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REVIEW

2009年03月22日

tpt『醜い男』03/22-29 BankART Studio NYK 3Cギャラリー

 ベニサン・ピットが閉鎖されて初めてのTPT公演。会場は横浜にある元・倉庫だった広いスペースです。

 マリウス・フォン・マイエンブルクさんの戯曲(レビュー⇒)をトーマス・オリヴァー・ニーハウスさん(レビュー⇒)が演出されます。ドイツ人コンビですね。

 顔の美醜についてのウィットに富んだ4人芝居でした。初日は拍手が鳴り止まず、カーテンコールが3回。上演時間は約1時間20分。

 ⇒CoRich舞台芸術!『醜い男

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。
 レッテは、自分をフツーだと思っていた。 自分の顔のあまりの醜さを知った彼は、美容整形に救いを求める。 手術が終わって包帯を取った彼は知った…… この世には「美しすぎるもの」が存在するのだ。
 ≪ここまで≫

 コンクリートの打ちっぱなしの壁で囲まれた、だだっ広い空間。形は長方形で、天井が高く奥行きもあります。劇場ではないので音の反響が凄いのですが、客席のごく近くで演技をしてくださるので、セリフが聞こえないというわけではありませんでした(席によるかもしれませんが)。

 4人の役者さんは少々戯画的に創作されたキャラクターをのびのび、生き生きと演じられていて、ブラックユーモアの効いた軽妙洒脱なお芝居に仕上がっていました。楽しかった♪
 装置はほぼイス4脚のみとシンプルで、主人公レッテを演じる池下重大さん以外の役者さんは、1人で数役を次々と演じ変えていきます。役をスイッチしていく演出はスピーディーで小気味良く、缶ビールを何かに見立てたりするアイデアも、遊び心があって面白いです。
 衣裳がとってもおしゃれ!!ちょっとスノッブで洗練された大人のカジュアル・ルックでした。スニーカーが素敵。どこで売ってるんだろう。

 パンフレット(有料)に掲載された作家の文章の、「日本語にはアイデンティティに相当する単語がない」という指摘に納得でした。女性アイドルの誰かが人気者になったら、その人のメイクアップ方法が流行して、同じような顔をした女性がいきなり増えることなどを想像しました。

 ここからネタバレします。

 絶世の美男子になったレッテは女性にも男性にもモテモテになり、仕事も性格も変わります。技術者だったけれど商品のプレゼンをするようになり、奥さんがいるのに次々と求められるがままに浮気をしはじめます。彼があまりに美しいので、そんな状況が許されていきます。
 しかし、そもそも整形で作られた人工の顔ですから、全く同じ顔に整形する男性が増えてくると、レッテの希少価値はなくなります。仕事をしていなかったので技術もなくなり、会社からはお払い箱。奥さんも「あなたの顔が好き」と言うので、つまり夫がレッテでなくてもよくなります(レッテの助手と恋仲になる)。

 ビールを飲む動作が整形手術での執刀を表したり、りんごをむいて食べながら話したり。
 演じる役のキャラクター分けがくっきりとしており、笑いどころも着実に組み立てられていました。役者さんは観客とも柔軟にコミュニケーションを取る、開かれた状態にあったように感じました。

 作家マリウス・フォン・マイエンブルクさんの言葉(パンフレット)より一部抜粋。
 「(ある日本人演出家は)日本におけるアイデンティティというのは、心理や子供の頃の刷り込みによるものではなく、育った家族や所属する会社によって形成されるからだというのです。そして転職して会社を変えたなら、アイデンティティも変わってしまうのです。つまり個々人の確固たるアイデンティティという概念がなく、アイデンティティは完全に流動的とまではいいませんが、かなり柔軟に変化するものなのです。彼(※)はさらに、西欧で個性的だと考えられるものすべては、基本的に意味がない、なぜなら日本人は決まった商品を買うことで個性が表現されると信じているから、少なくともそのために商品が購入されるし、その商品を獲得することで、それが作り出す幻想をも獲得する、と言うのです。個性的になろうと、つまり他の人とは違う人間になろうとすることこそが、我々を画一的にしていまうのです…」
 ※彼とは、マイエンブルクさんに脚本執筆を依頼した、ある日本人演出家のこと。

【出演】レッテ(醜い男):池下重大 ファニー(レッテの妻/金持ちの老婦人/外科医の助手):武田優子 シェフラー(レッテの上司/外科医):小谷真一 カールマン(レッテの助手/金持ちの老婦人の息子):田村元 
作:マリウス・フォン・マイエンブルク 訳:林立騎 演出:トーマス・オリヴァー・ニーハウス セット:松岡泉 照明:笠原俊幸 衣裳:原まさみ 音響:長野朋美 通訳:黒田容子 助成:平成20年度文化庁芸術創造活動重点支援事業 後援:東京ドイツ文化センター 協力:BankART 1929
チケット前売り開始:3/6(fri) 一般5,000円 学生3000円(TPTのみ取扱い)
http://www.tpt.co.jp/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2009年03月22日 22:47 | TrackBack (0)