2007年09月13日
ウォーキング・スタッフ プロデュース『STONES』09/08-16 THEATER/TOPS
和田憲明さんが作・演出されるウォーキング・スタッフ(過去レビュー⇒1、2、3、4、5)。緊張がはりつめた、高密度のリアルな劇空間は独特です。
今回もどっぷり大人の時間を味わわせていただきました。上演時間は約2時間15分休憩なし。
⇒CoRich舞台芸術!『STONES』
≪あらすじ≫
舞台は元シェルターだった薄暗い部屋。闇を生きる逃げ場のないやつらの七転八倒。
≪ここまで≫
息が詰まりそうな密室で、臨場感のある生々しい展開を堪能しました。人物描写もいつもどおりの緻密さで、セリフのひとつひとつが聞き逃せません。
リアルな装置とスタッフワークも見どころですよね。カラカラと回る換気扇(?)の向こうから射す明かりがかっこいいです。壊れたラジカセから鳴るROLLING STONESも味があります。
思惑通りに進まない上に全てがより悪い方向へと回っていくのは、ちょっと笑えちゃうぐらいです。ことごとく失敗して、それでもどん底でジタバタと生きていこうとする、大人。そういう人間を描いているという意味では面白いと思えるのですが、ヤクザの世界の覚せい剤売買、売春、殺人などの話になると、観ていてつらくなっちゃいます。私は苦手だな~。
村木(鈴木省吾)が自分のことを「俺」じゃなくて「僕」と言うのが、役柄にぴったり合っていたように思います。
自称14歳の不良少女ナオ役は山口奈緒子さん。目立ちすぎない小さな存在感がかえってリアルに感じられました。叫び声のかすれ方が好き。
ここからネタバレします。
ヤク中のナオが「(セックス)しよう」と神野(津田健次郎)を誘い、2人が遠く離れたまま見つめあう時間が素敵だった。
出演=鈴木省吾、飯田基祐、八代進一、津田健次郎、斉藤佑介、山口奈緒子、蘭香レア
作・演出=和田憲明 照明=佐藤公穂 音響=長柄篤弘(ステージオフィス) 舞台美術=塚本祐介 舞台監督=西川也寸志+箱馬研究所 演出助手=山崎総司(Playing unit 4989) 衣裳=福田千亜紀(Playing unit 4989) 照明オペ=竹野健三郎 小道具=藤田かおる 千葉豪 特殊効果=Vanity Factory 宣伝美術=樺島知彦 宣伝写真=二石トモキ 制作=石井久美子 馬場順子 制作アシスタント=下条昌恵 安田みさと(7の椅子) 制作協力=石井光三オフィス 企画製作=ウォーキング・スタッフ
3,800円(全席指定)
http://www.ishii-mitsuzo.com/info/a95/a.html
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FICTION『石のうら』09/06-10新宿シアターモリエール
FICTIONは山下澄人さんが作・演出・出演される劇団です。山下さんが富良野塾出身だからか、いつも北海道公演があるんですね。私は2度目(⇒過去レビュー)。
DMに「このDMを書いている時点では何も決まってません」と書いてあると、行くのを躊躇しますよね、ありのままを見せてくださっているのはよくわかりますが(笑)。
⇒CoRich舞台芸術!『石のうら』
≪あらすじ≫
いつも罵り合っている老夫婦が暮らすボロアパート。ある朝早く大地震が起こって・・・。
≪ここまで≫
トタンや廃材らしき素材で組み立てられた装置。口の悪い“役立たず”なおじいさん、前科者、知的障害者、小児麻痺(おそらく)の症状のある人など、現代社会においてマイノリティとして扱われがちな人々が登場します。
汚いしにくたらしいけど、愛らしい人間の姿。目も当てられない惨状を、不謹慎だとはわかっていながらプっと吹き出して笑ってしまいます。あけすけな言葉にスカっとしたりもしました。FICTION独特の世界なんだろうと思いますが、今作はおじいさん役の山下澄人さんに重点が置かれ過ぎているように感じて、ちょっと飽きが来ちゃったりも。
ここからネタバレします。
阪神大震災のお話でした。「今はこんな時だからみんな優しいけど、何もかもなくなって新しいものが建てられたら、絶対相手にしてくれなくなる(邪魔者扱いされる)」という言葉に、すごく説得力があります。
地震でも火事でもなく、おじいさんに頭を蹴られたせいで死んだおばあさんが、天国からちらっと出てくるシーンは、笑っていいのか泣いていいのか、とても複雑な気持ちになりました。
妻を失った若い男性役と工場で働くまっさん役(小児麻痺?)を1人で演じられていたのには驚き(笑)。
≪東京、富良野、旭川、札幌≫
出演=山下澄人、山田一雄、井上唯我、荻田忠利、大西康雄、竹内裕介
作・演出=山下澄人 照明=高橋秀彰 音響=別所ちふゆ 舞台監督=バタヤン 宣伝美術=西山昭彦 その他全部=FICTION 企画・制作=OFFICE FICTION プロデューサー=白迫久美子 制作協力=井上淳司
前売り 指定席3,300円/自由席3,000円 当日(指定自由とも)3,500円 学割2,500円/複数回割引2,000円 *学割、複数回割引きは自由席で劇団のみの販売
http://www.fiction.gr.jp/
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流山児★事務所『観世榮夫「新劇」セレクション vol.1 流山児★ザ新劇「オッペケペ」』09/04-17ベニサン・ピット
今年6月に亡くなられた観世榮夫(かんぜ・ひでお)さん(Wikipedia)が企画された公演です。「新劇を《現代劇》として読み直す」試みの第1弾で、取り上げたのは44年前の戯曲「オッペケペ」。作者である福田善之さんご自身が、この公演のための改訂をされています。
上演時間は約2時間30分休憩なし。長かったですが、今を生きている演劇人の身体を通じて、半世紀前の躍動を受け取れたように感じられて良かったです。
⇒CoRich舞台芸術!『オッペケペ』
⇒流山児さん、読んでくださってありがとうございます(2007/09/16加筆)。
≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより
【壮士劇を演じる新劇団という趣向の、虚実交えた福田善之の傑作群像劇!】
緋の陣羽織で、自由民権を時の権力風刺と共にうたって一世を風靡した川上音二郎の「オッペケペ節」。戯曲『オッペケペ』は川上音二郎や貞奴、伊藤博文、幸徳秋水と言った人物を想起させるが、実録モノではなく作者のオリジナルな人物像で書かれた60年安保闘争時の敗北と挫折を活写した名作『真田風雲録』と並ぶ福田善之の傑作群像劇。
自由、民権といった志で始まった「壮士劇」が、権力にとりまかれ「戦争高揚劇」へと至る流れを、様々な役者や政治家の思惑、男女の恋模様も交えて描く歴史群像劇。「壮士劇を上演する劇団の舞台稽古」という多重劇(メタ・シアター)構造で福田善之が「自由とは何か」を問う戦後演劇の代表作。原戯曲では「演出家」が登場するという構造を、2007年版は「作家」が登場して『オッペケペ』の世界を語るという改訂版上演となる。
≪ここまで≫
日清戦争(Wikipedia)開戦前後の明治時代。袴や着物、軍服姿の役者さんが元気に走り回ります。オープニングの疾走感がかっこ良かった~。でも2時間半はさすがに観客も疲れますね。
舞台は芝居小屋。あらすじにありますように劇団の稽古場を描くメタ・シアターです。舞台上を通って客席に行くようになっていたのも気の利いた演出でした(装置の構造上そうなっただけかもしれませんが)。
作家(さとうこうじ)が「作者です」と言って登場し、俯瞰する立場で発言してくれることで、ちょっと知的な観客でいられた気がします。「あの時の観客はどこへ行ったんだ?」と、観客にも強く問いかけるお芝居なので、キュっと気を引き締める思いもありました。
ここからネタバレします。
ある志をもって活動していた集団が、有名になって規模が拡大する内に、初心とは違う方向へと進んで全く別のものに変わり果てる姿は、身近なところでもよく目にすることです。
数年前に「壮士劇」で謳っていたオッペケペ節(“心に自由の種をまけ~”)を、「戦争高揚劇」終演後に1人で舞うシーンでは涙がしぼり出されました。「時代が変わったんだ」「戦争はもう始まったんだ」「今、観客が求めているのは戦争劇だ」と、目的がすりかわって行く様にはゾっとします。人事ではないです。
保村大和さん演じる文士が語った「虚は実ではないけれど云々」のお話が良かったな~。現実になりえない空想(虚)こそ、現実と対等に向き合えるのではないかという視点・・・だったかな。もう曖昧です。すみません。
出演=河原崎國太郎(劇団前進座) 町田マリー(毛皮族) 塩野谷正幸 さとうこうじ 保村大和 奈佐健臣(快飛行家スミス) 沖田乱 加地竜也 伊藤弘子 栗原茂 上田和弘 里美和彦 冨澤力 柏倉太郎 木暮拓矢 阪本篤 坂井香奈美 武田智弘 石井澄 諏訪創 熊谷清正 阿萬由美
【企画】観世榮夫 【作】福田善之(作者自身による2007年改訂版) 【演出】流山児祥 【音楽】本田実 【美術】水谷雄司(王様美術) 【照明】沖野隆一(RYU CONNECTION) 【音響】島猛(ステージオフィス) 【振付】北村真実 【殺陣】岡本隆 【映像】濱島将裕 【舞台監督】吉木均 【衣裳】大野典子 【演出助手】畝部七歩 【大道具製作】王様美術 【宣伝美術】アマノテンガイ 【制作】岡島哲也 青山恵理子 米山恭子 【制作協力】ネルケプランニング 【主催】流山児★事務所
全席指定 前売り:4,800円 当日:5,000円 学生割引:3,500円 プレビュー割引:4,000円 ※学生割引、プレビュー割引のチケットは流山児★事務所のみの予約
http://www.ryuzanji.com/
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イキウメ『散歩する侵略者』09/12-16青山円形劇場
イキウメは前川知大さんが作・演出される劇団です。『散歩する侵略者』は劇団による初めての再演で、初演にすごく感動したのでメルマガ9月号で1番にお薦めしていました。初演の感動ふたたび。やはり同じシーンで涙がこぼれました。上演時間は約2時間。
『散歩する侵略者』はこれで3度観たことになりますが(⇒初演、G-up版)、3種類それぞれが全く違う作品になっていたように思います。今回はしっとりとした会話劇で構成され、“侵略者”が登場する見た目のSFらしさの奥に、文学的な広がりを感じました。
残席は今のところまだあるようです。初日は満席のようでした。ご予約はお早めに。大阪公演もありますよ!
⇒雑誌「ダ・ヴィンチ」で『散歩する侵略者』小説版が連載中!
⇒CoRich舞台芸術!『散歩する侵略者』
レビューをアップしました(2007/09/14)。
※あらすじは初演のレビューでどうぞ。ネタバレ部分にどうぞ気をつけて!
円形劇場をほぼ円形に使った抽象的な舞台美術。方向性は初演と似ていますが、全体の印象はすっかり変化したように感じました。初演はストーリーを正確に伝えるために、若い俳優が強く、太く、一直線にがんばっていましたが、今回は2~3人の少人数の会話を丁寧に成立させることで、じわじわと虚構の世界に現実味を帯びさせていくような、演劇空間を味わう醍醐味が増した演出でした。空間が広くなったのもあるでしょうが、透明感とさわやかさがあって良かったです。衣裳が豪華になっていたのも印象に残りました。靴が素敵♪
私が観た回は笑いがいっぱい起こっていて、ちょっと驚きながらも自分も笑わせてもらって楽しみました。笑いを狙いに行っているわけではなく、舞台上の人物の素直な反応が可笑しさを生んでいたのだと思います。
そして、やはり、あのシーンで、涙がポロポロ~・・・!円形劇場なので困りましたよ、正面に舞台だけじゃなくって客席もあるんだもの!恥ずかしっ!なのにハンカチ忘れたから(汗)はなかみで涙を拭いつつの鑑賞でした(情けない)。
青山円形劇場という広い立派な中劇場で、会話劇中心の演出になったせいもあると思いますが、役者さんの演技の技術の差が気になりました。サンモールスタジオでは大丈夫だったけれど、中劇場で演出も大人っぽくなると、どうしても小劇場っぽさが目に付いてしまうんですね。私は初日に拝見しましたので徐々に良くなっているのだろうと思います。
20歳のアマノ役の日下部そうさんの登場シーンにはゾクゾクしました。語尾が面白い。
はしゃぐ若者2人(浜田信也&瀧川英次)のシーンは見ごたえがありました。役者さん2人ががっぷり四つに組んで空間の奪い合い(演技合戦とも言う?)をしているように見えて、そういう楽しみがありました(笑)。2人とも衣裳が可愛かった~。
ここからネタバレします。
“概念を奪う宇宙人”というアイデアはやっぱり凄いですね(宇宙人が意図的に奪っていないのもミソ)。知的好奇心をくすぐりつつ、今生きている世界を違った視点から見つめるよう導いてくれます。殺人事件の犯人探しのサスペンスであり、夫婦のせつないラブ・ストーリーであり、いつの間にか突然始まる戦争に問題提起をする社会派であり、「スターウォーズ」や「スタートレック」などのように見た目に明らかではありませんが、ちゃんと宇宙人が登場するSFです。
ラストは初演と同じく「人間からどんな概念を奪えば、戦争はなくなるの?」と問いかけるシーンがありました。でも演出は全然違っていて、私は今回の方が受け入れやすかったです。宇宙人という事件に遭遇し、何か大切なものを奪われたことを自覚した人間が、とうとう本気で動き出すという希望的な未来が、薄くですが見えたように思いました。
動きがぎくしゃくしていて、言葉の嘘っぽさで人間離れした風体をかもし出していた、宇宙人3人組(安井順平、日下部そう、内田慈)の存在が面白かったです。ただ、ナルミ(岩本幸子)から“愛の概念”をもらった後のしんちゃん(安井順平)は、もうちょっと大きく変化してもいいんじゃないかと思いました。
≪東京、大阪≫
出演=岩本幸子、浜田信也、盛隆二、國重直也、宇井タカシ、安井順平、瀧川英次、内田慈、日下部そう、町田晶子
作・演出=前川知大 舞台監督=谷澤拓巳+至福団 美術=土岐研一 音響=鏑木知宏(soundgimmick) 照明=松本大介(enjin-light) 衣裳=今村あずさ(SING KEN KNE) ヘアメイク=前原大祐(BRIDGE) 楽曲提供=安東克人(MARS NEON) 演出助手=矢本翼子 舞台監督=谷澤拓巳+至福団 演出部=棚瀬巧 大道具=(有)C-COM舞台装置 輸送=マイド 宣伝美術=末吉亮(図工ファイブ) 宣伝写真=田中亜紀 運営協力=サンライズプロモーション東京 制作協力=エッチビイ(株) 中島隆裕 制作=吉田直美
【発売日】2007/07/21 前売3,200円 当日3,500円 (全席指定・税込み) *未就学児入場不可
http://www.ikiume.jp
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