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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年01月02日

Studio Life『DAISY PULLS IT OFF』12/20-1/7東京芸術劇場 小ホール1

 イギリスの名門女学校のお話。原作はDENISE DEEGANさん。ハラハラドキドキの学園生活に幸せなミラクルが起こって最高のハッピーエンドがやってくる青春コメディーの王道でした。

 もー・・・涙がポロポロ止まりませんでした。何かを起こしたり成し遂げたりするのは、お金でも名誉でもない、信じる心なんだなって思いました。そんな道徳的なことを何のとまどいもなく素直に受け入れられたのは、この作品の純潔さのおかげです。また、男が女役を演じていることも大きな要因だと思います。作品の外郭や見かけにとらわれず、本筋が見えてくるからです。

 私がスタジオ・ライフのお芝居を観続けているのは、美しいものを愛する心を感じるからです。上演台本と演出を手がけていらっしゃる倉田淳さんは、まず原作の持つ魅力を最大限に表現することを第一の目的として作品作りをされていると思います。この『デイジー・プルズ・イット・オフ』についても然り。少女達が持っている心の宝物を余すところなく表現してくださいました。

 また、劇団スタジオ・ライフのファン・サービスを最重要視している姿勢に惚れこんでいます。例えば今公演については、美形男優が女子生徒の姿で出てくるだけでファンの心はくすぐられます。Assamバージョンに出演されている看板俳優の笠原浩夫さんがDarjeelingバージョンに用務員役で出演されていたのも心憎いです。The Other Life公演として本公演以外に比較的小さな劇場で公演を打っていること自体も大きなファンサービスだと思います。今回も俳優が客席を縦横無尽に駆け回っていました。もちろん客いじりアリです。ダブルキャストの区別をAプロ・Bプロとかにせず、きれいな名前をつけているのも好き。今回は紅茶の名前でAssam(アッサム)とDarjeeling(ダージリン)でした。イギリスのお話ですものね。そういう細かいところまで行き届いた公演の演出が女性心理を掴むのだと思います。

 私は拝見したのはDarjeelingバージョンです。
 川原田 樹さん(客演) 。主役のデイジー・メレディス役。透き通るような純粋な演技にすっかりハマってしまいました。「お母さん、家に帰りたい」の一言で泣けました。
 深山洋貴さん。デイジーの親友トリクシー役。安定したコメディーセンスとキュートさ。この人が出ているバージョンを観たいなっていつも思います。
 山﨑康一さん。意地悪なシビル役。篠井英介 主演『欲望という名の電車』でも好演でした。優しい役も意地悪な役もお上手です。Assamバージョンでは笠原浩夫さんが演じられています。両バージョンとも観たくなりますね。
 藤原啓児さん。用務員のミスター・トンプソン役。前説も会場アナウンスもされています。いい声で、常に謙虚な姿勢でいらっしゃるのが素敵だなと思います。

スタジオ・ライフ : http://www.studio-life.com/

Posted by shinobu at 18:24

土井笑会『仏教徒のクリスマス』12/27-28movement space Gambetta

お友達が沢山関わっているので観に行きました。各ステージ30名限定ということで、本当に小さなスペースでのコント公演でした。

 オープニングは般若心経でした。なるほど『仏教徒のクリスマス』ですね。でもお経を読む時間が長かったです。一瞬でネタに行ってれば笑えたんじゃないかな。コント集って最初が肝心ですよね。

 私が普通に笑えたのは”教育漫才「ゼロの発見」”と”火星人”。全般的にコントらしくないコントが多かったです。特徴としては”落ち”がないんですよね。みんなスルっと終わっちゃうので戸惑いました。
 特に驚いたのは最後のコント”男たち”。2人の男性がバーで出会って話をするんですが、たまたま二人とも慶応大学卒だったんです。そこで一人は自分から自分を「電通マン」って名乗るし、もう一人は「モフ(財務省/元・大蔵省)です。」とか言うんです。笑うことを意図していないようでしたが、私は心の中で大爆笑でした。また、その設定がコントの顛末に全く関係なかったのがすごかった。異質ですね。
 10本立てのうち2本は歌で、佐藤千鶴さんという女性が「アヴェマリア」と「アメージング・グレース」を歌われたのですが、本当に歌うためだけに出てきて歌うだけでした。それにもびっくり。

 オフィス・ビショップ : http://www.office-bishop.com

Posted by shinobu at 17:15

演劇実験室◎万有引力『奴婢訓』12/25-28新国立劇場 中劇場

 作:寺山修司 (原作:ジョナサン・スウィフト『Directions to Servants』)
 演出・音楽:J・A・シーザー

 『奴婢訓』は「ぬひくん」と読みます。寺山修司さん率いる演劇実験室◎天井桟敷によって1978年に初演。1982年までに世界31都市で計119回上演された作品です。その後1989年から1991年まで演劇実験室◎万有引力が37回上演しています。

 主人不在の屋敷で召使いたちが順番に主人の役を演じているという設定は絶品ですね。奴婢っていうとつまり奴隷のことです。そのタイトルから、背筋にビビッと来るぐらい強烈な禁断のSM系エロティシズムを期待していたのですが、残念ながらそこまでは味わえませんでしたね。

 全身剃毛をして全裸で出てくる役者さんが男優と女優と一人ずついたのは強烈です。寺山さんのお芝居じゃないと成立しない厳かさと猥雑さの共存を感じました。
 SM器具まがいの装置が面白かったです。尻たたき機とか最高。主従入れ替わりシーソーも素敵。
 万有引力のいつものマッチの演出が大好きなんですが、今回はなぜかちょっとパワー不足でした。『さよならの城』の方が良かった。

 新国立劇場の中劇場というと目立つのはあの巨大な奥行きですが、もう私は観慣れているのでよっぽど良い演出でないと魅了はされません。そういう意味で観ると今回のは特別に効果的ではなかったです。また、端の方の席が本当に観づらいという点でも中劇場は有名です。真ん中ブロックに座っていたならもっと面白いし見所もあっただろうと確信できるような演出だったのがとても残念。長いと感じたのも非常に残念でした。「もう終わるかな?もう終わるよね?・・・ええ!まだ続くの!?」って。

 寺山さんの素敵なセリフを1つ。財産目録を読み上げるところで出てきました。
 「意志のない過去。過去のない意志。」

演劇実験室◎万有引力 : http://www.banyu-inryoku.com/
メジャーリーグ : http://www.majorleague.co.jp/

Posted by shinobu at 16:46

ペテカン『温度計』12/24-29THEATER/TOPS

 ある流行らない喫茶店のお話。冬、春、夏、秋、と1年が巡り、また冬がやってきます。

 まず、こんな喫茶店には行きたくないって思いました。客を客とも思っていない店員。社会性の全くない店長。だから当然のごとく閉店に追いこまれるわけですが、信憑性に欠け過ぎました。「こんなサテン、ないって!」って思っちゃって、それだけで物語に入れないんですよね。とても残念です。

 マイナス4℃のままずっと動かなかった温度計が、喫茶店の閉店パーティーの時に突然に直って正しい温度を表示し出す、という顛末だったのですが、それってものすごいマイナス思考ですよね?どんどんとダメになっていく人々がいて、その人達がやっとあきらめて出ていくとなった時に、タイトルにもなっている”温度計”が正常になるなんて。めちゃくちゃびっくりしました。

 閉店パーティーで「私には歌うことしかできないので、歌わせてください」と自ら言い出して歌う女性がいましたが、それはつらいよねーって思います。「歌ってよ!」と言われておずおず歌ってみたらすごく巧かった、というのならすんなり聴けますが、自分から進んで歌っちゃうと、いくら巧くても「それほど巧くないのに、でしゃばらないほうがいいんじゃない?」って思っちゃいます。歌を歌うためだけの登場人物ってとても悲しいです。

 場面転換の時にTV画面で流れるアニメーションが可愛かったですね。オープニングの時も黒い画面上で白い線がもぞもぞ現れて『温度計』という文字になるのは素敵でした。また、TV画面は電源を切るとその瞬間プチ!と光ってしまうんですよね。それを避けるためだったと思いますが、ずーっと電源が入ったままだったのも良かったと思います。

 齋田吾朗さん。いつも三枚目風だったのが今回はクールな面がクローズアップされていて、とても良かったです。

ペテカン : http://www.petekan.com/

Posted by shinobu at 16:01

東京ヴォードヴィルショー『その場しのぎの男たち』10/11-11/3本多劇場

1992年初演。1994年再演。今回が2度目の再演で東京ヴォードヴィルショー30周年記念公演です。
 三谷幸喜さんの脚本なので必死でチケットをGETしました。演出が山田和也さんというのも魅力です。いろんな先行抽選を全て逃したのでチケット発売日にぴあとローソンに走ったのですが、ダブルキャストの伊東四郎さんの方は全然無理で山本龍二さん(青年座)の方がかろうじて取れました。

 明治24年、大津事件(訪日中のロシア皇太子を警備の巡査が切りつけてしまった大事件)勃発の翌日のお話。時の総理大臣・松方正義チームと元老・伊藤博文(山本龍二さん)チームとの対決。

 タイトル通り本当に「その場しのぎ」なんです。やることなすこと裏目に出てしまって、その後の行動がもはや恥の上塗りになり、それがさらに「その場しのぎ」になっちゃう。シチュエーション・コメディーの約束をきっちり守って実行し、笑いも確実に生んでいきます。うまいこと展開させるな~って、感心しました。作:三谷幸喜/演出:山田和也ですものね。さすがです。私がえらそうに言えることじゃないですよね。
 ただ、笑えるんですがー・・・ドタバタしすぎて観るのが疲れちゃったんですよねー・・・なんと、もったいないことに寝てしまいました。自分がびっくりですよ、三谷さんの作品で寝るなんて。あんなにがんばってチケット取ったのに。

 東京ヴォードヴィルショーの役者さんの演技がわかりやす過ぎる、というのも私の好みでなかったのかもしれません。大げさ過ぎてあざとくなりがちだと思います。本編『その場しのぎの男たち』の前に歌と踊り満載のコント集が披露されるのでもわかりますが、東京ヴォードヴィルショーというと、あくまでも大衆向け(しかもちょっと高年齢層を狙った)の作品をプロデュースされている劇団ですよね。また、コメディーで私がよく感じるギャップなのですが、あめくみちこさんの役をみんなで笑いものにする感覚とかを私は楽しめなかったです。

 今さらですが、やっぱり伊東四郎さんバージョンで観たかったなー。山本龍二さんはそのままの見かけがちょっぴり怖いめなんです。伊東さんならどんなに怖く見せてもそれが笑えるでしょうし(笑)。そうは言ってもそれだけで作品が完全に違うものになるとは思えないので、きっと同じような感想だったんじゃないかな、とも思います。

東京ヴォードヴィルショー : http://www.vaudeville-show.com/

Posted by shinobu at 15:38