2008年11月16日
イキウメ『図書館的人生vol.2 盾と矛』10/24-11/03三鷹市芸術文化センター 星のホール
前川知大さんが作・演出されるイキウメの短編集シリーズ第2弾です(⇒第1弾)。上演時間は約2時間20分。日常生活と隣り合わせのひんやりとしたSFを堪能。少々長いめでしたが、いっぱい笑えたのも楽しかった。
星のホールの使い方にも余裕が感じられました。青山円形劇場や紀伊國屋ホールでの上演経験がある劇団ですものね。
来年1月には「NHKシアター・コレクション'09」でも『イキウメ短篇集』が上演されます(Vol,1、Vol,2から選ばれた4篇)。
⇒CoRich舞台芸術!『図書館的人生vol.2 盾と矛』
短編集なのでひとつの話が終わると次の話へと場面転換をします。舞台奥のホリ幕が青一色に染まり、移動させる家具がシルエットになってかっこよかったです。※色は青じゃないこともありました。
ここからネタバレします。
1、賽の河原で踊りまくる「亡霊」
出演:板垣雄亮 國重直也 盛隆二 森下創 浜田信也 伊勢佳世
鬼(板垣雄亮)の厳しい監視のもと、死者たちがやりがいのない単純作業をさせられる。
鬼が奪衣婆(だつえばあ・伊勢佳世)に反旗を翻すのが可笑しかった。そしてそのおかげで“あがり”になり、最後に残った死者(浜田信也)が鬼になってしまうのも。
2、やさしい人の業火(ごうか)な「懐石」
出演:古河耕史 盛隆二 岩本幸子 浜田信也 國重直也 盛隆二
(おそらく)幼い子供を失った夫婦(盛隆二&岩本幸子)が、暴漢に襲われた見知らぬ若者(古河耕史)を自宅に招いてもてなそうとする。彼が刑期を終えて出所したばかりとは知らずに。
さわやかな笑顔を浮かべつつ、淡々と夫婦を支配していく若者がうすら恐ろしくてかっこ良かったです。若者が去った後、妻が警察に電話をするのを止めた夫も、覚悟があっていいですね。
3、瞬きさせない宇宙の「幸福」
出演:窪田道聡 森下創 緒方健児 岩本幸子 板垣雄亮 古河耕史
宇宙人(板垣雄亮)がある秘密兵器をもって地球を支配しにやってきた。ソレを見ると、どんな人間も幸せな気持ちになって身動きができなくなる。
至福を味わわせながら死に至らしめる大量殺戮なら、簡単に成功しそうだとすんなり納得。渋谷の大きな広告にソレが貼られたら・・・とリアルに想像できてゾワっと来ました。
4、東の海の笑わない「帝王」
出演:浜田信也 伊勢佳世 國重直也 岩本幸子
感情が顔に表れずに体の反応として出てしまう奇病を持つ男と、そうとは知らずにその男と結婚した女のお話。カラっと気持ちよく大笑いさせていただきました。
MITAKA "NEXT" Selection 9th 攻めるものと守るもの、武器についての短編集
出演:浜田信也 盛隆二 岩本幸子 森下創 緒方健児 國重直也 伊勢佳世 古河耕史 板垣雄亮 窪田道聡
脚本・演出:前川知大 美術:土岐研- 照明:松本大介(enjin-1ight) 音響:鏑木知宏 楽曲提供:安東克人(&cut) 衣裳:今村あずさ(SING KEN KEN) ヘアメイク:前原大祐 演出助手:矢本翼子 舞台監督:谷渾拓巳 演出部:渡邉亜沙子 上嶋倫子 衣裳部:山本有子(ミシンロックス) 宣伝美術:末吉亮(図工ファイブ) 宣伝写真:坂田智彦 WEB制作:渡邊由布 舞台写真:田中亜紀 制作協カ:エッチビイ 制作:中島隆裕 吉田直美 主催:イキウメ(財)三鷹市芸術文化振興財団
【休演日】10/27(月)【発売日】2008/09/06【全席指定】一般:前売3,300円 当日3,600円 高校生以下1,000円(前売・当日共/当日学生証拝見) 未就学児童入場不可
http://www.ikiume.jp/
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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ドイツ文化センター/日本演出家協会「シンポジウム 演劇と社会」11/15ドイツ文化センター

演劇と社会
日本演出家協会が主催する国際演劇交流セミナー2008【ドイツ特集】の、シンポジウムに伺いました。
ドイツの演劇人が来日して東京と大阪でワークショップを開くなど、大掛かりな企画のようです。できたらDVD上映や講演も聞きたかったんですけど、シンポジウムのみ拝聴いたしました。
■シンポジウム(17:00-19:00)
パネリスト(登壇者下手から):司会:新野守広(立教大学教授) 堤広志(舞台評論家) ローラント・コーベルク(ドラマトゥルク、ベルリン・ドイツ座) ヘレーナ・ヴァルトマン(演出家、振付家) リズ・レッヒ(演出家) 田中孝弥(劇作家・演出家・清流劇場代表)
まずは舞台評論家の堤広志さんが日本の小劇場劇団(チェルフィッチュ、ピチチ5、サンプル、五反田団、ポツドール、東京デスロック、ひょっとこ乱舞、ハイバイ)を舞台映像、舞台写真とともに紹介されました。ヘレーナ・ヴァルトマンさんは大いに興味を持たれたご様子でした。
ドイツに留学されていた田中孝弥さんが、ご自身の劇団・清流劇場の活動とドイツ演劇への取り組みについて、しっかり準備された資料を読み上げられました。
田中「ドイツ演劇に触れたことで、考え続けることの美しさに気づくことができた。友人に『演劇人は新しい価値観、ものの見方を提供してくれる』と言われて嬉しかった。劇場を拠点にして、ふだん生活している社会について考える機会を与えるのが、演劇。」
田中「日本人は、責任の取り方を考えなくなってきているのではないか(例:汚染米事件など)。責任の追及について描いたドイツ戯曲を演出し、自分はどうするのか、自分はどう生きるのかに向き合った。7年間ドイツ演劇に関わって、『わからなくてもいいんだ』ということがわかった。失敗しない人間などいない。だからこそ人間は、責任の取り方について考える必要がある。問題を考え続けることで、豊かな人生を生きられると思う。」
田中「ドイツ演劇は、『私が生きている』ということを実感できるおもちゃである、と思った。」
田中「稽古場で日本語だけが飛び交う必要性はないと思うようになった。多ヶ国語が飛び交うほうが、価値観の可能性を考えられる。表現をつくる上で、健全な気がする。」
ローラント・コーベルク「(最近のドイツでは)特定のあり方に疑問を呈する演劇が多い。free theater(インディペンデントの劇団?)が公立の劇場にも乗り込んできた。ドイツの劇場は、観客の頭を刺激できればそれがいいと考えている。(観客が)『よくわからない』と思って、考えることが大事。観客に『演出家の意図を知りたい』と思わせることが大事。」
ローラント・コーベルク(もしくはヘレーナ・ヴァルトマン)「昔の人は解決策を提示していたが、今は疑問を投げかけたり、問題を可視化したりして、その解釈は観客にゆだねるタイプの作品が多い。演劇は、考えて生きる可能性の時間。」
※ヘレーナ・ヴァルトマンさんも一緒にお話されていました。
リズ・レッヒ「今のドイツの若手の演劇は、主張したりするのではなく、対案を出すのがホットなテーマだと思う。社会全体が相対的になって、ごちゃまぜで、政治性をともなわないようになった。次にどういう対案(例えば資本主義への対案)を出すのかが重要。答えがわからなくても暫定的な対案を出すのが、次の世代の演劇だと思う。」
■ひとこと感想
ワークショップでは“アイデンティティー(自己同一性)”がテーマになっていたようです。リズ・レッヒさんが「日本人が自分のアイデンティティーを問うことにあまり頓着がないことに驚いた」という意味のことをおっしゃっていました。
日本は島国で公用語が1言語ですし、日本人は自国が単一民族国家と思い込んでいる傾向がありますし、また「他人に迷惑をかけてはいけない(迷惑になる自己主張は控えろ)」といった義務教育のムードもありますし。「私とは一体誰なのか」と自分自身に問う機会は、何か特別なきっかけでもなければ起こりづらいのかもしれないと思いました。
来年はドイツの演劇が日本で上演される機会がけっこうあるようで、ぜひ公演に伺いたいと思いました。
15:00-16:00 DVD上映とコメント(ヘレーナ・ヴァルトマン)
16:00-17:00 講演「演劇と社会」(ローラント・コーベルク)
17:00-19:00 シンポジウム
パネリスト:ヘレーナ・ヴァルトマン(演出家、振付家) リズ・レッヒ(演出家) ローラント・コーベルク(ドラマトゥルク、ベルリン・ドイツ座) 堤広志(舞台評論家) 田中孝弥(劇作家・演出家・清流劇場代表) 司会:新野守広(立教大学教授) 共同主催:日本演出家協会
有料(1,000円)、要申込 日独同時通訳付
http://www.k2.dion.ne.jp/~jda/
http://www.h2.dion.ne.jp/~port/tg/tg0811.pdf
http://www.goethe.de/ins/jp/tok/kue/the/ja3602890v.htm
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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五反田団『すてるたび』11/15-25アトリエヘリコプター
前田司郎さんが作・演出・出演される五反田団の新作公演です。劇団のホームであるアトリエ・ヘリコプターでの4人芝居で11日間公演。
ゆるりと漂うような、するりとすり抜けるような、約1時間25分でした。
⇒CoRich舞台芸術!『すてるたび』
イスが4脚ならんだだけの空間。客席はステージを正面と下手の2方向から挟む形状でした。私は正面の席を選択。たぶんどちらでも楽しめるんじゃないかと思います。
照明や音響、衣裳などのスタッフワークはミニマム。ゆるりゆるりと4人がしゃべる内に、景色が変わり続けます。あっ、という間もなく、どこかに連れて行かれてしまいます。
当日パンフレットの前田さんの文章の「昼寝して、変を見ちゃったみたいな感じ」を、そのまま体感した気分でした。だからなのか、途中で少々眠くなったりもしました。15:30開演のマチネって私にはちょっとした危険ゾーンだったかも(眠気に襲われるので・・・)。
ここからネタバレします。
長女(後藤飛鳥)、長男(前田司郎)、次男(黒田大輔)と、次男の妻(安藤聖)が、“タロウ”が入った棺を捨てる旅に出ます。タロウが何なのかははっきりとはわかりません。もしかしたら父親かもしれないし、でも次男のことかも・・・?と、棺の中に入っている死人が誰なのかがスルスル変化していくのが面白かったです。
人間が死んだら死体が残る、つまり人間はこの世に体を捨ててあの世に行くことになります。人生は、体をもらってから捨てるまでの旅路みたいなものなのかしら、と。
長男と次男のやりとりが小学生みたいで可愛かったです。
巨大な仏像(?)は私も電車の車窓から見つけたことがあります。あれは何なんだろうなぁ。
五反田団第36回公演
出演:安藤聖 黒田大輔(SHAMPOOHAT) 後藤飛鳥 前田司郎
脚本・演出:前田司郎 宣伝美術:藤原未央子 制作:榎戸源胤 票券管理:三橋由佳 制作補:清水建志 尾原綾 照明協力:山口隆(S-B-S) 主催:五反田団
2008年10月15日(水)予約受付開始 予約・当日ともに1500円(日時指定・全席ほぼ自由席・整理番号付)
http://www.uranus.dti.ne.jp/~gotannda/
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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