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Shinobu's theatre review
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REVIEW

2010年11月09日

Bunkamura『タンゴ-TANGO-』11/05-24Bunkamuraシアターコクーン

 稽古場レポート(⇒レポート長塚圭史インタビュー)を書かせていただいたBunkamura『タンゴ-TANGO-』初日を観てきました。上演時間は約3時間(途中休憩15分を含む)。

 終演後しばらく座席から動けなかったです・・・帰りの電車で興奮気味なツイートをしてしまったんですが(笑)、後から冷静に考えたところ、おそらく、私が無意識に期待していた“いつものシアターコクーンでの贅沢娯楽観劇”にならなかったからだと思います。脚本を読んでから観た人間なのに、この動揺っぷり(汗)。この作品は出演者やスタッフ、劇場にとっては大きな挑戦で、観客に対する挑発なんだと思います。

 俳優の演技が素晴らしかったです。これは毎ステージ違う演技にならざるを得ないと思います。ある演出があって、それもきっとこれから変化し続けるのではないかと。時間が許せばもう1度は観たいと思っています。全然違うものになっているでしょうから!

 パンフレットは1000円。コクーンのパンフにしてはかなりのお買い得価格です。演出の長塚圭史さんと美術を手掛けた串田和美さんのページに、この作品のまさに肝となるコンセプトが書かれていますので、気になった方はぜひ。
20101105_tango_pamphlet.JPG

 ⇒公演公式ツイッター@tango_stage
 ⇒CoRich舞台芸術!『タンゴ-TANGO-
 ※ネタバレ後も加筆しました(2010/11/11)。

 『タンゴ』は今もご存命のポーランドの劇作家ムロジェックさんの1965年初演戯曲。青年アルトゥルの現状への反発と暴走を描いています。長塚さんの演出は、脚本の内容はもちろん、舞台作品そのものも、長塚圭史自身の身体を張った反発であり暴走だと受けとれるような構造になっていました。

 透明のパネルを使ったシャープで無機的な印象の美術。いくつかのパーツが山車のように並んでいて、どれも可動式です。俳優が触ったり乗ったりすると揺れますし、そうじゃなくても(何らかの意図によって)揺れていました。常に不確実さを感じさせます。中央に垂れ下がった電球の束も装置に干渉して、危なっかしい空気を作ります。衣裳は洗練されたデザインで、生地もデザインもクール。特に秋山菜津子さんのセクシーなつなぎルックにはクラクラさせられました。

 役者さんの演技はシアターコクーンでおなじみの蜷川幸雄さん、串田和美さん、ケラリーノ・サンドロヴィッチさん等の演出作品とは全然違った方向性でした。岩松了さんとも違います。観客の方を向いてアピールするような演技はものすごく少ないです。それよりも、ある家族が家庭内で熱く議論し、闘っている様を観客が覗き見する感覚です。舞台で起こる俳優の行動がスリリングで目が離せません。でも、演劇はそもそも虚構であることも演出で表現しているので、登場人物に感情移入しようにも、すぐに突き放されてしまいます。この感覚がとっても新鮮かつ居心地が悪くて(笑)、第1幕が終わって途中休憩になるまでドギマギしていました。

 最も重要なポイントは、演技の段取りが決まっていないことです(おそらく、そうだと思われます)。稽古場と同じなんですね。話す相手が変わると、おのずと自分の演技が変化します。自分の変化がまた次の相手にも変化を及ぼして・・・同じ瞬間がないんです。そして“ある演出”によって、役者さんはいつも何が起こるかわからない状態にあるはずです。ネタバレになるので後で加筆します。

 主人公アルトゥル役の森山未來さん。怒涛のセリフ量ですが、言葉に引きずられることなく、ずんずんとものすごい推進力で対話を進めます。躍動感あふれる体と、豊かな感情表現。素晴らしいです。見とれます。何も言うことないって気分。
 アルトゥルが求婚するアラ役の奥村佳恵さんは、お若いのに揺るがない堂々とした態度。役としてどっしりと存在しつつ、周囲の変化に柔軟に対応しているようでした。これが4作目の舞台出演なんですね(過去レビュー⇒)。蜷川さん以外の演出家と仕事をするのは、長塚さんが初めてなのでしょうか。

 この公演は現在開催中のフェスティバル/トーキョー10参加作品です。11/11(木)に開幕するロベール・ルパージュ演出『ブルードラゴン』もそうなんですよね。長塚さんは英国留学(⇒海外研修報告会レポート)を経て視野が日本国内から世界へと広がり、活動のフィールドがグローバルになったのだと思います。
 シアターコクーンは公共ホールではなく民間劇場です。営利企業が冒険、そして挑発してるってことが凄い。アーティストとともに前へと進むことを選んでいる劇場なんだなと、改めて思いました。
 一観客としては、その挑発に前のめりにノっかりたいし、反発もしたい(笑)。作品を全身で味わって、受け取ったことを糧に考えて、能動的に感想を書きたいと思います。

 ここからネタバレします。加筆しました(2010/11/11)。

 透明の壁に囲まれた部屋の向こう、テーブルでカードゲームをする人たち。何をやっているのかはだいたいわかるけれど、意味が理解できるほどには声が聴こえない・・・そんなオープニング。間もなく演出家の長塚さんが客席後方から歩いて来て、舞台に出てきました。長塚さんは机やイスなどを舞台の床に空いた穴から出してきたり、小道具を渡したり、無言ながら積極的な黒子としてお芝居に参加しています。どうやら森山さん演じるアルトゥルは演出家の分身である、という明確な意図を伝える演出のよう。そして長塚さん以外にも装置を動かすスタッフ(黒い服の方々)が見えていますので、観客は「これはお芝居なのだ」と客観する視点にしばしば戻されます。

 長塚さんはつまり出演者ですので、千秋楽までこの座組みの中にいることになります。この規模の公演で演出家がつきっきりというのは珍しいのではないでしょうか。私の勝手な予想ですが、たぶん長塚さんはずっと満足しないで、改善、挑戦を続けていくだろう思います。

 アルトゥルはアラと伝統的な結婚式を挙げることで、家族に自堕落な生活を改めさせようとします。でも形式は形骸に過ぎないと気づき、次は理念を求めますが、それにも挫折。そこで祖母(片桐はいり)が「今から死にます」と自発的に突然死する事件が起こり、アルトゥルはその死から暴力による統治を思いつきます。腕っ節の強い下男エーデック(橋本さとし)を手下にして「俺の命令に従わないものは殺す」というファシズムを本気で実行。手始めにエーデックが叔父(辻萬長)に襲いかかった時、アラが、アルトゥルの心に致命的な傷を負わせる裏切りの告白をします。「エーデックと今朝寝た」というのです。有頂天だったアルトゥルは一瞬で崩れ落ち、母親(秋山菜津子)にすがりついて嘆いていたところを、後頭部にエーデックの一撃をくらって、死亡。

 主人公のあっけない死に家族はしんみりするものの、ホっとしている様子。でも事態は良い方向には進みませんでした。エーデックが暴力の味を知り、アルトゥルの後釜に座ったのです。ピストルを片手にかつての主人(アルトゥル)のジャケットを着て、支配者となった下男。その下男と叔父が、タンゴを踊るというフィナーレでした。タンゴは自由の象徴といわれるダンス音楽なのに、踊っているのは新しい暴君とそれに屈したかつての急進派というのは皮肉です。

 ストーリーはそこでおしまいですが、挑発的な演出はまだまだ続きました。2人がタンゴを踊って舞台からいなくなった後、誰もいない舞台で音楽だけが大音量で流れ続けたのです。客電がついても音楽は鳴り続けます。おそらく大半の観客は茫然。誰もいない舞台をじっと見ている(何を観ていいのか分からないけど、席に座り続けている)状態でした。曲が終わる前に席を立った方もいらっしゃいました。

 自由の歌が高らかに流れる中、舞台には誰もいない。テーブルの上には空っぽの王座のイス。世界を変えようとした人たちはもういなくなった。つまり、全てはここにいる私たち観客にゆだねられたのだと思いました。世界を揺り動かすのも硬直させるのも、進行させるのも後退させるのも、私たちなんですね。舞台にいた人たちではない。彼らはもういない。そもそも架空の人物なのだから、最初からいないのです。そして、カーテンコールもありませんでした。・・・衝撃でした。
 私は挑戦的な演出にぞくぞくしながら、どんなお芝居でもシアターコクーンでは最後にカーテンコールがあって、大スターがすがすがしい笑顔を見せてくれるものだと期待していたのでしょう。その甘えに、サっと冷や水を浴びせかけられました。長塚さんが体を張って、危険に敢えて踏み込んで、観客に問いかけたのだと思います。「あなたはどうしますか」と。
 考えてみたらこのお芝居で描かれている状況は、例えば警察権力の横暴や会社内のパワハラ、家庭内の無理解など、身近な生活に当てはまらないわけではありません。人生は選択の連続。私が自分で選択し、行動しているんですよね。

 個人的に1ヶ所だけ、スっとは受け入れがたいシーンがありました。死んだアルトゥルがゆっくり立ち上がって舞台中央から奥に向かって歩いて去ります。その後、長塚さんがガラス片を床に叩きつけて粉々に割りました。おそらくガラスはアルトゥルのことでしょう。私の勘違いかもしれませんが、ガラスを割る長塚さんがちょっとメランコリックに見えたんです。ほんの少しですが、「アルトゥルってかわいそうだよね」と同情を誘っているように感じました。長塚さんがアルトゥルを殺したのだと見えるぐらいに、さも当然のごとく乱暴に叩き割ってほしいなと思いました。

 父親役の吉田鋼太郎さんは実験演劇の場面で全裸になりました(おそらく)。照明は暗くなるものの、ものすごいインパクト。仰々しさが滑稽です。吉田さんは大きな電灯を2つ首から下げていて、その使い方も面白かった。
 突然照明の色が変わる、カーテン(舞台奥の幕)が落ちるなどのタイミングは、アルトゥルの心理の変化を表しているようでした。初日はよくわからなかったですが、もう1回観ればちゃんと味わえるかも。
 最後にアルトゥルの「愛している」という言葉を勝ち取ったアラ。いまわの際の言葉の重みと失われた未来。

≪東京、大阪≫
出演:森山未來、奥村佳恵、吉田鋼太郎、秋山菜津子、片桐はいり、辻萬長、橋本さとし
作:S.ムロジェック 翻訳:米川和夫/工藤幸雄 演出:長塚圭史  美術:串田和美 照明:小川幾雄 音響:加藤温 衣裳:黒須はな子 ヘアメイク:河村陽子 振付:広崎うらん 音楽:朝比奈尚行 演出助手:菅野將機 舞台監督:福沢諭志 ポスター・チラシ表面デザイン:横尾忠則 宣伝美術:榎本太郎(7X_NANABAI.inc) 劇場舞台技術:野中昭二 営業:加藤雅拡 中川未来 神田興浩 票券:佐久間友規子 岡野昌恵 制作助手:三浦瞳 今井信人 制作:佐貫こしの 宇津木信之介 プロデューサー:加藤真規 松井珠美 主催・企画・製作:Bunkamura
一般発売2010/8/21(土) 特設S¥9,000 S¥9,000 A¥7,000 コクーンシート¥5,000 (税込)
〈特設S席に関して〉舞台に近い前方のエリアを通し番号で販売します。お席は当日劇場にてご確認ください。連番でご購入なさってもお席が離れる場合がございます。椅子が通常の形状と異なります。
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/shosai_10_tango.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2010年11月09日 17:01 | TrackBack (0)