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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2015年03月15日

KAAT×地点『三人姉妹』03/09-22神奈川芸術劇場・中スタジオ

 三浦基さんが演出される京都の劇団地点の新作です。地点の『三人姉妹』は2003年初演で、私は2004年に拝見しています。今回はそのバージョンを一新した演出でした。上演時間は約1時間20分。

 F/T12の『光のない。』初演でショックを受けて、しばらく地点の作品は観ていなかったのですが、2004年の『三人姉妹』は素晴らしかったという記憶があり、久しぶりに拝見しました。観に行って良かったです。ヤバいもの観たい人にお薦めです。『三人姉妹』の役名やあらすじは頭に入れておいた方がいいですね。

 全席自由なので会場へはどうぞお早目に。会場への通路にチラシがまとめて展示されています。折り込みチラシで数種類見かけていましたが、なんと32枚もあったんですね!

 ⇒CoRich舞台芸術!『三人姉妹

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。最後まで完全にネタバレ。古典ですので読んでからご覧になっていいと思います。
県庁のある町でのこと。オーリガ、マーシャ、イリーナの三人姉妹とアンドレイが暮らすプローゾロフ家。旅団長だった父親の一年前の葬儀の記憶もようやくうすれて、末娘のイリーナの「名の日」の祝いが開かれようとしている。春、まぶしい陽光のなか、軍人たちが祝いの会に集まってくる。旧知の中隊長ヴェルシーニンの来訪が、三人姉妹にモスクワの記憶をよみがえらせる。やがては大学教授と期待されている長男のアンドレイとナターシャの恋。家庭を持つ次女マーシャと不幸な家庭生活を送るヴェルシーニンの実りのない恋。トゥーゼンバフ男爵のイリーナに対する片思いは、ソリョーヌイとの対立を生む。アンドレイと結婚し、子供を生んだナターシャの俗悪さが次第に一家を支配する。学者への夢を捨て堕落してゆくアンドレイ。秋が深まりゆく頃、駐屯していた中隊は遠い新しい任地へと旅立っていく。マーシャとヴェルシーニンの別れ。退役してイリーナと新生活に踏み出そうとしていたトゥーゼンバフは、その矢先にソリョーヌイに決闘で撃ち殺される。軍楽隊の響きが遠ざかるなか、三人姉妹の「生きたい」という切実さを残して幕はおりる。
 ≪ここまで≫

 劇場に入って美術を目にするなり「わ、ヤバい!」と小さな声をあげた若い女性がいらっしゃいました。そうですよね…胸躍る舞台美術です。

 俳優は文字通り七転八倒(笑)。怪我が心配なほど。私が観た回はナターシャ役の伊東沙保さんが、床に頭をゴツン!とぶつける音が響きました。這い回って、取っ組み合って、泣いて叫んで、怒って笑って。セリフは解体され、物語も時系列どおりではありません。『三人姉妹』を下地に、人間の人生をギュっと凝縮した小さな塊を、ぶつけて、壊して、ぶつけて…と繰り返しているようでした。それでも「生きていかなきゃ」いけない人類が、何種類も、生まれて、死んで、また生まれるイメージ。うんざりするような繰り返しです。でもそれを目の前で、全身を使って実際に行っている俳優の姿が、まばゆく、そしてバカで、可愛らしく、見えました。

 昼に拝見したサンプルも地点も、アトリエ春風舎で初めて観た団体でした。公立劇場であるKAATでマチソワ観劇するなんて感慨深いです。サンプルの松井周さんと地点の三浦さんは、青年団の同期だそうです。

 ここからネタバレします。

 舞台上には透明の板で作られた大きな壁があり、天井からは白樺の木々が逆さづりにされています。『逆・三人姉妹』みたいで面白いです。舞台奥には鏡が貼られていて、奥行きがとても広く見えて、観客の姿が小さく映っていました。舞台の上下の端には、白い線でローマ数字が描かれています。実は白い粉なので、俳優が踏んだり寝たりすると、衣装にべったりと付いたり、床にパーっと広がって文字が消えます。大きな壁は俳優が手動で動かします。ぐるぐる回転させたり、舞台面側から奥側まで移動させたりもします。透明の板には床と同様に白い粉が振りかけられており、俳優が手で白い粉を拭き取ったり、壁を叩いて床に落としたりもします。 

 オーリガとイリーナの衣装はかなり現代風というか、宇宙服っぽさと同時に昔のグランジ系ファッションを思い起こさせる、ポップなものでした。マーシャはブラウスとフレアスカートだったので少々地味目。ナターシャは薄いピンクのスーツに白いタイツを履いていて、女性の中で一番可愛らしかったです。原作では「ナターシャはセンスが悪い」とされているので皮肉なのかな。ファッションは時代によって評価が変わるという意味だとも受け取れました。私自身も含む、人間の節操のなさが表れています。

 私にとってのクライマックスは大きな壁が客席の方に一番近づいた時。三人姉妹がじっと立って、観客に向かってセリフをはっきりと言う場面です。2004年の全く動かない『三人姉妹』を思い出しました。チェーホフのセリフが、汗だくで、ボロボロになった俳優が絞り出す強い声に乗って、刺さるように胸に届きます。こんなに愚かで醜くて、夢も希望も持てないのは自業自得だともわかっている上で、それでも生きていかなければならない。舞台をしっかり見届けようと見開いていた目から涙がこぼれました。でもその直後、ヴェルシーニン役の小林洋平さんがダジャレを飛ばしたり、チェーホフや観客をからかうような演技をして、場の空気を一転させました。しめっぽくならず、説教臭くもならず、いい感じでした。笑えなかったのは残念だけど。
 個人的には、ここで終わってくれても良かったな~。その後はまた同じように体を酷使する演技が続いて、少し飽きてしまいました。この「飽き」がポイントなのかもしれないですけどね。人生は残念ながら気持ちのいいところでは終わってくれない。飽きても、嫌になっても、生きていかなければいけないから。

 体だけでなく心も動かす伊東沙保さんが良かったです。ナターシャが舞台中央奥に立ってしばらくじっとしていた時、ドキドキして目が離せませんでした。


KAAT×地点 共同制作作品第5弾
出演:安部聡子(オーリガ)、石田大(アンドレイ)、伊東沙保(ナターシャ)、小河原康二(クルイギン)、岸本昌也(トゥーゼンバフ)、窪田史恵(マーシャ)、河野早紀(イリーナ)、小林洋平(ヴェルシーニン)、田中祐気(ソリョーヌイ)
脚本:アントン・チェーホフ
翻訳:神西清
演出:三浦基
舞台美術:杉山至
衣裳デザイン:コレット・ウシャール
音響デザイン:徳久礼子
照明デザイン:山森栄治
舞台監督:小金井伸一
プロダクション・マネージャー:安田武司
技術監督:堀内真人
宣伝美術:松本久木(MATSUMOTOKOBO Ltd.)
制作|伊藤文一、小森あや、田嶋結菜
主催:KAAT神奈川芸術劇場
【休演日】3月10、11、15、19日 【発売日】2015/01/18
プレビュー公演 一般 2,000円 24歳以下 1,000円
本公演  一般 3,500円
▽U24チケット1,750円(24歳以下対象)
▽高校生以下割引1,000円(高校生以下対象)
▽シルバー割引3,000円(満65歳以上対象)
http://www.kaat.jp/d/SANNIN

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2015年03月15日 16:46 | TrackBack (0)