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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2010年01月05日

青年団『カガクするココロ』12/26-01/25こまばアゴラ劇場

 『北限の猿』に続いて『カガクするココロ』を鑑賞。私はこちらの方がずっと好きですね。ドロドロかつザワザワしてて(笑)。

 「カガク三部作」は『カガクするココロ』『北限の猿』『バルカン動物園』の順に初演されました。その次に当たるのが2008年に上演された『森の奥』(レビュー⇒)なんですね。
 『バルカン動物園』は来年3月に若手公演として上演されます。シリーズを通して観られるいい機会だと思います。

 年末年始は追加席を作るほどの大入りだったようですが、中盤はまだ空いているようです。終盤になって混み始める前に観た方が快適かも。

 ⇒舞台写真
 ⇒CoRich舞台芸術!『「カガクするココロ」「北限の猿」

 ≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより
 猿を人間に進化させるプロジェクトを研究している某国立大学の生物学研究室を舞台に、生命倫理の問題や日本人論、そして現代の若者の姿を鮮明に描き出す、「科学シリーズ」2本立て公演。
 現在、大阪大学でロボット演劇プロジェクトに取り組む平田オリザの“「科学」と「演劇」の総合”の原点、待望の再演です。人類の文明の急速な進歩と、暖慢な進化の流れの二重奏をどうぞお楽しみください。
 ≪ここまで≫

 バイオテクノロジーを専門とする研究室に集まる若者たちの群像劇です。『北限…』より恋愛色が濃いですね。上司と部下、先輩後輩、男女の三角関係や不倫などを下地に、感情のぶつかりと交わりを組み立てます。複数の関係が同時に交錯するのがスリリング。

 本やぬいぐるみなどの小物以外は『北限の猿』と変わらない装置。役者さんも『北限…』に出てた人が多数出演しています。でも演じる人物の性格やバックグラウンドに連続性があるわけではないし、全く別の作品ですので、片方だけ観ても十分楽しめます。
 ただ、挿入される短いエピソードや人物の出はけなど、『北限…』と敢えて似せているところが多数あり、比べて観る面白さがあります。役者さんの演じ分けも見どころですね。特にロックンローラー役の安倍健太郎さんは、『北限…』では製薬会社のセールスマンだったので、その差が激しいです(笑)。

 現代口語の日常会話劇であるものの、激しく動いて歌うように語ったり、間(ま)をためて突然奇声をあげたり、セリフの発し方に色んなバリエーションがありました。かといって奇抜すぎてリアリティがなくなるわけではなく、むしろ私たちは日常でこんなに豊かな表現をしているのだと発見するような感覚です。

 脚本に書かれたセリフを何種類もの言い方で試して稽古して、その中から選びとった演技をされているのだろうと思います。例えば本のページをめくりながら、独り言のようにつぶやいて相手とコミュニケーションをする演技などから、その声の抑揚や言葉はこびのスピードに、緻密な計算があることが読み取れました。それでいてわざとらしく見えなかったのが、私にはとても良かったです。

 『北限…』に続いて工藤倫子さんがすごく素敵でした。優しさにじんと来ました。

 ここからネタバレします。

 学部生の清水(荻野友里)がバツイチの先輩・大山(海津忠)を、恋心たっぷりのまなざしで見つめます。すると大山役の海津さんがすごくセクシーで魅力的な男性に見えてくるんですよね。同様に、清水にあからさまな横恋慕をする戸田(桜町元)が清水を見つめると、清水役の荻野さんが(もともと可愛らしい女優さんなのですが)よりキュートに、色っぽく見えてきます。誰かに見られることで人はきれいになる(きれいに見える)というのは真実だと思います。

 研究者(医学部)でありつつバンド活動もしている小島(河村竜也)は、同じく研究者の安岡(兵藤公美)と付き合っていますが、妹(女子高生:小林亮子)の友達(木引優子)にまで手を出します(しかも妊娠させる)。小島役の河村さんは『北限…』でも女たらし役だったような(笑)。

 狂言自殺をした女・西田(村田牧子)に対する、男女の態度の差が面白かった。やっぱり女は女の、男は男の味方になりがちなんですね。どんな時代にもこういう悪女っているよなぁと思ったり。

 一番好きだったのは、最後に女性4人(兵藤公美、工藤倫子、荻野友里、鄭亜美)がお絵描きをするところ。“自分が作りたい動物”(ぞうブタとか、うさぎ猫とか、かっこ良くて優しくてお金持ちで渋い雄猿とか)をそれぞれにスケッチブックに描きます。未来の自分の仕事の成功を想像する明るい表情がまず美しい。そして夢を絵にする喜び、共同作業の楽しさが詰まっていました。

≪伊丹、広島、鳥取、北九州、宮崎、東京≫
【出演】『カガクするココロ』:兵藤公美 工藤倫子 田原礼子 河村竜也 村田牧子 山本雅幸 海津忠 村井まどか 荻野友里 鄭亜美 堀夏子 桜町元 小林亮子 木引優子 二反田幸平 佐山和泉 安倍健太郎 
脚本・演出:平田オリザ 舞台美術:濱崎賢二 舞台美術監修:杉山至 照明:岩城保 演出助手:相馬加奈子 宣伝美術:工藤規雄+村上和子 太田裕子 宣伝写真:佐藤孝仁 宣伝美術スタイリスト:山口友里 制作:木元太郎 企画制作:青年団/(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場 協力:(株)アレス 国営昭和記念公園事務所
前売・予約・当日共一般=3,500円 学生・シニア(65歳以上)=2,500円 高校生以下=1,500円 2演目セット券(前売・予約のみ)一般=6,000円 学生・シニア(65歳以上)=4,000円 高校生以下=2,000円 *日時指定・全席自由席・整理番号付*学生・シニアの方は、当日受付にて学籍・年齢を確認できる証明書をご提示ください。*未就学児はご入場いただけません。*芸術地域通貨ARTS(アーツ)でもご観劇いただけます。(ARTSとは、桜美林大学内の演劇施設で施行されている地域通貨です。1ARTS=1円。)
http://www.seinendan.org/jpn/info/info090810.html
http://www.seinendan.org/jpn/info/info091009.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2010年01月05日 18:38 | TrackBack (0)