2010年05月31日
新国立劇場演劇『夢の泪』05/06-23新国立劇場小劇場
メルマガのお薦め前売り情報で2ヵ月連続(⇒2月号、⇒3月号)でご紹介しておりました、井上ひさし作「東京裁判三部作」。『夢の裂け目』(⇒メルマガ号外)に続いて『夢の泪』を拝見しました。演出は栗山民也さんです。
初演よりも演出の緻密さが増していたように思います。たしか初演の時は(も?)脚本がぎりぎりに完成したんですよね・・・。
ただ一人のこまつ座所属俳優である辻萬長さんが弁護士役を演じていらして、こまつ座の蓄積も「東京裁判三部作」に加わったように感じました。
⇒CoRich舞台芸術!『夢の泪』
≪あらすじ≫ 公式サイトより (役者名)を追加。
昭和21年4月から6月にかけて、新橋駅近く、焼け残りのビルの1階にある「新橋法律事務所」。
弁護士・伊藤菊治(辻萬長)は、7回も司法試験に落ちたものの女性弁護士の草分けで腕利きの秋子(三田和代)と結婚、亡父の開設した法律事務所での仕事に追われる毎日。だが唯一の欠点でもある、女性に弱いことが原因で2人は離婚寸前。継父を慕う秋子の娘・永子(大和田美帆)は、両親や敗戦後の日本人の行く末に不安を感じている。
そんな事務所では、復員兵で夜学に通う田中正(小林隆)が事務所に住み込みで働くことになるが、どうも永子を秘かに想っているらしい。永子の幼なじみの片岡健(福本伸一)も永子宛の恋文をもって現れる。健の父親は新橋を仕切るやくざに対抗する朝鮮人組長で、どうやら重傷を負ったらしい。と、隣の第一ホテルの将校クラブで歌うナンシー岡本(土居裕子)とチェリー富士山(春風ひとみ)が乱入してきた。お互いの持ち歌の著作権を争って大喧嘩、法律事務所に決着をつけてもらおうと飛び込んで来たのだった。
そんな折、秋子が東京裁判においてA級戦犯・松岡洋右の補佐弁護人になるよう依頼されて事務所に戻ってくる。事務所の宣伝のため、とりわけ秋子との関係修復のため、菊治も勇んで松岡の補佐弁護人になることに。亡父の仲間だった老弁護士・竹上玲吉(木場勝己)に細かい民事事件などを手伝ってもらうことにしたのだが、こと東京裁判に関しては、裁判そのものの意味や弁護料の問題など難問が山積みである。ついにはGHQの米陸軍法務大尉で日系二世のビル小笠原(石田圭祐)から呼び出しが菊治にかかる。
≪ここまで≫
『夢の裂け目』と同様に、この作品がいま上演されていることに感謝しきり。2人の女性歌手が歌う桜の歌をの冒頭部分を聴くだけで、すぐに涙ぐんでしまう状態でした・・・もうオタクの域ですね、コレは(汗)。
初演の藤谷美紀さんに代わり、弁護士夫婦の娘役を大和田美帆さんが演じてらっしゃいました。大和田さんは井上ひさし作品には初出演ですよね。若い役者さんがどんどん井上作品に出て、次世代へと受け継いでいってくれることを嬉しく思います。
一緒に観た人が「役者さんの実年齢が役柄の年齢と合っていない(役柄よりかなり年上)のが気になった」と言っていて、そういえばその通りだと思いました。でもこればっかりは・・・私の偏見かもしれませんが、井上ひさし作品は容易には演じられないと思うんですよね。キャストがベテラン俳優やこまつ座公演経験者でかためられても仕方ないんじゃないかなと思います。もちろん、どんな作品でも演じられる若い俳優が育ってくれることを望んでやみません。
ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。
A級戦犯の弁護人となった秋子(三田和代)は猛勉強をして弁護のための材料をあつめます。
「ニュルンベルク裁判でドイツは“平和に対する罪”“人道に対する罪”に問われた。でも事後法で日本を裁くことはできない。」
「日本はパリ不戦条約に調印したのに、それを破り続けた。」
「広島に原爆が落とされた翌日に、日本では機密書類を焼き捨てろとの命令が出ていた。そして焼かれずに残った70万点におよぶ書類を、アメリカが持ち去っていた。戦敗国は証拠をすべて隠滅しようとし、戦勝国は自分たちに不利な証拠だけを隠そうとした。いったいそんな裁判のどこが正当なのか。」
最後は夫を亡くした2人の未亡人が弁護士のビルに入ってバーを開き、みんな仲良く楽しく暮らしている様子をにぎやかに描きます。でもその華やかさの中にはどこか空虚なところがあるんですよね。それは舞台奥の幕に空いた穴や、歌が終わると同時にパっと暗転するあっけない幕切れにも表されていたと思います。
出演:辻萬長/小林隆/福本伸一/石田圭祐/木場勝己/三田和代/大和田美帆/土居裕子/春風ひとみ
【生演奏】キーボード:朴勝哲 ウッドウィンズ:大下和人(中秀仁とダブルキャスト) テューバ:佐藤桃 ドラム・パーカッション:山田貴之
脚本:井上ひさし 演出:栗山民也 音楽:クルト・ヴァイル 宇野誠一郎 音楽監督・編曲:久米大作 美術:石井強司 照明:服部基 音響:黒野尚 衣裳:前田文子 ヘアメイク:佐藤裕子 ステージング・振付:井手茂太 歌唱指導:伊藤和美 演出助手:北則昭 舞台監督:福本伸生 総合舞台監督:増田裕幸 芸術監督:鵜山仁 主催:新国立劇場芸術
A席:5250円 B席:3150円 Z席:1500円
http://www.nntt.jac.go.jp/play/20000212_play.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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新国立劇場演劇『夢の裂け目』04/08-28新国立劇場小劇場
メルマガのお薦め前売り情報で2ヵ月連続(⇒2月号、⇒3月号)でご紹介しておりました、新国立劇場の東京裁判三部作が開幕しました。3部作すべての脚本は井上ひさしさん、演出は栗山民也さんです。
第1作目の『夢の裂け目』の初演は2001年。『夢の泪』『夢の痂(かさぶた』は観たけれど『夢の裂け目』は観ていなかった母を連れて、2人で観に行きました。母は3作の中で『夢の裂け目』が一番好きと言っていました。私もそうかも。
メルマガ号外を発行しました。キャストは一部変わっていますが、優しい言葉を通して伝わってくる心は同じ。上演時間は約3時間(途中休憩15分を含む)。
⇒CoRich舞台芸術!『夢の裂け目』
≪あらすじ≫ 公式サイトより (役者名)を追加。
昭和21年6月から7月にかけて、奇跡的に焼け残った街、東京・根津の紙芝居屋の親方、天声こと田中留吉(角野卓造)に起こった滑稽で恐ろしい出来事。講釈師から活動弁士を経て紙芝居という「語り物」の日本の芸能の系譜をひく“しゃべる男”天声が、突然GHQ・国際検事局から「東京裁判に検察側の証人として出廷せよ」と命じられ、民間検事局勤務の川口ミドリ(土居裕子)から口述書をとられる。ふるえあがる天声。
岳父の紙芝居の絵描き・清風(木場勝己)、都立第一高女を卒業したばかりの娘・道子(藤谷美紀)、妹で元柳橋の芸妓・君子(熊谷真実)、君子の柳橋の同僚・妙子(キムラ緑子)、失業中の映写技師・川本孝(大鷹明良)、紙芝居大好きな復員兵・関谷三郎(高橋克実)、謎の闇ブローカー・成田耕吉(石井一孝)ら、家中の者を総動員して「極東国際軍事法廷証人心得」を脚本がわりに予行演習をする。そのうちに熱が入り、家の中が天声や周囲の人間の〈国民としての戦争犯罪を裁く家庭法廷〉といった様相を呈しはじめる。
そして出廷。東条英機らの前で大過なく証言を済ませた天声は、東京裁判の持つ構造に重大なカラクリがあることを発見するのだが・・・・・・。
≪ここまで≫
シャープな抽象美術を重みのある照明が染めて、終戦直後をたくましく生きる庶民の生活を力強く歌います。『三文オペラ』が大好きなので、メロディーを耳にするだけでも嬉しくなります。
「東京裁判とは戦犯にすべての戦争責任を負わせる意図があったのではないか。じゃあ日本国民は?“私たち”にはまったく責任はないのか?」という問いかけ。
ここからネタバレします。
初演では、ジャワ島のスラバヤで会った娼婦ジェニィの思い出を語る場面で、当時のことを知る老齢のお客様が大いに笑ってらしたんですが、今回はそういう雰囲気はありませんでした。そういえば国際法の教授(石井一孝)が闇市のブローカーになってしまったというエピソードでも、今回は特に笑いは起こっていなかったように思います。
戦争を経験した観客がごく少数になったからではないかしら・・・。私の母は戦後生まれなので、戦争経験者となると私の祖父と祖母ですが、祖父は亡くなっていますし、祖母は劇場に来られるほど元気ではありません。初演から10年経って、客層もぐっと変わったのだと思います。
出演:角野卓造/高橋克実/大鷹明良/石井一孝/木場勝己/土居裕子/藤谷美紀/熊谷真実/キムラ緑子
【生演奏】キーボード:朴勝哲 ウッドウィンズ:坂川諄(大下和人が急病で降板。中秀仁とダブルキャスト) テューバ:佐藤桃 ドラム・パーカッション:山田貴之
脚本:井上ひさし 演出:栗山民也 音楽:クルト・ヴァイル 宇野誠一郎 音楽監督・編曲:久米大作 美術:石井強司 照明:服部基 音響:黒野尚 衣裳:前田文子 ヘアメイク:佐藤裕子 ステージング・振付:井手茂太 歌唱指導:伊藤和美 演出助手:北則昭 舞台監督:濱野貴彦 総合舞台監督:増田裕幸 芸術監督:鵜山仁 主催:新国立劇場
【休演日】2/15,22 【発売日】2010/02/21 A席:5250円 B席:3150円 Z席:1500円
http://www.nntt.jac.go.jp/play/20000211_play.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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