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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年12月19日

佐藤佐吉演劇祭参加・ブラジル『美しい人妻』12/16-20王子小劇場

 ブラジルは、ブラジリィー・アン・山田さんが作・演出される企画ユニットです。
 今回は女優7人をフィーチャーした『人妻』をテーマにした作品ということで、いやがおうにも期待が膨らみました。

 諌橋(諌山幸治)は2年前に交通事故で妻と子供を失い、失意のまま働くこともできず、友人の辰木(辰巳智秋)のアパートに間借りしている。デリヘル嬢の詩乃(渡辺詩子)に心を寄せているが、彼女は人妻。
 諌橋のもう一人の友人・西亀(西島聡)は、妻の久子(吉田久代)とうまくいっておらず、彼も辰木の部屋にデリヘル嬢・中西(中村真季子)を呼び出す始末。
 イケてない男3人のもとに先の3人の女に加えて、諌橋の妹・優梨(高橋優子)、詩乃の同僚のワケありデリヘル嬢・美子(近藤美月)、アパートの新しい同居人・野島(野口かおる)、そして謎の探偵・柳井(柳田幸香)が、いつの間にやら8畳間に集結し、トラブル続出のすったもんだになる。

 最初は、人の恥部を敢えてさらすような内容のセリフが、軽やかに、しかし熱っぽく酌み交わされ、ブラジルならではのちょっと意地悪な刺激のある小気味良い流れがありました。これが大好きなのです。
 でも、デリヘル嬢の中西のハンドバッグから、切り取られた人間の指が出てきた辺りから、ヤクザと関連するのっぴきならない犯罪の匂いが立ち込めてきて、暗くて怖い雰囲気から逃れられなくなってしまいました。

 全体的に盛り込みすぎだったようですね。熱い感情のほとばしりとか、あっと驚く意外性の楽しみだけでも、もうおなか一杯という状態。中盤を過ぎる頃からストーリーはもうどうでもよくなっちゃいました(笑)。上演時間が2時間15分というのも長かったです。

 女優一人一人に何らかの個性を与えて、それぞれにスポットを当てようとしすぎて、散漫になっていたように思います。
 「人妻」がテーマだというだけで相当いやらしいムードが漂っているのに、いつものブラジルに比べてエロが少なめでした。「人妻」であるかどうかがあまり重要でなくなってたのも残念。

 相変わらず上演中にハプニングとも取れるような事件が起こり、ドキドキさせてくれます。私がすごく感動したブラジルの今までの作品『ロマンティック海岸/科学ノトリコ』、『性病は何よりの証拠』、『バレンタインデー・キス』と比べてしまうので、ちょっと辛口になってしまいましたが、ブラジルは次も絶対に見逃せないです。ブラジルの次回公演は下北沢OFF OFFシアターにて6月1日(水)~6日(月)です。

<王子小劇場提携公演/佐藤佐吉演劇祭参加作品>
作・演出:ブラジリィー・アン・山田
出演:野口かおる(双数姉妹)・渡辺詩子・近藤美月(bird's-eye view) 柳田幸香・吉田久代(ククルカン)・中村真季子・高橋優子(チーム下剋上)辰巳智秋(ブラジル)・諌山幸治(青島レコード)・西山聡(クロム舎) ハセガワアユム(caprico)
音響:島貫聡 照明:奥田賢太(ダミアン) 舞台監督:鈴木たろう 衣装:汁川玉子 宣伝美術:川本裕之 PHOTO:427FOTO 制作:恒川稔英・ブラジル事務局 制作協力:吉野礼
ブラジル:http://www.medianetjapan.com/10/drama_art/brazil/

Posted by shinobu at 22:46 | TrackBack

文学座アトリエの会『THE CRISIS(ザ・クライシス)- 危機の十三日間- あとちょっとで世界は滅んだ』12/03-20文学座アトリエ

 キューバ危機について、アメリカのケネディー大統領陣営側から描いたドキュメンタリー・タッチの作品です。映画「13デイズ」と似ているようですね(観てないのでわかりません)。

 1962年、ソビエト連邦がカストロ政権下のキューバに核ミサイルを配備しはじめたことに対し、アメリカが取った判断と行動を追っていきます。

 エクスコム会議(ExComm)と呼ばれる国家安全保障会議執行委員会での議論シーンが見所です。やっぱり文学座の役者さんは皆さん本当に演技がお上手で、手に汗握る緊張とはこのことだなーと思います。お一人お一人の個性にホレボレします。

 軍部(早坂直家、林秀樹)は「キューバ基地の即時空爆」を主張し、それに対して国防長官(関輝雄)、司法長官(浅野雅博)、国務長官(宮沢亜古)等は「海上封鎖」を提案します。アメリカにおける軍隊の存在の大きさを改めて知ることができました。
 ケネディーの弟である司法長官(浅野雅博)と、駐米ソ連大使(清水明彦)との最後の外交交渉のシーンでの 「核戦争に勝者も敗者もない」という言葉がずしりと響きます。

 大統領秘書のロイス(山田里奈)とハーバード大学在学中の実習生スティーヴ(粟野史浩)とが恋人同士で、エクスコム会議で起こっていることを2人で話すシーンがところどころ挟まれます。おそらくキューバ危機を国民の視点から説明するために作られたのだと思いますが、残念ながらちょっと浮いていた印象です。
 下着姿で生々しくキスを交わすベッドシーンは特に意図が不明でしたね。やるならもっと濃厚にやってもらわないと、見ているこっちが恥ずかしくなります。

 教会でスティーヴが聖書を引用します。内容は「神は愛である。愛する心の中に神は宿る」というものでした(言葉は正確ではありません)。キリスト教の中にもこういう考えがあるのかぁ、と素直に感激しました。

 美術は三方を客席が囲み、残り一方には白い壁がそびえる、シンプルな回り舞台になっており、円卓会議の途中でゆ~~~っくりと舞台全体が回り始めるのがすごくカッコ良かったです。

 平和的解決を一番強く主張する国連大使(川辺久造)の熱演が心を打ちました。

原作:ジョン・サマヴィル 訳・ドラマトゥルグ:酒井洋子 構成:瀬戸口郁 演出:望月 純
出演:川辺久造・林秀樹・坂部文昭・原康義・関輝雄・早坂直家・清水明彦・瀬戸口郁・鈴木弘秋・浅野雅博・粟野史浩・寺田路恵・富沢亜古・山田里奈
美術:乘峯雅寛 音楽:三浦出 照明:賀澤礼子 音響効果:藤平美保子 衣裳:出川淳子 映像編集:小泉宏和 特殊効果:FANTASY 舞台監督:加瀬幸恵 制作:伊藤正道 票券:最首志麻子 協力:外川智恵子(ニチエンプロダクション)
ザ・クライシス:http://www.bungakuza.com/about_us/p2k4/2k04-crisis.htm

Posted by shinobu at 18:23 | TrackBack

地人会『化粧-二幕-』12/10-19シアタートラム

 いつもチケットが早々に売り切れる、渡辺美佐子さん主演の一人芝居です。1982年初演で、フランス、アメリカ、カナダ、ベルギー、タイ、マレーシア等でも上演され、スペインやイギリス、韓国ではその国の女優さんによって演じられています。

 もうすぐ取り壊されてしまうさびれた芝居小屋で、女座長・五月洋子が今宵も出演前の準備をしている。楽屋で化粧をしている最中に、テレビ局の人間がテレビ出演の話を持ってきた。なんと、生まれて間もない頃に致し方なく孤児院に預け、そのまま生き別れてしまっていた洋子の赤ん坊が、田上晴彦という人気俳優になっており、その田上と洋子のご対面番組だというのだ。(詳しいあらすじはこちら)。

 第1幕はうとうとしちゃったりしてましたが、第2幕に入って息子が登場してからは、天国と地獄、そしてその両方を超えた人間の境地を叩きつけられて、いやがおうにも涙が流れてくるし、ほとんど呆然自失状態にも陥りました。
 悲しすぎた・・・。なんて大人な芝居なんだろう。年寄り向けだという意味もありますが・・・。
 脚本と演出から感じられる、全てを知り尽くしたからこそ保てる心の冷静さに、私なんて太刀打ちできないと思いました。

 ここからネタバレします。

 息子とおそろいで持っていたはずのお守りが違うものだったとわかった瞬間に、逃げるようにして息子が立ち去ってしまい、追い討ちをかけるかのように客席からは野次が飛びます。その野次が実は観客のものではなく、小屋の取り壊しをしようとする土建業者のものだとわかるのが残酷。洋子は観客が誰もいないところで、同じ芝居を10日間も一人でやり続けていたのだということが暴露されるのです。

 小屋を取り壊していく様子が屋台崩しで表されます。柱が倒れ、屋根が落ちていく中でも洋子は演技をやめません。堕ちるところまで堕ちきってしまった人間が、それでも芝居を演じる中に喜びを見出していくという様子なのかなぁと思いつつも、やはり残酷さが私を相当深く蝕んでいたため、入り込むことはできませんでした。凄い芝居です。

 いつか、渡辺美佐子さん以外の女優さんがチャレンジされるのが楽しみだなーと思います。

《千葉・大田(東京)・大阪・長野・愛知・長野・熊本・北九州・埼玉→東京公演》
【出演】五月洋子(女座長):渡辺美佐子
【スタッフ】作:井上ひさし  演出:木村光一  装置:石井強司  照明:室伏生大  音楽:宇野誠一郎  効果:深川定次  舞台監督:幡野寛  制作担当:和泉将朗  制作総務:渡辺江美
地人会内:http://www1.biz.biglobe.ne.jp/~CJK/ftr_96K.htm

Posted by shinobu at 17:42 | TrackBack