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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2013年11月08日

世田谷パブリックシアター『クリプトグラム(cryptogram)』11/06-24シアタートラム

 小川絵梨子さんが翻訳・演出されるので、私的には必見の舞台。『クリプトグラム(cryptogram)』は米国の劇作家デイヴィッド・マメットさんの1994年初演戯曲で、成人男女と少年が登場する三人芝居です。タイトルの意味は暗号、あるいは(神秘的な)シンボル。マメット作品のレビュー⇒ 映画の脚本家・映画監督としても有名な方ですね。

 意味深な言葉のやりとりから、3人と登場しないある人物との関係や、それぞれの真意を探っていきます。上演時間は約1時間20分と短いですが、謎解きの緊張感が保たれ、男女および親子の愛憎のドラマも濃密でした。恐ろしいお話でした…小川さんにはまたもや、非常に面白い戯曲をご紹介いただけたなぁと思います。 

 舞台を観てからチラシとパンフレット(1000円)を眺めてみると、絵図に意味が隠され、暗号になっているんですね。紙質も含めデザインが凝っていてとてもハイセンスですね~。

20131106_cryptogram.JPG

 ⇒『クリプトグラム』ニューヨーク初演をご覧になったひびのけいさんのツイート
 ⇒CoRich舞台芸術!『クリプトグラム(cryptogram)

 マメットさんが脚本を担当された映画は、アマゾンで検索して見つけた中だと下記3本は見ました。どれも面白かったです。
 ↓デ・ニーロファンだった私。

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 ↓ショーン・ペンの「忘れないため」というセリフが今でも引っかかっています。

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 ↓ブラット・パックにハマってた。中学生が観ても意味わかってなかったかも(笑)。80年代なつかしい。

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 ≪あらすじ≫
 もう夜遅いし、お母さんは何度も2階に行ってベッドに入りなさいって言うけど、お父さんが帰ってくるのを待ってるんだ。明日、一緒に森にキャンプに行くから、その準備をしなきゃ。楽しみで眠れない。ううん、眠れない理由はそれだけじゃない。
 ≪ここまで≫

 舞台は中央に階段がある居間。ステージ下手側にも客席があるので、客席が舞台をL字型に囲んでいます。階段の上には子供部屋があり、上手袖側に玄関と台所へと続くドア枠があります。階段は下手に向かって数段のぼると踊場があって、そこで90度折れ曲がって上手天井方向へと伸びる形状をしています。床も家具も色が白とブルーグレーのグラデーションで統一されていて、古びて薄汚れているとか、実体が希薄で憂いが支配している等の印象を与えます。
 穏やかなピアノの音色と、要所要所で威力を発揮する照明(映像?)が、上品で洗練されたストレート・プレイの空気を作ってくれました。

 ジョン(坂口湧久)はドニー(安田成美)の息子で小学校高学年ぐらいだということは、お芝居が始まってすぐにわかるのですが、デル(谷原章介)が何者なのか、2人とどういう関係なのかは、なかなかわかりません。幕開けすぐに暗号解読が始まり、ずっと集中して観ることができました。

 子役があんなに重要な役どころとは!膨大なせりふ量ですし、難解ですし、よくここまでお稽古されたなぁと感心しました。パンフレットのクレジットで、3人の出演者の中で子役が一番上になっているのにも納得でした。これは子供が見た物語なんですね。
 プレビュー初日時点の印象ですが、谷原章介さんはまだ役柄について確かなものつかんでいらっしゃらないように見えました。安田成美さんはとっても、とっても可愛らしい方だな~と思いました。たぶん真面目で素直で優しい方なんじゃないかしらと勝手に想像。ただ、ドニー役は他人から嫌われたり、怖がられたりする性質を、もっと表面に出してもいいのではないかと思いました。

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 デル(谷原章介)はドニーとその夫の昔からの友人で、ずっとホテル暮らし。実はゲイだと終盤にわかります。デルは先週、ドニーの夫と1週間のキャンプに行って、そこで夫から大切なナイフをプレゼントされたと言っていましたが、それは嘘でした。本当はドニーの夫は愛人を連れてデルのホテルに宿泊していたのです。自分に嘘をついて裏切ったデルを、家から追い出すドニー。大人2人の間に起こったことを、ジョンはずっと見ていました。ジョンは「誰かが僕を呼んでる声がする」「お母さん、死んでしまいたいと思ったことある?(僕はある)」などと言い、なかなか寝ようとしません。子供の恐怖に大人が全く気付かないのが苛立たしいし、恐ろしかったです。

 ナイフという物体そのものに色んな意味が込められていると思います。デルがジョンにナイフを渡し、ジョンがそれを触る場面だけでなく、舞台中央の小さなテーブルにナイフがただ置かれているだけでも、空恐ろしさが漂います。ドニーたちは戦中、戦後を生きている人たちで、ナイフはドニーの夫にとって戦争勝利の勲章のような大切なものだったのだから(後から、ただ買っただけとわかりますが)、私個人としてはそういう時代や、戦争の空気をもっと感じたかったかな~。

 小さな子供を子供部屋で一人で寝るようにしつけるのは、日本にはあまりない習慣ですよね。私はそれが保育、教育的に良いとは思えないタイプなので、なぜドニーがあれほどまでにジョンを一人ぼっちにさせて、自分から離しておきたいのかが、ずっと疑問でした。デルが言ったように、「(夫だけが悪いわけじゃない)ドニーにも問題がある」んでしょうね。最後の最後にドニーが徹底的にジョンを拒絶するところで、ドニーの異常なまでの頑なさが感じ取れました。できればドニーのそういう性質を、もっと前の場面から観たかったと思います。

出演:谷原章介、安田成美、坂口湧久 ※ジョン役は坂口湧久くんと山田瑛瑠くんの交互出演となります。
脚本:デイヴィッド・マメットDavidMamet 翻訳・演出:小川絵梨子 [美術]二村周作[衣裳]前田文子[照明]三谷恵子[音響]尾崎弘征[舞台監督]佐川明紀[演出助手]大澤遊[技術監督 熊谷明人[プロダクション・マネージャー]勝康隆[プロデューサー]穂坂知恵子[宣伝美術]近藤一弥[イラストレーション]望月梨絵 プログラム(パンフレット)スタッフ→ 編集・発行:世田谷パブリックシアター デザイン:近藤一弥 DTP:大河原達(Kazuya Kondo Inc.) イラストレーション:望月梨絵 鼎談写真:御堂義乗 印刷:株式会社オノウエ印刷
一般 5,000円 ※プレビューは一般4,500円(友の会・アーツカード会員割引はございません。高校生以下・U24 2,250円) 高校生以下 2,500円 U24 2,500円 友の会会員割引 4,500円 せたがやアーツカード会員割引 4,700円
http://setagaya-pt.jp/theater_info/2013/11/post_342.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2013年11月08日 11:50 | TrackBack (0)