2011年09月12日
【写真レポート】新国立劇場演劇「『シリーズ【美×劇】─滅びゆくものに託した美意識─』合同制作発表会③『天守物語』」09/09新国立劇場地下2階オーケストラリハーサル室
新国立劇場2011/2012シーズン演劇『シリーズ【美×劇】─滅びゆくものに託した美意識─』合同制作発表会の写真レポート③です。『朱雀家の滅亡』『イロアセル』『天守物語』の3作品全てに共通する、シリーズ【美×劇】のテーマについては①でどうぞ。
『朱雀家の滅亡』(①)、『イロアセル』(②)の後、最後に上演されるのが泉鏡花作『天守物語』。演出の白井晃さんは和物の古典には初挑戦だそうですが、スタッフには美術の小竹信節さん、音楽の三宅純さん、衣裳の太田雅公さんら、白井ワールドを支える一流の方々が揃っています。振付が康本雅子さんというのも期待が高まるところですね。
主役の富姫を演じる篠井英介さんの言葉に、背筋が伸びる思いがしました。
篠井「日本人が日本人であることを誇りに思うための手がかりに、演劇も、なりたい。ご自分の美をお芝居の中に発見してください。」
【写真左から:平岡祐太さん、篠井英介さん、奥村佳恵さん、白井晃さん】
■新国立劇場演劇「『シリーズ【美×劇】─滅びゆくものに託した美意識─』
①『朱雀家の滅亡』09/20-10/10 於:小劇場
②『イロアセル』10/18-11/05 於:小劇場
③『天守物語』11/05-20 於:中劇場 ※公演特設WEBサイトあり
⇒三作品特別割引通し券のご案内
⇒演劇情報サイト・ステージウェブ「篠井主演・白井演出『天守物語』ほか新国立劇場2011/12シーズン開幕記者会見」
■『天守物語』作:泉鏡花 演出:白井晃
【白井晃さん(演出)】
白井「新国立劇場で演出をさせていただくのは3本目です。最初が『うら騒ぎ』というバックステージものの喜劇、次は若手劇作家の前田司郎さんとのコンビネーションで現代劇の『混じりあうこと、消えること』。今回は泉鏡花の『天守物語』ということで、前回とはえらく違う世界をご指名いただきました。三十年近く芝居をやってきましたが、和の世界を演出するのは初めてなんです。西洋的なものに慣れ親しんできた私に、敢えて和ものをとご提案いただいいたと思っております。
泉鏡花の言葉を、世界を真正面から味わってみたい。妙なアレンジなどは全然考えていません。西洋文化に慣れ親しんでしまった日本で育った私が、今この作品でどういう日本語を発見できるのか。それはすなわち自分が今どんな日本人なのかを確認する作業になるかもしれません。そのあたりを皆さんにご提示できればと思っております。」
白井「舞台美術に関しては鏡花のト書きに事細かく書かれてありますので、できるだけ自分のイメージで具現化したい。城の5階以上が妖怪の世界で、そこから人間の世界を俯瞰することがテーマにもなっており、それを際立てられる構造にしたいと思っています。人間界から5階に上がるのは、迷宮の世界に入り込んでいくようなもの。その回廊、階段、はしご、廊下の在り方が迷路のようになっていると面白いですね。
衣裳も事細かに鏡花が指定してますので、できるだけその方向に沿うよう、自分の思う形に具現化していきたいと思っています。なぜ着物が、この機能が日本人の体に合ってきたのか、そして洋服に着慣れてしまった僕たちが、どうやってもう一度着物を着こなせるのか。着物については無知な私ですが、衣裳プランナーの太田雅公さんと一緒に勉強して、ちょっとおこがましいのですが“新しい着物”が作れたらと考えています。」
【篠井英介さん】
篠井「この春以降、芝居なんぞを呑気にやっていてもいいのであろうか、という思いにかられます。でも結局のところ、私たち文化芸術にかかわる者は裏方も表方も、心も体も尽くしてやっております。お百姓さんが何かをお作りになるのと同じように、我々ライブ活動の者も心身削ってやっておるんでございますね。それが何かのお役にに立つと信じて、やるしかないなと思っております。
この3作品をご覧いただくことで、もう一度“日本でいいじゃないの”“日本語は素敵だ”“日本人の心根もいいものよ”と、新たに自分たちを発見するいい機会になればと心底思っております。
『天守物語』はかつてお手本のような舞台があって、私はとても怖くて手が出せなかったんです。でも平岡祐太君も奥村佳恵さんも初めてなので、彼らが見た泉鏡花や、日本独特のファンタジーの世界を、彼らを通して体現していただければ。そして白井さんが見た“悪夢”と言いますか、ファンタジーやおとぎ話のような、美しく素晴らしい世界を表現できればと思っております。実際、ちょっとおどろおどろしい話なんですよね。」
≪“美”について≫
篠井「さっき平岡君が『天守物語』を懐かしく感じるとおっしゃいました。初めて接する100年前の戯曲を懐かしく思えたのは、やっぱり日本人にしかわからない感性がDNAの中に刻まれていると思うんです。たとえば歌舞伎の“どーん、どーん”という雪音の効果音を聞くと、若い人たちも“しんしんと降る雪の音”とわかるんですね。
色合いも匂いも違う今回の3作品それぞれをご覧いただいて、日本語を使い日本語で思考している私たちのDNAに刻まれた、日本人としての美、美意識、心が震える感覚、日本語の美しさ、日本人の道徳・・・というものを探る、発見する、感じ直す、そんな機会になって欲しいと本気で思っています。
日本人である私たちが、少しでも日本人であることを誇りに思いたいじゃないですか。今、日本人で良かったと思いにくいですから。そうあるための手がかりに、演劇も、なりたい。ご自分の美をお芝居の中に発見してください。」
【平岡祐太さん】
平岡「図書之助(ずしょのすけ)を演じます平岡祐太です。大河ドラマや80年代テレビドラマの舞台版など、ここ1年は時代ものをやることが多かったんですが、まさか最後に古典が来るとは思ってなくて。僕が図書之助をやらせていだくことは本当にチャレンジだと思っています。
今年27歳になるんですが、僕らの世代からすると時代劇や古典は世界がかけ離れ過ぎていて、ファンタジーで面白いと思います。特に泉鏡花さんの作品は圧倒的に作り込まれたファンタジーで、一気に引き込まれました。圧倒的な美で吸いこんで、観に来てくれたお客さんが時間を忘れてくれたらいいなと思います。」
≪“美”について≫
平岡「稽古はまだなんですが、白井さんとマンツーマンでの本読みは始めています。白井さんは“美しい日本語を使っていきましょう”“言葉を言葉としてきちっと人に伝えて行こう”とおっしゃっていて。一つひとつ丁寧に昔の言葉にあたっていると、オリジナルの言葉が生まれたころに戻っていくような感覚というか、幻想があって・・・。本番までに美しさを探します。いろんなものをそぎ落として、美しい言葉でお客さんに伝えられるようがんばります。」
【奥村佳恵さん】
奥村「亀姫役の奥村佳恵です。和物で時代物のお芝居には以前からあこがれがありましたので、初めて出演させていただけることをとても嬉しく思っています。まだ稽古は始まってないんですが、古い日本語の難しさや所作など、自分が直面したことのない壁が今、まさに立ちはだかって、既にとても怖いという気持ちがあります。
篠井さんには今日初めてお会いしたんですが、本当に美の化身のような方なので、私も少しでも篠井さんの美を吸収して、沢山たくさん、お稽古を積んで努力して、自分が今持っている怖さに抗っていきたいと思っています。精いっぱいがんばります。よろしくお願いいたします。」
≪“美”について≫
奥村「もののけとはいえどお姫様の役なのでお衣裳も美しいでしょうし、身分が高い人なので、美しいものに囲まれて、美しいものに触れて育って、人格が出来あがったのだろうと思います。話す言葉やしぐさ、その人自身も美しいと思いますので、もう(自分がその役を演じるには)特訓しかないんですけども、しっかり研究して存在自体が美しいと思ってもらえるようにがんばりたいと思います。」
【写真:3作品に出演する出演者全員】
【美×劇】─滅びゆくものに託した美意識─Ⅲ『天守物語』
出演:篠井英介 平岡祐太 奥村佳恵 村岡希美 関秀人 関戸将志 坂元健児 小林勝也 田根楽子 江波杏子 粟田麗 鳴海由子 小見美幸 岡野真那美 冠野智美 淺場万矢 飛鳥井みや 津村雅之 今國雅彦 稲葉俊一 早川友博 関佑太 遠藤広太 平良あきら
作:泉鏡花 演出:白井晃 音楽:三宅純 美術:小竹信節 照明:齋藤茂男 音響:井上正弘 衣裳:太田雅公 ヘアメイク:川端富生 振付:康本雅子 殺陣:渥美博 演出助手:河合範子 舞台監督:藤崎遊
一般発売日:2011年9月11日(日) S席7,350円 A席5,250円 B席3,150円 Z席1,500円 三作品特別割引通し券16,600円(正価18,900円)
http://www.nntt.jac.go.jp/play/tenshu/index.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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【写真レポート】新国立劇場演劇「『シリーズ【美×劇】─滅びゆくものに託した美意識─』合同制作発表会②『イロアセル』」09/09新国立劇場地下2階オーケストラリハーサル室
新国立劇場2011/2012シーズン演劇『シリーズ【美×劇】─滅びゆくものに託した美意識─』合同制作発表会の写真レポート②です。『朱雀家の滅亡』『イロアセル』『天守物語』の3作品全てに共通する、シリーズ【美×劇】のテーマについては①でどうぞ。
9/20(火)に開幕する『朱雀家の滅亡』の次に幕を開けるのは新作『イロアセル』。倉持裕さんの脚本を鵜山仁さんが演出されます。「一体どうやって舞台化するの?!」と尋ねざるを得ない驚きの設定に、謎多き人物が登場する寓話的な現代劇。倉持さんは3月11日の震災以前に書き上げていた脚本に、大きな変更を加えられたそうです。
【写真左から:倉持裕さん、島田歌穂さん、藤井隆さん、剣幸さん、鵜山仁さん】
■新国立劇場演劇「『シリーズ【美×劇】─滅びゆくものに託した美意識─』
①『朱雀家の滅亡』09/20-10/10 於:小劇場
②『イロアセル』10/18-11/05 於:小劇場
③『天守物語』11/05-20 於:中劇場 ※公演特設WEBサイトあり
⇒三作品特別割引通し券のご案内
⇒演劇情報サイト・ステージウェブ「篠井主演・白井演出『天守物語』ほか新国立劇場2011/12シーズン開幕記者会見」
■『イロアセル』作:倉持裕 演出:鵜山仁
【倉持裕さん(脚本)】
倉持「新国立劇場でやるのは2回目です。前回は2年前で『昔の女』というドイツ戯曲を演出させていただきました。脚本という、前回と違う立ち場で呼ばれたことを嬉しく思います。
“美意識”にともなって“滅びの美学”というテーマもいただき、演出の鵜山仁さんと話をしたところ、鵜山さんが『最近は新聞が売れないらしい』とおっしゃって(会場で笑いが起きる)。今、新聞社の皆さまが大勢いらっしゃるのでとても話しづらいですが(笑)、それはちょっと面白いね、となりまして。マスコミやジャーナリズムが誕生して隆盛を極め、そして滅びていく話を寓話的に作ることになりました。
3月11日以前に書き上がった第一稿では、ひとつのマスコミの衰退を書いたんですが、3月11日以降インターネットを中心にすごい情報が飛び交い、あふれましたよね。今までは新聞記者や作家、識者と呼ばれる発言権を持った人だけが発言していたのが、今はインターネットのせいというか 一般市民の誰もが発言できるようになった。情報が膨大な数になり、誰もがそれを受け取れるようになった。でも本当に玉石混淆で、新しい事実が出るとそれをすぐ打ち消す事実が出てきて、情報がいっぱいあるだけで何の結論にも至らない、全く前に進まないという印象を強く受けたんです。そこで、ひとつのマスコミではなく、ある一個の情報交換のシステム全体が衰退し、失敗してしまうと仮定した寓話に書き換えました。色んな仕掛けもありますので、見たことのない芝居になるんじゃないかと思っております。」
【鵜山仁さん(演出)】
鵜山「ちょっとネタバレしますけど、しゃべる言葉に色がついて、それが伝播していくという芝居なんです。ある島がありまして、そこの住人はしゃべると声に色がついている。人それぞれに違う色だから言葉に匿名性がなく、誰がしゃべってるのかわかってしまう。言葉が名前を持ってしまうんですね。その島に本土から、別のコミュニケーション形態を持った囚人が送り込まれてくるという話です。
僕はこういうのは初めてで、どうやって色付けをすればいいのか・・・色々チャレンジしていきたいと思っています。まだつまびらかにはできないのですが、スタッフが珍しいことを考えて、稽古に先んじて日夜実験を繰り返しているところです。どうぞご期待ください。」
※ネタバレになるお話が多かったので勝手ながら短めにさせていただきました。
【藤井隆さん】
藤井「台本を頂いてすごく緊張しながら読ませていただいて、間違ってはいけない、一生懸命憶えよう、完璧に憶えて稽古に参加しようと思ってたんですけれど・・・全然無理でした(会場で笑いが起こる)。間違えないように一生懸命がんばりますので、よろしくご指導いただけたらと思います。今日は本当に緊張して来たんですけれど、お2人(共演者の島田歌穂さんと剣幸さん)がすごく、(会場に入る前の)扉の前で優しくしてくださって、大丈夫だなって思いました。お2人に甘えながらがんばりたいと思います。」
≪“美”について≫
藤井「『イロアセル』は言葉や文字に色のつくお話で、夕焼けの赤、暗闇よりも暗い黒、冬の青空のような青、雷雲のようなグレーといった表現がセリフの中にあります。自然の中にある色合わせには敵わないと思います。花や昆虫もですね。そういうものを見たら僕は美しいと思います。言葉が色になるのを舞台上でどういう形で体現できるのか、楽しみにしています。」
【島田歌穂さん】
島田「“前科のある女”という役で出させていただくことになりました。でもその“前科”がどんな罪だったかわからず、もしかしたら罪を犯してさえいないかもしれない。本当にさまざまなことが謎に包まれておりまして、これから一日いちにち、その謎をひも解きながら、より謎を深めていければと思っております。」
≪“美”について≫
島田「私は空を見上げるのが好きで、自然の“美”には計り知れない力があると感じるんですが、同時に命に響いてくる“音”もたくさんあります。それを忘れてはいけないと思いまして。総じて、そういうものを感じられる心(が“美”である)。そういう心を瞬間瞬間に持っていられるように生きていきたいと思います。」
【剣幸さん】
剣「パソコンの前でしか本音を語れないような時代ですから、最初この本を読んだ時はとっても恐ろしいと思ったんです。でもその恐ろしさの中には可笑しさもあり、色んなものが詰まっていました。閉鎖的な島で何かが起こり滅んでいく中で、一体どういうことが“美”なのかを探りながら、皆さんと一緒に面白い、新しいものを作れたらと思っております。」
≪“美”について≫
剣「美に対する考え方や感じ方は人それぞれに違うので、それぞれの人たちが感動したことが“美”だと思います。私は500色の色鉛筆をいただいたことがありまして、12色や24色以外にこんなに色があるんだとすごく感動したんです。たとえば赤だったらトマトの赤、ポストの赤など全部に注釈がついてました。自分が知らない色、自然の中にある色がこんなにも美しいのかと、色に対して認識を変えました。たとえば太陽なら夕日が沈んでいく色、花だったら散り際の色がとってもきれいだなと思います。だから自分が死ぬ時もきれいに死にたいなと思っております(笑)。」
隣の席の篠井英介さんがすかさずツッコミ!⇒「剣さん、死なないで(笑)。」
【美×劇】―滅びゆくものに託した美意識─Ⅱ『イロアセル』
出演:藤井隆 木下浩之 小嶋尚樹 松角洋平 花王おさむ ベンガル 島田歌穂 加藤貴子 高尾祥子 剣幸
作:倉持裕 演出:鵜山仁 美術:乗峰雅寛 照明:服部基 音響:栗原亜衣 衣裳:黒須はな子 ヘアメイク:佐藤裕子 演出助手:斎藤栄作 舞台監督:北条孝
一般発売日:2011年8月6日 A席5,250円 B席3,150円 Z席1,500円 三作品特別割引通し券16,600円(正価18,900円)
http://www.nntt.jac.go.jp/play/20000436_play.html
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【写真レポート】新国立劇場演劇「『シリーズ【美×劇】─滅びゆくものに託した美意識─』合同制作発表会①『朱雀家の滅亡』」09/09新国立劇場地下2階オーケストラリハーサル室
新国立劇場2011/2012シーズン演劇のオープニング3作品(『朱雀家の滅亡』『イロアセル』『天守物語』)の合同制作発表会が開催されました。※Ustreamで生放送されました(アーカイブはありません)。
テーマは「【美×劇】(ビ・ゲキ)─滅びゆくものに託した美意識─」。演劇芸術監督の宮田慶子さんと各作品の劇作家・演出家、出演者の方々が、作品についての意気込みを率直に、熱を持って語ってくださいました。
地震と津波の天災に加え、複数基の原発が爆発するというおそらく世界で初めて災害のもとにある日本で、何が正しいのか、何をすべきなのか、これからどうやって生きていけばいいのか。3月11日から半年経った今も、私たちはその確かな手がかりがつかめないままでいると思います。
このシリーズは、そんな日本に生きている私たちが今いちど手をつなぐために、舞台の作り手とともに日本人の中に刻まれた美意識を味わい直す、大切な機会になるのではないでしょうか。3作品ごとにエントリーを分けて写真レポートを掲載します(上演順に①:このページ、②、③)。
■新国立劇場演劇「『シリーズ【美×劇】─滅びゆくものに託した美意識─』
①『朱雀家の滅亡』09/20-10/10 於:小劇場
②『イロアセル』10/18-11/05 於:小劇場
③『天守物語』11/05-20 於:@中劇場 ※公演特設WEBサイトあり
⇒三作品特別割引通し券のご案内
⇒演劇情報サイト・ステージウェブ「篠井主演・白井演出『天守物語』ほか新国立劇場2011/12シーズン開幕記者会見」
【芸術監督の宮田慶子さん】
■日本の美意識をテーマに大正・昭和・平成をたどる
宮田「この9月からスタートするシーズン幕開けに“シリーズ【美×劇】─滅びゆくものに託した美意識─”というテーマの3本を企画いたしました。昨年の“JAPAN MEETS…”では新翻訳の4作品(⇒1、2、3、4)を上演し、日本の演劇界が近代以降に出会ってきた海外の作品群を今、どう上演できるかにトライいたしました。今回は日本の演劇界がそれらの優れた作品をどう消化し、劇作に展開して行ったかをたどってみたいと思い、大正、昭和、平成とちょうど50年ずつをまたいでの3作品を上演します。
ご存じのように日本の演劇は1600年代の、出雲の阿国の歌舞伎からスタートし、近代以降の海外作品との出会いを経て発展してきました。演劇は社会と時代とともに進歩していくもので、イデオロギー演劇、プロレタリア演劇、リアリズム演劇などの色んな形の変容を遂げてきたのですが、日本人の非常に深いところにあるアイデンティティーを探れないかと思い、日本独自の美意識をテーマに設定しました。また、日本人は滅びゆくものや、はかないものに独特の美意識を託したのではないかと考え、サブタイトルとしました。
まず既存戯曲から『朱雀家の滅亡』と『天守物語』。そして美意識という言葉が死語に近いほど意識されない時代になっているのではないかという危機感もあり、「“美”や“滅びゆくもの”を今受け取めるとどうなるのか」という大きな宿題を倉持裕さんに投げかけ、新作『イロアセル』が誕生いたしました。日本独自の美意識との出会いという観点から、劇作を見なおそうと思って企画した3本です。」
■なぜ“滅び”の“美意識”なのか
宮田「今年は本当に大きな災害があり、いやがおうにも“滅ぶ”という言葉に対して異常にナーバスにならざるを得なくなってしまいました。テーマを立てたのは1年半~2年前で、その時に日本人の中にずっと残ってきたものをやりたいと思ったんです。
今回の震災や先日のひどい水害も含め、日本は自然災害がとても多いです。でも日本家屋はヨーロッパの石造りの堅牢な建物のように未来永劫続くことを想定して作られておらず、紙と木でできていたんですね。それはやはり天災も含めた宿命、運命といったもの全てを受け入れて、“永久に存続するものはない”という不思議な考えがあったからではないか。滅びても常に再生して流転していく。リニューアルを繰り返しながら新たなものをしたたかに、しぶとく再構築して、歴史を積み重ねていく。日本人はそういう歴史観の中で生きてきたのではないかと考えました。
先日、三島由紀夫文学館の館長の松本徹さんから“生きる作法”という言葉を教えていただきました。三島の文学には“滅びゆくからこそどう生きるか”という作法があるとおっしゃったんです。そこにも日本人独特のモノとの距離感や接し方があると思います。流転して再生していくという意味を込めての“滅び”、そしてそれを積み重ねてきた日本人の強靭さ、それらに支えられた美意識をイメージしています。」
■『朱雀家の滅亡』作:三島由紀夫 演出:宮田慶子
【宮田慶子さん(演出)】
宮田「『朱雀家の滅亡』は三島由紀夫さんが亡くなる3年前に書かれた比較的晩年の作品です。三島さん独自の美しい流麗なセリフと非常に強いテーマ性、そして登場人物がそれぞれに生身の人間としての心情を吐露しているところに、とても大きな魅力を感じています。
“構造的にはギリシア悲劇の『ヘラクレス』に依る”と三島さんご自身も書かれている通り、ギリシア悲劇の大きなテーマをそのままに移し替えながら、日本が大きな転換期を迎えた昭和20年という時に、何を信じて何を守るかをテーマに書かれた作品です。
2007年に池袋の劇場あうるすぽっとのこけら落とし公演で同作を演出させていただいた時は、主人公の経隆とそれを攻め込んでいく女性おれいを主軸にしたんですが、今回はそれぞれに違う主張を持った5人の登場人物が、五角形を形作ります。自分にとっては大きな転換ですね。五角形が大きければ大きいほど、テンションで引っ張り合えば合えうほど面白くなると思います。
美意識というテーマなので、見た目に美しく、シンプルだけれども絢爛豪華なものを秘めた舞台装置を、美術の池田ともゆきさんがデザインしてくださいました。重厚な舞台づくりで2007年版とは全く違う空間の使い方をしています。
三島さんの膨大なセリフはただ美しく表現するのではなく、言葉を重ねて、重ねて、重ねていって、それでもまだ理想を追い求め、理想に届かんとするために、さらに言葉を重ねていく(という風に表現したい)。そういうセリフで役者さんたちには本当にご苦労をかけていますが、後10日で初日を迎えます。稽古はまさに佳境に入っております。ぜひご期待いただきたいと思います。」
【國村隼さん】
國村「朱雀侯爵の経隆を演じます。三島さんの本は演じる側にとってはひとくくりで言うと“難しい”。特に宮田さんが先ほど流麗と表現されたセリフは、リアリスティックに心情だけを表現するためなら“こんな華美な言葉いらんやろ!”っていうぐらい、沢山あるんです(笑)。でもその一つひとつは付け足しや装飾ではなく、ひょっとしたら音も意味も含め、すごくパワーを持っているのではないか。三島さんの言霊を帯びたセリフちゃんとお客様に届けられたら、リアルな人間の愛憎劇だけではなく、戯曲にいっぱい詰まっている色んな形而上学的なテーマも伝えることができるのではないか。なんとかその域に達することができればと思いながら稽古をやっております。・・・期待してください!」
≪“美”について≫
國村「『朱雀家の滅亡』について僕の意識する“美”とは、端から何を言われても、自分の信じるひとつのものに対してぶれないこと。自分の信じるものに向かって、滅ぶことも受け入れて行く。結局滅んじゃうんですけどね(笑)、その有りようというか、ぶれなさ加減はたぶん美しいんだろうと思います。」
【香寿たつきさん】
香寿「おれいの役をさせていただきます。お稽古が始まって1ヵ月とちょっと経ったんですけれども、本当に三島さんの本は難しくて。私も人並みに年を重ねて、これぐらいの年齢の役をやれるようになったんだなと思って『はい、やります』と言ったものの、本当にこの役を引き受けて良かったんだろうかと苦しみつつ、その苦しみが喜びに変わると信じて毎日稽古に励んでおります。日本人に薄れてしまった美意識を三島さんの言葉に載せて、現代の人にこの作品の素晴らしさを伝えられるよう、より完成度を高くできればと思っています。宮田さんの後についてがんばりたいと思います。」
≪“美”について≫
香寿「このお芝居をご覧になった男性は、きっとおれいという女性とは結婚したくないと思われると思うんです(笑)。まずはやはり、うるさくしゃべる場面でも女らしさや可愛い部分を見せられたらと思っています。一幕のおれいは母でありつつ女中に徹し、昔の女性らしく男性に一歩下がって尽くすんですが、三幕になってからは今の女性の強さを見せます。そこでもやはり女性としての美しさを、うまく見せられたらいいなと。そういうところを私は“美”としてとらえています。」
【近藤芳正さん】
近藤「僕も三島由紀夫さんの作品は初めてで、1回読んだだけではわからず、2回3回読んでいくとその楽しみが増えてくるような本でした。お客さんに1回だけ聞いていただき、内容も理解して頂くのが役者の仕事ですし、三島の文字の美しさ、言葉の美しさ、音の美しさも表現したいと思っています。5人の人物が形作る五角形の中で、それぞれの役柄がうまく対立しながら、三島作品の美を見せる方向に行ければと思っております。
僕は國村さん演じる経隆の弟で、宍戸家に養子に行っておりまして、気楽な気持ちで朱雀家の方を眺めている役柄です。その私でさえちょっと身構えるところがありますので、朱雀家の方は大変だと思いますが(國村さんと香寿さんの方を向いて)、私は確実に見守っていきますので、なんとか絶対良い芝居を、あと10日でがんばって作りましょう!」
≪“美”について≫
近藤「昔の日本人は腰を立てて座っていたが、現代の日本人たちは腰を(だらりと)伸ばしている。実はそれが体や精神に与える影響が大きいと、最近武道の本で読んだんです。天皇に遣える役でもありますので、芝居中に腰を立てる立ち姿、座り姿を意識していますね。それが僕にとっての“美”です。」
【写真左から:宮田慶子さん、香寿たつきさん、國村隼さん、近藤芳正さん】
【美×劇】―滅びゆくものに託した美意識─Ⅰ『朱雀家の滅亡』
出演:國村隼 香寿たつき 柴本幸 木村了 近藤芳正
作:三島由紀夫 演出:宮田慶子 美術:池田ともゆき 照明:室伏生大 音響:上田好生 衣裳:半田恵津子 演出助手:松森望宏 舞台監督:澁谷壽久
一般発売日:2011年7月16日 A席6,300円 B席3,150円 Z席1,500円 三作品特別割引通し券16,600円(正価18,900円)
http://www.nntt.jac.go.jp/play/20000435_play.html
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