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Shinobu's theatre review
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2007年08月01日

ハイリンド『幽霊はここにいる』08/01-05 THEATER/TOPS

 ご縁があって旗揚げ公演から通っているハイリンド。第4回公演にしてTHEATER/TOPSに進出です(関連記事、レビュー⇒)。ハイリンドは俳優だけで構成された劇団で、公演ごとに脚本を選び、それにふさわしい演出家を迎えるという独自のスタイルを持っています。

 今回の戯曲は安部公房の1958年岸田國士戯曲賞受賞作『幽霊はここにいる』。ハイリンド演出が2度目になる西沢栄治さん(JAM SESSION)が演出を手がけます。上演時間は約2時間。

 いや~・・・戯曲の世界を堪能できました。公演パンフレットも劇団オリジナルTシャツも買っちゃいましたよ♪

 ⇒CoRich舞台芸術!『幽霊はここにいる

 ≪あらすじ≫ ぴあの特集コラムより引用。(役者名)を追加。
 (略)戦争が終わった混乱の空気が色濃く残る町が舞台。ひとりの詐欺師(伊原農)が、そこで朴訥とした男(多根周作)に出会うところから話は始まる。その男には幽霊が見え、今も連れて歩いていると聞いた詐欺師は、ひともうけ企む。そして、幽霊の身元を捜すめため、死んだ人間の写真を買うという商売を始めるのだが、これが大当たり。だが、やがてそれは詐欺師のもくろみを超え、町中を混乱させる事態に発展して……というもの。リアリティがあるような、ないような、不思議な空気をはらみながらも、身勝手さ、ずるさ、善意、愛らしさを通して、人間という存在をとらえようとする安部の戯曲。(略)
 ≪ここまで≫

 2002年の鴻上尚史さん演出版しか観たことがなかったので(⇒レビュー)、ストーリーも何もかも忘れてしまっていたらしく(すみません)、最初っから最後まで展開にわくわくしながら拝見することができました。素晴らしい戯曲ですね~(って、私が言うことないんですが)。

 初日でドタバタしていたり、役者さんがかなり緊張して顔がひきつっていたり(笑)、完璧な出来ではないことは見て取れましたが、そういうことを差し引いても、良い演劇作品を観せてもらえたなと満足しています。

 『幽霊は・・・』が書かれたのは1958年(昭和33年)、つまり今から約50年前の戯曲です。かなり昔ですよね。10~20代、もしくは私を含む30代の人間にとっても“古典”になるかもしれない作品です。それを無理なく現代劇として受け入れることができました。そりゃ~「言葉づかいが昔っぽいな~」ぐらいには感じますけど、描かれている世界はまさに今の資本主義社会にも当てはまりますし、演じている役者さんが「古典をやってます」という立ち位置ではなく、自分の役柄を自分のものとして生きているから、観客は信じてその世界に入って行けるんだと思います。

 観客に向かって話したり、大きな声で少々戯画的な演技をしたり、大勢でひとつのセリフを群読したりしますので、最近の若い劇団でよく見られる“日常のままの自然な存在感”をベースにした演技ではありません。でも舞台上で戯曲の世界を(役者さんが)自分の感覚のままに生きられたら、どんな手法であっても説得力のある演劇になるのではないでしょうか。それをあらためて確認できたように思います。

 ここからネタバレします(2007/08/03アップ)。

 まず、多根周作さん演じる深川啓介は、隣に“幽霊さん(名前は吉田・・・だったかな)”を連れて登場します。でも実際には誰の目にも(観客の目にも)幽霊は見えません。だけど私は「あぁ、幽霊が居るんだな」と、すっかり深川のとなりに幽霊がいるものだと思って観始めました。それは多根さんの演技がまさに幽霊を連れているものに見えたからであり、それに対する他の役者さんの演技に無理がなかった(「幽霊が見えると主張するおかしな男・深川に優しく接する」という演技をちゃんとしていた)からだと思います。

 実在しない幽霊に関連する商売がどんどん生まれていく様は、健康食品ビジネス(アガリクス茸など)やネットバブル(ライブドア事件など)と重なりました。幽霊衣裳とか幽霊保険とか、そんなのよく思いつくな~、安倍公房さん凄いな~って、素直に感心したり(笑)。

 深川(多根周作)は南方の戦場で一緒だった戦友“吉田”の幽霊を連れていると言っていましたが、実は深川は本物の“深川”ではなく、残り少ない水筒の水を争って気が狂ってしまった“吉田”の方だったのです。吉田(多根周作)は深川を見殺しにしてしまったことの自責の念から自分を封印し、“深川”として生きていた・・・ということが、本物の深川(浅井伸治)が登場して判明します。
 戯曲を読んでいればわかっていることだし、最初から予想がついている人も大勢いらっしゃったことと思いますが、私は「ええっ!!そ、そ、そうだったの!?」とフツーに驚き、涙してしまいました。戦争が残した傷を実感できたことも大きいと思います。

 ミサコ(はざまみゆき)は正義感の強い女性であることも大事ですが、ヒロインなのだから、もっとキュートな女の子らしいキャラクターにしてもいいんじゃないかと思いました。

出演=伊原農、枝元萌、多根周作、はざまみゆき、浅井伸治、荒井志郎、内田尋子、小林高之、島村比呂樹、福田英和、村田一晃、森アキ、竹下ヨシユキ、鍋谷ナナオ
[脚本]安部公房 [演出]西沢栄治 [舞台監督]井関景太(るうと工房)[照明]五十嵐正夫(シアターブレーン)[音響]高橋秀雄(SoundCube)[舞台美術]向井登子[衣裳]阿部美千代[宣伝美術]西山昭彦[スチール]夏生かれん[撮影ヘアメイク]田沢麻利子[Webデザイン]古川健司・藪地夏子[制作]ハイリンド[制作補佐]石川はるか・鈴木由香里・竹内佐江
【発売日】2007/07/02 前売 3,500円 当日 3,800円(全席指定) ※平日マチネ(木曜14:00の回)割引き 前売3,000円/当日3,300円 ※「三人寄れば文殊のTicket」9,900円(3枚セット)
http://www.hylind.net/

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Posted by shinobu at 2007年08月01日 23:24 | TrackBack (0)