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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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2010年08月25日

CATプロデュース+ジェイ.クリップ『今は亡きヘンリー・モス』08/22-29赤坂RED/THEATER

 久しぶりにずっしりガツン!と来るストレート・プレイを拝見しました。サム・シェパード作品というと舞台で観たのは2作のみで(レビュー⇒)、他は戯曲を少し読んだ程度なのですが、戦争の影に重みがあってリアルで、今回もそこが良かったです。

 翻訳・演出は小川絵梨子さん(⇒2005年朝日新聞インタビュー)。緻密で丁寧な演出にベニサン・ピット時代のTPTで味わった感覚を思い出しました。2時間40分(休憩10分含む)という長丁場ですが、サスペンス仕立てなのでそれほど長く感じませんでしたね。

 「今は亡きヘンリー・モス」の原題は"The Late Henry Moss"。「今は亡き」という日本語訳が素晴らしいと思います。

 ⇒CoRich舞台芸術!『今は亡きヘンリー・モス

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 父、ヘンリー・モス(中嶋しゅう)が死んだ。
 家族を捨て、一人辺境の地で暮らしていた父親の死を知った兄弟は、父の死体の横たわる家で7年ぶりに出会う。
 真実を知りたがらない兄アール(谷田歩)と、父の死の真相を暴こうとする弟レイ(伊礼彼方)。
レイは、アールの反対を押し切り、父の最期の数日に関わった人物たちを執拗に追及し始める。
 隣人エステバン(田中壮太郎)、タクシーの運転手(福士惠二)、そして、父のガールフレンドだったという、謎の女、コンチャーラ(久世星佳)。
 真実を知るのは誰なのか?
 物語は、過去と現在を行き来しながら、ヘンリー・モスの最期の数日間を、そして、家族の隠された過去を紐解いていく。
 ≪ここまで≫ 

 翻訳戯曲を心理的リアリズムの演技で上演。父ヘンリーの死体を前に、彼がなぜ、どのようにして死んだのかを回想シーンで見せていきます。転換中に流れる音楽に品があり、映像も含めた照明や装置、衣装にもこだわりがあって、贅沢な小劇場観劇をさせていただきました。

 兄アール(谷田歩)が緻密な演技でこきざみに感情を変化させ、どこまでが本当でどこまでが嘘なのかを探らせてくれます。特に父と対峙する姿が良かったです。
 スープをつくって運んでくる隣人エステバンをコミカルに演じてくださったのは田中壮太郎さん。さすがの呼吸と存在感でした。

 ここからネタバレします。

 父に愛されなかった(ほぼ虐待されていた)兄弟は、自らの家族を持つことができないまま、互いに1人で別々に暮らしています。どんなにひどい仕打ちを受けても、子供は親を愛しているんだなといつも思います。じゃあなぜ父は息子たちを愛せなかったのか。それは父が戦争で人を殺してきた兵士だったことに由来します。以下はあらすじです。

 アル中で暴力的な父ヘンリーは退役軍人。第二次世界大戦で日本人を多数殺し(←自分でそのように言います)、今は恩給で生活しているようです。大金が入る度に街に繰り出し、飲んだくれています。

 弟レイは20年前、父が母にひどい暴力を振るった日のことを兄アールに話します。「あの時、兄さんが父さんを止めてくれると思ったのに、あなたは白い車に乗って逃げていった(それ以来会っていない)。」でもアールはかたくなに「自分はそこに居なかった」と主張します。

 死期が近づいてきて朦朧としてきた父は、「妻(アールとレイの母)に暴力をふるった時に、俺は既に死んでいた(命はあれども人間としての心は死んでいた)。俺は自分で自分を殺したのだ。」と告白します。留置所で会った時からそれに気づいていたコンチャーラは、彼が死を受け入れるのを見守っていたのです。

 「あの時、お前は俺を止められたのに、止めなかったんだ」とすごむ父に、アールは「(あなたが)怖かった」のだと告白します。父は「俺が?怖かったのか?」と返答。きっと初めて父と兄が本当に会話できた瞬間だったんだろうと思います。その言葉を最期に父は自らベッドに横になり死亡。

出演:谷田歩 伊礼彼方 田中壮太郎 福士惠二 久世星佳 中嶋しゅう
脚本:サム・シェパード 演出:小川絵梨子 美術:中村公一 照明・映像:原田保 衣装:ゴウダアツコ ヘアメイク:川端富生 振付:足立美幸 アクション指導:中村嘉夫 舞台監督:村田明 演出助手:保科由里子  照明操作:武藤聡 映像プログラマー:山田裕二 音響操作:目黒愛美 舞台監督助手:太田美乃凧 アンダースタディ:長谷川祐之 大道具:C-COM舞台装置 小道具:高津映画装飾 舞台製作:クリエイティブ・アート・スィンク 加賀谷吉之輔 版権コーディネーター:マーチンR・P・ネイラー リーフレソト制作・印刷:トウイン企画印刷 宣伝写真:引地信彦 宣伝美術:冨田中理 制作協力:田中浩補 票券:ジェイ.クリップ 制作:北原ヨリ子 有賀美幸 プロデューサー:江口剛史 上谷忠 企画・製作:シーエイティプロデュース ジェイ.クリップ
【発売日】2010/06/05 6,000円※全席指定、全て税込み金額になります。
http://www.stagegate.jp/performance/2007/hm/index.html
http://www.wokenglacier.org/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2010年08月25日 10:54 | TrackBack (0)