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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年03月15日

藤原歌劇団 オペラ『アルジェのイタリア女』03/11-14東京文化会館大ホール

 オペラ通の方に「人間なら行くでしょう(これを聴かないなんて人間じゃない)」とまで断言されたのでチケットを取りました。
 アグネス・バルツァさんというメゾソプラノの方が必聴とのこと。しかも彼女の『アルジェのイタリア女』のイザベッラ役は当たり役だそうです。

 オペラにも種類がありまして、例えば作られた時代ごとにその特徴が出ていたりもするのですが、このロッシーニ作曲『アルジェのイタリア女』は1813年ヴェネツィア初演で、オペラ・ブッファと呼ばれるコメディー色の強い作品に分類されます。さらに18世紀末に流行した「トルコもの」の典型だそうです。

 私、オペラ・ブッファ初めてだったんですよー・・・うー・・・苦手です。ほんと、ドタバタコメディーの域も超え、お下劣なんですよね・・・。いや、ジャンルとして理解すれば何も問題ないはずなんです。私は歌と音楽だけで満足できるような通じゃないので、まだまだストーリーや演出重視になっちゃいます。ロッシーニといえば大好きな『セビリアの理髪師』もそうですし、そういう気持ちで観に行ったのが間違いでしたね。これで学んで良かったな、と。

 オペラってすごいなーと思うのは演出が保存されていることです。この作品はジャン=ピエール・ポネルが1972年に演出・装置・衣裳を担当した作品がそのまま持って来られているようです。演出・装置・衣裳を一人でやるというのがまた驚き。

作曲 ロッシーニ 指揮 コッラード・ロヴァーリス
出演 アグネス・バルツァ ロレンツォ・レガッツォ 佐藤美枝子 牛坂洋美 アントニス・コロネオス ロベルト・デ・カンディア 佐藤泰弘
合唱 藤原歌劇団合唱部 演奏 東京フィルハーモニー交響楽団
主催 (財)日本オペラ振興会/(社)日本演奏連盟
東京文化会館 : http://www.t-bunka.jp/

Posted by shinobu at 23:42

シリーウォーク・プロデュース『ウチハソバヤジャナイ』03/10-22下北沢ザ・スズナリ

 ナイロン100℃のケラリーノ・サンドロヴィッチさんの昔の作品を若い演出家にたくす企画2本立て。私はブルースカイさん(演劇弁当猫ニャー)のファンなので『ウチハソバヤジャナイ』の方を拝見することにしました。

 2014年の日本。全国民に人工脳を移植してコントロールしようとしている国民管理局と、それに反対する地下組織との戦い。そこに、そばの出前の間違い電話がかかってきてどんどんそば屋になっていく夫婦の話が重なります。

 色々あっけに取られました。やっぱりブルースカイさんって面白いなーってしみじみ思いました。
 全く関係ないエピソードと会話ばかりが積み重なり、どうでもいいネタに終始します。その一つずつとても丁寧で、面白い。
 無駄につぐ無駄。無意味に乗せる無意味。だけどラストはちゃんと話の顛末がついて、私はすんなり納得しちゃってました。普通に拍手してたな~・・・(笑)。

 2時間15分は疲れましたが、まあ観てよかったかなと思いました。演劇弁当猫ニャーの解散って悲しいですよね。また、ポカンと口を開けたまま数秒、思考停止させて欲しいんです。きっとしばらく休んだら復帰してくれますよね??

 ディスコで踊っていてナイフを振り回し「私、これで死んでやる!!」と息巻いていた女の子が「でも最後にこれだけは言いたい!」と言ったところでグサッと刺す効果音、そしてすかさず真っ赤な照明。まだ刺してないのに。それで仕方なく死ぬことにするまでの長い間がめちゃくちゃ面白かった。大笑いし続けました。

作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ 演出:ブルースカイ(演劇弁当猫ニャー)
出演(五十音順)荒井タカシ (演劇弁当猫ニャー) 大山鎬則(NYLON100℃)乙井順 (演劇弁当猫ニャー) 喜安浩平(NYLON100℃) 小村裕次郎 立本恭子 (演劇弁当猫ニャー) 千代田信一(拙者ムニエル) 廣川三憲(NYLON100℃) 藤田秀世(NYLON100℃) 正名僕蔵 三谷智子 村上寿子(水性音楽) 渡辺道子(ベタ-ポーヅ)
舞台監督:福澤諭志+至福団、宇野圭一 舞台美術:秋山光洋 照明:山口功一(イベントプロデュース・テイク) 音響:鏑木知宏 宣伝美術:小林陽子(ハイウェイグラフィックス) イラスト:黒木仁史 制作助手:寺地友子、土井さや佳 制作:市川美紀、花澤理恵 協力:ダックスープ/演劇弁当猫ニャー/ナイロビ/拙者ムニエル/クリオネ/大人計画/ベタ-ポーヅ/水性音楽/NYLON100℃ 企画・製作:株式会社シリーウォーク
シリーウォーク : http://www.sillywalk.com/

Posted by shinobu at 22:45

新国立劇場演劇『こんにちは、母さん』03/10-31新国立劇場 小劇場

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画像元はこちら

 2001年の初演で読売演劇大賞・最優秀作品賞、最優秀女優賞、最優秀男優賞など数々の賞を総なめした作品です。
 客席全体で笑い声と鼻をすする音が鳴り止まない、奇跡の大傑作です。

 舞台は東京の下町の古い一軒家とそのご近所。男(平田満)は40代中半になってサラリーマン生活にくたびれ、数年ぶりに実家に訪れると、70代の母(加藤治子)の生活は様変わりしていた。外国人に住居を紹介するボランティア、公民館で源氏物語の勉強、そして彼氏まで出来ていた・・・。

 オープニングの巧妙さにまずうなります。かすかに車のエンジン音など街の騒音が流れ出し、突然ビートルズの“I wanna hold your hand”が舞台の方から語りかけるように流れて来ました。それがほぼフルコーラス。非常に長い間聴かされてから、最初の登場人物(息子役の平田満)が中央に配置された勝手口から出てきます。この曲が長くかかるのは、後から大切なエピソードとして出てくることと、もう一つはビートルズの全盛期を観客に思い出してもらうためだと思います。
 音楽を味わうというよりは、ビートルズの音楽を通じてその時代の空気が押し寄せてきました。物語の中で語られる60年代の日本にも、物語が進行する現在のこの一軒家にも、ビートルズの音楽はどこかアンマッチで、強烈な印象を残しました。可笑しくも悲しいことだらけの日本の下町の日常に、スコーンと明るい洋楽のヒット曲が流れるのはすごく切ないのです。ビートルズがこんなに痛く苦しいなんて驚きでした。劇中の“イエローサブマリン”のインストゥルメンタルが流れた時は涙が搾り出されてきました。

 登場するのはリストラされたサラリーマン、夫と不仲で離婚しそうな妻、独身一人暮らしの壮年の女、息子が出て行ってしまった煎餅店の女将、祖父を日本軍に殺された中国人留学生、など。今どきの言葉で言うと決して「勝ち組」ではない人々のそれぞれの深い悲しみが本当の共感を呼びます。

 初演と同じところで最も胸が締め付けられて涙で顔がくちゃくちゃになりました。最も泣けるセリフは初演と同じでした。母の恋人(西本裕行)のセリフです。
「焦がれるような羨望を込めて、私の体から出ているのに、あなたには伝わらない」

 言っても伝わらないかもしれない。でも、言わなければ絶対に伝わらない。こんな当たり前のことを一番身近な家族にさえもできていなかった私たち。
 知らなかった、ということで済ませてきた。もし知りたかったなら、わかりたかったなら聞けばよかったのに。聞かなかったということは、知りたくなかったということ。
 永井愛さんの脚本の一言一言が、観ている者の胸に痛いほど伝わってきます。誰もが心の中で思っていることを代弁してくれて、それをたしなめて、許してくれるからです。

 そして最後は花火です。体中が震えました。舞台上の人物たちだけでなく、私の命も祝福してくれたんです。こうやってレビューを書きながらも涙が溢れてきます。

 役者さんは皆さん素晴らしく、登場人物そのままの人格なのだろうと思えるほど役が板についていて、完全に心が吸い込まれていきました。シリアスな状況を深刻なだけでなく泣き笑いにしてくれるのも、演出はもちろんですが、役者さんの技があるからこそでしょう。

 母(加藤治子)の恋人役の西本裕行さんは初演の杉浦さんよりも柔らかくて、すっかり隠居しているおじいさんでした。杉浦さんの方が大学教授らしかったですが、私は西本裕行さんの方がしっくり来ましたし、泣けました。

 この再演に、私は大切な人を2人誘って観に行きました。新国立劇場演劇はレパートリーシステムですからこんな大傑作は再々演が必ずあると思います。どうぞ皆さんも自分の一番身近な、大切な人と一緒に観に行ってください。

 ※「こんにちは、母さん」の舞台装置が石川県中島町で保存(週刊StagePower)

作・演出 :永井愛
出演:加藤治子 平田満 西本裕行 大西多摩恵 田岡美也子 橘ユキコ 酒向芳 小山萌子
美術 :大田創 照明 :中川隆一 音響 :市来邦比古 衣裳 :竹原典子 ヘアメイク :林裕子 演出助手 :吉村悟 舞台監督 :澁谷壽久
舞台写真:http://www.nntt.jac.go.jp/frecord/play/2003%7E2004/kaasan/kaasan.html
新国立劇場内:http://www.nntt.jac.go.jp/season/s225/s225.html

Posted by shinobu at 21:58 | TrackBack