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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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2008年09月21日

テアトル・デュ・ムーランヌフ『ジャックとその主人』09/18-21こまばアゴラ劇場(キスフェス4)

 メルマガ2008年9月号でご紹介しておりました、青年団こまばアゴラ劇場国際演劇月間「キスフェス」の4作品目です(関連レビュー⇒)。

 スイスからやってきたテアトル・デュ・ムーランヌフが、『ジャックとその主人』を上演します。上演時間は約2時間20分(休憩1回を含む)。

 ⇒CoRich舞台芸術!『ジャックとその主人

 木枠に白い布を張った壁が数枚と、木製の茶色い机が数脚。役者さんは性別に関係なくさまざまな役を演じ分けていきます。口語劇っぽかったり、わかりやすいコメディ・タッチだったり、演技にバリエーションがありますが、堂々とした立ち姿は先日のベルギー版『森の奥』の役者さんたちに通じるものがありました。ただ、ベルギーの方々は強烈に洗練された印象でしたが、スイスの方々はのどかな、牧歌的な(と言っていいのかな?)ムードが漂っていたように思います。 

 字幕がものすごい量で途中でめげそうになったのですが(汗)、若い女優さんがあまりにキュートなので、ついつい吸い込まれるように見とれてしまい、言葉は追えずとも最後まで一緒に完走できた・・・というところですね。東京デスロック『演劇LOVE2008【蜜月期】』もドゥニ・ディドロの小説『ジャックとその主人』を舞台化した作品でしたので、先に予習ができていて助かりました。

 基本的にジャックと主人とが話すのは、ちまたの人々の破廉恥な色恋沙汰。ジャック自身の恋の話に至る前に、どんどん違うエピソードが入ってきます。
 お互いへの恋に冷めた公爵と貴婦人の話が、他にはないシリアス・モードで、私には一番面白かったです。

 照明は全体的に暗い目で、個人的には少々物足りなかったですね。終演後のトークでわかったことですが、装置はスイスで使用しているものとほとんど同じだそうです。

 ここからネタバレします。

 貴婦人は公爵に「あなたへの愛が冷めてしまった」と非常な決心をして告白しますが、彼から返ってきたのは「実は私も、もうあなたに愛を感じていません」という、がっかりを通り越して怒り心頭な言葉でした。執念深い貴婦人は、公爵に元娼婦を紹介してまんまと結婚させるという復讐を果たします。公爵はめとった妻の過去を知って一度は激昂するものの、妻の謝罪を聞き入れて丸く収まります。これも「男は許すけれど、女は許さない」ってことだなぁ~と、しみじみ。

 木の机が天蓋つきベッドへと変身したのは嬉しい驚きでした。「おぉ~」と歓声を上げてしまった。

 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫ 
 出演:イヴ・ブルニエ/多田淳之介 フランス語通訳:芳野まい

 多田「テアトル・デュ・ムーランヌフについて教えてください。」
 ブルニエ「廃墟だった風車小屋を自分たちで改装して劇場にしました。2001年オープン。戯曲にあわせて役者を集めるプロデュース形式で公演をしています。財政面の事情で、役者を1年間通して雇うことができないので。」

 多田「スイスにおいて演劇は、どういった位置づけですか?」
 ブルニエ「人口の5%しか関わっていません。いわば5%のエリートだけのもの。0.001%でもその人口が増えて欲しいと思って、演劇を作っています。」
 ブルニエ「スイスには演劇学校(大学?)は1つだけ。卒業証書をもらうことはつまり失業を意味しています(笑)。」

 観客「どうして戯曲ではなく小説をもとにされたのですか?(ミラン・クンデラの戯曲に何か問題が?)」
 ブルニエ「『ジャックとその主人』は運命と偶然について皮肉に物語っている、フランス語圏では非常に有名な小説です。だから今回取り上げたということもあります(たくさんのお客さんに観てもらいたいから)。ミラン・クンデラ版以外にも、翻案は150~200種類あるのです。」
 ブルニエ「『ジャックとその主人』については、演劇の中に演劇があること、運命と偶然について描いていること、ファルス(笑い話)であること、色んな物語のつながりを作ることに、特に興味がありました。」

 多田「後半に出てきたあの長細い楽器は?」
 ブルニエ「あれはアルプス笛。スイスの伝統的な楽器です。牛飼いが吹いていたもの。2m50cmの長さに伸びるものをスタッフ(?)が見つけてきた。ちなみに最後に吹いている曲はスイスの国歌です。ちょっと皮肉なまなざしを感じてもらえれば。」

 多田「最後に壁(木の枠に布が張られたパネル)が倒れてきた演出がとても面白かったんですが、あの意味は?」
 ブルニエ「同じ装置が変質していくという面白みもありますが、いわば究極のギャグと言いましょうか。たった1つの話をしようとしたのに、それが出来なかったことをあらわしている。『お客さん、物語がちゃんと最後まで聞けると思いましたか?そうはいきませんよ!』」というギャグです。」

こまばアゴラ劇場国際演劇月間「キスは何回?」フェスティバル 愛称「キスフェス」!!!
出演:イザベル・ボニロ ヨハンネ・クノイビューラー オリヴィア・シーキィ・トリンカ アッティリオ・サンドロ・パレーズ フランク・アルノードン
脚本:ドゥニ・ディドロ 演出:イヴ・ブルニエ 美術:オリビエカンパニー 衣装・メイク:エリ・アタナシオ 照明:クレモン・ロベール、ヤン・ゴダ 音楽:ヴァロントン・フェヴラ 制作事務:マリルン・エベラード 製作:イヴ・ブルニエ 翻訳:芳野まい、田中晴子 主催・企画制作 (有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
【発売日】2008/07/19 予約・当日共=3,000円 KISSセット券=8,000円(電話予約のみ) (日時指定・全席自由・整理番号付) ◎フランス語上演/日本語字幕付
http://www.komaba-agora.com/line_up/2008_09/moulin-neuf.html
http://www.moulin-neuf.ch

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 21:04 | TrackBack

4x1h project『4x1h Play #0「ひとさまにみせるもんじゃない」「いそうろう」』09/20-28ギャラリーLE DECO

 「4x1h project(フォーバイワンエイチ・プロジェクト)」は“気軽に・すっきり楽しめる短編演劇”のプロジェクト。演出は黒澤世莉さん(時間堂)です。

 5月に約30分の新作戯曲6本をリーディング上演し(⇒group Agroup B)、全作品を鑑賞した観客の人気投票で、9月に上演する2本(都合により3本選ばれた中の2本)を決定しました。

 上演プロジェクト第1回目となる今回は、中屋敷法仁さん(柿喰う客)の「ひとさまにみせるもんじゃない」と、篠田千明さん(快快)の「いそうろう」 の2本立て、90分公演(途中10分の休憩を含む)。

 ⇒CoRich舞台芸術!『4x1h Play #0』★CoRichからカンタン予約!
 レビューはをアップしました(2008/09/23)。

 「ひとさまにみせるもんじゃない」は、基本的に大声で怒鳴るようなタイプのしゃべり方でしたので、私には聞き苦しかったです。中には落ち着いてひとつひとつを大事に伝えて下さる方もいらっしゃいましたが、全体的に「まだ完成していない」印象。初日だったのもあるのでしょう。あと、オープニングの照明はもっと明るくてもいいんじゃないかと思いました。

 「いそうろう」は、リーディング版とは配役が入れ替わっていて良かったように思います。衣裳が可愛かった。でも、もっともっと、ただの会話劇から逸脱した世界を感じさせて欲しいと思いました。

 ここからネタバレします。

【1】「ひとさまにみせるもんじゃない」

 感想をひとことで言ってしまうと、リーディングの時の方が面白かったのが残念でした。
 私は柿喰う客のお芝居が結構好きで、中屋敷さんならではの言葉遊びや比喩、ギャグを楽しみたいと思っていたため、セリフが聞こえない(がむしゃらに怒鳴ったり、早口すぎて意味がわからなかったり、噛んだりする)だけで、最初から鑑賞意欲が減退してしまったせいもあると思います。あと、空間の小ささに対して声が大きすぎたのも私にはマイナス・ポイントでした。

 オープニングは床に寝転んだスーツの男女が、暗い部屋で目覚まし時計のジリジリという音に起こされる演技。陰鬱なルーチン・ワークを思わせる朝。全員が「ジリジリ」「ジリジリ」と発声。徐々に声を大きくしていきながらスーツを脱いで、皆ほぼ黒タイツ姿に。なぜか一様に臨戦態勢。
 舞台中央にある白くて細長ベンチの上に登った人が、優先的にセリフをしゃべるという設定のようでした。役者さんが突然あるきっかけでベンチから降りたり、先をあらそってベンチに上ってセリフを言い始めたりします。役は固定されません。

 比較的小さな声で現代口語劇のように見せる演出がありました。声を張って演じていたシーンを、静かな演劇風に繰り返すのです。セリフがはっきり聞こえるのでそのシーンは普通に楽しめましたね。中屋敷さんの言葉を柿喰う客とは違うタイプの語りで聞きたかった、というのが、この企画に対する私の個人的な希望だったのかもしれません。

 お芝居が終わってから関係者にお話を聞いたところ、なんと、出演者全員が脚本をすべて覚えており、セリフを間違ったところで入れ替わるというルールにのっとって、本気で役の取り合いをしていたそうです。私はこれに最後まで気づけませんでした。全部段取りだろうと思っていました・・・無念。
 観客の中には最初からわかった方もいらっしゃったかもしれませんが、できれば開演前からそれが明快にわかる演出をしてもいいんじゃないかと思いました。まあこれも、役者さんのその時の状態によるのでしょう。


【2】「いそうろう」

 可愛い女の子2人がおしゃれな衣裳&ヘアメイクで、等身大の現代口語で自然に会話をします。2人の息が合っているので、観客もそのリズムにのって鑑賞できる、柔らかな雰囲気。でもイスに関しては、劇場備え付けのものなのか、デザインが全体の雰囲気に合っていないように思いました。
 舞台中央に設置したパネルに白い大きな紙を貼り、色マジックペンで絵を描きながら説明をします。セリフに出てくる部屋の様子やさまざまな小物の意味はわかりやすかったですね。

 ただ、作品が行き着いたのが「ある若者の日常を見せた」というところまでだったように感じ、物足りなかったです。小さな部屋に住むちっぽけな女の子たちの取るに足らない出来事が、地下のマントルに届くぐらいのどん底の絶望へとつき落とすなり、宇宙のかなたまで飛んでいけるほどの喜びを生み出すなりして、観客の想像力を、ある垣根を超えた世界に連れて行って欲しかったです。

脚本:「いそうろう」篠田千明(快快)、「ひとさまにみせるもんじゃない」中屋敷法仁(柿喰う客)
「いそうろう」出演:大川翔子 / 百花亜希
「ひとさまにみせるもんじゃない」出演:石黒淳士 / 大竹悠子(ユニークポイント) / 菊地奈緒(elePHANTMoon) / 猿田モンキー / 星野奈穂子 / 三嶋義信
演出:黒澤世莉(時間堂)  照明:工藤雅弘(fantasista?ish.) 舞台監督・舞台美術:佐野功 衣装協力:juno-rii 宣伝写真:堀奈津美(*rism) 宣伝美術:村山泰子 当日運営:小山与枝乃 企画・製作:4x1h project プロデューサー:菊地奈緒 共催:時間堂+elePHANTMoon
【休演日】9/22【発売日】2008/07/30 学生 1,800円、一般 2,000円
http://blog.livedoor.jp/project4x1h

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 15:42 | TrackBack