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2010年02月17日

【お知らせ】fringe blog「「CoRich舞台芸術まつり!2010春」応募〆切は2/22(月)、あと一週間です!」をアップ

 fringe blogに記事をアップしました。
 ⇒「CoRich舞台芸術まつり!2010春」応募〆切は2/22(月)、あと一週間です!

 応募が増えてきました。今週末がピークかもしれません。お待ちしております!

Posted by shinobu at 21:55 | TrackBack

サンライズプロモーション東京/メジャーリーグ/無名塾『ジョン・ガブリエルと呼ばれた男』02/12-21世田谷パブリックシアター

 ノルウェーの劇作家イプセン(⇒Yahoo!百科事典)の戯曲を栗山民也さんが演出。仲代達矢さん、十朱幸代さんという大スターが主演する豪華なストレート・プレイです。笹部博司さんが上演台本を手掛けるイプセン戯曲上演は、これが4回目になるのかしら(過去レビュー⇒

 舞台に立っているだけでその存在感にうっとりする4人の俳優(平均年齢70歳以上!)による、ずっしりと重量感のある王道の四幕劇。美術、照明、衣裳、音楽などのスタッフワークも一流で、とーーーーっても面白かったです!悲劇なのに爆笑しちゃうシーンがいっぱい!笑いながらボロボロ泣けてきちゃうセリフもいっぱい!ストレート・プレイ好きの私はもう大満足です。イプセンって凄いですね~。上演時間は約2時間30分(途中休憩15分を含む)。

 ⇒CoRich舞台芸術!『ジョン・ガブリエルと呼ばれた男
 レビューをアップしました(2010/02/20)。

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 一幕はもはや老年となった双子の姉妹。
 生涯二人は、一つのものを奪い合った。
 今は、かつて愛した男の息子を奪い合っている。
 最悪なことは、それを相手が手に入れること。 その点で二人は唯一、意見が一致した。

 二幕は、頂点を目指しすべてを失った男と、どんな夢も愛もこれまで手に入れることなく生きて来た男。
 二人は世界の果てに取り残された。 それでも二人は譲ることが出来ない。
 ボルクマン(仲代達矢)はフォルダル(米倉斉加年)に永遠の別離を宣言する。
 そして、いよいよ、かつて愛を誓い合った二人、ボルクマンとエルラ(十朱幸代)が対面する。
 自らの栄光のための最愛の女を売った男と、
 人生の至高のものがたがが世俗的な成功のために売られた女の対決。

 三幕は、夫と妻の対決。
 決してももう顔も見ない、口もきかないと誓った女(大空眞弓)が、夫にどんな毒を投げつけるのか。

 四幕、最終幕は誰もが世界の果てに。
 いったい、ボルクマンは自分の人生にどう決着をつけるのか。
 また、双子の姉と妹は?
 誰も嘘がつけない。
 誰もが一切譲らない。
 人生をかけた、辛辣な言葉の刃が、次々と繰り出される。  
 そして四人の俳優は、舞台というバトルの場所で、いつのまにか、自らの人生と人間をむき出しにして立っている。
 ≪ここまで≫

 幕が上がって豪華な装置にほ~っとため息。大きな壁に囲まれた部屋でも役者さんは堂々の存在感です。たった4人しか出てこない、しかも4人揃うのはほんの一瞬だけというお芝居ですが、600席ある世田谷パブリックシアターを広いとは感じません。

 言葉のひとつひとつについて、それが持つ意味・意図が明確に組み立てられており、饒舌な海外戯曲の会話がリズミカルに進みました。きっと戯曲を読んだだけでは、私にはこの作品の意味がわからなかっただろうと思います。ボルクマンがやったこと、言ったことをサラリと読み進むと、たぶん「なんてひどい男なんだ!」というような一方的な解釈しかできない気がするんです。仲代さん演じるボルクマンは本当の本当にダメ男でしたが(笑)、2人の女から愛されて当然の魅力的な人物に見えました。まさかあんなに笑わせてもらえるなんて!

 この戯曲には、男と女の決定的な違いが描かれていると思いました。そして言い方は悪いですが、親は子供に捨てられるものなのだということも。「捨てる」より「巣立つ」という方がきれいですが、現実的には「捨てる」ことになるんだと思います。人間は誰かにすがり、なんとかして自分の存在を支えようとしますが、結局人間は誰のものでもないし、誰のものにもできないんですよね。それでも求めてしまうから、悲劇、喜劇が生まれるのだなと思ったりも。
 こうやって分析するのは簡単ですが、翻って自分自身のことだと考えると・・・ショックはありますし、覚悟をしなければと思います。つまり、いやおうなしに人生の勉強をさせられる作品でした。イプセン、凄い。

 仲代達矢さん演じるボルクマンの可愛らしいこと!ひとことつぶやくごとに笑いが起こるぐらい、観客から愛されっぱなし。ほとんど道化のようでした。とても愚かで、可愛らしい、道化。最後の長い独白が切ないです。
 十朱幸代も同じくとても可愛らしかった。60代後半なんて信じられないです。『近代能楽集「綾の鼓」「弱法師」』でも素敵でしたが、あの素直さというか無垢な(ようにに見える)たたずまいは、やはりご自身の持ち物なのでしょうか。

 ここからネタバレします。

 自分の王国を築き、恵まれない人々にその富を分け与えたいという夢を持ち続けたボルクマン。彼は、彼に生涯の愛を捧げると誓い、そして彼自身も本気で愛していた女エルラを、その夢をかなえるために裏切ります。必死で話しても絶対にすれ違い続ける2人は、なんと愚かで、そして残酷なんだと思いました。

 1階は赤い壁。パンフレットによると栗山さんのイメージはムンクの絵画らしく、油絵のタッチで黄色い筆の跡が見えます。2幕では壁がすっと袖に引いて、現れた2階は青色の空間。立派な本棚がある書斎の壁には、金色の筆で塗られた(ような)部分があり、そこに照明が当たるのが美しい。
 2階の部屋にこもりっきりで、ただ行ったり来たりしているボルクマンの足音を、ピアノの旋律で表現。そういえばオープニングは弦楽器のソロでした。美しい音色。

 途中休憩をはさんで幕があがった3幕で1階の赤い部屋に姉グンヒル(大空眞弓)が1人で立っているだけで感動。気持ちが満ちているんですよね。グンヒルもまた複雑な感情をいだいている女性だと思います。妹エルラのことを嫉妬しながらも大切に思っているし、自分を没落させたボルクマンを憎んではいるものの、やはりと夫として愛している。息子への執着はあまりに自信過剰なのが笑いを誘いますが、母親の息子への盲目的な、そして時に暴力的な愛情というのはこういう狂気じみたものなのだなと納得できます。

 4幕でとうとう全員が家の外に出ます。部屋の壁や家具が取り払われて、真っ白の布が床に敷かれ、舞台はほぼ何もないがらんどうのような空間に。黒い衣裳のボルクマン、エルラ、グンヒルが横一列に並ぶ場面は、まるで現代ドイツ演劇のような硬質さと鋭さがありました。客席に向かって独白する人々はギリシア悲劇の登場人物のよう。
 1つだけ難を言えば、最後の場面は仲代さん、十朱さんのやりとりが長く感じたことですね。4幕の冒頭が鮮烈だったので、最後にスローダウンしたのは残念。

 そういえばフォルダル(米倉斉加年)と彼の妻のエピソードも、男女の違いをよく表していました。愛する娘がボルクマンの息子とともに出て行ってしまったことを、フォルダルは「自分の詩作への思いを、娘が音楽の道に進むことで引き継いでくれた」と大喜びしますが、妻は家が洪水にならんばかりに泣いているとのことでした。

Henrik Ibsen
≪能登、宮城、新潟、福島、東京(世田谷)、北海道、札幌、神奈川、茨城、兵庫、愛媛県松山市、愛知県知立市、名古屋、山梨、東京(池袋)≫
出演:仲代達矢 大空眞弓 米倉斉加年 十朱幸代
原作:イプセン 脚本:笹部博司 演出:栗山民也 美術:伊藤雅子  照明:沢田祐二  音響:秦大介 衣装:前田文子 ヘアメイク:鎌田直樹 演出助手:大江祥彦  舞台監督:泉智之  宣伝美術:山本利一 制作:無名塾/サンライズプロモーション東京/メジャーリーグ 制作協力:オフィスサラ 主催:テレビ朝日 後援:ノルウェー王国大使館
【発売日】2009/11/28 一般S席7,800円/A席6,000円 友の会会員割引 S席7,500円 世田谷区民割引 S席7,500円
http://www.majorleague.co.jp/stage/borkman/index.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 21:15 | TrackBack

チェルフィッチュ『わたしたちは無傷な別人であるのか?』02/14-26 STスポット

 岡田利規さん(⇒ツイッター)率いるチェルフィッチュの新作初日を拝見。海外ツアーの予定もあるので世界初演ですね。前作『フリータイム』以来、新作は約2年振り。上演時間は約1時間40分。

 白くて四角い、何もない空間に、俳優が、居る。彼らは体を、動かす。そして言葉を、伝える。いわゆるストレート・プレイではないです。でも物語があって、俳優がセリフをしゃべる、まぎれもない演劇でした。

 観ている自分の想像力が際限なく広がって、架空の世界が鮮やかに生み出され、過去の思い出も引っぱり出されてきて・・・とにかく刺激的!じっと座わりながら興奮しました。

 ⇒「劇団チェルフィッチュ 作風一変、「勝ち組」描く」(朝日新聞)
 ⇒CoRich舞台芸術!『わたしたちは無傷な別人であるのか?

 ≪あらすじ・作品解説≫ 公式サイトより部分引用。
 二〇〇九年八月三十日日曜日や、その前日の土曜日の夜が、この新しい作品の舞台です。(岡田利規)
 ≪ここまで≫

 出演者は今風のカラフルな普段着姿(カジュアル・ルックというのかな)の若者ばかり。これまでチェルフィッチュの特徴とされてきた“若者特有のだらだらとしたしゃべり言葉”はなく、「~~です」「~~ではありません」など、短めのセンテンスで意味がわかりやすいセリフが語られます。そしてセリフとセリフの間の時間がたっぷり取られているので、その無言の間に、耳に届いた情報から想像が広がります。絵本を読み進める感覚にとても似ていました。

 例えば「海がみえる道端」という言葉だけで、私の場合はアニメ映画「耳をすませば」の風景が広がったり(聖蹟桜ヶ丘から海が見えるのか知らないが)、岡田さんの小説「わたしの場所の複数」(大江健三郎賞受賞小説「わたしたちに許された特別な時間の終わり」に収録)を思い出したり。次々と景色がつけ足されて、何もないはずの空間が私の想像力でうるさいほどに色付けされていきました。

 ストーリーは取り立てて奇抜なものではない(特に何も起こらない)のですが、俳優の声が鋭く届くので、短い文章が体にぐぐっと刺さって、舞台で起こる出来事がとても生々しいです。ワイン、チーズ、公園、ブランコといった単語から、匂いや風も感じ取れました。というより、いやおうなしに自分の脳が想像するのです。
 俳優の動きはというと、歩いている場面でも歩きません。食べている場面でも食べません。だから余計に自分の中で想像がふくらむんだと思います。状況や意味から独立して自由に動く体は、俳優を人間ではないようにも見せます。

 3人の俳優が居る場面が、戦争状態に見えることもありました。手が漫画「ONE PIECE」のルフィーのようにぐーーっと伸びて相手を抱きしめたり、「龍と虎とウルトラ怪獣が闘ってる!」という荒唐無稽な場面に見えることもありました。ホントです(笑)。
 凄い体験でした。強烈に面白かったです。欲を言えば、もうちょっと上演時間が短かったら助かったなと思います。ものすごく疲れたので(笑)。

わたしたちに許された特別な時間の終わり (新潮文庫)
岡田 利規
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 ここからネタバレします。

 横浜にできる高層タワーレジデンスの1室を買った若い夫婦(矢沢誠と佐々木幸子)。妻が家(引っ越す前の家)にいると見知らぬ“不幸せな人”(山縣太一)が訪ねてくる。『目的地』で想像の中に妻の愛人が出てきた場面を思い出しました。
 「自分たちは幸せだけど、周囲には不幸せな人がいる」ことが悲しくて泣く妻。夫もそれに理解を示します。そしてソファでセックスする2人。それを見て「(安心できる家で)セックスをする人は幸せです」と語る不幸せな人。このセックスシーンがものすごくエロティックでした。『タトゥー』で妹がレイプされる場面も凄かったし、岡田さんはなんてエッチで残酷なんだ!と再確認。夫婦の家に遊びに行く女(安藤真理)が公園で見かけた風景(ミニスカートでブランコをする少女たちを、パンを食べながらじっと見つめる男)もショッキングで官能的。

 真っ赤な照明に包まれ、眠りにつく夫婦。「この夫婦は私(=観客)ではない、とは言い切れない」。はっきりと観客に向けて発せられたメッセージにぎくりとします。
 朝になると照明は白々と夫婦を照らします。朝食のパンを買いに行くついでに選挙の投票に行く2人の横には、うつぶせで地面にずっと横たわったままの不幸せな人(山縣太一)の姿が。彼はおそらくホームレスでしょう。住所不定だから選挙にも行けない。無論、「この男は私(=観客)ではない」とも言い切れないのです。
 男を照らしながらゆっくり、じんわり暗転して終幕。絵本のファンタジーから突然生々しい、厳しい現実が胸にぎゅるりと入り込んで、体が冷えました。夢から突き放されて、「芝居を観終わった」という私の生活の現実に帰るまでに、しばらく時間がかかりました。

 セリフは決まっているけれど、誰が話すのかは決まっていない即興の場面があるようです(つまり俳優たちはその場面の全てのセリフを覚えている)。なんてスリリングな(笑)。独特の緊張感が漂っていたように思います。

≪横浜STスポット、横浜美術館レクチャーホール、海外≫
※本公演は2011年1月にオープンする神奈川芸術劇場の開設準備の一環として行うものです。神奈川芸術劇場は、演劇・ミュージカル・ダンスなど質の高い舞台芸術作品を創造・発信し、文化芸術の広域拠点施設として県内の文化施設等と連携していきます。
出演:山縣太一 松村翔子 安藤真理 青柳いづみ 武田力 矢沢誠 佐々木幸子
脚本・演出:岡田利規 舞台監督:鈴木康郎、弘光哲也 音響:牛川紀政、青谷保之(横浜美術館公演音響操作) 照明:大平智己 制作:プリコグ(中村茜、奥野将徳、山崎奈玲子、中島友紀子、黄木多美子) インターンスタッフ:高松太一郎、兵藤茉衣 ボランティアスタッフ:李和宣、谷川明、豊田勇樹、野村ゆめ、古原綾乃、星リヒナ 主催:チェルフィッチュ 神奈川芸術劇場 共同制作:財団法人神奈川芸術文化財団  Theatre de Dramatique National de creation Contemporaine(フランス/パリ)/Festivald'Automne(フランス/パリ)/Noorderzon Performing Arts Festjval Groningen(グローニングン/オランダ)  会場協力:STスポット 特別協力:急な坂スタジオ 制作:precog 東京芸術見本市2o10参加公滴曹笥
【休演日】2月18日(木)、2月25日(木)【発売日】2009/12/19(日時指定 入場整理番号付自由席)前売3000円 当日3500円 学生2500円
http://chelfitsch.net/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 17:20 | TrackBack