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2008年12月18日

わらび座『ミュージカル「天草四郎-四つの夢の物語-」』12/14群馬県民会館

 わらび座のミュージカルを拝見するのは『小野小町』『火の鳥~鳳凰編』につづいて3作目になります。
 島原の乱(Wikipedia)で3万7千の軍を導いた天草四郎について、史実をもとに大胆な解釈を加えたオリジナル・ミュージカルでした。上演時間は約1時間55分。

 命の尊さ、生きる喜びを、てらいなく真っすぐに歌い上げます。タイトル・ロールの四郎を演じる碓井涼子さんの、繊細だけれど力強くて伸びのある歌声を堪能。⇒『火の鳥』稽古場レポートに碓井さんの写真あり!

 ⇒東京公演は2009年1/27~2/1@東京芸術劇場 中ホール
 ⇒(株)わらび座 代表取締役・小島克昭氏インタビュー
 ⇒CoRich舞台芸術!『天草四郎-四つの夢の物語-

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 すべては家康のキリシタン弾圧により
 天草から追放された外国人神父の予言から始まった。
 「今から26年後、この地に善き人現れるだろう。
 その幼き子は、習わざるに諸事をきわめ
 やがては野山に白旗をたて
 諸人の頭に十字架(クルス)をたてるだろう」

 そして26年後、島原と天草でキリシタンの農民たちがいっせいに蜂起。
 その先頭に立つ鎧姿の美少年こそが
 天草四郎時貞と名を変え、男の姿になった16歳の志乃だった…
 ≪ここまで≫

 『火の鳥~鳳凰編』と同様に、オープニングの大合唱で落涙。わらび座ミュージカルは世界観にブレがないなと思いました。日本の歴史を題材に、民族舞踊をアレンジしたダンスや和太鼓の生演奏など、劇団独自のスタイルを大切にされています。

 島原藩に税を納めれば餓死、拒否すれば処刑されるという、どちらを選択しても死ぬしかない状況に追い込まれたキリシタンの農民たちが、四郎とともに武装蜂起します。
 四郎が説く“四つの夢”とは、自由、平等、平和、愛。死んだら天国に行けると信じる農民たちは、「こんなつらい世とおさらばして、早く死にたい(自殺はできないので戦死したい)」と願っていますが、それらの“夢”を信じて生活する内に「もっと生きたい、死にたくない」という感情が生まれてきます。

 人間の喜びは、生きること。身分・性別に関係なく、人々がともに命を謳歌している瞬間こそが“はらいそ(天国)”でした。飾らず、ひたむきに歌う声が人の心の中に宿った“神”を表しているように感じ、ほろほろと涙が流れました。

 東京で話題になる大型ミュージカルと比べると、華やかさや演出の洗練度について少々見劣りするかもしれません。でもチケット代が5500円~6000円(東京公演)ですから、S席1万円を超える公演のほぼ半額だと考えると、不満は全く感じないですね。

 ここからネタバレします。

 天草四郎は女だったという架空の設定は、少々スキャンダラスな印象を与えるかもしれません。でも実のところは、この作品の重要なポイントを伝えるためのうまい仕掛けになっていました。
 四郎を演じなければならない志乃の息苦しさと罪悪感を表すことで、ありのままの自分でいることの幸せがわかります。そして身分・性別・外見がどうあろうと、心にある信念は確かに誰かに伝わって、時を越えて生き続けていくことも示されました。もちろん、その信念が歪められて間違った意味で語り継がれる可能性もあるでしょう。でも、数百年前の私たちの祖先の思いが、今の私たちに届き、未来へとつながっていくのだと信じるのは大切なことだと思います。

 予言に示された“善き人”とは四郎のことではなく、本当に人の心が読める惣吉(森下彰夫)のことだったと、四郎は気づきます。旗に描かれた2人の天使(中央の聖杯に手を合わせている)が四郎と惣吉だとわかった時は、背筋がゾクっとしましたね。

 農民役の方々が、ちょっとしたドタバタ喜劇のようなシーンで、型にはまった“喜劇らしい演技”をされているように感じました。演技の演出は全体的に古い気がします。

 ※群馬公演は、芸術文化NPO法人スピリットネットワークぐんま(027-251-4455)の方々が運営されていました。私は前橋駅からバスで県民会館に伺ったのですが、バスを利用されている観客はあまりいないようでした。自家用車や自転車、徒歩で劇場に来る、その地域の観客が大多数だったのでしょうね。客席は盛況でした。

【出演】天草四郎:碓井涼子 徳川家光:安倍幸太郎(劇団M.M.C) 柳生宗矩:太田貢(フリー) 柳生十兵衛:和田覚(ヴォーカル株式会社) 山田右衛門作:岡村雄三 渡辺藤兵衛 荒川洋 キヌ:黒田ふみ 伊助:宮本昌明 惣吉:森下彰夫 平太:青木良太(オフィスPAC) ミネ:神谷あすみ トヨ:権田奈穂  ハツ:田郷真友
作:長谷川康夫 演出:井上思 作曲・音楽監督:甲斐正人 作詞:竜真知子 振付:田井中智子 美術:土屋茂昭 照明:大島祐夫 衣裳:出川淳子 音響:押久保豊 小道具:平野忍 声楽指導:矢部玲司 演出助手:小沢瞳 舞台監督:三重野一朗
【群馬公演】指定席4500円 自由席3000円 高校生以下2000円
【東京公演】指定席 S6000円 A5500円 ユース席3000円(高校生以下)
http://www.warabi.jp/amakusa/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2008年12月18日 23:28 | TrackBack (0)