからいくつかソープオペラ(日本の昼ドラみたいなもの?)も書きました。ソープオペラを書いたことはテレビや映画の脚本を書くための良い訓練になりました。
しのぶ:現在も、演劇だけではなくテレビや映画のお仕事をされていますよね。ご自身で監督もされていますが、それは今後も続けられるんでしょうか?
シャン:もちろんです。短編映画の脚本も書いてきましたが、実際にやりたいのは長編映画(Feature Film。いわゆる2時間ものの普通の映画)です。いまも取り掛かっていて、ちょうどアイデアを書いてプロデューサーに送ったばかりです。もしそれが映画化されるなら、自分で脚本も書いて監督もしたいと思っています。演劇についてはまだ自分の脚本を演出したことはありません。映画とは全然違うものだと思うんですよね。自作の舞台演出をしないかと聞かれたこともあったんですが、お断りしました。

しのぶ:"Prayer Room"(2作目の戯曲)を映像化するための脚本を書かれているそうですが?
シャン:はい、それはBBCからいただいた仕事で、もう書き上げました。BBCが映画化するんです。
しのぶ:それはシャンさんが監督されるんですか?
シャン:いいえ、演劇版を演出した友人が監督することが決まっています。ぜひ自分でやりたいんですが(笑)、彼がすっごくやりたいみたいだから、僕が取っちゃうと悪いので遠慮しました(笑)。
しのぶ:その方は舞台専門の演出家なんですか?
シャン:そうです。彼はAngus Jacksonといって演劇の演出家ですが、僕が知っているほとんど全ての人(演劇の演出家)が、映像の世界で働くことにも興味を持っていますね。そうじゃない人もいるかもしれないけど。

シャン:正直に言うと、私の第一の目的は戯曲作家になることではありませんでした。そもそも私は「Office」を低予算映画の脚本として書いていたんです。私と小さい方の弟が出演する自主映画のために。たしか4分の3ぐらい書き終わったところで、インターネットでVerity Bargate playwriting awardの情報を見つけたんですね。その応募締め切りを調べてみたら、なんと翌日だった!(笑) そして24時間ぶっつづけで、全力で大急ぎで、映画用の脚本から戯曲へと書き直しました。1シチュエーションで撮れるように書いたものだったので、とても早く、一晩でできたんです。だからまさか賞を取るなんて全く予想していませんでした。ただ、(なぜ応募したかというと、自分がどれぐらいのレベルのものを執筆しているのかの)フィードバックが欲しかったんです。
 演劇が好きじゃないと言いたいのではないですよ。もちろん私は演劇を愛していますし、その、人生っておかしな(crazyな)方向に進むものですよね。自分と弟のための低予算映画を作ろうと思って書いた脚本だったのに、次の瞬間には大きな賞をもらっていて・・・私たちの誰もが予想していなかったのにこんなに素晴らしいことが起こるなんて、そんな人生っていうものが、私は好きですね。

 ⇒シャン・カーンさんのインタビュー(後編)に続く

 お話したことのほぼ全てをそのまま掲載しましたので、前編・後編あわせてA4用紙5ページ分ぐらいあります(汗)。後半は作品についての率直な感想を聞けました。どうぞお楽しみに♪

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Posted by shinobu at 2007年04月26日 11:28 | TrackBack (0)