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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2007年06月10日

JAM SESSION『罪と罰』06/06-10「劇」小劇場

 演出家の西沢栄治さんが主宰されるJAM SESSIONを初めて拝見。ハイリンド『牡丹燈籠』での演出が印象に残ったのと、同じく『牡丹燈籠』で美しかった谷村実紀さんが出演されるので伺いました。ドストエフスキーの『罪と罰』(Wikipedia)を約1時間40分で上演。

 ⇒CoRich舞台芸術!『罪と罰

 長編小説の『罪と罰』を短時間にまとめるので、登場人物やエピソードはかなりカットされているようです。私はちゃんと原作を読んだことがないのでえらそうなことは言えないのですが、最後の最後が腑に落ちなかったので、なぜこの作品を上演したのかな~と不思議に思った、というのが終演後の第一の感想でした。

 舞台中央に2畳ぐらいの大きさのひし形の台があり、その一辺に頑丈なドアが固定されています。装置はいわばそれだけのシンプルな空間。音楽と照明、俳優の演技で物語を進めていきます。ひし形の台をぐるぐる回し、ドアを乱暴に開け閉めして場面転換するのは躍動感があります。
 役者さんの声がびっくりするほど大きいんですよね~。「劇」小劇場では珍しいタイプのように思います。そして音楽が雄弁・・・過ぎました。言葉をはっきりと話せる役者さんが揃っているのなら、あんなに説明的に音楽を使う必要はないんじゃないかと思いました。

 『牡丹燈籠』の時も思いましたけど、西沢さんの演出は大きな劇場でも魅力が発揮できるんじゃないかしら。次は再びハイリンドで安部公房・作『幽霊はここにいる』を演出されます。劇場はTHEATER/TOPSですか、楽しみですね。

 役者さんではやはり主役のラスコーリニコフを演じる谷村実紀さんが素敵でした。でも『牡丹燈籠』の時の方が良かったな~。

 ここからネタバレします。

 ラスコーリニコフは、平たい言葉で言うと「くだらない人間1人を殺して立派な人間1000人が助かるなら、そのくだらない人間を殺した方がいい」という考えを持った貧乏学生です。彼は強欲な金貸しの老婆を殺し、偶然そこに居合わせてしまった善人・リザベータをも道連れに殺してしまったことに、さいなまれ続けます。大事なのは1人の人間の命は1000人の人間の命と同じように大切でかけがえがないものだと、ラスコーリニコフが気づくことだと思います。その気づきをどのきっかけで、どのように得て自首にいたったのかが見えてきませんでした。

 この作品では、親友のラズミーヒンや予審判事ポルフィーリの説得(?)でラスコーリニコフは自首しますが、原作ではアル中のダメ親父マルメラードフの娘で、娼婦のソーニャのおかげで改心します。しかもソーニャが殺されたリザベータの友人っていうのもミソなんですよね。そのソーニャが出てこないっていうのは・・・ちょっと難しいんじゃないでしょうか。

 老婆とその妹がラスコーリニコフに殺されるのも、金持ちのスビドリガイノフ(京極圭)が恋に破れて自殺するのも、アル中のマルメラードフが馬車に飛び込んで自殺するのも、1人の人間の命が失われる意味では同じことなんだと感じられたら、それで良かったのかもしれませんね。

 アル中のマルメラードフと金貸しの老婆を一人の男優さん(亀田真二郎)が、運悪く殺された老婆の妹リザベータとラスコーリニコフを追い詰める予審判事を一人の女優さん(斉藤範子)が演じられていたのは、効果があったように思います。

出演=谷村実紀(スターダス・21)/斉藤範子/岡村まきすけ(THE黒帯)/京極圭(劇団東京ヴォードヴィルショー)/塚本淳也/赤荻純瞬(劇26.25団)/渋谷はるか(文学座)/亀田真二郎(東京パチプロデュース)/中地健太郎(スターダス・21)/山田英真
演出=西沢栄治 原作=ドストエフスキー作品より 照明=大島 早保子 音響=角張正雄(SoundCube) 衣裳=木村江梨子 舞台監督=井関景太、鈴晴香(るうと工房) 宣伝美術 SNEA WEB=SORAism 制作=松谷章代、中村真弓(Theatre劇団子) 企画・製作=JAM SESSION
チケット発売日 4月28日(土) 全席自由/日時指定 前売・当日共3000円 学生2000円(要学生証)  平日マチネ割引 2000円 リピーター割引 1500円(要チケット半券)
http://www.jam-session.info/

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Posted by shinobu at 15:25 | TrackBack

グリング『ヒトガタ』06/06-18THEATER/TOPS

 青木豪さんが作・演出されるグリング、今回は2003年初演だった『ヒトガタ』の再演です。私は初見。お通夜のお話でした。上演時間は約1時間40分。

 ⇒CoRich舞台芸術!『ヒトガタ

 話題に上る亡くなった人の人数は3人ぐらいだったと思うんですが、中盤過ぎるまで、今、亡くなったのが誰なのかがわからなかったんですよね。いったい誰のお通夜なのかを探るために気持ちを集中させる状態でした。自分の読解能力の低さにがっかりしつつ(汗)。

 自分の家族のことって、わかっているようで全然わかっていないことが多いですよね。大切に思うがゆえに秘密にしていることがありますから、身近な家族の方が赤の他人よりも遠い存在であることも少なくないでしょう。でも、思いがけない大きな事件(このお話だとお通夜)がきっかけで、その距離を突然縮めてくれることがあります。その時は、一緒に暮らしてきた家族だからこそ深く受け止め合えるのかもしれないと思いました。

 お通夜の話なので舞台の時間は夜のはずなんですが、それがよくわかりませんでした。「夜遅いから車で送る」という話題が続くのですが、いったいどれぐらい遅いのか、眠いぐらいなのか、お腹はすいているのか等、肌に届く感覚が得られませんでした。
 舞台はある和室(雛人形の頭を作る人形職人の作業場)だったんですが、1階なのか2階なのか、その部屋の奥には何があるのか(ご遺体はどこに安置されているのか)等もわかりにくかったです。色んな人が何度も何度もふすま(障子?)を開けて出入りします。その出入りの必然性が感じられず、わざと特定の2~3人を残すための段取りに見えることもありました。
 私は開幕して2ステージ目に伺いましたので、回を増すごとに良くなっていることと思います。

 ここからネタバレします。

 受験時期のつらさってやっぱり現代日本人の人生において大きなポイントになりますよね。私は高校受験、大学受験をしたことを後悔してはいませんが、できればあんな経験はしない方がいい気がします。やっぱり異常ですよね、“受かるかどうかでその後の人生が決まる”みたいなプレッシャーって。家庭全体に影響を及ぼしますし。本当は何度でもチャレンジしていいはずなのに、日本では未だにレールからはずれない、一度も失敗しないってことが重視されているように思います。はがゆいです。ま、私はすっかりそのレールから外れてますので(笑)気楽ですが、だからこそ今の学生さんにはできるだけつらい思いをして欲しくないなと思います(勝手ですが)。

 話がそれました。弟の自殺は父親(辻親八)のせいだ思っていた長男(中野英樹)でしたが、実は弟が父親に家庭内暴力を振るっていたことがわかります。なぜ父親がそれをだまっていたのか?それは、長男が受験中だったから・・・。うーーーーー・・・つらいッス。わかりますよ、その気持ち。言えないですよね、受験生には。

 おそらく精神不安定だった弟は、死んだ母の顔に似た人形を壊し続け、父親に暴力を振るっていました。その弟が着ていた黄色いトレーナーが、壊れた人形と一緒にダンボール箱から出てきます。霊感の強い松室(どもりの社長:杉山文雄)が「黄色いものが見える」と言っていたのは、あのトレーナーのことだったのかしら。家族が集まったお通夜に弟と母が一緒に出てきて、父と長男の確執を解き、そして新しく生まれる命(長男の子供)も祝福されるという、しみじみと胸にひびくハッピーエンドでした。

 小さい音で鳴っていた音楽が徐々に大きくなるオープニングでした。普通によくある演出ですが、実は耳が遠い大叔母(井出みな子)が誤ってラジカセのリモコンを踏んでしまい、ボリュームが大きくなってしまったというハプニングだったのです。かっちょいーですね~。

出演=中野英樹 弘中麻紀(ラッパ屋) 杉山文雄 萩原利映 高橋理恵子(演劇集団円) 遠藤隆太 石井英明(演劇集団円) 辻親八 井出みな子(演劇集団円) 歌川椎子  
作・演出=青木豪 照明:清水利恭 照明オペレーター:葛生英之 美術:田中敏恵 舞台監督:筒井昭善 効果:青木タクヘイ 演出助手:黒川薫 宣伝美術:高橋歩 宣伝写真:中西隆良
記録映像:TRICKSTER FILM 制作:菊池八恵 制作協力:嶌津信勝 企画制作・主催:グリング
特割3,300円(6/6(水)と6/7(木)前売チケットに限り)・前売3,500円・当日3,800円(全席指定/税込)
http://www.gring.info/

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Posted by shinobu at 13:18 | TrackBack