2008年11月10日
弾丸MAMAER『昭和スキャンティ』11/06-10あうるすぽっと
竹重洋平さんが作・演出される弾丸MAMAER(ダンガン・ママー)。チラシのビジュアルや描く時代・内容などが私の好みにビビっと来なかったため、今まで拝見せずにいたのですが、雑誌のぴあでお薦めされていたので観に行きました。
劇団の自主公演とは思えない、本格派の商業演劇のようでした。上演時間は約2時間20分(休憩なし)。
⇒CoRich舞台芸術!『昭和スキャンティ』
≪あらすじ≫ 公式サイトより
昭和33年、東京下町の裏街道に佇むとあるBAR。一見何の変哲もないこの酒場、働く女たちは皆、表向きには女給と称した訳ありの売春婦ばかりであった。ある日、突如現れた警視庁保安課の2人の捜査官。日本の国連加盟に際し施行された『売春防止法』により、違法営業に徹している女給たちを一斉検挙しようと躍起になる2人だが、所詮、彼らも「男」であった。一般客に成りすまし鋭い眼光を放って取締りにあたるものの、男の秘めたる情欲を察知する女給たちは、その上をいく。華やかな夜の蝶たちは色香を振り撒くと、その「お堅い客」を快楽の世界へいざなうのだが・・・。
おもしろうて、やがて哀しき、春を売る女たちの情炎
生きる術を奪われた、赤線娼婦たちの運命は如何に―
≪ここまで≫
高さもあって間口も広い舞台に、2階部分までしっかり建て込まれたバー(実は売春宿)。装置といい衣裳、ヘアメイクといい、客席に向かってガツンとセリフを言う役者さんといい、始まった時から“小劇場劇団の自主公演”といった印象は受けませんでした。26人の役者さんの出ハケや配置、アンサンブル的な動きなども、派手目の照明とマッチしています。
そういえばあうるすぽっとのロビーも、過去公演の舞台写真や今公演の美術模型がきれいに展示されていて、これまで私があうるすぽっとで観た公演の中で、一番ロビーらしい雰囲気だったかも。イスがふかふかで心地よいのも手伝って、すっかり大劇場で商業演劇を観るような気分でしたね。たとえば明治座とかシアタークリエとか。
エンタメ人情ものの色が濃いお芝居ですが、役者さんは観客にこびたりせず、しっかりと自分の役柄を自立して演じてらっしゃるように見えました。客演の方と劇団員の差もほとんど目立たず、作品のために存在するのが前提になっていて、好感度大。ただ、振付られたとおりに動いているのがしばしば目に付いて、退屈したりもしました。
売春宿をマッサージ店だと素直に信じ込んでいた警察官役の中村哲人さんが面白かったです。
ここからネタバレします。
「国家がついた嘘」という言葉が出てきた時、最近観たお芝居や読んだ本などを思い出しました。エンタメ色の強いドラマですが、作家が伝えたいことを堂々と示しているのもかっこいいですね。でも全体的には商業演劇の色合いが強いので、私の好みど真ん中ではありませんでした。
出演:中村哲人、小林広実、河合伸之、山口晶由、田仲晶、染谷恵子、安藤純、川根有子、日向宏之(吉江企画)、高森ゆり子( (株)ウィル・ドゥ)、小林香織(ワンダー・プロ)、森本73子(E-sprinG)、三枝翠、木村慎一、宮下千恵、川崎清美、土屋雄、坂田久美子(J.CLIP)、大曽根徹、千葉いづみ、松菜美樹、中路貴之(J.CLIP)、丹羽隆博(劇団バッコスの祭)、塚本愛美 嘉門洋子、坂口理恵(演劇集団キャラメルボックス)
脚本・演出:竹重洋平 音楽:吉川清之 美術:佐藤朋有子 照明:中山仁((株)アートプラス) 音響:宮崎裕之(predawn) 衣裳:阿部美千代((株)MIHYプロデュース) 舞台監督:山田和彦 宣伝美術:吉田光彦 宣伝デザイン:村上律子 ヘアメイク:火田山りやの 日景裕美子 特殊メイク:池浦順子 制作:水橋千佳子(弾丸MAMAER) 古谷真弓 プロデューサー:安井ひろみ((有)キィーワード) 企画・制作:弾丸MAMAER事務局 アキラグローバルビジョン(株)
【発売日】2008/09/06 前売り4000円、当日4500円
http://dangan-mamaer.gogo.tc/
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
便利な無料メルマガも発行しております。
【演劇教育】「Workshop on Workshop 2008 ワークショップの意味と仕組みを考えるワーク ショップ」11/09東京大学福武ホール内ラーニングシアター
平田オリザさん、吉野さつきさんがパネリストとして出演されるので伺いました。チラシはこちらでダウンロードできます。
ラーニングシアターってすっごい施設!!!参加者およそ100人が、一気にワークショップを体験・見学することができます。ワークショップ専用に設計されているということにも驚きました。
下記は自分がメモしたことの記録です。
■第1部 パネルディスカッション「クロスオーバーしていくワークショップ」
パネリスト:
・平田オリザ(劇作家/大阪大学コミュニケーションデザイン・センター)
・吉野さつき(ワークショップコーディネーター)
・苅宿俊文(青山学院大学ヒューマン・イノベーション研究センター)
司会:植村朋弘
平田「1982~3年頃から劇団を初めて88年頃から新しい方法論の演劇を作り始めた。その手法を説明するために、ワークショップを自分で作ってきた。94年に高校生向けにワークショップを実施したところ驚くほど好評だった。90年代後半に全国の公共ホールにワークショップブームが起こったため、依頼が殺到した。2000年頃から桜美林大学で教えていたが、今は大阪大学のコミュニケーション・デザイン・センターで教授をしている。」
平田「大阪大学では、コミュニケーション・デザイン・センターの授業を数年後には必修にする方向で動いています(おそらく医学部生について)。つまり演劇の授業を受けなければ医者にはなれないという、素晴らしい(笑)時代になる。ダンスも演劇もやります。最後は6人1組になって半年かけて専門領域を生かした演劇を作ることになります。その脚本は利害対立を含むものにする。」
平田「ワークショップが子供の教育に良いということは、もうすでにわかっていることです。不登校の子が学校に行き始めたりもします。そんな例はもう山ほどあります。」
平田「ワークショップをすることで『みんなそれぞれに違う(独特だ)』とわかります。金子みすずの『みんな違って、みんないい』ではありますが、それで終わるわけじゃない。世界の状況は『みんな違って、大変だ』なのです。」
平田「人間はそれぞれに違うから、インプット(して感じること)は皆ばらばらです。でも(実社会では)アウトプットでは何らかの答えを出さなければいけない。」
平田「フィンランドの国語教科書がよく例に挙がりますが、たった1つの正解を出すことが目的ではない。『誰が(ばらばらの意見を)まとめたか』が評価される。『どうにかする』能力が一番大事。」
平田「(日本の)学校では努力すれば報われると教えがちですが、芸術は努力しても報われないことが前提です。人間は集団でしか生きていけない。でもなかなか気持ちが伝わらない。そのもどかしさや絶望を知った上で、どうにかしなきゃいけない、どうにかするんだ、ということを学ぶ(のがワークショップ)。」
平田「演劇ワークショップと他のジャンル(美術ワークショップ、音楽ワークショップ)との違いは、『集団でどうにかして発表をしなければいけない』ということ。どうにかできなかった体験が、とてもつらいものであるのも特徴。その体験をすれば子供たちは『次は頑張る』のです。」
平田「小・中・高と学校で学んできたことが、社会生活とは乖離していることを皆さんは実体験でわかっていると思います。私たちの受験勉強では、ある一定の情報をある一定期間で覚えることを競っていた。期末試験の時までしか残らない短期的な記憶に意味はない。『ただ覚えること』は、人間の能力に意味を成さない。そういった『記憶』ははもうコンピューターがやってくれます。」
平田「短期的記憶についてはある程度わかっています(研究が進んでいます)が、実は私たちに必要な長期的な記憶については、まだほとんど解明されていないのが実情。ただ、複雑なさまざまな経験と、知識を組み合わせることで覚えると、長期的な記憶になる(ことはわかっている)。」
平田「人間は複雑な動きをする時ほど、インプットとアウトプットを同時に行っている。例えば私たちは学校で習った植物の名前よりも、散歩の帰りに母に教えてもらった花の名前をよく覚えている。『よりよく記憶する』ことが大事。」
平田「ワークショップ・デザイナーがワークショップをする時に大切なことは、参加者その人のそれまでの人生を大切にすること。」
吉野「今私たちが直面しているさまざまな問題に、芸術が役に立つことをヨーロッパの人たちは気づいている。」
平田「日本の学校の科目に音楽や美術はありますが、演劇はありません。芸大にも演劇学科がない。さらに音大、美大はありますが、演劇大学はない。職がないから学科がない、学科がないから職もないというのが現状。例えばカナダにはドラマ・ティーチャーという専門職の先生が各ハイスクールに配置されています。イギリスでは劇場が学校にアーティストを派遣したりしている。小学校の語学教師(ALT)と同じ位置づけです。世田谷パブリックシアターも世田谷の学校に派遣していますね。輸入して真似るのが上手い日本人ですから、この10年でワークショップのレベルはかなり上がっています。あとは意識の高い自治体が制度化するしかない。」
平田「出会いの場を作ることが大切。大阪・中ノ島に『哲学カフェ』というものを作りました。演劇はこの2500年間、コミュニケーション・デザインをしてきた分野である。コミュニケーションの幅を広げる場を作りたい。」
※司会の方は常に「まとめると」「共通するところは」「ひとことで言うと」などとおっしゃっており、“ワークショップ”の意味をわかっていない方のように思いました。
■第2部 ミニワークショップ「まさにワークショップ オン ワークショップ」
ワークショップデザイナー:
・柏木陽(演劇ワークショップ/NPO法人演劇百貨店)
・高尾美沙子(メディアワークショップ/青山学院大学 ヒューマン・イノベーション研究センター)ほか
・ワークショップ解説:苅宿俊文/吉野さつき
演劇ワークショップ参加者、メディアワークショップ参加者、それの映像中継を見る人の3つのグループに分かれて、約1時間のワークショップの後にグループディスカッションあり。
主催:特定非営利活動法人学習環境デザイン工房 担当:苅宿俊文 高尾美沙子
協力:青山学院大学ヒューマン・イノベーション研究センター 大阪大学コミュニケーションデザイン・センター
参加費:¥1,000(資料代として)
チラシダウンロード⇒URL http://www.heu-le.net/wonw.pdf
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
便利な無料メルマガも発行しております。
Bunkamura『表裏源内蛙合戦』11/09-12/04シアターコクーン
平賀源内(1758-1779)の生涯を描いた、井上ひさしさんの1970年初演戯曲『表裏源内蛙合戦(おもてうらげんないかえるがっせん)』。演出は蜷川幸雄さん、主演は上川隆也さん、勝村政信さんという今年下半期の話題作です。
何曲歌うの!?何度着替えるの!?一体何シーンあるの!?これでもか、これでもかと、止まらず、進み続ける約4時間10分(途中20分の休憩を含む)の超大作。
⇒CoRich舞台芸術!『表裏源内蛙合戦』
平賀源内が生まれて死ぬまでの江戸時代の風俗を、言葉遊びがふんだんな歌に乗せて、ピンからキリまで徹底的に紹介していきます。総勢38人の役者さんがどんどこ着替えて何役も演じて、もうその目まぐるしさったら!!カーテンコールでは、疲れを通り越してすがすがしさがありました(笑)。
いわゆる上質なストレート・プレイとは言えない作品だと思います。脚本・演出・演技・スタッフワークの完成度なんて気にしていられない疾走感でした。膨大な情報の洪水に、ひとつひとつをじっくり考える余裕はなく、終幕直後は疲れていたのもあって、面白かったんだか面白くなかったんだかも、わからなかった(笑)。
個人的には正視できないきわどいシーンもあり、耳を疑いたくなるほど卑猥なセリフもありました。でも、全てを観終わった後にやってきた、あの、感覚は・・・“観劇をした”気分じゃなかったんですよね。役者さんとスタッフ、そしてお隣りに座った観客の方々と一緒に、現在とはまるで違う世界(江戸時代の日本)の中を走り過ぎたような・・・。「表裏」とタイトルにありますように、清も濁も含み込んで、ただ必死に生きた人々の渦の中に巻き込まれて、そこで息をしていたからなのかも。全てひっくるめて“平賀源内の人生”で、“江戸時代”だったのかもしれません。
小道具、衣裳の贅沢な使いっぷりに『ニンゲンご破産』を思い出しました(笑)。
ここからネタバレします。
出演者全員(おそらく?)による前口上が素晴らしかったです。後半の幕開けの勝村政信さんの長いセリフも圧倒的でした。
歌がすっごく多いです。歌だけで1シーン終了することもあったり。とにかく止まらないお芝居でした。ひたすらまっすぐ進み続ける!おバカと、どマジが交互に、または同時に手加減なく降り注ぐというか(笑)。♪あ~長崎は~今日も、雨だった~♪
上川隆也さんは何をやっても(笑)クリーンな好印象で凄い。落ち着きも華もあって、最後に無言で1人舞台に立っていた時は素晴らしかった。勝村政信さんが登場するとピリリと空気が引き締まりました。
オ●ニーばかりやってる殿様役の高橋努さんと家老役の豊原功補さんは、やってることはひどいのですが(苦笑)、愛らしい存在感。お2人が全然違う役柄で登場した時も良かったです。どんな役でもいつも目を引かれたのは六平直政(むさか・なおまさ)さんでした。
吉原のシーンの露骨な精描写は『新・近松心中物語~それは恋~』でも免疫があったのでオッケイ。でも両国は・・・清濁というより濁濁・・・。客席が照明で明るくされていたもつらかったですが、今も昔も人間のやってることって、“正視できない”“耳を疑う”ようなことだとは思います。
昼&夜に公演がある日は、いったい役者さんとスタッフさんはいつ休憩されるのでしょうか・・・??(休憩なんてないのかな)
出演:上川隆也、勝村政信、高岡早紀、豊原功補、篠原ともえ、高橋努、大石継太、立石凉子、六平直政 あさひ7オユキ 福本伸一 木村靖司 冨岡弘 二反田雅澄 大富士 飯田邦博 塚本幸男 堀文明 井面猛志 篠原正志 田村真 星智也 澤魁士 野辺富三 西村篤 川﨑誠司 本山里夢 鈴木重輝 増田広太郎 谷中栄介 羽子田洋子 難波真奈美 太田馨子 蜷川みほ 今井あずさ 山崎ちか 茂手木桜子 荻野美香
脚本:井上ひさし 演出:蜷川幸雄 音楽:朝比奈尚行 美術:中越司 照明:室伏生大 音響:鹿野英之 衣裳:小峰リリー 振付:広崎うらん 所作指導:花柳輔太朗 かつらメイク:奥松かつら 演出補;井上尊晶 舞台監督:明石伸一 営業:加藤雅広 票券:岡野昌恵 制作助手:市川美紀 制作:森田智子 唐澤まどか 大宮夏子 プロデューサー:加藤真規 企画・製作:Bunkamura 東京公演主催:Bunkamura
S席・¥9,500 A席・¥7,500 コクーンシート・¥5,000 中2階立見券 ¥3,500
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/shosai_08_omoteura.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
便利な無料メルマガも発行しております。