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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年09月11日

こまつ座『小林一茶』09/08-25紀伊國屋サザンシアター

 こまつ座の第78回公演は讀賣文学賞、紀伊國屋演劇賞を受賞した『小林一茶』の15年ぶりの再演です。しのぶいちおしの北村有起哉さんがタイトルロールに大抜擢ということで、期待して劇場へと向かいました。上演時間は休憩を挟んで約3時間15分です。

 戯曲の約半分は七五調になっているという凄い作品。やっぱり手ごわかったのか、役者さんがまだ本調子ではなかったように見受けられました。

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 ≪あらすじ≫ こまつ座ホームページより抜粋・引用。
 「十両盗っても首が飛ぶ」文化七年(1810)。江戸蔵前で発生した金四百八十両の盗難事件。その容疑者として捕らえられたのは俳諧師の小林一茶。(中略)
 容疑者一茶の身元調べにあたるのは、新米の同心見習い五十嵐俊介、もとは狂言作者。(中略)
 物証はないが他にあてもない。そこで知恵をめぐらす同心見習。捜査の基本はひとつ。
 「犯人の立場になって考える=自分が犯人になってみることだ!」
 かくして、吟味芝居の幕が明く。五十嵐自ら主役をつとめ、疑惑の男の半生を演じ、白黒裁きをつけようというこの芝居。はたしていかなる真実がかくされているのか。
 ≪ここまで≫

 劇中劇という形式を取っていますが、主軸は小林一茶(こばやしいっさ=北村有起哉)と竹里(ちくり=高橋長英)という2人の俳人の半生記です。
 井上ひさしさんの最近の作品とは色合いが違うなぁと思いました。2002年の『天保十二年のシェイクスピア』(初演は1974年)でも思ったのですが、あらわな濡れ場やあからさまに人に敵対する言葉が多いです。ちょっと苦手なんですよね、私。2001年の『夢の裂け目』で初めて井上戯曲に触れた者には刺激が強すぎるのかしら。
 もしかすると木村光一さんによるこまつ座演出が、私の好みではないのかもしれませんね。『頭痛肩こり樋口一葉』『化粧-ニ幕-』そして今作と苦手なのが続いています。人間の汚い、暗い部分をギラリと黒光りするように表現されるのを、こまつ座であまり観たくないんですよね。

 私が観た回は役者さんのセリフ間違いが多すぎました・・・(涙)。残念ながら言葉に意味が乗らないまま、セリフをちゃかちゃかと進めてしまっている役者さんがほとんどでした。それが原因かどうかはわかりませんが、お芝居全体に覇気が感じられなかったですねぇ・・・。
 まだ3ステージ目ですのでこれから良くなっていくのでしょう。珍しく知り合いを2人連れて行きまして、結果、私はちょっと不満だったけれど、お2人にはご満足いただけたようでした。私はこまつ座のファンなのでね、辛口気味です。

 ここからネタバレします。

 480両を盗んだのは本当に一茶なのか。それを吟味するために一茶の半生を芝居にしてきたけれど、一茶を演じていた五十嵐俊介(北村有起哉)は、「気の小さい一茶がそんな大金を盗めるはずが無い」という結論に至ります。そこから、一茶を犯人に仕立て上げて得をしようとしていた自身番に集まった人々(=吟味芝居をしていた人々)に矛先が向きます。

 私達が生きている今の世界にもいっぱいありますよね。悪いこともみんなでやれば怖くないってことで、仲の良い友達であるかのように装って、実のところは誰かを出し抜いて犠牲にして、つるんで美味い汁を吸おうとしているだけの集団。私自身もいつどこでそんな泥の中に足を突っ込んでいるかわかりません。それくらいさり気なく、日常に何層にも織り込まれていると思います。
 五七五の発句の後に七七の脇句をつける俳諧から、五七五の発句だけの俳句へ、つまり誰にも頼らず一人だけで創作する世界へと旅立った一茶。ちょうど昨日観た『ウィンズロウ・ボーイ』で得た「正しいことをする」という意味にもつながると思いました。

 良かった役者さんは北村有起哉さん、キムラ緑子さん、小林勝也さん。残念だったのは高橋長英さん。体調が悪いのかな、ちょっと心配。竹里役の高橋さんの歯切れが悪いと、このお芝居は意味が分からなくなるんですよね。

 北村有起哉さんは期待に応えてくださいました。北村さんは言葉がご自身のものになっており、表情も動きも生き生きとしていました。いろんな演出家(栗山民也、マキノノゾミ、野田秀樹、鴻上尚史、鈴木裕美、長塚圭史など)と様々な種類のお芝居に出演されてきましたが、こまつ座にも溶け込むことができ、観客のみならず舞台上の仲間(役者)をこまつ座の世界へとぐいぐい引っ張り込んで、リードしているようにも見えました。お若いのに凄いキャリアですよね。そして来年5月の劇団☆新感線『メタルマクベス』にも出演されるそうで、またまた楽しみです。

 キムラ緑子さんは紅一点、お色気担当。さすがの貫禄と愛嬌で10代から50代の女性をかわるがわる自在に演じてくださいました。着物の着こなしと所作もきれいでした。
 小林勝也さん。遊俳(ゆうはい・生業を他に確保している俳人)の夏目成美役(悪役です)。さらりと余裕の佇まい。静かに柔らかく発せられる言葉も気持ちが良いです。

出演=北村有起哉/高橋長英/キムラ緑子/小林勝也/松野健一/永江智明/吉田敬一/田中壮太郎/佐藤淳/大原やまと/島川直
作=井上ひさし 演出=木村光一 音楽=宇野誠一郎 美術=高田一郎 照明=服部基 陰陽=深川定次/秦大介 歌唱指導=宮本貞子 所作指導=藤間藤三郎 殺陣指導=渥美博 衣裳コーディネーター=志田久 宣伝美術=安野光雅 演出助手=北則昭 舞台監督=三上司/木崎宏司 制作=井上都 高林真一 瀬川芳一
*第三十一回讀賣文学賞・第十四回紀伊國屋演劇賞受賞作
≪9/28~12/4 地方公演≫
前売り・当日共5250円 学生3150円(全席指定)
こまつ座:http://www.komatsuza.co.jp/ 
シアターパーク(作品紹介)(井上ひさし)(北村有起哉

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Posted by shinobu at 00:21 | TrackBack