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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2010年10月16日

遊園地再生事業団『ジャパニーズ・スリーピング/世界でいちばん眠い場所』10/15-24座・高円寺1

 宮沢章夫さんの3年振りの新作舞台です(過去レビュー⇒)。テーマは「眠り」。そして当日パンフレットによると「インタビュー」もテーマの1つのようです。

 面白かった~~~~♪ かなりかまえてたんですけど(寝ちゃうんじゃないかとか、わかんなくて悲しくなるんじゃないかとか)、大丈夫でした。
 上演時間は、言うとネタバレになる気がするので、ここでは控えます。

 公演パンフレット買うのを失念・・・。野田秀樹さんと宮沢さんのロングインタビューなど充実してるようですので、気になった方はお忘れなく。巨大でデザインもかっこいいです。買えなかった私がなぜ宣伝(涙)。

 終演後のトークのゲストは作家の高橋源一郎さんでした。内容を一部アップしていますので、よかったらどうぞ。

 ⇒チケット予約
 ⇒初日終演後のトーク後の会話(宮沢章夫&高橋源一郎)
 ⇒佐々木敦さんの感想ツイート
 ⇒宮沢章夫さんにこのレビューを読んでいただけました(
 ⇒CoRich舞台芸術!『ジャパニーズ・スリーピング/世界でいちばん眠い場所

 おおざっぱに言うと、ステージは中央と上手、下手の3つの部分に分かれます。上下には同じ大きさのテレビモニターが数個並び、中央は何もない空間にイスが一脚。中央奥には巨大な金属質の(ような)壁がそそり立っていて、大きく映像が映写されます。劇場のえんじ色の壁もそのまま見せて、冷たくてシャープな空間。

 ずっと眠れない男、起きてるのに寝言を話す女、世界で一番眠い場所を知ってる女などが登場し、「眠り」にまつわる色んなエピソードが断片的に繰り出されます。「眠り」について、自分の体験も思い出しつつ想像して、心地よくさまよいました。まどろむんじゃないかと予想していたんですが、舞台にいる人たちと客席の観客と一緒に眠っているような感覚を持ちつつ、でも実際には全然眠くはなかったです。覚醒したまま漂うような、不思議な、でも心地よい時間でした。

 デジタルの高性能カメラで演技しているその場を撮影し、生中継します。映像が鮮明でハっとしました。見る側、見られる側が入れ替わります。撮る人と撮る人を見る人(=観客)、眠る人と眠っている人を見る人、夢を見ることと夢を振り返ること、死ぬことと生きることなどが、舞台上および自分の頭の中で入れ替わり、多次元の世界、それこそ夢を実体験しているような気がしました。でも舞台にいる役者さんも客席の観客も、たしかに今、生きて(起きて)いるので、夢ではないんですよね。贅沢な演劇的体験です。

 役者さんは皆さんとっても良かったです。理性を保って自分をコントロールしつつ、でも型にはまったロボットにはならない。意識がのびのびと会場全体に広がった状態を持続させ、生きた人間でいたからじゃないかしら、と、想像。誰もが自立していてかっこ良かった。

 伊沢磨紀さんが本を読んでくださっているのに、全然耳に入ってこなかったんです(すみません)。でも全く退屈じゃなくて、気持ちよかった。意識がはっきりしてるのに、ぼんやり、みたいな状態?
 田中夢さんがエロかった・・・!まずあのドレス。そしてパンプス。素晴らしいです[衣裳=irishcream(安食真・告鍬陽介)]。女性は田中さんを含む3人がセリフを話していたのですが、皆さんとっても可愛かったです。てかエッチなんだよ!みんな!!宮沢さんの女優の使い方に、岩松了さんと似たセンスを感じます。洗練されていて官能的。

 ここからネタバレします。

 「眠り」といっても色々。睡眠、死、オーガズムなど。チラシの写真は練炭による集団自殺の前なのかと思うと、さらに味わいが深いですね。
 終わり方が突然でした。終わりそうだとは思ったけど、予想できない形で良かったです。眠りに答えなんてない、と言われた気がして、それも良かった。

 上演時間は約1時間50分。

 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
 出演:宮沢章夫( @aki_u_ench ) 高橋源一郎( @takagengen

 客席でチラっと見かけた男性に「この人が高橋さんに違いない!」となぜか確信。写真も見たことないのに。そして当たっていました。ツイッターのアイコンのおかげかも。
 白髪まじりのバサっとした髪型に紺色のTシャツとジーンズ、そしてリュックサックという、飾り気のないカジュアルなスタイル。気さくでサービス精神旺盛で優しい方でした。ツイッターでの静かな語り口とはちょっと違って、より魅力的に感じました。演劇にもお詳しくて驚きました。きっと戯曲と小説を読んでらっしゃるからでしょうね。あ、でもチェルフィッチュの『三月の5日間』は舞台をご覧になっていたようです。最初に客席に向かってセリフを言われたのには驚きました。自由だな~。

 以下、私がメモした程度ですので正確性に責任は持てません。ご了承の上お読みいただけたら幸いです。

 高橋「宮沢さんとは初対面なんですが、初対面の気がしないのはツイッターのせいかな。本は6冊読んでます。ファンです。今回読み返してみたんですが、私と宮沢さんは似ていると思います。まず私は昔、劇作、演出、俳優をやっていました。そして方法論や考え方が似ている。“何かをじーーーっと見ていると、ヘンなものに見えてくる”。そんなことを書いている。」

 高橋「10年ぐらい疑問に思っていたことが、今日、解けました。謎が解けた。劇作家で小説を書く人がいるけど(寺山修司、唐十郎、清水邦夫、野田秀樹、松尾スズキなど)、戯曲に比べると小説はその劣化バージョンというか、劇作家は余技として小説を書いているという印象だった。でも最近の若手(岡田利規、前田司郎、三浦大輔、本谷有希子など)は、戯曲と小説が別のものになっている。時には戯曲よりも小説の方がいいんじゃないかというぐらい、小説が上手い。それは演劇が小説になったからだと思ったんです。今日の舞台を観て。
 宮沢さんはその若手の方になぜか入ってますね。宮沢さんの小説『機械』(「時間のかかる読書―横光利一『機械』を巡る素晴らしきぐずぐず」のこと?)は、へんなことをしてるだけの話で、とても面白い。あれはそのまま演劇だと思ったんです。つまり演劇は(ある状態の)細部を、詳細を描くようになった(ストーリーではなく)。」
 宮沢「1990年代半ばにドラマを使う必要はないのではと思ったんです。それがあるかも。」

 宮沢「なんで演劇なんかしてるんだろうと思った時もありましたが、演出していて面白くて仕方がないんです。演劇が好きなんですね。役者と接すること自体が楽しい。今日はミスがあったんですが、役者がトチると嬉しい。後で言ってやろうって思うから。」
 高橋「演劇は小説に似ている。だって人が出てるでしょう。たとえば詩には人は出てこなくてもいい。でも小説は、情景描写だけの作品もあるけど、人が出てこないとつまらないんだよね。人が出てくると嬉しい。今日だって“水も滴るいい女”(田中夢さん)とか、いいよね(にっこり)。」
 宮沢「人間が好きなんですよね。1時間45分で終わります、と言っておきながら、終わらないとか。どうなるかわからない。」
 高橋「ライブ映像があったけど、あれはライブじゃないね。よくニュースで中継だとか言ってるけど、あれは嘘だね。だって目の前にいる人(役者)の方がライブだし。見ていたい。」

 宮沢「なぜこんな演出をするのか、なぜあのスピードなのか、とか聞かれたりするんですが、たいてい意味はないんです(笑)。ここちよさでやってる。」
 高橋「ゆっくり歩く場面が好きだったんだけど、なんでゆっくり歩くのを観てるのって、気持ちいいんだろうね。」
 宮沢「ゆっくり(歩くのを)見るのは、時間を引き延ばすこと。太田省吾さんに教えてもらいました。劇とは省略であると。夜からいきなり朝になったり。でも本当は(時間は)省略できない。このあいだ徳川埋蔵金の発掘番組があったけど、あれを24時間テレビでやって欲しいよね(リアルタイムで省略なしで)。誰も見ないだろうけど(笑)。」

 高橋「眠りについて書かれた小説の引用がたくさんあったけど、睡眠といえばコレ!という作品がなかったね。『キャッチャー・イン・ザ・ライ』がないのはどうよ!あれはアイデンティティー・クライシスで眠くなる話。」
 宮沢「すみません、忘れてました。」

 その後「自分にとって世界で一番眠い場所とはどこか」という話になりました。
 人間は危機に陥ると、頭の回路を無意識に切っちゃうから眠くなるのではないか。逃げようとする時に眠くなるのではないか、など。
 宮沢さんは緊張すると眠くなるそうです。高橋さんは・・・プライベートなことを話してくださったので、ここでは書かないでおきます。ありがとうございました!

出演:上村聡、田中夢、牛尾千聖、岡野正一、川口聡、山村麻由美、宮崎晋太朗、今野裕一郎、伊沢磨紀、やついいちろう
脚本・演出=宮沢章夫 音楽=桜井圭介 美術=林巻子 写真=鈴木理策 衣裳=irishcream(安食真・告鍬陽介) 舞台監督=田中翼 照明=齋藤茂男(シアタークリエイション) 音響=半田充(MMS) 映像助手=高橋祐子 演出助手=山本健介/近藤久志/石原裕也 デザイン=相馬称 制作=黄木多美子/笠木泉 後援=杉並区 提携=座・高円寺/NPO法人劇場創造ネットワーク 製作=遊園地再生事業団/ルアプル 助成=芸術文化振興基金/東京都芸術文化発信事業
・一般:4,500円 ・学生:3,500円(遊園地再生事業団のみの取扱・枚数限定)
終演後のトーク:15日[金]19:00 = 高橋源一郎氏 17日[日]19:00 = 青山真治氏 18日[月]19:00 = 岡室美奈子氏 19日[火]19:00 = やついいちろう氏
http://ticket-u-ench.com//

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2010年10月16日 01:13 | TrackBack (0)