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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2010年11月10日

tpt『この雨 ふりやむとき』11/08-28東京芸術劇場小ホール2

 オーストラリアの劇作家アンドリュー・ボヴェルさんの2008年初演戯曲を、鈴木裕美さんが演出されます。鈴木さんがTPTで演出を手掛けるのは『ある結婚の風景』以来でしょうか。

 1959年から2039年までの親子3代にわたる物語です。少々複雑ですがとっても面白かった!演出が丁寧でわかりやすく、仕掛けも贅沢でした。上演時間は約2時間10分(休憩なし)。

 ⇒CoRich舞台芸術!『この雨ふりやむとき

 ≪あらすじ≫
 男が一人で暮らす部屋に1本の電話がかかってくる。20年会っていない息子からだった。男は過去を回想する。
 ≪ここまで≫

 先週の『おそるべき親たち』と同じく客席が三方から囲むステージ。でもデザインは全然違いました。木の床に木製のイスと机という風に、色と素材が統一されている抽象舞台です。

 悲しい運命を引きずってしまう親子の物語。同じセリフを違う人物が言うことで、連綿と続く血縁や、繰り返す歴史を感じさせてくれます。気候の変化(天変地異も含む)が人間関係に大きな影響を及ぼすなど、大自然や宇宙の営みの中に人間が生きている、といった広大なイメージもわきます。

 パンフレット(800円)には人物相関図が載ってます。世界地図もあり、登場人物が訪れるオーストラリアのクーロン、アリス・スプリングス、ウルル、アデレード、そしてイギリスのロンドンの位置関係がわかります。距離を具体的に想像して、遠い、遠い、町と町がつながりました。

 ここからネタバレします。

 7歳の時、父ヘンリー(村上淳)に捨てられたゲイブリエル(須賀貴匡)は、オーストラリアから届いていた父の絵ハガキを見つけて、現地に向かいます。母エリザベス(峯村リエ)は父の消息をずっとひた隠してにしていました。というのも、父には幼い少年を愛する性的嗜好があったから。
 ゲイブリエル(須賀貴匡)はオーストラリアのクーロンに着くと、モーテルで働くガブリエル(田畑智子)と出会い、恋に落ちます。2人は偶然同じ名前だけれど、イギリスとオーストラリアではAの発音が違うのが象徴的。ガブリエルは幼い頃に兄が死に、母も父もそれを追うように先立ってしまい、孤独な一人暮らしです。兄の死の真相がわかる時、2人に悲惨な別れが訪れます。

 交通事故に遭ったガブリエルは、偶然通りかかって助けてくれた青年ジョー(八十田勇一)と結婚。でも同乗していて即死したゲイブリエルのことが忘れられず、やがて精神を病んでしまいます。ガブリエルはゲイブリエルの子を宿しており、子に彼の名前をつけてジョーと2人で育てました。でもその子もまた、先祖と同じように家を出てしまいます。それが冒頭に登場する“男”(村上淳)なんですね。
 ガブリエルとゲイブリエルの息子ゲイブリエル(=男)もまた、息子アンドリュー(須賀貴匡)を捨てていました。でも約20年後、アンドリューは父に電話をかけて、父はそれを受け入れ、再会を果たします。2015年にアメリカが衰亡し、魚は絶滅。ずっと雨が降り続いて世界が水没しようとしている“この世の終わり”で出会った2人。目の前には空から降ってきた魚。そして雨がやみます。

 舞台には徐々に水が満ちて来て、最後はドライアイスの煙が床を覆います。これまでに登場した人物が全員舞台にそろって幻想的な場面になりました。「この親にしてこの子あり」という逃れ難い因縁を描いていますが、最後には魚の出現や長雨が止むなどの奇跡と、勇気を出して因縁を克服した父と子の再会という形で、希望を示したのだと思います。

 若いガブリエルは「むごいわよね、親っていうのは。死ねっていうぐらい残酷。」と言いますが、自分が親になった後、“親”を“子供”に置きかえた同じセリフを言います。「むごいわよね、子供っていうのは。死ねっていうぐらい残酷。」

 ガブリエルの兄を性的に虐待して殺したのはゲイブリエルの父ヘンリーかもしれません。でも彼は予言者でもあったんですよね。空から降る魚、砂漠に降る雪、降り続く雨など。

 前の場面と後の場面が重なるのが面白いです。未来と過去の人物が同時に存在するのもいいですね。
 丸い舞台が水浸しになるのは『てのひらのこびと』、大雨が振り続く地球に一寸の晴れ間がやってくるのは『崩れた石垣、のぼる鮭たち』を思い出しました。

"When the rain stops falling" by Andrew Bovel
出演:村上淳 峯村リエ 須賀貴匡 田畑智子 植野葉子 八十田勇一 
脚本:アンドリュー・ボヴェル 訳:広田敦郎 演出:鈴木裕美 美術:島次郎 照明:笠原俊幸 衣裳:関けいこ 音響:長野朋美 ヘア&メイクアップ:鎌田直樹 舞台監督:後藤恭徳 演出部:板垣清一郎 上田裕美子 深瀬元喜 演出助手:田丸一宏 美術助手:角浜有香 照明オペレーター:成久克也 角田勉 音響オペし一ター:清水麻理子 原田耕児 衣裳助手:井坂美咲 衣裳進行:吉田裕美 衣裳製作:(株)トラップ 制作助手:藤田千穂 照明:(株)K.color-s 音響:(有)オフィス新音 大道具:(有)C-COM 桜井俊郎 武田寛  (有)オサフネ製作所 長船浩章 小道具:高津装飾美術(株) 烏城きよし 背景美術:(有)美術工房拓人 松本邦彦 特殊小道具:ゼペット 福田秋生 水機構:水巧社 山本喜久雄 宣伝美術:高田恵子 表紙イラストレーション:吉田卓史 写真:松本理加 ARTISTIC DIRECTOR:門井均 PRODUCFRS:門井絵璃 亘理智子 木村明日香 提携:東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)
【休演日】11月15日、11月24日 休演【発売日】2010/09/04 6,000円 学生3000円
http://www.tpt.co.jp/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2010年11月10日 15:26 | TrackBack (0)