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2012年04月10日

新国立劇場演劇・マンスリープロジェクト4月『トークセッション 戯曲を書くということ』04/09新国立劇場小劇場

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戯曲を書くということ

 新国立劇場は無料イベント「マンスリープロジェクト」を毎月開催しています。4月は倉持裕さん、蓬莱竜太さん、前川知大さんという、今の演劇界をけん引する若いアーティスト3名のトークでした。聞き手は演劇ライターの鈴木理映子さん。小劇場が8割は埋まってたんじゃないでしょうか。
 ⇒4月のマンスリー・プロジェクト トークセッション「戯曲を書くということ」が開催されました

 3人の共通点は大人気の劇作家、演出家であり、劇団に所属されていること。そして「物語をつむぐ劇作家」であることも。以下、私がメモしたことのまとめです。テープ起こしではありませんので語られた全てではありません。間違ってるかもしれませんのでお許しを。

 ※ただいま上演中の『まほろば』の舞台上での約1時間半のトークでした(途中休憩なし)。『まほろば』は4/15まで上演中。長野、兵庫、山形公演あり。⇒メルマガ号外を発行しました!

 ※来月のマンスリー・プロジェクト:5/12(土)「リーディング公演 エリ・プレスマン作『ドン!』」(演出:宮田慶子)

 ■執筆場所/執筆中の相談相手

 ―どこで執筆されるんですか?
 倉持:喫茶店で構想して、書くのは自分の部屋です。
 前川:僕も同じです。
 蓬莱:ずっとファミレスで書いていたんだけど、あまりにずっと居続けるので、ある時、少し店から出てまた戻ったら、店員さんに「おかえりなさい」と言われて(笑)。これはやばいと思って、家で書くようになりました。

 ―執筆中の相談相手はいらっしゃいますか?
 倉持:岩松了さんが読んでくださって、いろいろ厳しく言っていただいたり。
 前川:ずっと構想を相談してきた年下の友達がいて、彼の場所を作るためにイキウメ文芸部をつくりました。
 蓬莱:相談相手はいないです。


 ■厳しい〆切催促

 倉持:どうしても明日までにとか言われても。そりゃ自分もそうしたいけど・・・もうちょっと余裕を持って(待って)もらえないのか。なぜ「明日」じゃないとダメなのか考えてしまう。その人(=催促する人)が誰かに謝りたくないだけだよね、とか。
 蓬莱:5分置きに電話がかかってきたこともある。「1枚でもいいから送ってください」とか言うんだよね。
 前川:それ、邪魔してるよね!

 蓬莱:僕は劇団ではノーギャラなんです。(だからというわけではないが)劇団ではいつも稽古初日に台本は半分ぐらいある状態。でも前回公演では稽古初日に間に合わせてみたんです。そしたら、稽古ができるんですよー(笑)。いいですよ、(劇団でも)全部出来あがってる方が。
 倉持:そうかー(なるほどー)。
 前川:僕は脚本が完成してないと演出ができないです(頭が演出に切り替わらない)。


 ■登場人物の名前を決める方法

 ―倉持さんは登場人物に個性的な名前をつけられてますよね。どうやって決めているんですか?
 倉持:インターネットに名前のサイトがあるんです。人数が多い順に1番から並んでいて、たとえば1番は佐藤ですよね、そして鈴木とか。そこで5000番台ぐらいのを選ぶ。
 前川:僕は2000番台ぐらいですね。
 蓬莱:何それ!そんなのあるの?

 前川:役にしっくりくる、フィットする名前を選ぶ。字面と意味と音で決めます。「君」とか「さん」とか名前のあとにつくものも重要。※前川さんは自分の戯曲を音読して確認されるそうです。
 倉持:似たような名前だと役者が間違えたりするから、バラける(似たものを選ばない)ようにするとか。


 ■得意な空間に執着して自分をカテゴライズしない

 ―皆さんより若い世代で、小劇場ばかりを使っていて大劇場に興味のない作り手が増えているように思います。小さな空間で自分の表現をつきつめたいという若い作り手についてどう思われますか?

 蓬莱:自分の得意な空間だけでずっと創作をして、自分の世界を、作家性を決めてしまうのが(僕は)怖い。たとえば日生劇場なら日生劇場でどう自分の作風を合わせるか(を考える)。自分の劇団の作品は日生劇場でかかるものじゃないけれど、チャレンジしない手はないと思う。作家がいつまでもクリエイティブでいられることが大事。この数年、ミュージカルや大きな劇場での芝居をやってきた。自分がいずれどんな作家になるかは決めていない。最後に「蓬莱は~~~だった」となればいいこと。小劇場もクリエイティブだし、(自分を)カテゴライズしないように意識している。

 倉持:(劇団公演だと、大劇場で)動員を増やすという考え方もありだよね。
 前川:僕の劇団には役者が8人いて、彼らにギャラを出すためには動員をのばしたい。小さい空間だけで自分の表現をつきつめていく気にはならない。
 倉持:小さい空間ばかりで上演してて、「役者、大丈夫?」って思う。同じような、記号化されたような役者ばかり増えていて、役者のことが心配になる。
 蓬莱:プロデュース公演のいいところは、役者との出会いの場でもあること。人と出会っていくことは大事。嫌な人もいますけど(笑)、それも刺激。同じ肉体とばかり作品創作をするのは不健全だと思う。もっと(色んな人と)出会えばいいのにと思います。


 ■プロデュース公演と劇団公演それぞれの魅力

 蓬莱:劇団だと自分の作品を好きな人ばかり。でもプロデュース公演だと(互いを)疑うところから始まる。そこからスタートするのが面白い。
 倉持:自分のことを買ってくれてない時は緊張感があるよね。劇団だと何も言わなくてもいいことを、プロデュース公演だと説明しなきゃいけない。そしてその緊張感は本番に出る。
 蓬莱:その方が芝居の隙がなくなるかもしれない。

 前川:セゾン文化財団のニュースレター(viewpoint第54号「演劇の地平を均せ」)に、倉持さんがすごくいいことを書かれていた。⇒ニュースレターバックナンバー ⇒第54号PDF
 倉持:プロデュース公演と劇団公演をやってきて、劇団公演がプロデュース公演の型落ちと思われたらまずい。プロデュース公演は劇団公演で試してみて成功したことをやる。だから新たな試みを最初に観られるのは劇団公演。それを観に来てほしい。


 ■なぜ「物語」を書くのか

 前川:詩人は的の真ん中を射るような言葉を使う。物語はそうじゃなくて、蚊取り線香のようにぐるぐると回っているような感じ。そっちの方が共感できると思う。シンプルなメッセージより共感した形で受け取れる。プロセスそのものを共有する。詩や歌詞も凄いと思うけど、僕が面白いと思うことを伝えるためには物語が必要。

 倉持:物語はサービスだと思う。物語がないのって、わりと不親切。最低でも3つから4つの展開があるのが物語。1つだけだと退屈。
 蓬莱:僕は起承転結が好きなんだと思う。この4つは言い得て妙なんです。書きながら意識してると思う。お客さんとのシンクロ率は高い方がいいわけで、核心に迫れるから起承転結は有効だし、悪くない。演劇はエンターテインメントのひとつだし。演劇らしく立体的に立ちあげる方法は演出にもある(戯曲でなくとも演出でできる)。1時間半から2時間の間、観客に考えさせて、考えてもらうこと(のために物語は有効)。

 倉持:広く伝えるために物語は必要。幅広い客層に伝えたいならサービスしないと。戦略として。観客に最後まで見せて、引き込むために。
 蓬莱:王道を成立させるには努力がいる。王道で観客に旅をさせるのは高度なこと。それに挑んでいたい。エッジを効かせるのは作家のダークサイドだと思うんです。自分の感性に沿って書くのは楽だから。時々、劇団では(ダークサイドに行くのを)許されてもいいのかな、と思うけど、基本的にはそこに落ち込まないようにしたい。


 ■「世界を見直すために物語は無効ではない」

 ―倉持さん作・演出の舞台『鎌塚氏、放り投げる』はとても面白いコメディーでした。不穏な人間模様等を描いてきた倉持さんにとっては、チャレンジだったのではないでしょうか。
 倉持:制約を設けることで緊張感を得ようとした。「コメディーです」と謳えば、笑わせなきゃいけない。そうやって自分にプレッシャーをかけていく。スタンダードの物語の魅力というのは、重いものです。

 ―震災後の5月の上演でした。「フィクションは現実を超えられない」と言われた時に、「世界を見直すために物語は無効ではない」と示してくれたように感じ、心強かったです。
 倉持:ちょうど震災の時に書いていたので、こんな“コメディー”をやってもいいのかと迷ったんですが、しばらく考えて、むしろ使命感を感じて、「笑えるものをやった方がいい!」と思った。実際反応もとても良くて。それはあの時期だったからじゃないかと思う。


 ■脚本から全てが始まる

 宮田慶子芸術監督:皆さん、今日はありがとうございました。劇作家の方々の執筆中のお話を伺えて非常に興味深かったです。でも、やはり演出の立場としては「脚本は早い方がありがたい!」です(笑)。脚本から全てが始まりますから。どうか早くあげてくださいますようお願いいたします!


 【3人の新作戯曲公演】

 倉持さん:M&O Plays produce『鎌塚氏、すくい上げる
 蓬莱さん:パルコ・プロデュース『ハンドダウンキッチン
 前川さん:イキウメ『MISSION


 【トークを聴き終えて】

 セゾン文化財団のニュースレターviewpoint第54号(⇒PDF)に掲載された「演劇の地平を均せ」(倉持裕)は、震災直前に読んでとても共感したんです。だから前川さんが言及してくださって嬉しかったですね。⇒セゾン文化財団公式ツイッターが2011年3月10日にツイートしています。
 戯曲についてのトークとはいえ、劇作家、演出家、そして劇団員(蓬莱さん以外のお2人は主宰)だから考えてらっしゃることを聞けて面白かったです。

 『鎌塚氏、放り投げる』は私もすごく面白かったので、次回作があるのが嬉しいです。倉持さんが出演者の名前を挙げて「満島ひかりちゃん」とおっしゃった時、客席から歓声が上がりました。私も満島さん大好き!でもチケット取れるかどうか心配になっちゃったな~!

 ※以前のマンスリー・プロジェクトでは予約完了時のWebページを印刷して持参するようにとあったのですが(そして当日持参したのに必要なかった)、今回はそれがなくスムーズに入場できて気持ち良かったです。

4月9日(月)19:00~
出席者:倉持裕(劇作家・脚本家・演出家)/蓬莱竜太(劇作家・演出家)/前川知大(劇作家・演出家)
聞き手:鈴木理映子(演劇ライター)
無料・要申込
http://www.nntt.jac.go.jp/play/20000400_play.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2012年04月10日 23:12 | TrackBack (0)