REVIEW INTRODUCTION SCHEDULE  
Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
mail
REVIEW

2007年10月05日

演劇集団円『天使都市』10/02-14ステージ円

 松田正隆さんの書き下ろし新作を演劇集団円の期待の若手演出家・森新太郎さんが演出されます(⇒過去レビュー)。
 昨年亡くなられた同劇団の仲谷昇さん、岸田今日子さんへの哀悼の念を込めた公演です。

 素敵だなと思った言葉、絵画のように美しい風景が、記憶にとどめる前に次々と消え去っていく、約1時間25分でした。意味は全然わからなかったんですが、とても面白かったです。

 ⇒CoRich舞台芸術!『天使都市
 途中だったレビューをアップしました。舞台写真あり!

 下手に砂山がある殺風景なステージ。舞台奥には下手から上手へとゆるやかに下る坂道があります。砂の上には木製のイス。中に古いラジオが半分ぐらい埋まっています。

20071005_tenshitoshi_stage1.jpg
左から高橋理恵子、梶原美樹(後方)、平木久子、三谷昇 (C)宮内勝

 登場するのは旅の装いの老夫婦(三谷昇&平木久子)と、若い男女(上杉陽一&高橋理恵子)、そして若い男女を支配している女(梶原美樹)。

 色んな隠喩があるのだろうと思って、心にひっかかるものに出会ったらその度に「これは“死”かな?男女の対比?思い出??」などと、自分の脳みその中にあるわずかな知識を掘り起こして当てはめようとしたのですが、後から次々と繰り出されてくる不思議な言葉や出来事に魅せられて、忘れ去ってしまいます。

 どこかにあるはずのヒントを見つけて、そこにしがみついて、何とか理解をしようとしたのですが、いかんせん無知な私です。何もわからず、舞台で起こる出来事を赤ん坊のように眺めて、可笑しい時に笑って、じ~んと来た時に泣いて、わからない時はやりすごして(笑)、ただただ受身の状態で『天使都市』というお芝居の中を漂いました。

 音楽がとても心地よくて、照明も非常に雄弁で効果的でした。観終わってから脚本を読ませていただいたんですが、もー・・・会話のようで詩のようで、さっき観たばかりなのに全く記憶に残っていない言葉もありました。また、かなり大胆に演出で変更を加えていることがわかり、森さんのセンスにまたもや感心させられました。

20071005_tenshitoshi_stage2.jpg
左から平木久子、三谷昇 (C)宮内勝

 命と記憶、そして時間・・・なのかなと思いました。ものすごく漠然とした印象だけが残っています。でも、それがまさにこの舞台だったんじゃないかなと思えました。漠然としたまま、消えていくこと。物も事も命も、砂の中に埋まっていくこと。『ニュータウン入口』を思い出しました。

 行動の意味がわからないし、無言の時間も多いですが、役者さんの演技は観ていて退屈しないものでした。老夫婦はそこに居るだけで厚みがありますし、若い女(高橋理恵子)のセリフは強くひびいてきて、いつも目が行きました。

 ここからネタバレします。

 黒装束の天使は「若い女」という役名で、脚本にはセリフがたくさんあるのですが、一言もしゃべりませんでした(オイルを塗られている時のあえぎ声以外)。誰かのセリフがラジオからかすかな騒音のように流れたりもしていましたね。演出家の力が見えました。

 天上から降り注ぐ砂。生きているのか死んでいるのか(見えているのか聞こえているのか)わからない老夫婦。とりとめもない思い出話は、説明すればするほど伝わらないし、曖昧になったりします。
 黒いトレンチコートの下はほぼ裸(黒いビキニ)の無言の天使が、若い男女に首輪をつけて縄でひっぱっています。砂のなかに埋められた女はそのまま解放され、下手な手品をやらされる男はこれまでと同様に縄につながれて、鞭で叩かれて連れて行かれます。
 ラストは老婆が天使と男の後を追って上手に去り、老人は砂の中の女を妻と間違えてから、1人で下手に去りました。埋まった女は埋まったまま。

 副題は「記録を残さなかった都市の記憶についての演劇的記録。」です。

出演=三谷昇、平木久子、上杉陽一、高橋理恵子、梶原美樹
脚本=松田正隆 演出=森新太郎 美術=伊藤雅子 照明=小笠原純 音響=藤田赤目 衣裳=緒方規矩子 舞台監督=田中伸幸 演出助手=林紗由香 ステージング=板垣朝子 宣伝美術=坂本志保 制作=桃井よし子 大谷香織
【休演日】10月9日 一般4,500円、学生3,500円 ペアチケット(2枚一組)8,000円
http://www.en21.co.jp/

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
 便利な無料メルマガも発行しております。

メルマガ登録・解除 ID: 0000134861
今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台
   
バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ
Posted by shinobu at 22:46 | TrackBack

わらび座『ミュージカル「小野小町」』04/14-01/03わらび劇場

 東京にもよくツアーに来て下さっているわらび座ですが、作品を観るのはこれが初めてでした。上演時間は約1時間50分休憩なし。

 秋田県は角館(かくのだて)のわらび劇場(710人収容)で、今年の4月中旬から来年1月初旬までの9ヶ月におよぶ長期公演中のミュージカルです。なんとシングルキャスト(1人1役で代役なし)!

 ⇒CoRich舞台芸術!『ミュージカル「小野小町」

 ≪あらすじ≫ チラシより引用。
 出羽国司、小野良実と村長の娘・大町子の間に生まれた小野小町は、祖父母と母の愛に包まれて美しく育つ。「13歳になったら上洛せよ」との父の言葉通り、小町は母とともに京に上るが、都には正室の萩とその娘紅葉がいた。不慣れな京での暮らしの中、数々のいじめに遭うが、小町はひるむことはない。次々とみやびな都の文化を身に着けていく。
 やがて、小町の美しさと和歌の才能は京中に知られるところとなる。17歳になり舞姫に選ばれた小町はついに仁明天皇の目に留まる。小町は、父良実や小野家にとってなくてはならない人間となり、萩と紅葉の心は穏やかではない。
 仁明天皇の更衣となり、輝くばかりに美しく、さらに磨かれた和歌を詠む小町に、狂おしいほどの思いを寄せている男がいた。紅葉の夫、仁明天皇の皇子である「深草少将」であった。天皇の子を宿し、絶頂を極める小町を陰謀と策略が襲う。虚飾にまみれた世界に翻弄されながら、小町は「生きる」ことの真実を見つけていく。
 ≪ここまで≫

komachi_kanban.JPG
わらび劇場エントランス

 オープニングは客席後方から秋田音頭を歌い踊りながら役者さんが登場。お祭りの衣裳で男性も女性も元気いっぱいに開幕ムードを盛り上げてくれます。舞う手の動きがパキっと細かく静止するのが美しく、女性が叩く太鼓の音には軽やかながら堂々とした響きがありました。声も伸びと張りがあって気持ちよく聞いていられます。「あぁ、これは何年もお稽古を積み重ねて、身にしみこんだ動きだな」と思いました。稽古というより習慣と言った方が近いかもしれません。

 光沢のある真っ黒な回り舞台で優雅な衣裳を着た平安の世の人物たちが(美術・衣裳:朝倉摂)、素直な気持ちを言葉と歌にあらわしていきます。とてもわかりやすいストーリー展開で、時にはセリフ・歌がなくBGMと役者さんの演技だけで出来事を伝えることもあり、退屈することはありませんでした。

 秋田生まれの内館牧子さんが書かれた「小野小町」は、秋田に生まれ秋田に死んだ小町の「強いからこそ美しい女性像」が強く打ち出されていました。秋田県で観るからこそ楽しめる、地元ならではの題材も含まれていたように思います。福岡観劇の時にも感じましたが、舞台鑑賞というのは場所が変われば違う作品になるのだなと思います。まず観客は地元の方が多いですしね。秋田のわらび劇場で観る「小野小町」は、これしかないんですよね。東京で観たら全然違う感想を持つだろうと思います。

3actors.JPG
終演後に役者さんと記念撮影できます

 ミュージカルを観るとたまに、役者さんが自分1人だけの世界を作って、歌いながら自分に酔っている状態を目にすることがあります。今作ではそういうことが全くありませんでした。役者さんはまっすぐに自分が演じる人物として作品の中に存在し、歌い、演じており、登場人物それぞれが関係を交えていくことで、1本の線がはっきりと見えてくるような、とても素直な作品でした。だから何度も涙が流れたのだと思います。
 また、セリフの間違いが1度もありませんでした。わざわざ書くことではないと思いつつも、やはり触れずには居られません。私が観たのが9/23ですから初日から5ヶ月経っているとはいえ、すっかり心身にやきついた演技を見せていただけたるのは嬉しいことです。プロフェッショナルだなと思いました。

 小野小町は学校の授業で必ず学習する歴史上の人物ですが、知らないことがいっぱいでした。彼女については「実在の、架空の人物」と言われるほど、たくさんの逸話が残っているようです。

 ここからネタバレします。

 小野小町の和歌です(パンフレットより)。
 1「花の色は 移りにけりな いたずらに 我が身世に降る 眺めせし間に」
 2「我死なば 焼くな埋(うず)むな 野にさらせ 痩せたる犬の 腹肥やせ」
 1は百人一首にも入っている有名なもので、学校でも必ず習いますよね。2には驚きました。内館さんは2から強いインスピレーションを受けたようです。

 小町と天皇、紅葉と深草少将の恋の四重唱が美しかった。でも歌詞は全体的にちょっと平凡すぎるように感じました。

 秋田の実家に帰ってきた小町を追って、深草少将も都を捨ててやってきました。毎日1本ずつシャクヤクを植えて100日目を迎えたら、小町が彼の愛を受け入れるという約束をするのですが、100日目を迎える直前に少将が死んでしまいます。ドラマティックに盛り上げすぎのような気もしましたが、そのエピソードも小野小町について語り継がれている逸話だそうです。

 とにかく目が離せなかったのが、藤原良房役の萬谷法英さん。どんなセリフも演技もちょっと大げさ目に、見るからに悪者らしく作ってらっしゃるのが面白くて、登場される度に笑っちゃいました。わらび座所属ではなくフリーの方なんですね。この公演のためのキャストなのかもしれません。

出演:椿千代、山名孝幸(ヴォーカル株式会社) 、さとう龍二(ヴォーカル株式会社)、萬谷法英(フリー)、尾樽部和大/阿部佐和子/三重野きよ子/飯野裕子/近藤いずみ/長掛憲司/菅原円/高田綾/遠藤浩子
作曲:深沢桂子 脚本:内館牧子 演出:栗城宏 音楽:深沢桂子 作詞:高橋亜子 振付:鎌田真由美 振付・所作:尾上菊見 美術・衣裳:朝倉摂 照明:塚本悟 音響・効果:栗城恭子 ヘアメイク:鎌田直樹 小道具:平野忍 音楽助手:紫竹ゆうこ 所作助手:安達真理 美術・衣裳助手:西村有加 演出助手:牧田さとみ 舞台監督:石井忍/仁しづか 演出アドバイザー:中村哮夫 制作:劇団わらび座
一般:指定3150円(3675円) 自由2625円(3150円) 小・中:指定2310円(2625円) 自由1785円(2100円) ※( )は当日券料金
http://www.warabi.jp/komachi/

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
 便利な無料メルマガも発行しております。

メルマガ登録・解除 ID: 0000134861
今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台
   
バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ
Posted by shinobu at 16:37 | TrackBack

木山事務所・あうるすぽっと『駅・ターミナル』10/04-14あうるすぽっと

 堤春恵さんの書き下ろし新作ということで(⇒過去レビュー)、とても期待して新しい劇場に伺いました。上演時間は2時間10分(途中15分の休憩を含む)。

 あうるすぽっとはJR池袋駅から徒歩8分、東京メトロ東池袋駅直結の、巨大な高層ビルの中にありました。ガラス張りのエントランスを見てびっくり。まるで大企業のオフィスみたい!高層マンションも隣接し、豊島区立中央図書館も同じビル内にあるそうで、ロケーションは最高ですよね。

 ⇒CoRich舞台芸術!『駅・ターミナル

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 文明開化を急ぐー伊藤博文を中心としたー政治家と、7歳でアメリカに官費留学し、後に津田塾大学の創設者となった津田梅子の青春から晩年までの人生を、明治のエリートたちの欧米文明受容の葛藤、史実とフィクションをまじえて描き出す。富国強兵を進める初代総理大臣・伊藤博文と、自由で自立した女子教育に情熱を燃やす津田梅子の関係は微妙な男女の心理もからんで対立を生む。駅・ターミナルは、様々な人が通り過ぎる「人生の起点」のシンボルであり、「開かれた世界」への登竜門。追いつき追い越せの欧米文明を乗せた線路が現代の日本の文明までつながり、そしていま、国境を越えていく。
 ≪ここまで≫

 明治時代の実在の人物たちが列車に乗り合わせて語らうことになる、史実をもとにしたフィクションです。舞台はずっと列車の中。時代と場所が変わるので車両が変化します。暗転が長いですが、大胆な転換もあって楽しめました。

 でも演技が・・・。いかにも説明口調で自己紹介するし、不自然に客席に向いて立つし、相手の反応に関係なく、振付がついたように動くし、朗々と歌うようにしゃべるし。舞台の上で役者さんが生きていません。せっかくの脚本もこんな演技で語られては・・・。
 前半はがっかりして集中できませんでしたが、後半は開き直って、言葉の意味を追いかけるようにしました。

 日本を縦横に走るようになった列車の終着駅はどこなのか。終盤で伊藤博文と津田梅子が、線路と駅に思いを馳せながら語るシーンで涙が流れました。

 初日の客席はいかにも演劇界の重鎮らしき人々が揃っていました。まるで新国立劇場の初日みたいに。新しい建物ですけど、中身が新しいわけではなさそうです。

 ここからネタバレします。
 ※セリフは一部パンフレットより引用。正確ではないものもあります。

 伊藤「(線路は伸びる。東京-神戸、上野-青森、北海道へも。)そして海峡を越えると・・・国境だ。」
 この「国境だ」というセリフを聞いた途端、涙があふれました。私達が使っている電車は日本中をくまなく走るようになりました(過疎地もありますが)。その先には海があり、海の先には国と国との境目があります。インターネットが発達して生活に浸透した今、見えないけれど確かに存在するその線を、私達はこれまでにはなかった視点から見つめることができるようになっているはずです。伊藤と梅子にとっての「国境」と私の「国境」の違いがはっきりと感じられました。

 トックビル著「アメリカン・デモクラシー」という分厚い洋書が伊藤と梅子の間を行ったり来たりします。その本の第十章はアメリカの白人至上主義について書かれており、2人ともが最も関心を持って、日本人であることのアイデンティティーを互いに確認することになった箇所でした。なのに伊藤は日本を守り、発展させるために、韓国を植民地化する道を選びます。

 梅子「男たちは線路に汽車を走らせ、その汽車で軍隊を運ぶ。軍隊が国境を越えれば戦争が始まる。」
 この言葉の意味そのままでも充分に歴史を振り返って学ぶことはできますが、それだけでは物足りなく感じました。24時間インターネットで海外とつながっていて、中国から黄砂が降ってきて、原油価格の上昇で物価が上がってきた、今の日本。そこで生きている私たちにとっての「国境」とは何なのか。もっと今とつながるように踏み込んだ演出で観たかったです。若い演出家に演出してもらいたいな。

 川上音ニ郎(Wikipedia)と貞やっこまで出てきて(三谷幸喜さんが新作で題材にされています)ちょっと嬉しかった。

あうるすぽっとこけら落とし公演
出演=外山誠二、久世星佳、村上博、金子由之、林次樹、本田次布、内田龍磨、岩下まき子、森源次郎、宮内宏道、長谷川敦央
作:堤春恵 演出:末木利文 主催: 木山事務所・豊島区・(財)としま未来文化財団 企画製作: 木山事務所・あうるすぽっと
【発売日】2007/07/23 全席指定 一般5000円 学生割引3500円 (学生割引は木山事務所のみ取り扱い) 区民割引4700円 としまみらい友の会4500円
http://www.owlspot.jp/performance/071004.html

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
 便利な無料メルマガも発行しております。

メルマガ登録・解除 ID: 0000134861
今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台
   
バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ
Posted by shinobu at 00:02 | TrackBack