2007年07月12日
渡辺源四郎商店『小泊の長い夏』07/12-16ザ・スズナリ
畑澤聖悟さんが作・演出されるプロデュースユニット、渡辺源四郎商店の新作です。やっぱり泣いちゃったよぉ~っ!
勢い余って最前列に座っちゃったんですが、せめて3段ぐらいは上の方が観やすかったかも。全席自由席ですので、これからご覧になる方はお早めに劇場へどうぞ。上演時間は約1時間40分。
2日前に拝見した青年団リンク・青☆組『おやすみ、枇杷の木』とチラシビジュアルが重なっているため(夕日の写真)、『サンセット“半券”割引』が実施されています。
⇒CoRich舞台芸術!『小泊の長い夏』
レビューを最後までアップしました(2007/07/15)。
≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより。
畑澤聖悟、待望の書き下ろし。地球温暖化の進む20XX年。青森県小泊(こどまり)にある大照神社(おおてるじんじゃ)に暮らす老宮司の元に、行方知れずの息子が30年ぶりに帰ってきた・・・・。
≪ここまで≫
ザ・スズナリにシンプルな抽象舞台。低い丸テーブルを囲んだ会話劇です。笑いが起こるところも沢山用意されているのですが、舞台の設定がかなりシビアだったので、私はあまり笑わなかったですね。お話の奥の方をぐっと見つめて探りながら、じっくりと作品世界を味わう時間でした。そして静かなクライマックス(と言っていいと思います)ではずっと泣いてました。
流暢な津軽弁を軽やかに話す人物が数人登場するので、意味がわからないセリフも多いですが、それはそれで「言葉が通じない(わかりあえない)」ということが自然と起こっていて良かったなと思います。
畑澤聖悟さんの演出作品(特にストレート・プレイにおいて)には、最初から最後までずーっと続く、ある独特の空気があるように思います。舞台上では人間がさまざまな感情を起こして心で七転八倒するのですが、その下(なのか奥なのか)に、どっしりと落ち着いた青黒い岩のような、重たくて優しいものが鎮座しているような気がします。それは舞台で起こることも観客のことも、ずっと無言で見守ってくれていて、同時に堂々と対峙してくるような、いい意味で頑固な塊です。今日もそれに触れて、どっぷりと浸かって、渡辺源四郎商店の劇空間を堪能しました。
チラシだけでなく、『おやすみ、枇杷の木』と重なるメッセージがあったように感じて(方向性は違いますが)、やはり演劇は今を描く芸術だなと思いました。
ここからネタバレします。アップしました(2007/07/15)。
近未来の架空のお話です。目の前で人が演じるのを見ることによって、「地球温暖化が進んだら何が起こるの?」「その時の生活はどうなるの?」と想像するのが容易になると思います。新聞記事や研究発表を読むことももちろん有効ですが、演劇は、自分の実生活のレベルに当てはめて考えるきっかけになる気がします。
温暖化が進んで東京の大部分が沈み、住む場所を失った人々が難民となって東北地方に溢れている日本。青森の小泊にあるとされる大照神社が舞台でした。青森駅周辺が東京のようにネオンきらめく街となり、津軽弁が横柄な人の代名詞のような印象を与える時代。恐ろしいですが、想像に難くない近未来です。
死期が近づいた80歳の宮司(宮越昭司)の息子(ささきまこと)が、偽の家族(3人の子供とその妻・夫など)を連れて30年ぶりに帰省し、父親を喜ばせようとします。実はそれには裏があり・・・。
※u-noさんのネタバレBOXに詳しい設定が書かれています。
いい大人がニセ家族を演じるシーンは、大げさな演技でわざと戯画的に作られており、裏にある正視するのがつらい事実(環境破壊がもたらした危機的状況、宮司が息子に自分の安楽死のほう助をさせようとしていること等)を際立たせます。
小泊は実際に夕日が美しくて有名な場所だそうです。「丸い大きな太陽が海に沈むとき、ジュ!って音が鳴るんだよ」と言って、登場人物は何度も夕日を観に行きます。太陽のせいで温暖化が促進されますが、太陽のおかげでバナナは繁殖します。神社の名前が大照だったり、宮司が孫に「太陽」と名づけたり、チラシのビジュアルもストレートに夕日の写真だったり、そこかしこに“太陽”がちりばめられています。
産んでも育てられない(難民だから)環境なのに、誰の子なのかわからないのに、「子供ができた」と喜ぶ女(山上由美子)。その腹に手を当てて祝詞をあげる宮司・・・。ここから涙が溢れて最後まで止まらず~・・・。
宮司は沈み行く太陽でした。日本の神話の天照大神のイメージですよね。最後は死を覚悟した宮司が、息子に車椅子を押してもらい、徐々に赤くそまっていく舞台の中央からゆっくりと去ります。去り終わる頃に波の音が流れました。海に沈んだ太陽が「ジュ!」と鳴ったように感じました。126代続いた神社も、これで終わり。まさに斜陽のお芝居でした。
ニセ家族が「津軽海峡冬景色」(←音が鳴ります)を歌いあげる時、歌詞をじっくり味わいました。こういう風景が全く見られなくなったんですね。そのシーンの後、宮司が「ダニーボーイ」をハミングで歌います。べたべたの日本の歌謡曲をプレゼントしたのに、宮司が口ずさむのは色んな国で歌われているアイルランド民謡でした。そこにも宮司がグローバルな存在(=太陽)であることが表されている気がしました(深読みしすぎかも)。
≪青森、東京≫
出演=森内美由紀(青年団) 工藤由佳子 佐藤誠(青年団) 高坂明生 萱森由介 工藤静香(劇団夢遊病社) 宮越昭司(劇団雪の会) 藤本英円 三上晴佳 山上由美子 ささきまこと
作・演出/畑澤聖悟 音響/藤平美保子 舞台美術/畑澤聖悟 照明/葛西大志 プロデュース/佐藤誠 制作/工藤由佳子 制作助手/野宮千尋 ドラマターグ・演出助手/工藤千夏 装置/萱森由介 宣伝美術/木村正幸(ESPACE) 主催・企画制作/渡辺源四郎商店
チケット発売日 2007年5月19日(土)全席自由・日時指定・税込 予約:一般3,000円/学生2,000円/高校生以下1,000円 当日券:一般3,300円/学生2,300円/高校生以下1,300円
http://www.xbb.jp/wgs/
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日本テレビ・キューブ・北九州芸術劇場『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』07/05-16天王洲銀河劇場
小説からテレビドラマ、映画と色んなメディアで作品が作られている、リリー・フランキーさん原作の『東京タワー』。私は舞台版で初めて出会いました。
上演時間は約3時間40分(休憩15分を含む)。
⇒CoRich舞台芸術!『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』
作品紹介はこちら。東京で一人暮らしをしているボク(萩原聖人)が、独白しながら物語が展開します。役者さんが軽快に楽しませようとしてくれますが、ストーリーをこつこつ説明していくような作りで、私は退屈でした。
客席では涙を流してらっしゃる方が多かったみたいですよ。鼻をすする音が何度も聞こえました。
オカン役の加賀まりこさんがとても可愛らしかったです。最前列で堪能。
ここからネタバレします。
誰かが亡くなることで生まれるドラマとかが、私は苦手なんですよね(それだけではなかったですが)。病院も苦手。だから本も映画も避けてきたんですが、やっぱり舞台となると、ね。観たくなっちゃうんですよ(苦笑)。特に蓬莱竜太さんの脚本ですし。
雑居ビルの管理人役で八十田勇一さんが登場されたのは可笑しかったな~(←モダンスイマーズ『ゆきてかえらず~稲上荘の寄るべない日々~』)。
最後はボクとオトン(林隆三)がオカン(加賀まりこ)の遺影を連れて東京タワーに登ります。背後の巨大なパネルの窓枠が東京タワーみたいに見える、という演出だと思いますが、もうちょっと東京タワーらしい形になって欲しかったな~。
オカンが、ボクの同居人(津村知与支)のジーンズにアップリケを縫い付けるシーンで、加賀さんは本当に「穴が空いてるから繕っている」演技をされていて、それがとても可愛らしいし、微笑ましかったです。
≪北九州、東京、大阪、名古屋、新潟≫
出演:萩原聖人/加賀まりこ/石田ひかり/千葉雅子/三上市朗/八十田勇一/新谷真弓/津村知与支/林隆三
原作:リリー・フランキー 脚本:蓬莱竜太(モダンスイマーズ) 演出:G2 美術:古川雅之 照明:小川幾雄 音響:井上正弘 音楽:佐藤史朗 衣裳:堀口健一 ヘアメイク:武田千巻 振付:本山新之助 劇中歌:瓜生明希葉 方言指導:岡田幸子 演出助手:高野怜 舞台監督:榎太郎 林和宏 宣伝美術:東學 宣伝写真:須佐一心 協力:ガンパウダー・扶桑社 制作協力:G2プロデュース プロデューサー:関川悦代(日本テレビ) 高橋典子(キューブ) 津村卓(北九州芸術劇場) 制作:茅野亜希(日本テレビ) 仲谷正資(キューブ) 北里美織子(キューブ) 広報:米田律子(キューブ) 製作:柏木登(日本テレビ) 北牧裕幸(キューブ) 企画・製作:日本テレビ キューブ 北九州芸術劇場
S席7,500円 A席6,500円(全席指定・消費税込)※未就学児童児童入場不可
http://www.g2produce.com/other/tokyotower/
http://www.tokyotower-stage.jp/
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