2013年01月09日
【インタビュー】韓国ミュージカル『ウェルテルの恋』演出キム・ミンジョンさん

キム・ミンジョンさん(c)ぴあ
『ウェルテルの恋』を演出された演出家キム・ミンジョンさん(⇒プロフィール)にお話を伺いました。
初演から数えると4人目の演出家になるんですね。2010年の10周年記念公演から担当されているので、『ウェルテルの恋』の演出は2度目です。
⇒韓国の稽古場レポート(メインキャストとミンジョンさんの写真あり)
●ミュージカル『ウェルテルの恋 原作:ゲーテ「若きウェルテルの悩み」』
期間:2013年1月11日(金)~26日(土) 全20回公演
会場:赤坂ACTシアター
韓国語上演。日本語字幕付き。全席指定9,800円。
⇒公演公式サイト
⇒公演公式ツイッター
⇒CoRich舞台芸術!
⇒ぴあ「韓国“舞台”エンタメの底力」
⇒げきぴあ「ウェルテルの恋」
※全日程でカーテンコールでの写真撮影可!(フラッシュNG)
・しのぶの演劇レビュー内関連リンク
⇒『ウェルテルの恋』プレスツアー参加報告
⇒チョン・ドンソクさんインタビュー
⇒キム・ダヒョンさんインタビュー
⇒演出家キム・ミンジョンさんインタビュー(このページです)
⇒韓国公演初日レビュー
■演出する度に新しい印象をくれる『ウェルテルの恋』
―『ウェルテルの恋』の演出依頼が来た時はどう感じましたか?
ミンジョン:まず光栄に思いました。『ウェルテルの恋』は韓国ミュージカルの中で、最も愛されている作品のひとつに数えられます。10周年記念公演の演出の話をいただいた時は、ただただ、信じられないぐらい嬉しかったです。
やはりウェルテルというキャラクターは美しいですよね。(演出家として)拒絶できないキャラクターです。この仕事を受けたのも、ウェルテルの魅力に惹かれたことが一番の理由です。
―2010年版と比べて、演出に大きな変化はありますか?
ミンジョン:多くの変化があります。音楽的な部分では、2010年版から1000席以上の大劇場用のフル・グランド・バージョンになり、今回はさらにパワーアップしました。たとえばパーカッションなどの打楽器も全て入って、フルオーケストラになっています。
今回はより大衆的で、幅広い観客にアピールできる作品にして欲しいという依頼もありました。もともと『ウェルテルの恋』は非常にクラシックな作品で、演技も音楽も30代後半から40代の観客に好まれていたんです。今回は音楽も編集し直して、より若返り、20代にアピールできる要素も増えています。
また、これまでは舞台転換などに演劇的な要素が多かったんですが、壮大な音楽に合わせるために、クラシックな大規模ミュージカルのような魅力を引き出しました。演出する度に新しい印象をくれるのが、『ウェルテルの恋』です。

写真(c)ぴあ
■ドイツの作品なのに、韓国の情緒がある
―小説『若きウェルテルの悩み』を、より韓国的にするために施した工夫などはありますか?
ミンジョン:ゲーテの原作の小説にはたくさんのテーマが含まれています。ミュージカル化にあたっては、愛をメインテ-マにして脚色しました。
―ドイツと韓国の文化で通じるところはありましたか?共通点は?
ミンジョン:演出家としての意見をお話ししたいと思います。私はドイツの劇作家ヴェデキントの『春のめざめ』を演出したことがあります。不思議なことに、ドイツの作品なのに韓国的な情緒を含んだストーリーだったんです。『ウェルテルの恋』もまた同様に、韓国的な情緒を多く含んでいて、ドラマティックで、ロマンティックで、情熱的。そういった部分で観客の共感を得やすいと思いました。
ドイツ人全員を知ってるわけではないですが、ウェルテルというキャラクターは強くて、情熱的で韓国人っぽいところがあるんです。ドイツの芸術が持つ魅力は、韓国で表現しやすいのではないかと思いました。また、愛はやはり万国共通で、たとえばドイツ、アメリカ、日本の作品だったとしても、愛の本質を語る点では、国の壁はないと思います。
■日本の舞台も観ています
―日本の舞台作品はご覧になったことはありますか?
ミンジョン:劇団四季の自由劇場で上演された『オンディーヌ』や、新国立劇場の公演は観ました。演劇の街(下北沢?)でやってる小劇場演劇も、歌舞伎も日本で観たことがあります。ミュージカルより演劇を観てましたね。
【しのぶよりひとこと】
にこにこしながら、穏やかに、明るい語り口でお話してくださるミンジョンさん。記者からの質問に答えつつ、「日本ではどうですか?」と逆に質問をしたりして、進んで双方向のコミュニケーションを取ろうとしてくださいました。現場での仕事ぶりはわかりませんが、こんなに柔和な姿勢の女性の演出家って珍しいのではないかと思いました。
キム・ダヒョンさんもそうですが、インタビューをしたのは公演の初日だったんです。ミンジョンさんは演出家だから超~お忙しいはずなのに、時間をとってくださいました。何度も(舞台監督さんから)呼び出しの携帯が鳴る度に、日本語で「ゴメンナサイ」「スイマセン」とおっしゃって、最後までお付き合いくださいました。
本番は私のほぼ真後ろの席に座ってらっしゃいました。終わるなり「いかがでしたか?」と聞かれて、韓国語がわからない私は右手で親指を立てて「グー!」としながら、「面白かったですー!」と(日本語で)答えました。
韓国題名『뮤지컬(musical)젊은 베르테르의 슬픔(Die Leiden des jungen』
出演(※主演Wキャスト):キム・ダヒョン(김다현)、チョン・ドンソク(전동석) ほか ※出演者、配役は変更になる場合がございます。
原作:J.W.Goethe(ゲーテ) 演出:キム・ミンジョン(김민정) 音楽監督:イ・ソンジュン 振り付け:ホン・セジョン 芸術監督:シム・サンテ 劇作/歌詞 :コ・ソンウン 作曲:チョン・ミンソン 脚色:ソン・ジョンワン、キム・ソンミ 編曲:イ・ソンジュン 主催:ぴあ 制作:CJ E&M、劇団カッカジ(韓国)
11月9日(金)10:00より、チケット一般発売
早割指定 9,000円(税込) ※11/8(木)までの先行期間のみ適用料金となります。
全席指定 9,800円(税込) ※未就学児童のご入場はご遠慮ください。
韓国ソウル公演:http://www.playdb.co.kr/playdb/playdbDetail.asp?sReqPlayno=40130
東京公演:http://wakaki-w.jp/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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CJ E&M/劇団カッカジ『ミュージカル「ウェルテルの恋」』10/25-12/16ユニバーサル・アート・センター(韓国)
韓国創作ミュージカル『ウェルテルの恋』が、とうとう1月11日に赤坂ACTシアターで初日を迎えます!昨年のプレスツアーで拝見した韓国公演初日(2012年バージョンの世界初演)のレビューをアップしました。字幕なしだったので見当違いの深読みや勘違いをしまくってるはず(笑)。日本公演で答え合わせします♪
キム・ダヒョンさんの、計算し尽くして狙いを定めた緻密な演技に、再び会えるのが楽しみでたまりません。そしてもう1人の主役、チョン・ドンソクさんは昨年末のコンサートで日本デビューを飾られ、日本版公式サイトやツイッターも開設。甘いマスクと迫力ある美声で酔わせて欲しいです。
主人公ウェルテル役は公演前半(1/11-18)がダヒョンさん、後半(1/19-26)がドンソクさんのダブルキャストですので、まずはダヒョンさんを観てみてください!韓国在住のライターさんのブログで予習できます。ここでもダヒョンをお勧めされていますよ~。
●ミュージカル『ウェルテルの恋 原作:ゲーテ「若きウェルテルの悩み」』
期間:2013年1月11日(金)~26日(土) 全20回公演
会場:赤坂ACTシアター
韓国語上演。日本語字幕付き。全席指定9,800円。
⇒公演公式サイト
⇒公演公式ツイッター
⇒CoRich舞台芸術!
⇒ぴあ「韓国“舞台”エンタメの底力」
⇒げきぴあ「ウェルテルの恋」
※全日程でカーテンコールでの写真撮影可!(フラッシュNG)
・しのぶの演劇レビュー内関連リンク
⇒『ウェルテルの恋』プレスツアー参加報告
⇒チョン・ドンソクさんインタビュー
⇒キム・ダヒョンさんインタビュー
⇒演出家キム・ミンジョンさんインタビュー
⇒韓国公演初日レビュー(このページです)
私ったら原作小説も読むハマりっぷり(笑)。さすがは世界的な名作古典ですね。ストーリーが面白いのは無論のこと、書簡形式の枠に収まらない構成にも驚かされました。
≪あらすじ≫ ぴあのサイトより。
舞踏会で出会ったロッテに運命的な愛を感じるウェルテル。婚約者がいると知りながらも、彼女を描いた絵をプレゼントするとロッテは「友情のしるし」として本とリボンを渡す。それを愛情と勘違いしたウェルテルだがロッテは予定通り結婚。抑えられない感情をロッテに告白するが……。
≪ここまで≫
※字幕なしで鑑賞したので間違いが多いと思います。場面の順序も曖昧です。
幕があく直前、「ゴーン、ゴーン」という荘厳な鐘の音が劇場に響きました。豪奢な劇場に合わせた開演のベルなのでしょうか。そして開幕の音楽。幕は閉じたままで、幕の裏にいる人のシルエットが浮かびます。誰かの噂話をしているのかしら?するとその噂の的であろう人物=ウェルテル(キム・ダヒョン)が登場しました。絵の道具を持った、とても爽やかな好青年です。にっこりと浮かべた無垢な笑顔を見て、私はハっとしました。これが“ディテール・キム”なのか…!と。この瞬間から、私はダヒョンさんから目が離せなくなり、どんな場面でも彼を追って、前のめりになって舞台に集中し続けました。
【舞台写真(c)ぴあ】
ちょうどこの公演が始まる数時間前に、ダヒョンさんのインタビューがあったんです。包容力のある大人の男性で、感嘆の溜息をついてしまうほど立派な方でした。そのダヒョンさんとは(当然ではありますが)全くの別人!ウェルテルは世間ズレしていない、純粋な、貴族のおぼっちゃま。親に愛され、何も知らず、悩まずにすくすくと育ってきた、今なら絵本の中でしか見つけられないような王子様なのだろうと思います。プロの俳優キム・ダヒョンは、スマートというよりは、か細い、か弱いといった印象を与えそうなスリムな体と、ニックネームに“花”が付くのにも納得の美しい顔を最大限に使って、現実感、生活感のない夢のような主人公を作り出したのです。
主役のことばかり書いてしまいましたが、ヒロインのロッテを演じる女優さんも歌がお上手で、高音の力強さに聴き惚れてしまいました。第一声の安定感が素晴らしいですね。もちろん美人ですし、演技も問題ありません。婚約者アルベルト役の男優さんは声量がものすごくて、劇場の壁がビリビリと震えているのではと思うぐらいでした。
【舞台写真(c)ぴあ】
ミュージカル作品としても、とても面白かったです。ゲーテの小説「若きウェルテルの悩み」の舞台版ですので、悲恋の物語であると知って観ることになると思いますが、ストーリーがわかっていてもハラハラ、どきどきさせてくれるのが良作の証拠。私はミュージカルにも音楽にも不案内なのですが、曲も良かったと思います。同じ歌が違うアレンジで何度も流れて、親しみやすいですし、何より歌が上手い。
私が東京で観ている舞台では、あまり目にしないような演出にわくわくしました。たとえば、普通の会話劇から登場人物の心象風景の描写へと、突飛なタイミングで変化したりするんです。美術、照明、ダンスやステージングも新鮮でした。特に照明は色使いが個性的で、過激でしたね~。「俺の照明どうよ!すごいだろ?」とガンガン押してくるような(笑)、勢いがあるんです。「え、なぜにそこでいきなりサス?!」と突っ込みたくなるぐらい唐突にスポットライトを当てるのには、しばしば驚かされました。紫色に染まった空間で、鮮やかな黄色の明りが細く、鋭く人物を照らすのとか、技ありでしたね~(時々はずしてたけど・笑)。
ここからネタバレします。
舞台の下手袖には天井まで届く大きな樹木が1本、建てられています。下袖の幕と一緒になっている状態なので、舞台が終わるまでずっとそこにそびえています(たぶん)。舞台奥の下手から上手までの横幅いっぱいに、2階ぐらいの高さの大きな木製の台が広がっていて、台の上も演技スペースになります。台は下手が高く、上手が低い、緩やかなスロープになっていて、草花が植わっています。下手手前の舞台つら側に草が置かれたり、天井側に木の葉が飾られたり、最後には船の先端に木が生えたりも。舞台に常に木があって森を連想させるのは、作品自体が人間の深層心理内の事象であるという意味なのかもと思いました。
【舞台写真(c)ぴあ】
ロッテに一目ぼれするシーンはほんの一瞬なのですが、ウェルテルの心に、雷に打たれたような衝撃が走ったのが見てとれるようでした。体が具体的にビリビリとしびれて小刻みに動くわけじゃないんですが、あまりの衝撃で、瞬間的に全身が固まってしまったように見えたんです。ロッテのことが好き過ぎて、彼女に向かって頭の方から前のめりに近づいてしまい(しかも距離が異様に近い!)、体が10度ぐらい斜めに傾いてしまう体勢が可笑し過ぎる!!細い棒がまっすぐなまま傾いてるみたいなんだもの!もう、見るからにストーカーです。そういえば一目ぼれって人間にとっては大事件なんですよね。ギョっとするような、尋常じゃない行動を起こさせます。
【舞台写真(c)ぴあ】
会って間もないのに、早々とロッテの家に押し掛けるウェルテル。どうやら彼女にプレゼントを持ってきたようです。ロッテと一緒にいる小さな男の子と女の子は…ロッテの弟と妹なのかしら。パっと見だとロッテの子供のようにも取れますが、ウェルテルが仲良くしてるので、おそらく子供ではなく親戚だと予想(←当たってました)。プレゼントのお返しに、ロッテは髪につけていた水色のリボンをウェルテルにプレゼントしました。この時のダヒョンさんの表情と演技が絶品です!自分の世界にすっかり入り込んで、「なんて素晴らしい人なんだ、ロッテは!こんな素敵なことをされてしまうと、喜びで死んでしまいそうだ(←胸キュンしすぎて苦しそうな表情)。そうだ、彼女も僕と同じ気持ちに違いない、2人は結ばれる運命なのだ、神様~~~云々」と妄想を爆発させる、ほんの数秒!もう完全に道化です(笑)。稽古場映像がありましたので、よかったらぜひご確認を。
【舞台写真(c)ぴあ】
恋の幸せに有頂天のウェルテルでしたが、ロッテの完璧な婚約者アルベルトが登場します。ウェルテルが初めて恋敵アルベルトと鉢合わせする場面の演出が凄い!あざとさの思い切りが良すぎる!(笑) 私は心中で拍手喝采でした。音楽を素早く切り替え、相思相愛の美男美女(=天国)と片思いの主人公(=地獄)を露骨に対比させるんです。ウェルテルの絵に描いたような落胆っぷりは、これでもか!というぐらいに劇画タッチ!思わず吹き出してしまいました(笑)。堂々と、すこぶるわかりやすく見せる演出姿勢がすがすがしいです。ちょうどそのシーンの動画(2分30秒ごろから)がありました。ウェルテル役はチョン・ドンソクさんです。
【舞台写真(c)ぴあ】
失意のどん底に落ちたウェルテルは、つらすぎる恋をあきらめるために彼らから離れる決意をします。旅支度をして出発しようとすると、星空と月明りの下、ベンチに座ってイチャイチャしまくっている2人に遭遇。優等生な態度のアルベルトと、婚約者にべったりしながらウェルテルにも優し過ぎるロッテです。ウェルテルがお別れの挨拶をして、2人が下手へと去って行く途中で、ロッテとウェルテルにサスが当たります。ロッテは下手を向いたまま静止。そこでウェルテル一人の長セリフ(歌だったかな?)になりました。研究と稽古に裏打ちされた演技と、安定の歌唱で魅せてくださいました。ダヒョンさんの声は柔らかくて優しいです。そして正統派の、古風なタイプの美形なのだなぁとしみじみ眺めました。
決別の覚悟をしたウェルテルは旅行鞄を持って階段をのぼって、台の上に上がります。同時に天井から船の帆が降りてきて、台にささりました。舞台奥の台全体がウェルテルを乗せた大きな船になったんです。一人で旅立つウェルテル。ここで一幕の終了です。
ウェルテルがよく通っているらしい居酒屋の場面が何度かありました。かっぷくのいい女主人が登場したり、娼婦たちが景気よく歌って踊るのは『レ・ミゼラブル』みたい(たぶん意識してるでしょうね)。ほぼ冒頭の舞踏会の場面でも感じましたが、アンサンブルは衣装も振付もちょっと地味ですね。転換も全体的にもたっとしていたような。
※私が拝見したのは初日でした。その後の公演を観た人によるとどんどん改良されていったそうです。
【舞台写真(c)ぴあ】
休憩をはさんで2幕からは空気が一変しました。1幕では会話劇を歌にしながら、物語にそって進行しましたが、セリフで説明せずに無言劇で状況説明をしたり、いきなり心象風景を表すような大胆な演出へと急変しました。たとえば2幕冒頭はウェルテルが手紙を書くシーンで、その裏側では結婚式の場面が無言で演じられていました。おそらくウェルテルがロッテに「やはり君を愛してる。あきらめられないから、また戻ります!」という手紙を書いているのですが、その時すでにロッテはアルベルトと結婚式をあげてしまっていた…という演出です。

アルベルト強すぎ!
ウェルテルが結婚したロッテに会いに行く場面は、最初から悲壮感が漂い、1幕の無邪気にじゃれ合う2人とは対照的でした。ウェルテルはロッテの(家にある)銃で、アルベルトを撃とうとします。銃を向けられているのに毅然と立ち向かうアルベルト!てか、毅然とし過ぎ!銃に頭をくっつけられても全く動じないなんて、強すぎるよ、怖いよアルベルト!(笑)…といった具合に、アルベルトは巨大な岩石のように、ウェルテルの前に立ちはだかります。ついにウェルテルは自分にピストルを向けますが、自殺は叶わず。ひざを落として床に手をつき、みじめな姿勢のウェルテルを、2階の窓から見下ろすようにして、アルベルトが力強く独唱します。見守るロッテの姿も窓の外にあり、この場面でも3人の関係を視覚的に見せていました。
【舞台写真(c)ぴあ】
1幕の居酒屋の場面でウェルテルと意気投合した若者がいました。彼は何らかの問題を抱えており、ウェルテルが親身になって相談に乗っていたのです。見るからに身分が低そうな風貌の男性で、彼はやがて深刻な事件を起こし、警察に追われるようになります。どうやら…殺人? 警察と犯人、民衆のアクション・シーンでは、舞台奥の台に備え付けられた3つの回転扉を使い、大勢のアンサンブルによるステージングと、派手な音楽と照明で盛り上がりました。
ウェルテルは必死で犯人をかばいますが、警察は無情にも彼を連行。ここでもアルベルトになだめられて(責められて?)、ウェルテルは行き場をなくし、さまようように舞台を去ります(たぶん)。
なぜか白い上着に着替えたウェルテル。胸元がかなり開いてるのでセクシーでもあるのですが、死にそうなぐらいに弱っています。そこに上半身裸で筋肉ムキムキの男性ダンサーたちが出てきて、ウェルテルを囲んで踊り始めました。セリフがわからないせいもあり、唐突で驚かされます。でも、翻弄され苦しむウェルテルを見つめていると、周囲のダンサーたちは彼自身(の欲望)なのではないか、などと想像力を刺激されました。
【舞台写真:キム・ダヒョンさん(c)ぴあ】
やがてロッテが登場。ウェルテルと少し口論をしますが、2人はお互いに惹かれあい、吸い込まれるようにキスをします。ロッテの気持ちが動いてウェルテルへの愛を認め、2人は愛し合ってキスをしたのだと思いました。私の席からはウェルテルの背中しか見えず、表情はわからなかったのですが、キスをしている間とその後の心の移り変わりが、体の変化からわかる気がしました。首のまげ方や肩の落とし具合で、気持ちの変化が伝わるんです。そして、昨年観たあるミュージカルと同様の“The Last Kiss”だったのだとわかりました。
ウェルテルはロッテとキスをした瞬間、まず驚きます。やがてロッテが自分を愛しているとわかり、至福を味わいます。その後、すぐ怖くなるのです。自分がロッテを破滅に導いていると自覚するから。冷静になってウェルテルは自問します。このままアルベルトからロッテを奪っていいのか、ロッテはたしかに自分を愛しているが、それが彼女の幸せなのか?いや、離婚は彼女もアルベルトも他の人々も不幸にするだろう。ひとときでも彼女との愛を確認できたのだ、これ以上の幸福はないじゃないか。でも、自分はロッテがいない人生を生きられない。ならば…。
【舞台写真(c)ぴあ】
死出の旅路へと向かうウェルテルの足取りは穏やかです。木が生えている船の先頭に立ち、ピストルを右のこめかみにつけて、ほんのしばらくの静寂。…銃声が鳴り響きました。ウェルテルは倒れずにそのまま静止した状態です。赤い照明がじわじわと舞台を覆っていき、劇場全体が真っ赤に染まります。静かに、シルエットになっていくウェルテル。その間、舞台奥の大きな台の先頭部分(下手部分)が動き出して、ウェルテルを天国へと運ぶ船になりました。真っ赤な世界に黒くともるウェルテルと船。美しい終幕でした。このシーンがまるごと観られる動画(11分半ほど)があります。
明かりがついてカーテンコールです。ダヒョンさんはまだウェルテル役が抜けていないようで、弱弱しい表情。礼をする時も首しか垂れません。まだ死がつきまとっているのかしら。最後は中央に一人、ウェルテルが残ります。真後ろの扉に向かって去っていきますが、途中で振り返り、斜めに見返ります。憂いの表情で決めポーズ。…この見返り美男め!!そしてすぐ暗転。カッコイ~~、と、ここで終わると思いきや、なんともう一度明転!ほんの一瞬の暗転でしたが、舞台にはウェルテル、ロッテ、アルベルトの3人が立っています(回転扉を使ったと思われる)。3人だけにスポットライトが当たり、憂いの表情を決めて、すかさず暗転!ドラマティックなカーテンコールでした。
日本公演では全日程でカーテンコールの写真撮影OKとのことですが、いったいどこからOKなのかしら~、たぶん最後の暗転の後に、もう一度華やかなカーテンコールをしてくれるんじゃないかと期待!
≪韓国ソウル、韓国釜山、東京≫
出演(韓国):キム・ダヒョン、ギム・ジェボム、ソンヅソプ、ジョン・ドンソク、ギムアソン、キム・ジウ、ホンギョンス ほか
韓国ソウル公演:http://www.playdb.co.kr/playdb/playdbDetail.asp?sReqPlayno=40130
東京公演:http://wakaki-w.jp/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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