2012年06月21日
パリ・オデオン座『オリヴィエ・ピィの「<完全版>ロミオとジュリエット」』06/09-10静岡芸術劇場
SPAC・静岡県舞台芸術センターで、ただいま「ふじのくに⇔せかい演劇祭2012」が開催中です。⇒記者発表の写真レポート
私は6月から6月1日にかけて、計3回は静岡観劇に伺う予定。まずはフランスの『オリヴィエ・ピィの「<完全版>ロミオとジュリエット」』を拝見しました。上演時間は約3時間20分(途中休憩1回を含む)。
長時間で字幕観劇なのでちょっと構えていたんですが、言葉がわからなくても目の前に存在する役者さんの嘘のないライブ感のおかげで、退屈することなく最後まで添い遂げられました♪
⇒CoRich舞台芸術!『オリヴィエ・ピィの「<完全版>ロミオとジュリエット」』
壁、デスク、イス、ヤシの木など、可動式の大道具でシーンを作っていきます。ちょっと薄汚れた感じに塗られていて、倉庫や移動式遊園地などのイメージも。蛍光灯がたくさん貼りつけられた板が天井から降りてきたり、大きな赤いビニールの幕で部分的に空間を真っ赤に染めたり、手作り感を堂々と見せながらもクールな空間です。
日本語字幕は舞台中央上部に1つ。<完全版>と謳うほどなので、原作にとても忠実な台本だったのだろうと思います。なぜか新訳なのかな~と思うほど、新鮮な感覚で『ロミオとジュリエット』に出会えました(新訳ではないのに)。物語のあらすじは知っていますし、役者さんの身体を観るだけで退屈しないので、字幕は読まないことも多かったです。
2009年に観た時もそうでしたが、ピィさんの舞台では俳優が俳優自身であることと、役人物であること(の両立状態)に嘘がないんですよね。舞台で自由自在に動く体、声、その状態を見ているだけで、筋を知っているのにスリリング。ピアノの生演奏もあるので音楽のライブ感も手伝ってます。
役者さんが1人で2役を演じるのが面白かったです。たとえばロミオとロミオの父、ジュリエットの父とパリス、ジュリエットの母とティボルト。ジュリエットの父とパリスなんて、2人が同時に登場する時は1人芝居になっていました(笑)。
ジュリエット役がカミーユ・コビさんからセリーヌ・シェエンヌさんに変更になったのは、劇場に着いてから知りました。日本公演用のキャストではなく、フランスで既に変更になっていたんですね。若いジュリエットを観たい気持ちは大いにあったんですが、シュエンヌさんは以前に拝見して、ものすごい女優さんだと思っていたので、嬉しくもありました。最初は若いロミオと一緒に居ることに少々違和感はあったのですが、やはり、化け物のような(いい意味で)、圧倒的な存在感!一体おいくつなのかしら…。
ここからネタバレします。
ロミオは最初はロザラインという女性が好きだったのに、ジュリエットに一目ぼれしてしまうんですが、ロザラインに恐ろしいほどに首ったけだったことがよく伝わりました。思いこみ激しいぜロミオ~。若い若い~。役者さんも若いからリアル~。
可動式の装置なのでシーンごとに景色はどんどん変わって行きます。2人が愛をささやいたバルコニーが、最後には霊廟の壁になったりもしますから、過去を未来で上書きしていく感覚です。でも、紙吹雪やこぼした水は休憩をはさんでも片付けないし、チョークで壁に文字や絵を描いた場合、消すことはしますが白い跡は残ります。そうやって敢えて痕跡を残していく演出で、時の経過と蓄積を表したのではないかと思いました。
さらに面白かったのは、下手面側に鏡台があり、その鏡台だけは全く動かさず、定位置にあり続けたことです。丸い電球で鏡の周りをぐるりと囲んだロマンチックなデザインで、舞台の楽屋を想像させます。また鏡は客席の方を向いているので、観客自身が舞台上に居るとも受け取れます。「この舞台で起こっていることは、貴方自身のことなのだ」という意味にも。
シェイクスピアの時代から建物は崩れ、出来事は忘れ去られるけれど、なかったことにはならない。そして全て私たち(=鏡)が知っていることなのだという主張にも受け取れました。
ふじのくに⇔せかい演劇祭2012 フランス語上演/日本語字幕
出演:マチュー・デセルティーヌ、セリーヌ・シェエンヌ、クリスティアン・エスネー、ミレイユ・エルプストメイエール、フレデリック・ジルートリュ、オリヴィエ・バラジューク、バルテレミー・メリジャン、カンタン・フォール、バンジャマン・ラヴェルヌ、ジェローム・ケロン[ピアノ]
※ジュリエット役が、カミーユ・コビからセリーヌ・シェエンヌに変更となりました。
脚本:ウィリアム・シェイクスピア 演出・翻訳:オリヴィエ・ピィ 美術・衣裳:ピエール=アンドレ・ヴェーツ 照明:ベルトラン・キリー 衣裳助手:ナタリー・ベグ 音楽アドバイザー:マチュー・エルファシ 音響:ティエリー・ジュッス 製作:パリ・オデオン座 協賛:エール・フランス航空 協力:東京日仏学院 後援:在日フランス大使館
SPACスタッフ 舞台監督:村松厚志 舞台:市川一弥 渡辺明 佐藤聖 永野雅仁 照明:樋口正幸 松村彩香 西山真由美 音響:西沢理恵子 大塚翔太 山﨑智美 衣裳:駒井友美子 畑ジェニファー友紀 通訳:石川裕美 字幕翻訳・操作:山田ひろ美(小田島雄志訳による) 制作:丹波陽 大保和巳
【発売日】2012/04/15 一般大人:4,000円/大学生・専門学校生2,000円/高校生以下1,000円
☆SPACの会特典のほか、ゆうゆう割引、早期購入割引、みるみる割引、ペア/グループ割引料金があります。
http://www.spac.or.jp/f12romeo.html
http://www.theatre-odeon.fr/en/the_season/11_12_shows/accueil-f-374.htm
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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青年団若手自主企画・大池企画『いないかもしれない 動ver.』06/16-24アトリエ春風舎
大池容子さんが作・演出される青年団若手自主企画vol.54を拝見しました。大池さんはうさぎストライプという集団でも主宰として活動されています。上演時間は約1時間弱。
今年3月に上演された『いないかもしれない静ver.』との2部作で、「静ver.」は“静かな演劇”仕様だったそうです。「動ver.」は文字の通り、動いている役者さんの身体で見せる演出でした。
上演時間が1時間なら19時半か20時開演で良かったんじゃないかな~。小竹向原で19時開演は、ちょっと私には早すぎた感あり。
⇒CoRich舞台芸術!『いないかもしれない 動ver.』
≪あらすじ≫ 公式サイトより。
誰でも1つは消し去りたいと思ってる過去があって、
でも消せないから忘れたふりをして生きていて、
たまに思い出して自分は全然変わってないって思ったりする。
それを繰り返して生きていく人たちの話です。
≪ここまで≫
子供のころよく小学校で使っていた教材などが散らばっている、いつものアトリエ春風舎の木製の床。劇場では役者さんが既に床に座ってスタンバイしていました。
最初は“リアルに動いているそぶり”を見せられても面白くないなぁと思っていたんですが、半分を過ぎた頃に、バシっと、動き自体に面白みを感じられる演技があって、そこから集中して見られました。
今月は静岡のSPACで3作品観たせいもあると思うんですが、鍛えられていない役者さんの肉体労働的な運動や演技は、私にとってあまり見どころにならなかったかもしれません。
20代の若い方々が演劇の色んな手法や方向性を試されていて、頼もしいなと思いました。
ここからネタバレします。
京都の美大に通っている女子大生(かな?)が久しぶりに里帰り。小学校時代の同級生たちと会って話す内に、知らない女性(緑川史絵)も参加してきた。誰も名前を思い出せないんだけど、彼女はみんなの名前も、学校での出来事も詳しく知っていて…。
ヒンズースクワット、ハンカチ落とし、キャッチボールなど、セリフとは直接関係のない動きがほとんどでしたね。壁を押す動作は今までの公演でもやっていたようですが、この作品では私は効果がよくわからず。
いじめられっ子だった主人公の女性が、当時のいじめっ子を窓から(?)突き落としたことがわかってきます。そのいじめっ子は九死に一生を得て今は結婚して元気な様子。彼女はなぜ自分が落下事故に遭ったのかを憶えておらず、しかも主人公をいじめていた自覚もなく。最後はその2人が長年の空白を経て仲直りをする、かも…というちょっとしたハッピーエンドでした。
実在するのかどうか曖昧な女性(緑川史絵)が、ランドセルを思いっきり投げた(ように信じられた)時にグっと来ました。
青年団若手自主企画vol.54
出演:亀山浩史、小瀧万梨子(青年団)、森岡望(青年団)、緑川史絵(青年団)、由かほる(青年団)、安倍健太郎(青年団)
脚本・演出:大池容子 照明&舞台監督:黒太剛亮(黒猿) 音響:植木麻衣子 制作&ドラマターグ:金澤昭(青年団制作部・うさぎストライプ) 宣伝美術&ブランディング:西泰宏(うさぎストライプ) 企画制作:青年団/(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場 主催:(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場 総合プロデューサー:平田オリザ
【休演日】6月19日【発売日】2012/03/26 予約 1,500円 当日 2,000円 未就学児童入場不可
http://www.usagistripe.com/2011/12/blog-post_26.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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タカハ劇団『ネジ工場』06/20-24駅前劇場
タカハ劇団は高羽彩さんが作・演出されるプロデュース形式の演劇ユニットです。初日に伺いました。今週末、日曜日が千秋楽で、いつもより公演期間が短いですね。上演時間は約1時間50分。
以下、ツイッターとCoRich舞台芸術!に投稿した短い感想です。
一見、ザ・昭和な具象美術の温かい人情劇だが、時間軸にも時代にも一捻りあり。昔懐かしい平穏な生活を望む姿は愛らしいが、それ自体が今の私たちいは風刺に映る。その狙いがいい。現代日本への痛烈な批判も込めたファンタジー。
⇒CoRich舞台芸術!『ネジ工場』※こりっちでカンタン予約!
≪あらすじ≫
両親を亡くした3兄弟が経営するネジ工場。ばたばたと死者が出るさびれた町で、今日もいつも通りの平穏な一日を過ごすはずだった。
≪ここまで≫
3兄弟(有川マコト、夏目慎也、山口森広)のケンカやじゃれあいに、いわゆる“家族の幸せ”が見て取れます。でもそれがあからさまにレトロに(昭和風に)描かれていることに、作者の意図を感じました。いつまでも震災以前の、いえ、「誰でもがんばれば幸せなれる」と信じられた高度成長期のように、無邪気(イノセント)なままでいる大人たちへの批判だと思います。
ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。
「父の時代には、俺たちが作ったナットが使われている宇宙ステーションを、みんなで見上げて手を振った(空を飛ぶ宇宙ステーションを目視できた)」らしいので、かなり未来の話だろうと受け取りました。
喪服を片付ける間もないほど、次々に人が死んでいきます。不穏なサイレンの音が鳴る度に「ああ、また誰か死んだな」とつぶやく。それがほぼ当たり前になっている日本。
補償金申請の書類の項目がてんででたらめ(「死んだ夫と最初にデートした時に食べたのは何?」「なまこアイスか、くらげアイスか」)で、でもしっかりコツを押さえて空欄を埋めて提出さえすれば、補償金はもらえる(かもしれない)とのこと。被災状況報告書を連想させます。
ネジ工場の土地の権利書を持って夜逃げした司法浪人生(大佐藤崇)が、血まみれになって引き戻されてきて、言います。「とにかく怖い。早くこの国から逃げ出したい。」「お前らが作ってるネジが何に使われてるか考えろ(軍事利用だぞ)」と。知識人だけが事実を知っていて、金持ちだけが逃げ切れる世の中。無垢でいることの罪にも言及しています。
ガチャ好きの次男が、突然現れた妹をなぐさめるために「ガチャいる?」と言ったのが可笑しかったです。
第8回公演
出演:有川マコト(絶対王様) 板倉チヒロ(クロムモリブデン) かんのひとみ(劇団道学先生) 大佐藤崇 夏目慎也(東京デスロック) 水谷妃里 山口森広(ONEOR8) 春日由輝(劇団プレステージ)
脚本・演出:高羽彩 舞台監督:藤田有紀彦 舞台監督補佐:陶山浩乃 舞台美術:稲田美智子 照明:吉村愛子(Fantasista?ish.) 音響:角張正雄 宣伝美術・宣伝写真:羽尾万里子 舞台写真:林亮太 制作:feblabo 制作協力:嶌津信勝(krei inc.) 制作補佐:丸山緑(劇団霞座) プロデューサー:池田智哉(feblabo)
一般前売り開始 2012年5月26日(土)10:00~ 予約・当日共 3600円 ★=初日・平日昼割引 3300円 学生割引 2000円(要予約・要学生証提示) ペアチケット(2枚一組)6600円(要予約) 全席指定席
http://takaha-gekidan.net/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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