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しのぶの演劇レビュー
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2010年10月10日

世田谷パブリックシアター『ガラスの葉』09/26-10/10世田谷パブリックシアター

 『ガラスの葉』はイギリスの劇作家フィリップ・リドリーさんが、2007年にロンドンで初演した戯曲です。白井晃さんがリドリー作品を演出するのは3度目(過去レビュー⇒)。

 美術(松井るみ)と演出とのコンビネーションは期待どおりの密度。音楽は白井さんが昨年の中国の不思議な役人』でも組まれていた三宅純さん。充実の4人芝居でした。上演時間は約2時間弱(休憩なし)。

 ⇒CoRich舞台芸術!『ガラスの葉

 ≪あらすじ≫
 子供のころに父親を失った兄弟。会社の経営者となったしっかり者の兄(荻原聖人)は、秘書(平岩紙)と結婚し、絵の才能はあるが気性が荒っぽい弟(田中圭)の面倒を見ている。一人暮らしの母(銀粉蝶)は大家の飼い犬の鳴き声に悩まされており・・・。
 ≪ここまで≫

 美術にうっとりため息。帰り道に“家族”について考えをめぐらました。
 過去を嘘で上書きしていく恐怖。でも、そうでもしなきゃ生きていけない人間の弱さにも納得です。
 私は私の中にある本当のことを、まずは私のために大事にするしかないかなと思っています。自分だけでなく周囲も巻き込んで、浮草になってしまうのは悲しいです。とはいえ何が「本当」なのかは曖昧なのですが。せめて自分のために正直で。

 田中圭さんはこれまでに何度か舞台で(映画でも)拝見していますが(過去レビュー⇒)、いつもとても自然で素敵。『偶然の音楽』の再演を見逃したのが悔やまれます。

 ここからネタバレします。

 舞台面から奥に向かって、3つの部分に分かれる装置でした。客席に一番近い側の装置は固定ですが、その奥と一番奥は、左右(上下)にスライドします。人物の定まらない心情や絶望的なすれ違いを表しているように思いました。揺れる装置とともに、私の気持ちも揺れました。

 家族が死んでしまうのは悲しいです。そしてその原因が不慮の事故や病気ではなく自殺だったら?遺された家族は「頼りにされていなかった」「嫌われていた」「捨てられた」といった気持ちになっても仕方ないですよね。その心の傷の深さ、それぞれの痛みが舞台にじわりとにじみます。
 ※父の自殺の真相は明かされませんし、母は事故と言い張ります。

 兄と弟の立場が徐々に入れ替わっていくのが面白いです。
 父の葬儀の後、父の旧友と名乗る(?)男性の家に、兄弟は訪れます。兄(当時15歳ぐらい?)はなぜお金をもらってたんだろう・・・売春??などと想像。

出演:荻原聖人 田中圭 平岩紙 銀粉蝶
[作]フィリップ・リドリー[翻訳]小宮山智津子[演出]白井晃[美術]松井るみ[音楽]三宅純[照明]齋藤茂男[音響]井上正弘[衣裳]黒須はな子[ヘアメイク]佐藤裕子[映像]新生璃人[演出助手]河合範子[舞台監督]田中直明[主催] 財団法人せたがや文化財団 [企画制作] 世田谷パブリックシアター [協賛] トヨタ自動車株式会社 [協力] 東京急行電鉄/東急ホテルズ/渋谷エクセルホテル東急 [後援] 世田谷区 平成22年度文化庁芸術拠点形成事業
【発売日】2010/08/08 S席6,300円/A席 4,200円 高校生以下 各一般料金の半額(世田谷パブリックシアターチケットセンターのみ取扱い、年齢確認できるものを要提示)
 U24 各一般料金の半額(世田谷パブリックシアターチケットセンターにて要事前登録、登録時年齢確認できるもの要提示、オンラインのみ取扱い、枚数限定) 友の会会員割引 S席5,700円 世田谷区民割引 S席6,000円
http://setagaya-pt.jp/theater_info/2010/09/post_198.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 14:38 | TrackBack

SPAC『令嬢ジュリー』10/02-03, 10/09-10静岡芸術劇場

 静岡舞台芸術センターでは「SPAC秋のシーズン2010」の真っ最中。昨日、フランスの演出家フレデリック・フィスバックさん演出の『令嬢ジュリー』を観てきました。幕開けから「舞台美術が凄い」という噂はあって、実際、もの凄かった(笑)。あれは劇場の中に建てられた家ですね。上演時間は2時間。

 一般向けの公演は土日ですが、平日公演には静岡の高校生が招待されています。これを高校生が観るなんて・・・それも凄い。
 公的なサポートがなければ一般4,000円なんて考えられない、贅沢な作品です。ペアなら1人3500円!(大学生・専門学校生は2000円、高校生以下は1000円) 東京在住の私には静岡までの旅費がかかりますが、十分以上に満足させていただきました。

 ⇒舞台写真 ※CGじゃないです!
 ⇒CoRich舞台芸術!『令嬢ジュリー

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 夏至祭の前夜。令嬢ジュリー(たきいみき)は台所にいる召使いジャン(阿部一徳)のもとを訪れる。ジャンには同じく召使いのクリスティン(布施安寿香)という許嫁がいたが、ジュリーはお嬢様としての特権を行使して、ジャンに自分を楽しませるように強要する。二人はダンスを踊ったり、お酒を飲んだり、しばし愉快な時間を過ごすのだったが、昔から憧れていたと口説くジャンにのせられたジュリーは、情事におよんで・・・。
 ≪ここまで≫

 『令嬢ジュリー』はスウェーデンの劇作家ストリンドベリの有名古典戯曲(1888年)ですが、現代的な装置、衣裳、音楽、そして演技によってすっかり現代のお話になっていました。もともとは3人芝居ですが、多数のコロスがいることによって「ジュリーとジャンとクリスティンの話」から、「どこにでもいる誰か(つまり私)の話」になっていました。
 真っ白な壁に光が反射するので舞台全体は白く明るいですが、間接照明だからなのか、役者さんの顔がはっきり、くっきりとは見えません。それもこの物語の普遍性を伝わりやすくしていると思います。

 羽目を外したバカ騒ぎに乗じて、一夜の恋に身を任せた身分違いの男女。あるルールにのっとった演技合戦(色仕掛け、恋の駆け引き)から、本音のぶつかり合いへと2人の関係は進展してしまいます。でも喧々諤々の生々しいケンカとしては描かれません。感情の高まりもぶつかり合いも、相手のある行動に対する反応として、さりげなく、突然に表出します。目に見えているのは一枚の絵画のような、音が鳴っていても静けさが感じられるほどの美しい風景ですが、感情のうねりが常に空気を揺り動かしています。

 コロスが多数出演しますが、基本的には3人芝居、それも2人っきりの会話のシーンが多いです。凝縮された空気が長時間持続しますので、観客全員がそれに付いていけるかどうかというと、難しいと思います。白状しますが、私も途中で少々疲れてしまいました。でも最後の場面は、2人っきりの長い長いシーンなのですが、ものすごく官能的で引きこまれっぱなしでした。そしてハっと驚く幕切れ。照明が落ちるタイミング、暗闇の深さがまた格別です。

 ジュリー役のたきいみきさんの、いつもながらの美貌にうっとり。見かけが美しいだけでなく、身体、声、感情のコントロールが巧みなのが素晴らしいです。
 ジャン役の阿部一徳さんは、衣裳の変化(といってもほぼ1種類の衣裳を脱いだり着たりするだけ)で性格を豹変させます。存在の重みと安定感にほれぼれします。最初のシーンの色っぽさときたら、もう!!

 ここからネタバレします。

 楽しいパーティーが狂気の沙汰へと変わることはよくあります。ジュリーとジャンの情事も一瞬の気の迷いから生まれたのかもしれません。でもそれこそ人間らしさであり、出来事そのものの美しさは否定できません。徐々に距離を縮めていく2人にわくわく、どきどきしました。そして関係が予想していなかった段階に進むと、2人はお互いの育ちや考え方のあまりの違いに翻弄されます。会話の主従関係が瞬時に入れ替わるのがスリリング。

 ジュリーの父親である伯爵が不在の間、ジュリーは邸宅の女主人でした。でも伯爵が帰ってくればその天下も終わり。ジャンも、ジュリーと2人で逃亡しようと計画したものの、伯爵帰宅と聞いただけで気持ちが縮こまってしまいます。自分を縛るルールから逃れようとしたものの、そのルールに飼いならされていることを自覚するのです。身分制度や宗教(国教)などがほぼないとされる現代日本にも当てはまります。

 ジュリーは折れそうなほど細くて、高さのあるハイヒールを履いています。ヒールは女性の象徴ですよね。女ならではの武装のファッションでもあり、肉体的な弱さと、プライドや強がりも表していると思います。それを男ものの大きなブーツに履き替え、やがてブーツも脱いで素足になるジュリー。最後にはありのままの自分で勝負するしかないんですよね、人生。
 ジャンは艶やかな黒いスーツで色気と知性を前面に出していましたが、1枚、また1枚と脱ぐ(着る)うちに体の中の野性がにおい立ちます。衣裳ひとつで紳士にも獣にもなれるんですから、洗練された演出および演技に息を飲みます。俳優は立ち姿で決まるものだなと思いました。

一般公演:10月2日(土)16時30分開演、3日(日)14時開演、9日(土)16時30分開演、10日(日)14時開演
出演:たきいみき 阿部一徳 布施安寿香
コロス:青島美和、秋山淑恵、上山翼、串田仁美、佐藤友紀、杉浦南美子、蛸島慎司、仲村暢人、成田颯太、宮下泰幸、村上厚二、八幡みゆき、米川貴久、ブノア・レジヨ、大内米治、若宮羊市
演出:フレデリック・フィスバック 脚本:アウグスト・ストリンドベリ 訳:毛利三彌 美術:ローラン・P・ペルジェ 演出助手:ブノア・レジヨ 通訳:石川裕美 演出協力:芳野まい 舞台監督:村松厚志 装置製作:彦坂玲子 舞台:山田貴大、佐藤洋輔 衣裳製作:駒井友美子 照明:吉本有輝子 照明操作:川島幸子 音響:青木亮介 制作:高林利衣、仲村悠希
チケット:4,000円/ペアチケット(2枚)7,000円/大学生・専門学校生2,000円/高校生以下1,000円
http://www.spac.or.jp/10_autumn/julie
http://www.spac.or.jp/10_autumn/index.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 11:26 | TrackBack